都市問題研究叢書10として刊行する本書『東アジア大都市のグローバル化と二極分化』は、財団法人東京市政調査会が2005年度に実施した研究プロジェクトの成果をまとめたものである。
後藤新平が東京市長時代の1922年に独自の財政基盤をもった都市問題の研究機関として創設した財団法人東京市政調査会80年余の歩みは、東京なる都市の成長・発展・停滞の過程と軌を一にしている。とりわけ、
1980年代の東京は国際的な金融市場の拠点として膨張を重ねた。国内的に東京一極集中があらためて問題視されたのも80年代であった。同時に東アジア諸国もまた世界の成長センターとしての歩みを開始し、主要都
市は軒並み膨張の時代へと入った。
しかし、1990年代に入ると国際的通貨危機が東アジア諸国を襲い、各国の経済には危機の様相が深まり、都市もまた社会的病理を深めた。そのようななかで国際的通貨危機から「相対的」に無縁であった中国は成長を重ねた。東アジア各国の中国への投資は進展し、中国の経済成長を促した。実際、中国の大都市の発展には、外見するかぎり目覚しいものがある。
ところで、これまでにも東アジア諸国の経済的な発展や都市の成長には、多くの研究が加えられている。だが、都市内部の社会経済構造をミクロに分析した比較研究は、きわめて限られている。いまや都市政策は、中央政府による都市の成長・管理政策から、都市の市民による自治・分権型の政策設計への転換を必要としている。そのためにも都市内部のミクロ分析とそれにもとづく政策の共同開発が求められている。「東アジア大都市のグローバル化と二極分化」なる研究プロジェクトの目指すところもここにある。
本プロジェクトは東京市政調査会の五石敬路・主任研究員を主査として本書末尾に記載した日本、中国、韓国、香港の研究者による研究チームによって進められ、最終稿の監修を新藤がおこなった。政治経済体制を異にし都市の成長にも時間差がみられるものの、いずれの論考も東京、上海、ソウル、香港の社会経済の基底に鋭く迫るものである。
本書が東アジア大都市の実態についてのミクロな比較分析の発展と、都市の膨張制御と安定した市民生活の実現にむけた政策の開発に寄与できるならば幸である。
最後に、出版事情の厳しいなかで快く本書の刊行をお引受いただいた国際書院の石井彰社長に、感謝の意を表したい。
2006年8月
新藤宗幸
Copyright © KOKUSAI SHOIN CO., LTD. All Rights Reserved.