アジア太平洋研究センター叢書 2 アジア太平洋の和解と共存

武者小路公秀 監修

第二次世界大戦の再評価をめぐって、60年前の失敗と教訓を探りだし、戦後の欧州の経験、アジアでの軌跡をたどりつつ21世紀の新世界秩序へ向けて白熱した議論が展開される。 (2007.3)

定価 (本体3,200円 + 税)

ISBN978-4-87791-168-3 C1031 294頁

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目次

著者紹介

執筆者・参加者のプロフィール

〈主催者代表〉

1 藤本和貴夫 (ふじもと・わきお、男)
一九三八年生まれ。現在、大阪経済法科大学学長、大阪経済法科大学教養部教授、大阪大学名誉教授。一九七一年、東京大学大学院社会学研究科国際関係論専攻修士課程修了。一九七三年、同博士課程退学。一九八九年、文学博士 (大阪大学) 取得。研究分野は、ロシア近現代史および東北アジア地域研究。著書には、(1)『日露・日ソ関係二〇〇年史』(共著、新時代社、一九八三年)、(2)『ソヴェト国家形成期の研究 一九一七 一九二一』(ミネルヴァ書房、一九八七年)、(3)『ロシア学を学ぶ人のために』(編著、世界思想社、一九九六年)、(4)『ロシア近現代史』(共編著、ミネルヴァ書房、一九九九年) 等がある。
2 ヒュー・H・W・カン (男)
ハワイ大学名誉教授 (歴史学部および韓国学研究センター所属)。国立ソウル大学卒 (一九五三年、英語専攻)。ワシントン大学において歴史学博士号を取得 (一九六四年)。著書、論文に『韓国の伝統の起源・パートII: 高麗』(共著、コロンビア大学出版部、一九九七年)、「制度的な借用: 初期の高麗における科挙を例にして」『ジャーナル・オブ・エイジアン・スタディーズ』(一九七四年一一月) がある。
3 李玉 (男)
一九四〇年生まれ。現在、北京大学国際関係学院教授、北京大学東アジア研究院副院長、北京大学東亜学研究センター秘書長。一九六四年九月、北京大学歴史学部卒業。研究分野は、国際政治、日本政治、中日関係、日本近代史・現代史。主要著作には、(1)『太平洋戦争新論』(李玉主幹、中国社会科学出版社、二〇〇〇年)、(2)『中国の日本史研究』(李玉等主幹、世界知識出版社、二〇〇〇年)、(3)『中国の中日関係史の研究』(李玉等主幹、世界知識出版社、二〇〇〇年)、(4)『中日相互認識論集』(李玉等主幹、香港社会科学出版社、二〇〇四年) 等がある。

〈第一セッション〉

4 近藤孝弘 (こんどう・たかひろ、男)
一九六三年生まれ。名古屋大学大学院教育発達科学研究科助教授。二〇〇五年四月より名古屋大学高等研究院助教授を兼任。一九八六年、東京大学教養学部教養学科国際関係論を卒業。一九九三年、東京大学大学院教育学研究科で博士号 (教育学) 取得。一九九八 九九年、日本学術振興会特定国派遣研究員としてウィーン大学に留学。二〇〇三 〇四年、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団研究員としてポツダム大学に留学。研究分野は、ドイツ・オーストリアを中心とするヨーロッパの歴史政策・政治教育ならびに東アジアにおける歴史認識問題。主要著書に、(1)『国際歴史教科書対話 ヨーロッパにおける「過去」の再編』(中公新書、一九九八年)、(2)『自国史の行方 オーストリアの歴史政策』(名古屋大学出版会、二〇〇一年)、(3)『歴史教育と教科書 ドイツ、オーストリア、そして日本』(岩波ブックレット、二〇〇一年)、(4)『ドイツの政治教育 成熟した民主社会への課題』(岩波書店、二〇〇五年) 等がある。
5 石田勇治 (いしだ・ゆうじ、男)
東京大学大学院総合文化研究科教授。ドイツ現代史・ジェノサイド研究。主な著作に『過去の克服 ヒトラー後のドイツ』(白水社、二〇〇二年)、『二〇世紀ドイツ史』(白水社、二〇〇五年)、『中国河北省における三光作戦』(共著、大月書店、二〇〇三年)、資料集に『資料 ドイツ外交官の見た南京事件』(大月書店、二〇〇一年)などがある。
6 ゲアハルト・シルト (男)
一九三七年生まれ、東ドイツにて育つ (一九四五 一九五五年)、一九六四年「一九二五/二六年のナチ党について」博士論文、一九七〇年よりドイツ・ブラウンシュヴァイク工科大学教授。近現代史専攻。主要著書: 「日雇い、職人、労働者 ブラウンシュヴァイクにおける産業化以前以後の労働者の社会史一八三〇 一八八〇」『産業界四〇』(シュトゥットガルト、一九八六年)、『快適さからの出発 ビーダーマイヤー時代のドイツ一八一五 一八四七』(ブラウンシュヴァイク、一九八九年)、『一九世紀の女性労働』(プファッフェンヴァイラー、一九九三年)、「一九世紀、二〇世紀の労働者」『ドイツ史百科事典三六』(ミュンヘン、一九九六年)
7 孫浩哲 (ソン・ホチョル、男)
一九五二年生まれ。政治学博士 (米国・テキサス大学大学院)。韓国・西江大学社会科学部 (国際政治学専攻) 教授・同大学社会科学研究所所長。民主化のための全国教授協議会共同会長、国家情報院過去史委員会委員。韓国福祉国家研究協会会長などを歴任。英語論文に"Late Blooming of the South Korean Labor Movement",『マンスリー・レビュー』一九九八年、韓国語の著書に『現代韓国政治学 理論と歴史、一九四五年から二〇〇三年』がある。

〈第二セッション〉

8 ジョンミン・ソ (男)
ハワイ大学マノア校・政治経済学部助教授。二〇〇四年、シカゴ大学で博士号取得。専門分野は、中国/韓国ナショナリズム、ジェンダー・ポリティクス、東アジア政治。主要著書には、『正当性: 東アジア・東南アジアにおける政治的成功または失敗の曖昧さ』(共著、ワールド・サイエンティフィック・プレス、二〇〇五年) がある。
9 範士明 (男)
一九六七年生まれ。北京大学国際学院副教授。一九九九年に北京大学国際関係学院で法学博士取得。研究テーマは中米関係、世論・メディアと国家関係。主要著書に『中国のメディアにおける日本と中日関係』がある。
10 ヘレン・ヒル (女)
ヴィクトリア大学 (オーストラリア) 教授。オーストラリア国立大学にて博士号取得。専門分野は、グローバル・サウス (the Global South) の社会学、太平洋地域の社会・文化的変化、地域・国際機関と政策、女性と国際開発、東ティモール民主共和国の歴史・政治・社会など。一九八五年ナイロビ、一九九五年北京で開催された世界女性会議では、二つの代表団を組織した。著書には、『ナショナリズムへの動揺』(オックスフォード・プレス、二〇〇二年) がある。
11 和田春樹 (わだ・はるき、男)
一九三八年生まれ。一九六〇年東京大学文学部卒。東京大学社会科学研究所につとめ、一九九八年定年退職、東京大学名誉教授。専門はロシア史と現代朝鮮研究。主な著書に、(1)『北方領土問題 歴史と未来』(朝日新聞社、一九九九年)、(2)『朝鮮戦争全史』(岩波書店、二〇〇二年)、(3)『東北アジア共同の家』(平凡社、二〇〇三年)、(4)『テロルと革命 アレクサンドル二世暗殺前後』(山川出版社、二〇〇五年) 等がある。

〈第三セッション〉

12 下斗米伸夫 (しもとまい・のぶお、男)
一九四八年生まれ。法政大学法学部教授 (比較政治)。一九七一年、東京大学法学部卒、一九七八年、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了・法学博士取得。二〇〇二年一一月 〇四年一〇月、日本国際政治学会理事長、二〇〇五年九月 アジア政治学会副理事長。主な著書に、(1)『独立国家共同体への道』(時事通信社、一九九二年)、(2)『ロシア現代政治』(東大出版会、一九九七年)、(3)『ロシア世界』(筑摩書房、一九九九年)、(4)『アジア冷戦史』(中央公論新書、二〇〇四年九月) 等がある。
13 アナトリー・コーシキン (男)
東洋大学教授 (ロシア)、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員教授、ロシア戦略策定センターエキスパート。歴史学博士。現在の研究テーマは、ロ(ソ)日平和条約締結に関する交渉の歴史、現代のロ日政治・経済関係。主な著書に、(1)『ロシアのクリル諸島: 歴史と現代』(共著、ロシア語、サンポ出版社、一九九五年)、(2)『二〇世紀における二つの世界大戦 全四巻』(共著、ロシア語、ナウカ出版社、二〇〇二年)、(3)『スターリン元帥の日本戦線』(ロシア語、オルマフレッス出版社、二〇〇四年) 等がある。
14 スリマンジャリ (女)
デリー大学 (インド) ミランダハウス歴史学部講師。一九九七年、デリー大学にて博士号 (歴史学) 取得。専門分野は、ベンガルの社会・歴史における第二次世界大戦の影響 (特に一九四三年の飢饉との関連)。
15 シュテファン・シュレジンガー (男)
ニューヨークの世界政策研究所 (ワールド・ポリシー・インスティテュート) 所長。ハーバード大学、ハーバード・ロー・スクール卒業。クリントン、ブッシュ政権の外交政策についての専門家。一九七〇年代初期にニュー・デモクラット・マガジンを編集・出版、その後タイム・マガジンの記者となる。マリオ・クオモ・ニューヨーク州知事のスピーチライターと外国政策アドバイザーを一二年間務め、一九九〇年半ばには国際連合人間居住計画 (Habitat) に勤務した。著書には、『創造活動: 国際連合の創設』(ウエストビュー・プレス、二〇〇三年)、『苦い果実: グァテマラにおける米国のクーデター』(ハーバード大学出版会、一九九九年)、『新しい改革者たち: アメリカ政治を変える力』(Houghton Mifflin、一九七五年) がある。
16 ピエール・グロセール (男)
パリ大学政治学研究所 (Institut d'Etudes Politiques de Paris) 教授、フランス外務省・外交研究所所長 (二〇〇一年~)。専門分野は、国際関係論、外交政策、インドシナ戦争、冷戦など。著書には、『冷戦の時代: 冷戦の歴史とその終焉』(ブリュッセル、一九九五年)、『なぜ第二次世界大戦?』(ブリュッセル、一九九九年)、『二〇世紀の国際関係論の世界史』(全三巻、近刊) などがある。
17 梁雲祥 (男)
一九五六年生まれ。北京大学国際関係学院副教授 (国際政治)、一九九七年、法学博士 (北京大学) 取得。研究分野は、日本政治外交、中日関係、国際政治理論、国際法、東北アジア地域の国際関係。主な論文に、(1)「市民社会と国家の統治」、(2)「中米の朝鮮問題での共同利益と矛盾」、(3)「グローバル化と植民地化」、(4)「中日関係と東アジア提携のメカニズム」等がある。

〈第四セッション〉

18 武者小路公秀 (むしゃこうじ・きんひで)
一九二九年、ベルギー生まれ。国際政治学者。大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター所長 (特任教授)。中部大学「人間の安全保障」研究センターの顧問なども務めている。一九五三年、学習院大学政経学部政治学科を卒業後、パリ大学、プリンストン大学に留学。学習院大学教授、上智大学教授、国連大学プログラム担当副学長、明治学院大学教授、フェリス女学院大学教授、中部大学教授を歴任。他にIMADR(反差別国際運動)副会長、大阪国際平和センター (ピース大阪) 会長、大阪アジア太平洋人権情報センター (ヒューライツ大阪) 会長など。著書に、「人間安全保障論序説: グローバル・ファシズムに抗して」(国際書院)、「転換期の国際政治」(岩波新書)、「『日本の形』: 外交・内政・文明戦略」(編著: 藤原書店) など多数。
19 ムスタファ・ケマル・パシャ (男)
アバディーン大学 (イギリス) 教授。日本学術振興会特別研究員 (二〇〇四年)。デンバー大学から国際学の博士号と修士号を取得。パンジャブ大学から法学の学位を得ている。『ミレニアム: ジャーナル・オブ・インターナショナル・スタディ』『オルタナティブ』『ジャーナル・オブ・ディベロッピング・ソサイエティ』『クリティカル・レビュー・オブ・ソーシャル・フィロソフィ・アンド・ポリティクス』等、国際的に著名な雑誌に多数寄稿している。著書には『国際関係と新たな不平等』(共著、ブラックウェル、二〇〇二年)、『植民地の政治経済: パンジャブにおける募集と低開発』(オックスフォード・ユニバーシティ・プレス、一九九八年)、『再び訪れた低開発からの脱出: 変化する世界の構造と第三世界の改革』(マクミラン・プレス、一九九七年) がある。

〈特別ゲスト〉

20 エドワード・シュルツ (男)
ハワイ大学教授。国際高麗学会会長。ハワイ大学韓国学研究センター前所長。アジア学専攻で、とくに高麗の歴史に関心をもっている。現在、フルブライト学者として、ソウルの西江大学で韓国史を教えている。ハワイ大学から博士号を取得。

まえがき

はじめに

本書は、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センターが、二〇〇五年一二月三日から四日にかけて開催した「第二次世界大戦終結六〇周年記念シンポジウム」の記録である。このシンポジウムは、第二次世界大戦について終結後六〇年経過したところで振り返るものだが、同じ年に欧米でも開催された諸会議とは一味もふた味も違う未来志向の会議であったことをはじめに特記したい。

まず、二一世紀の世界秩序へ向けて、アジア太平洋の和解と共存について現代史の文脈のなかで議論したところに、本シンポジウムの大きな特徴があった。第二に、第二次世界大戦関係の他の諸会議と違って、本シンポジウムがいまだに和解と共存への困難な模索が続いている東アジアで開かれたところに、もうひとつの特色があった。第三に、第二次大戦についてこれまで論じられてきた現代史の文脈が、米ソ冷戦という二極世界であったのに対して、本シンポジウムは、米国の単独覇権下でグローバル化が進んでいるという新しい歴史の段階で開催された。

本書の読者には、この三つの角度から第二次世界大戦に光をあて、その経験をもとにして、今日の世界、とくに東アジアが直面している緒問題について、メディアが流している極めて短期的な視点を改めて、もっと長期的な見通しをもって、今日の諸問題の理解に役立たせてくださることを期待したい。六〇年前に終結した第二次世界大戦の過去を振り返ることで、グローバル世界のなかの東アジアの将来像を見晴るかす手がかりとしていただければ幸いである。

まず、第一セッションで取り上げられた「戦争責任と過去の克服」という問題は、小泉首相の靖国神社参拝問題や歴史教科書問題が、日本国内でも、日韓・日中間でもくすぶり続けている今日、見過ごしにできない第二次世界大戦にさかのぼる難問である。本書では、この問題を、戦争責任について厳しく自らを問い詰めた西欧、過去の克服をその統合の大黒柱にした西欧との経験の比較という形で考えることで、ともすれば歴史観の対立のなかで水掛け論に終わらせがちな日本の思想状況のなかに、第二次大戦時代のユダヤ民族のホロコーストを中心とした戦争責任問題を克服しつつあるヨーロッパの経験をもとにした発想の転換のきっかけが得られることを期待したい。

次に、第二セッションで論じられた国際協調主義と単独主義の問題は、「反テロ」戦争下もっとも重要な問題であるけれども、同時に第二次世界大戦以来の六〇年間の積み上げを無視しては語れない問題でもある。今日の米国単独覇権の複雑な性格を正しく把握するためには、やはり、第二次大戦に勝利した連合国がその後で築いた米ソ両ブロック間の冷戦、そして冷戦を生きぬくために敗戦国である日本が選択した日米同盟の性格を正しく認識する必要がある。第二セッションはとくに東アジア共同体と日米同盟の間に横たわる障害を理解するために、この問題に光をあてるような報告と討論を試みたセッションであった。

第三に、われわれは、グローバル化時代をあたかもまったく新しい政治・経済・軍事状況のもとにある、これまでの常識ではとらえられない時代であるかのように考えるきらいがある。たしかに、国際政治における米国の単独覇権、WTOなどを通じてグローバル経済を支配するネオリベラル・グローバル経済、「反テロ」戦争においてテロと「ならず者」国家を全世界的に囲い込む軍事と警察のグローバル・ネットワーク化は、一九九〇年代までとは違った世界を作り出しているように見える。しかし、米国の覇権を支える同国内における多国間協調主義と単独行動主義の緊張関係は、やはり第二次世界大戦とその後の歴史抜きには理解できない。また、日米関係と日中関係との織り成す微妙なかかわりあいは、第二次世界大戦以来の日米中三国間の関係を無視しては理解できない。さらに、今日、アジアでも、ラテン・アメリカでも、さらにアフリカでも現れている貧困や南北問題に取り組んでいる南の諸国のイニシアティヴは、植民地主義とポスト植民地主義への視覚を欠いてはわからない。植民地解放につながった第二次世界大戦に対する理解は、とくにこの大戦に対するインドの経験をもとにしてはじめて可能になる。

本書の読者は、六〇年たった時点で、あらためて第二次世界大戦の経験をふりかえりつつ、本シンポジウムの報告と討論を参考にして、今後の世界を見晴るかす手がかりにしていただけることを期待したい。

武者小路公秀

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