「国連研究」 第8号 平和構築と国連

日本国際連合学会 編

包括的な紛争予防、平和構築の重要性が広く認識されている今日、国連平和活動と人道援助活動との矛盾の克服など平和構築活動の現場からの提言を踏まえ、国連による平和と安全の維持を理論的に追及する。 (2007.6)

定価 (本体3,200円 + 税)

ISBN978-4-87791-171-3 C3032

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まえがき

序文

国連創設60周年記念を祝い、国連改革論議が盛り上がった2005年に引き続き、日本の国連加盟50周年という記念すべき年となった2006年、日本国際連合学会の第8回研究大会では、記念講演として、最初の邦人国連職員である明石康理事長の講演がおこなわれた。本誌の巻頭を飾るのは、この講演録である。

国連日本政府代表部勤務時代を含め、約40年にわたって国連関係の仕事に従事し、6人の事務総長の下で国連職員として勤務された明石氏は、国連の仕事に絶望することもあり、国連は高い士気を保つことが難しいところだと告白している。しかし、加盟国の政治的意思がなければ国連は無力ではあるけれども、国連の欠陥を見つめながらもその大きな可能性に目を閉ざすことは許されない、とする明石理事長の言葉から、国連を知り尽くした氏の国連に対する強い思いが感じられる。その思いを引き継いで、今後多くの日本人が国連の職員として活躍することを期待したい。

次に、本号の特集テーマは、「平和構築と国連」である。

2005年9月の国連首脳会合(世界サミット)で採択された「成果文書」に言及された、国連改革の成果の一つとして注目されているのは、平和構築委員会の設置である。紛争状態の解決から復旧、社会復帰、復興に至るまで、一貫したアプローチに基づき、紛争後の平和構築と復旧のための統合戦略を助言、提案する機関として、平和構築委員会の設立が合意され、同年12月に国連総会と安全保障理事会が共同で同委員会の設立を決定した。これは、今日では紛争を解決するだけでなく、紛争の原因を事前に除去し、紛争が発生した場合にはその拡大を防ぐとともに紛争の早期終結を促進し、さらに和平合意が成立した場合には社会の安定、復興を通じ紛争の再発を防止するという、包括的な紛争予防、平和構築の重要性が広く認識されてきたことの現れである。

平和構築の分野において、国連はこれまでどのような取り組みをおこない、どのような問題に直面し、どのような課題と可能性を有しているのだろうか。また、日本をはじめとする加盟国の役割はどのようなものなのだろうか。本号では、平和構築活動の実態を踏まえた上で、平和構築と国連について考察を加えた。

長谷川論文は、事務総長特別代表として東ティモールにおける平和構築に携わってきた経験に基づき、国連の平和構築支援活動の課題を論じ、改善策を提示したものである。現場における平和構築活動の実態を包括的に論じており、「統合された、包括的かつ有機的な平和構築支援」の必要性と、日本の貢献策を論じている。

ニューマン論文は、各種の紛争研究を詳細に検証した結果、民主主義や自由主義といったものは必ずしも普遍的な価値ではなく、とくに紛争後または脆弱な国家の国家構築にとっては時にはマイナス要因になり得ることを指摘する。したがって、これらの価値に基づいておこなわれれる平和構築は再検討されなければならず、平和構築は、民主主義と緊張関係に立ち得る国家構築の一環としておこなわなければならないと主張している。

国連日本政府代表部の一員として平和構築委員会の設立に直接的にかかわってきた山内氏の論文は、平和構築委員会を、平和・安全部門と開発部門とを統合し、調整するツールとして捉え、その意義を論じている。また、ブルンジの国別会合を事例として取り上げ、今後の課題として、統合戦略計画のあり方、当事国のオーナーシップの尊重、資金動員、安保理と平和構築委員会の関係、などの問題を指摘している。

上杉論文は、政治的な国連平和活動と、非政治的な人道援助活動とが、統合ミッションのもとで一本化されることによって生じる矛盾(人道的ジレンマ)を、軍隊と人道機関との関係を分析することによって浮き彫りにしている。そして、人道活動が効果的に実施できる「人道的空間」の確保と、文民の保護という文脈から、中立性や不偏不党性といった人道援助の原則的な対応と、柔軟かつ現実的な対応との適切なバランスを見いだす必要性を指摘し、半統合ミッションの形態が民軍の最も現実的な統合形態であろうという認識を示している。

藤重(永田)論文は、平和構築の主要活動の一つである治安部門改革(SSR)に着目し、SSRの成否こそが永続的な平和への鍵を握っていると、その重要性を強調している。また、紛争が再発したハイチと東ティモールの事例を取り上げ、(1)民主的統治の精神に則った治安組織を育成するという、大きな目標を達成するための明確な計画や戦略の必要性、(2)警察支援による短期的な治安維持能力の養成だけでなく、司法制度の改革や、治安組織監視制度の確立など、包括的SSRの必要性、(3)紛争後の環境における軍隊の取り扱い、などの課題を明らかにしている。

大平論文は、紛争予防分野における国連改革に焦点を当て、アナン前事務総長による10年間にわたる国連改革を総括している。紛争を予防するためには根本原因を除去するための開発援助の役割が重要であり、開発援助分野における改革は、政策決定過程の統一化を中心に進められている。しかし、効率性と結果重視という援助潮流を、そのまま政策の策定と実施に十分な能力を持たない社会に当てはめるならば、紛争予防の観点からは状況は後退するかもしれないと、警鐘を鳴らしている。

川口論文は、紛争研究の手法を導入し、和平プロセス、とくに和平合意の設計を視野に入れた戦略的な平和構築の必要性を主張する。そして、単に物理的な暴力の不在だけではなく、経済的、社会的に充足された生活を目指す積極的な平和の達成のための国連の役割は、和平合意の保証者であり、合意項目を履行するための支援者であると指摘する。

このように本号には、平和構築が包含するさまざまな課題について、平和構築活動の実態に即した実際的な提言が盛り込まれている。本書が平和構築研究の深化のみならず、具体的な政策立案の一助となれば幸甚である。

編集主任 秋月弘子

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