国際人権法

渡部茂己 編著

第1部で国際的な人権保護のメカニズムを、歴史、国連システム、普遍的人権条約、地域的人権条約の視点から整理し、第2部では「開発と人権」まで踏み込んで人権の具体的内容を解説した入門書である。 (2009.6)

定価 (本体2,800円+税)

ISBN978-4-87791-194-2 C3032 289頁

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目次

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著者紹介

[編者紹介]

渡部茂己・常磐大学国際学部経営学科長・教授(序・第2章担当)
著書: 『国際機構の機能と組織』国際書院、『国際環境法入門』ミネルヴァ書房、『国際組織』(監修・著) ポプラ社、『国際関係法辞典』(分担執筆)三省堂、『演習ノート・国際公法』(共著) 法学書院他。論稿: 「人権の国際的保護と国連人権理事会」『常磐国際紀要』、「国際機構によるグローバルな秩序形成過程の民主化グローバル・ガバナンスの民主化の一位相」『季刊国際政治』他。

[執筆者紹介 (執筆順)]

松井志菜子・長岡技術科学大学経営情報系教授・専門職大学院技術経営研究科システム安全専攻教授 (第1章担当)
法学博士。
申惠丰・青山学院大学法学部教授 (第3章・第5章担当)
1993年ジュネーブ高等国際研究所修士課程(DES)修了。
1995年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、法学博士。
著書: 『人権条約上の国家の義務』日本評論社、他。
西谷元・広島大学大学院社会科学研究科法政システム専攻・教授(第4章担当)
Europa Instituut, Amsterdam University 修了(DipEI)。一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得。
編著書: 『国際法資料集』TRYEX出版部。共著書: 『国際人権法概論』有信堂、他。
太田育子・広島市立大学国際学部教授 (第6章・第7章担当)
スタンフォード大学ロースクール修士課程(JSM)修了。研究テーマは、国際合意の履行確保を契機とする国内法政策の・脱構築・、特に「市場のグローバル化に伴う主権機能の変質と日本の労働力再生産過程(ケア)における公益確保」。共著に『日本と国際法の100年 第4巻 人権』三省堂、『現代世界と福祉国家』御茶の水書房、他。
佐野加代子・Indiana University Bloomington 大学院博士候補生 (第8章担当)
筑波大学大学院人文社会科学研究科博士前期課程修了。インディアナ大学ブルーミングトン校ロースクール修了。
共著書: 『国際組織』ポプラ社。書評: International Governancein War-torn Territories: Rule and Reconstruction, Tsukuba Journal of Lawand Politics, No.39(2005).
苑原俊明・大東文化大学法学部教授 (第9章担当)
論稿: 「先住民族の権利事前の自由なインフォームド・コンセント原則との関連で」国立民族学博物館研究報告第32巻1号 (2007年)、63–85頁、他。
川眞田嘉壽子・立正大学法学部教授 (第10章担当)
早稲田大学大学院法学研究科博士課程単位取得。オーストラリア国立大学(ANU)ロースクール客員研究員。
共著書: 『現代国際人権の課題』三省堂、『女子差別撤廃条約注解』尚学社、『解説国際人権規約』日本評論社、『フェミニズム国際法学の構築』中央大学出版部、他。

まえがき

20世紀には国際社会のあらゆる面で、それまでは考えられなかったような大きな変革があった。人権の国際的保護もそのひとつである。本書で論じられるように、人間の尊厳や権利については古代より考察の対象とはなってきたし、近代市民革命の後、最も重要な社会機能のひとつとされ、各国の憲法や人権宣言によってその確保が目指されてきた。しかし、20世紀に至り、人権の保護がある程度実現されてみると、たとえば南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)やナチスドイツによるホロコーストに見られたように、最も強力な人権侵害が国家によって(さらには法律によって合法的に)なされる事例もあり、個々の国家だけでは充分な保護がなされないことがはっきりしてきた。したがって、第二次大戦後に国連が活動を開始するようになると、まず、人権の国際的保護の動きが活発におこなわれることになった。

「人権委員会」の設置や「世界人権宣言」の採択がそうである。20世紀から21世紀にかけては、個々の具体的権利に関する諸条約がいくつも採択され、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、人種差別撤廃条約など、多くの条約が国際法として機能するようになっている。同時に、国際法としてのみならず、たとえば人種差別撤廃条約については、それに基づく国内立法措置を講じていない日本において外国人差別と考えられる事件が起こった際に、いくつかの国内裁判所がこの条約の趣旨をふまえて救済を与えた事例があるなど、国内法としても役割を果たしている。

国連の報告書において、人権保護がほかの国連の機能のすべての基礎となることが明記されるようになり、たとえば、アナン国連事務総長は、1997年の国連改革案において、人権を、平和・安全保障、経済社会問題、開発協力、人道問題とともに、国連の中核的任務としたが、とくに人権については、それらすべての分野に関係する「cuttingacross(分野横断的)」なものと位置づけた。21世紀に至って、2002年7月には国際刑事裁判所(ICC)規程が発効し、日本も07年10月に当事国となった。06年6月に「人権委員会」は国連総会の下の「人権理事会」へと発展し、翌07年6月にはすべての国連加盟国における人権状況を定期的に審査する手続(普遍的定期審査: UPR)も新設され、08年から実施されている。同年6月12日には、理事国である日本についてのUPR報告書が人権理事会で採択された。また、同じく2008年10月に、自由権規約に基づく規約人権委員会は、10年ぶりの日本政府報告書の審査のなかで、死刑制度の廃止や刑事手続きの透明性向上を求める内容を含む勧告を出している。

本書は、すべての人(世界のすべての人という地理的・水平的広がりとまだ生まれていない将来世代の人という時間的・垂直的広がりを含む立体的概念)が生まれながらに有し、譲り渡すこともできず、奪われることもあってはならない基本的権利と自由を国際法の視点からひと通り整理したものである。すべての人が持っている法的権利である人権を実現し保護するために国際社会はどのような法的制度と手続を備えているのかについて、それぞれの分野を専門とする各担当者が、正確さを保ちつつも初心者にも理解し易いようにていねいに、情熱を込めて執筆している。

本書の構成は、第1部では、すべての人のための国際的な人権保護のメカニズムを歴史、国連システム、普遍的(世界的)人権条約、各地域の人権諸条約の各視点からひと通り整理し、第2部では、人権の具体的内容を、「女性」、「子ども」、「労働者」、「難民」、「先住民族」という代表的な各主体ごとに、また「開発と人権」という国際社会における困難な問題をいかにして両立(融合)させるかについて、それぞれ論点を分かり易く解説している。したがって、ひとまず国際人権法の内容(実体法)を具体的に知りたい場合や、大学等における授業での本書の使い方としては、まず第2部を先に読むという使い方も有用であろう。

世界人権宣言、国連先住民族権利宣言および発展の権利に関する宣言は全文を、人権諸条約も権利に関わる規定はすべて、巻末資料として掲載することで、国際人権法の学習用の入門としては、また、一般の読者が国際人権法の全体像を理解するためには、本書一冊で足りるように配慮した。破格の熱意で御協力頂いた専門家たる各執筆者諸氏と(株)国際書院代表取締役石井彰氏には、改めて心より深謝したい。

2009年陽春 編者

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