転機に立つ日中関係とアメリカ

宇野重昭・唐燕霞 編

中国の台頭により、北東アジアにおける旧来からの諸問題に加え、新たな諸問題が提起され再構成を迫られている今日の事態を見すえ、アメリカの光と影の存在を取り込んだ日中関係再構築の研究である。(2008.5)

定価 (本体3,800円+税)

ISBN978-4-87791-184-3 C1031

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目次

著者紹介

執筆者紹介 (目次順)

宇野重昭 (うの・しげあき) (Uno Shigeaki)
島根県立大学総合政策学部教授、同大学学長。専門は、東アジア国際関係史、国際関係論、北東アジア地域研究。社会学博士(東京大学)。主要編著書として、『北東アジアの地域研究序説』(国際書院、2000年)、『深まる侵略 屈折する抵抗――1930–40年代の日・中のはざま』(研文出版、2001年)、『北東アジア研究と開発研究』(国際書院、2002年)、『北東アジアにおける中国と日本』(国際書院、2002年)、『中国における共同体の再編と内発的自治の試み-江蘇省における実地調査から』(国際書院、2005年)、『日本・中国からみた朝鮮半島問題』(国際書院、2007年)などがある。
唐燕霞 (とう・えんか) (Tang Yanxia)
島根県立大学総合政策学部准教授、同大学大学院開発研究科准教授、北東アジア地域研究センター研究員。1996年来日、2000年立教大学大学院社会学研究科博士後期課程研究指導終了、2003年博士(社会学)号を取得。専門は産業社会学、人的資源管理論。主な論著として、『中国の企業統治システム』(御茶の水書房、2004年)、「『単位』制度の変化と企業統治――中国国有企業における党の影響力をめぐって――」(『日中社会学研究』10号、2002年、所収)、「江蘇省の株式制改革から見た中国国有企業の企業統治」(『日本経営学会誌』10号、2003年、所収)、「村民自治と農村政治――広西壮族自治区宜州市屏南郷合寨村の事例を中心に――」(『北東アジア研究』13号、2007年、所収)などがある。
王緝思 (おう・しゅうし) (Wang Jisi)
北京大学国際関係学院院長、中国共産党中央党校国際戦略研究所所長。専門は、アメリカ外交、中米関係、国際政治理論。主著に『2006年美国的变化及其影响』『美国霸权与中国崛起』『美国大选后的外交政策走向与中美关系』『美国全球战略的调整及其対中美关系的影响』などがある。
葉自成 (よう・じせい) (Ye Zicheng)
北京大学国際関係学院教授。専門は、中国外交、ロシア研究。主著に、『中国大战略』、『春秋战国时期的中国外交思想』、『叶利欽――俄罗斯第一任总统』、『对外开放与中国的现代化』、『地縁政治与中国外交』、『俄罗斯政府与政治』、『新中国外交思想』などがある。
高原明生 (たかはら・あきお) (Takahara Akio)
東京大学大学院法学政治学研究科教授。専門は、現代中国政治、東アジア国際関係。主著にThe Politics of Wage Policy in Post-Revolutionary China (Macmillan, 1992)、『「中国」の時代』(共著 三田出版会、1995年)、『毛沢東、鄧小平そして江沢民』(共著 東洋経済新報社、1999年)、『東アジア安全保障の新展開』(共編 明石書店、2005年)などがある。
帰泳濤 (き・えいとう) (Gui Yongtao)
北京大学国際関係学院講師。早稲田大学大学院アジア太平洋研究所;北京大学国際関係学院を経て現職。専門は、アメリカと東アジアの関係、東アジア地域研究。主著に「民族主义与中日韩三国近代的历史观」(『国際政治研究』2007年)、「开启中日歴史认识的对话」(『中国図書評論』2007年)、「ライシャワーとアメリカの対日イデオロギー外交」(『アメリカ研究』2005年)、「极右翼政党与欧州一体化」(林勲編『政党与欧州一体化』、北京当代世界出版社、2000年)など。
佐藤 壮 (さとう・たけし) (Sato Takesi)
島根県立大学総合政策学部講師。南カリフォルニア大学大学院・マギル大学大学院留学、一橋大学大学院を経て現職。専門は、国際関係論、東アジア安全保障論、米国の対アジア太平洋政策。主著に「国際政治の見方:国際政治学のメインストリーム」大芝亮編『国際政治学・入門』(ミネルヴァ書房、近刊)などがある。
梁雲祥 (りょう・うんしょう) (Liang Yunxiang)
北京大学国際関係学院副教授。専門は、北東アジア国際関係、日本の政治と外交、中日関係、国際法、国際政治理論。主著に『后冷战时代的日本政治、经济与外交』、『文明视⻆下的中日关系』、『全球化与中国、日本』、『全球化时代的世界政治』、『21世纪亚洲的选择』、『中日关系与东亚合作机制』、『中日亚洲安全战略与中日关系』、『冷战后亚太安全結構的現状与設想』、『第二次世界大战与中日关系』などがある。
李暁東 (り・ぎょうとう) (Li Xiaodong)
島根県立大学総合政策学部准教授。1994年に来日。成蹊大学法学政治学研究科政治学専攻博士後期課程修了、博士(政治学)。日本学術振興会外国人特別研究員などを経て現職。専門は、東アジア国際関係史、近代日中政治思想比較。主著に、『近代中国の立憲構想-厳復・梁啓超・楊度と明治啓蒙思想』(法政大学出版局、2005年)、『中国与日本的他者認識――中日学者的共同探討』(共編、中国社会科学文献出版社、2004年)などがある。

参考資料作成者紹介

江口伸吾 (えぐち・しんご)
島根県立大学准教授。年表、統計・資料を担当。
坂部晶子 (さかべ・しょうこ)
島根県立大学助教。文献リストを担当。

訳者紹介 (目次順)

坂部晶子 (さかべ・しょうこ)
島根県立大学助教。序章を担当。
三品英憲 (みしな・ひでのり)
和歌山大学教育学部准教授。第1部第1章(本文)を担当。
張紹鐸 (ちょう・しょうたく)
島根県立大学大学院北東アジア研究科TA。第1部第1章、第2部第3章を担当。
小都晶子 (おづ・あきこ)
大阪大学非常勤講師。第3部第5章を担当。
江口伸吾 (えぐち・しんご)
島根県立大学准教授。資料10、11を担当。

まえがき

はしがき――シンポジウムとその成果出版について

島根県立大学長宇野重昭

本書は2007年6月17日から18日にかけて開催された北京大学国際関係学院と島根県立大学の合同国際シンポジウムの成果を、日本側でまとめ直し、日中国交正常化35周年記念の学術書として編集したものである。

島根県立大学は、2003年にも、日中国交正常化30周年記念として、『北東アジアにおける中国と日本』 (国際書院) を出版した。このときには、グローバリゼーションの当面の発展を背景に、日・中それぞれのアイデンティティを再模索し、北東アジアを中心とした国際関係における相互的責務を認識する観点から、国際関係、貿易問題、次世代教育、東西文明の共通性と相互補完など、世界的視野から日中関係を提示してみることを試みた。当時は、一時緊張したこともあった日中関係が、おりからの日中貿易関係の順調な発展から、経済の相互依存関係・文化交流の高まりのなかに、一歩一歩解決していくことが期待されていた。

それだけに2005年春の中国青年たちを中心とする「反日デモ」の高まりは、多くの日本人にとってショックだった。今回のデモが情報革命の新しい時代のテクニックを利用していたことは、大衆運動の新時代の不気味な動向を予測させた。この現象は中国政府にとっても衝撃だったように思われる。たとえ当時の小泉首相の靖国神社参拝問題などの刺激材料が揃っていたとはいえ、中国のいわば“新ネットナショナリズム”の噴出は、指導者層の予想を越えるものがあったに違いない。

もはや経済・文化交流の自然的盛り上がりで政治的・思想的ジレンマが徐々に解消されていくと単純に期待できる時代ではない。より意識的に、人為的に、日中関係の改善・リードを考えなければならない時代である。その意味で安倍晋三首相が、政治的必要からとはいえ、意図的に「氷を割る」旅として中国を訪問したことは、一時行き詰まっていた日中友好関係の積極的再開に道を開いた。そして温家宝首相が「氷を溶かす」旅として来日し、初めての日本国会における演説を行って、“雪解け”時代の扉を開いた。この安倍首相の「氷を割る」努力と福田康夫新首相の継承工夫は、中国側からも評価されている。その結果、35周年記念祝電として、福田康夫新首相と温家宝首相の間に交わされた「戦略的互恵関係を全面的に構築する新たな段階を迎える」という表現は、新段階の合言葉となった。

もちろん戦略的互恵関係の中身はまだ明確にされていない。しかし戦略的という言葉は、時間的・空間的に現実的かつ計画的な推進意図の存在を実感させる。日中関係は、たんなる友好ムードの盛り上がり、自然的な経済・文化の交流促進論の時代から、グローバリゼーションの進む時代における計画的・合理的・相互補完的関係の積極的構築の時代に転換しつつあると考えられる。

島根県立大学と北京大学国際関係学院との今回の合同シンポジウムは、このような転換の狭間の時期に開催されたものである。それだけに日中友好を努力して意識的に構築していこうという考え方は共有されはじめたように思われる。研究者間の信頼関係と、信頼関係を基礎とする、より客観的な分析は深まった。したがって討論は、予想以上に率直であった。

このような時期、島根県立大学は、新しい日中関係分析の接近方法を求めた。そして意識的に若い世代を登用して、シンポジウムの舵取を任せた。その試みは、当初からの開催プログラムに現れている。

いうまでもなく日本の北東アジア国際関係における最大の関心事は、中国の急速な発展とその影響力の分析にある。その場合、アメリカの存在感は大きい。そしてそのアメリカは中国に対し、その外交方針を、従来の敵対を基礎とする発想から、戦略的提携を重視する発想に舵を切り換えた。いまや米中関係が新しい段階に入りつつあることは明らかである。そして北東アジアにおける日本のありかたは、新しい米中関係によって大きく変化する。この間日本の経済発展は明らかに遅れをとっている。中国と日本との差が年々詰まっていることはいうまでもない。そしてアメリカに対する日本の発言力も年々後退している。もはやかつてのように日本が中国とアメリカの間、東西の架け橋になりうるような時代ではない。日本は独自の存在理由を確立していかなければならない。やがて中米関係が北東アジアにおいて指導的ともいうべき立場に立つことが予測されている現在、日中関係において求められるのは、国際社会における日本の新しい、合理的、科学的な存在理由であり、その現実的立場に立った日中相互補完、共存である。

したがって今回の日中関係研究にあえてアメリカの存在を大きく取り込んだのは、北東アジアにおける日本自身のありかたをできる限り客観的に設定し、求め直すためである。そこで今回われわれは、まず歴史と現在におけるアメリカの光と影を分析し、中国の台頭により再構成を迫られている北東アジアの安全保障を考え、さらに、日本と中国の間に刺のように突き刺さっている「歴史認識問題」再考のための「鑑としてのアメリカ」の存在と働きに焦点を当てることを試みた。いわばアメリカの存在を強く意識した日中関係再構築の研究である。その具体的意図は、後出の「はじめに――本書の狙いと概観」を読んでいただければ幸いである。

そして今回これらの成果を刊行するに当たっては、シンポジウムの準備の中心であった唐燕霞委員長が引き続き全責任を負い、若い世代がこれを補佐した。他方、中国側の王緝思院長が、シンポジウム終了後、あらためて中・米・日間を俯瞰された力作をお寄せくださった。その内容が日中米国関係をよく整理し、また中国側の立場と考え方を端的にまとめてくださっているところから、基調報告としても最適と考え、また最初に読んでいただくことが必要ではないかと考え、序章としてシンポジウムの記録の前に置くこととした。王院長をはじめ、シンポジウム直後に完成原稿をお寄せくださった葉自成教授、帰泳濤講師、そして梁雲祥副教授には、専門論文提出とともに、北京大学と島根県立大学との連絡のため、文字通り架け橋の労をとってくださったことに、あらためて御礼申し上げたい。また、東京大学の高原明生教授が、日中関係に対するアメリカの総合的影響力を詳細に整理した論文をまとめてくださり、その後の討論においても貴重な指導力を発揮してくださったことに心から感謝申し上げたい。

他方できる限り客観的分析を可能にするため、全体の20%前後を資料集にすることとした。同時に年表の再整理も試みた。本書を日中関係研究の入門書として利用する人々の便宜を考慮したためである。ただし2003年の過去の本学出版物の蓄積を考慮して、2003年以降に焦点を当てた。この資料集の作成には江口伸吾准教授、坂部晶子助教が中心となった。また北東アジア地域研究センターのメンバーにはさまざまな協力をいただいた。さらに特記しておきたいことは事務局が資料収集、翻訳、出版推進などで活躍したことで、研究企画課が多くの困難な作業を分担した。また出版に当たっては、国際書院の石井彰社長が、なみなみならぬ努力とアイディアを傾注してくださった。これらすべての方々の協力に学長として感謝申し上げたい。

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