島根県立大学総合政策学部教授、北東アジア地域研究センター長。専門は、日本政治外交史、日中関係史、政治過程論。主要著書として、『北東アジアにおける中国と日本』 (宇野重昭編、国際書院、2002年)、『アジアの中の日本と中国 友好と摩擦の現代史』 (山川出版社、1995年)、『20世紀の中国 政治変動と国際契機』 (東京大学出版会、1994年)、「日本の歴史認識と東アジア外交 教科書問題の政治過程」 (島根県立大学北東アジア地域研究センター 『北東アジア研究』 第3号、2002年) などがある。
島根県立大学長 宇野重昭
書店で面白そうなタイトルの本を手にして「○○シンポジウムの成果」といったような文字を目にすると、“ああまたか”と元のところに戻してしまうことが多い。というのは、そこには研究書としては密度の低い、その時々の時事解説的な講演記録が、ばらばらに並べられているのではないかという先入観があるからであろう。
そこでわれわれは、当初から朝鮮問題に関し独特のテキストとなるような出版物を目指した。同時に巻末には基本的な年表・関連資料を思い切って多く収録した。これが、この島根県立大学と中国復旦大学合同シンポジウム (2006年1月) の記録である。
そして事前の学術的打ち合わせと交流の機会に、焦点を絞って、繰り返し意見交換を行った。このため、北朝鮮の核問題の権威である沈丁立教授は、アメリカを訪問する際、途中わざわざ東京から島根に回られ、北朝鮮の核開発に対する科学的分析を提示された。また、復旦大学の朝鮮問題研究の責任者である石源華教授は長期間島根県立大学に滞在され、貴重な学術的問題を提起された。他方、島根県立大学側の研究者も、復旦大学をたびたび訪問して意見を交換した。こうした交流のなかで、今回のシンポジウムは、時間をかけて準備されたものである。
本書の特徴としては、三点だけを挙げたい。第一は、日中双方の研究者とも、現時点における北朝鮮問題に強い関心を持ちながら、可能なかぎり歴史的に長期的な視点から朝鮮問題を考えようとしていることである。また、第二は、世界的視野から、とくに国際政治的視点から、朝鮮半島問題のあり方を、幅広くとらえようとしていることである。そして、第三に、沈教授が主張されたことであるが、広い意味における戦略的視点から問題点を把握しようとしていることである。この場合の戦略は、軍事的視点より政治的視点を重視し、同時に理念的方向を内在させるよう努力したものである。
当然われわれは、韓国・北朝鮮の研究者とも、朝鮮半島をめぐる国際関係を論じたいと考えていた。しかし、現在のところ、北朝鮮と日本の関係は、われわれ研究者の期待に反して、友好裡には進んでいない。そこでわれわれは、復旦大学の国際問題研究院の友人たちが持つ朝鮮半島に関する関係・知識に多くを期待した。今後は、われわれ自身の独自の研究分野も開拓していきたいと願っている。
現在、島根県立大学では北東アジア地域研究センターが活動しており、その中で日韓・日朝交流史研究会が朝鮮研究を推進している。そして朝鮮問題で学位を取得した福原裕二助教授が活動の中心となり、今回も本書の編集の大半を担当した。また、本学の弱点を専門家の応援でカバーしたいと願い、秋月望教授、添谷芳秀教授に来学していただいた。今後は島根県立大学自身においても朝鮮問題に関する研究者の層を厚くしていきたいと考えている。
なお、シンポジウムの学術書としての編集の場合には、「開会の挨拶」を省略することがよくあるが、一つにはシンポジウムの背景を知っていただくため、また一つには協力してくださった方々に謝意を表するため、あえて当時おこなわれた内容のままで巻頭に収録した。また、編集に際しては、本書の出版を快く引き受けてくださった国際書院の石井彰社長から貴重なアドバイスをいただいた。記して感謝の意を表したい。
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