北東アジア地域協力の可能性

宇野重昭・小林博 編

日中の研究者により、グローバライゼーション下の「北東アジア地域協力の可能性」を追求し、「歴史認識問題」認識の重要性を確認し、アメリカの存在を捉えつつ「国際公共政策空間の構築の可能性」を探る。

定価 (本体3,800円 + 税)

ISBN978-4-87791-199-7 C3031 279頁

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目次

著者紹介

【執筆者紹介】(目次順)

小林 博 (こばやし・ひろし) (Kobayashi Hiroshi)
島根県立大学総合政策学部教授。
京都大学法学部卒業。三井銀行入行。さくら総合研究所主席研究員を経て島根県立大学教授。コロンビア大学(米)大学院 School of International Affairs 修士課程卒業。専門は、国際金融、日本の金融。著書に『新通貨「ユーロ」の始動』(共著. 経済法令研究会。1999年)、『アジア通貨・金融危機とアジア通貨制度のあり方』、『近年の制度環境の変化と邦銀経営』等
石源華 (せき・げんか) (Shi Yuanhua)
復旦大学国際問題研究院学術委員会主任、教授、博士課程指導教官。復旦大学韓国研究センター長。中国中外関係史学会副会長。韓国「国史編纂委員会」特別招聘委員等。中国朝鮮史研究会副会長。
東京大学、立教大学等で客員教授・客員研究員等を歴任。
現在のテーマ:「中国周辺外交」、「北東アジア国際関係」および「朝鮮半島の歴史と現状」。
主要著作:『中華民国外交史』、『韓国反日独立運動史論』、『陳公博伝記』等。
編著:『冷戦後の朝鮮半島問題』、『東北アジアの国際関係30年』 等。
今岡日出紀 (いまおか・ひでき) (Imaoka Hideki)
アジア経済研究所研究員、三重大学教授、筑波大学教授を経て、現在島根県立大学教授。
専門は、開発経済学、研究対象地域は北東アジア+東南アジアの経済発展。
著書として、『ASEAN諸国輸出1次産品の需給構造』、『中進国の工業発展、=複線型工業化の理論と実証』、『Models of the Malaysian Economy』、『援助の評価と効果的実施』 などがある。論文としては、Factor Abundance in East and Southeast Asian Countries: An Empirical Study With Leontiefs and Leamers Formulas 等多数ある。
張浩川 (ちょう・こうせん) (Zhang Haochuan)
復旦大学日本研究センター副所長。
1992年日本留学、専修大学経済学部、大学院経営学研究科、2003年専修大学大学院助手。2004年経営学博士号取得。2005年復旦大学日本研究センター副教授、所長代理、副所長。著書に 『中国中小企業の挑戦』 (森山書店) など。
張忠任 (ちょう・ちゅうにん) (Zhang Zhongren)
島根県立大学総合政策学部教授。
専攻は経済学。学術博士(岡山大学 1999年)。中国東北師範大学経済学部講師、北方工業大学社会科学学部経済学科長・准教授、中国社会科学院准教授、岡山大学大学院経済研究科客員研究員等を歴任、2000年4月に本学に就任。上海財経大学経済学院講座教授、中南財経政法大学財政税務学院講座教授 (楚天学者)。世界政治経済学会理事。著書は 『現代中国の政府間財政関係』 (御茶の水書房 2001年)、『百年難題の解決─価値から生産価格への転形問題の歴史と研究』 (人民出版社 2004年)、『数理政治経済学』 (経済科学出版社 2006年) 『マルクス経済学思想史 (日本巻)』 (東方出版中心 2006年) 等。
宋国友 (そう・こくゆう) (Song Guoyou)
復旦大学アメリカ研究センター国際関係専攻博士。
2006年6月に復旦大学国際関係と公共事務学院を修了。2005年~2006年にフォックス国際学者 (Fox International Fellow) としてヤルー大学で一年間訪問・研究。2006年7月から復旦大学アメリカ研究センターに着任し、主にアメリカ経済、中米貿易関係及び東アジアの一体化を研究領域とする。
学術論文は20本ほど中国の重要学術刊行物に掲載。また、中国の新聞、『解放日報』 『環球日報』 『東方早報』 『国際先駆導報』 などに時事エッセーを100本ほど掲載。
瀋丁立 (しん・ていりつ) (Shen Dingli)
復旦大学理学博士。復旦大学国際関係学部教授、復旦大学国際問題研究院常務副院長、アメリカ研究センター長、研究プロジェクト 「軍備統制と地域安全研究」 主任。中国南アジア学会副会長。アメリカアジア協会海外理事。ロンドン国際戦略研究所メンバー。
1997 年に Eisenhower Fellowship を得た。2002年アナン国連事務総長の第2任期戦略計画顧問を担当。単著、共著合わせて 12の著書、その他多数の論文。主な研究領域は中米安全、地域安全、核兵器拡散防止、中国外交と国防政策等。
高木誠一郎 (たかぎ・せいいちろう) (Takagi Seiichirou)
青山学院大学国際政治経済学部教授。
東京大学教養学部卒。Ph.D.(スタンフォード大学政治学科)。埼玉大学、政策研究大学院大学、防衛研究所勤務を経て、現職。専攻、国際政治学、中国外交、アジア太平洋の国際関係。主な編・共著書に 『脱冷戦期の中国外交とアジア・太平洋』、『南アジアの安全保障』、『米中関係――冷戦後の構造と動態』、China Watching: Perspectives from Europe, Japan and the United States。
宇野重昭 (うの・しげあき) (Uno Shigeaki)
島根県立大学総合政策学部名誉教授、同大学名誉学長。専門は、東アジア国際関係史、国際関係論、北東アジア地域研究。社会学博士 (東京大学)。主要編著書として、『北東アジアの地域研究序説』 (国際書院、2000年)、『深まる侵略 屈折する抵抗――1930–40 年代の日・中のはざま』 (研文出版、2001年)、『北東アジア研究と開発研究』 (国際書院、2002年)、『北東アジアにおける中国と日本』 (国際書院、2002 年)、『中国における共同体の再編と内発的自治の試み――江蘇省における実地調査から』 (国際書院、2005年)、『日本・中国からみた朝鮮半島問題』 (国際書院、2007年) などがある。

【参考資料作成者紹介】

張忠任 (ちょう・ちゅうにん)
島根県立大学総合政策学部教授。
資料1, 2, 3, 4, 5, 6担当
小林 博 (こばやし・ひろし)
島根県立大学総合政策学部教授。
資料7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16担当

まえがき

序章 本書のねらいと概観

小林 博

1 本書のねらい

本章は、中国復旦大学国際問題研究院と島根県立大学の合同シンポジウムの各報告を、シンポジウムの目的という視点から解読していくことを目的とする。本書に収録するにあたっては、各報告者がシンポジウム前に提出していたフルペーパーに加筆・修正をしていただいた。なお第8章「北東アジアの国際関係とアメリカの役割―安全保障面を中心に」については、シンポジウムにおける報告原稿を掲載した。

島根県立大学は、開学以来中国復旦大学との学術協力を進め、2005年6月には学術交流協定を締結した。教員、研究者間の共同研究や相互訪問、学生の相互留学等交流の一層の緊密化を約した協定である。この協定締結にあたっては、復旦大学で博士号を取得し、島根県立大学の教授でもあった鹿錫俊大東文化大学教授や復旦大学石源華先生による極めて大きなご努力があった。

現在はお互いに自由に話し合える特別の信頼関係にある。シンポジウムもこれまで2005年(於島根県立大学)、2006年(於復旦大学)と開催されてきており、第3回目の今回は「グローバライゼーション下の北東アジア地域協力の可能性」とのテーマの下、2008年11月3日と4日の2日間にわたり島根県立大学において開催された。

報告者の顔ぶれは、本学の今岡日出紀、小林博、張忠任3名の教授陣に加え、中国復旦大学国際問題研究院から、瀋丁立常務副委員長、石源華韓国研究センター長、張浩川日本研究センター副センター長、宋国友博士と気鋭の4名にお越しいただいた。また、青山学院大学から国際政治学の分野において第一線でご活躍の高木誠一郎教授においでいただき、さらにコメンテーターとして京都大学山本裕美教授、島根県立大学佐藤壮講師にも参加いただき多彩なものとなった。

さて、北東アジアは政治、歴史、地理、経済いずれの面においても極めて複雑な場所である。長い歴史のなかでは、中国を中心に独特の安定的国際秩序が維持されてきていたが、近代に入り、欧米諸国の帝国主義的行動による北東アジア国際秩序への揺さぶり、その後の日本、ロシアによる覇権の競い合いがあり、第二次世界大戦後においては、南北朝鮮の分断化、台湾海峡をめぐる危機などがあった。特に日本による大陸領土蚕食は「歴史認識」問題という重大な禍根を残し、今日における地域諸問題解決に向けた努力を困難とする一つの大きな要因となっている。北東アジアに安定した政治的、経済的公共空間を構築していくことは、決して容易なことではない。

そうしたなかにあって、北東アジア地域における国際関係は2国間関係として展開してきた。そのため今日地域共同体が構想されることが多いものの、トータルとしてみると地域協力推進の気運はまだ微弱と言わざるをえない。特に政治、安全協力の面でみると具体的な地域協力関係の組織化の事例として挙げることが可能なのは、北朝鮮の核問題に対処すべき6カ国協議のみと言ってよいが、2009年4月5日の北朝鮮によるミサイル発射の強行、4月13日の国連安保理による北朝鮮非難決議、それを受けての北朝鮮の6カ国協議からの離脱宣言等から判断すれば、この6カ国協議についても再開の見通しが極めて読み難い状況となった。

しかし一方、北東アジア地域には、地域全体の問題として協力して解決しなければ、地域の更なる発展を望みえないような問題が多く生じている。最近ではサブプライム・ローン問題、世界金融危機が北東アジアにも巨大な衝撃を与えつつある。市場原理主義の下でのグローバリゼーションの進展とともに、こうした金融・経済問題に関しても北東アジアにおける多国間協力の必要性が一段と高まっている。

9.11事件以降、アメリカの安全保障政策の軸は対テロ政策に傾き、北東アジアへのコミットメントの度合いは低下し、従来とは異なる役割を演じつつあるように見える。しかし本当にそうなのか。北東アジアにおける地域協力の今後を考える上で、アメリカのコミットメント、役割を再確認することも必要である。

今回のシンポジウムではまず北東アジアにおける共通の政策課題を確認するとともに、そうした課題のなかから今日極めて重要な意味を持つ「安全保障問題」、「資源・エネルギー問題」、「通貨・金融問題」、「北東アジアの国際関係およびアメリカ」をテーマとして選び、これら諸問題を解決していく上での地域協力につき、報告、討論をおこなった。復旦大学、島根県立大学の研究者間の討論を通し、地域協力の可能性を探るのが本シンポジウムの一つの大きな目的であった。

2 今日の世界金融危機・世界同時不況と北東アジアの地域協力

ところで、2007年8月、仏大手銀行BNPパリバ傘下のファンド資産凍結により、米国のサブプライム・ローン問題は大きく欧州へと飛び火した。約1年後の2008年9月米大手投資銀行リーマン・ブラザーズの経営破綻により世界金融危機が一段と強まり、実体経済への影響も深刻なものとなり、世界同時不況への突入の懸念が強まった。各国の実体経済は日を追うごとに悪化、2009年の世界経済成長率はマイナスとなるに至った。先進国の落ち込みが特に激しいものの、新興諸国の成長率も大きく低下するに至っている。

この深まる危機に対応すべく11月中旬ワシントンで第1回金融サミットが開催されたが、ついで2009年4月初にはロンドンで第2回金融サミットが開催された。会議には、G20すなわち主要先進国に加え、ブラジル、ロシア、インド、中国のBRICs4カ国をはじめとする経済発展が著しい新興諸国の参加があった。このことは、もはや先進国のみで世界の経済・金融問題を解決していくことが不可能となっていることを如実に示すものであった。こうした動きのなかで、国際決済銀行(BIS)のバーゼル銀行監督委員会、金融安定化フォーラム(FSF)への新興諸国の参加が決定された。まずバーゼル銀行監督委員会については、3月13日、中国、ロシア、インド、ブラジル等の7カ国がメンバーに加わり加盟国は計20カ国となった。金融安定化フォーラムについても、4月のロンドン金融サミットの首脳コミュニケのなかで、同フォーラムを引き継ぐ形で、G20のすべてが参加する金融安定理事会(FSB)を設立することが謳われた。

欧米先進国の主導でスタートした第二次世界大戦後の世界の経済・金融システムは、その後国際金融の分野で、1971年のニクソン・ショックによりブレトンウッズ体制の根幹を成す金為替本位制が崩壊するという大きな出来事はあったが、システムの管理はその後も今日まで基本的には米国を中心とする欧米先進国によりおこなわれてきた。特に1989年の冷戦終結以降においては、米国への一極集中傾向が著しく強まっていた。サブプライム・ローン問題の発生とその後の金融危機は、そうした米国一極集中体制が崩壊したことを意味するとも言えよう。

このように、世界の経済・金融システムは一極集中から多極化へと大きな転換期にある。今後の新しい世界経済や金融のシステム構築においては、これまで発言権が極めて限られていた新興諸国が深く関与していくことが不可欠となる。

ところで、こうしたなかにあり日本、中国を核とする北東アジア地域はいかに行動していくべきであろうか。ここでこの地域を主に経済的視点から分析してみると、以下に挙げるように他の地域にはない多くの強みを有している。システムの再建、新システムの構築に大きな力となりうる立場にあり、積極的に関与していかねばならない。そうした世界的視野に立った貢献を通し、この北東アジアという地域は国際関係のなかで強固な立場を確立していくことが可能となるであろう。

○米国で発生したサブプライム・ローン問題は、欧米金融機関に甚大な打撃を与え、その多くが巨額の不良債権を抱え独自での経営が困難となり公的資金の注入を仰いだが、サブプライム・ローン問題に限れば日本、中国その他北東アジア金融機関への影響は欧米諸国金融機関に比し大きくはなかった。日本の場合、その後景気落ち込みや株価の急落による不良債権の増加によりメガバンクを中心に収益が大幅な赤字に陥ったが、公的な支援を仰ぐ状況までには至っていない。

○経済・金融危機のなかで世界全体の成長率はマイナスに陥ったが、そうしたなかにあって中国は従来比やや鈍化しつつあるものの、2008年11月、総額約4兆元(約57兆円)の景気刺激策を発表するなど積極的な財政政策を採る方針を明らかにしており、依然として高い経済成長率が見込まれること。

○日本は成長率こそ主要先進国中最大のマイナスに陥ったが、金融部門の経営体力の弱体化は大きくは進んでいない。またバブル崩壊後長期にわたり不良債権処理をおこなってきた貴重な経験を活かし、そうした経験を世界に発信することにより、世界金融危機を克服していく上で大きな貢献が可能なこと。

○中国と日本は、圧倒的な世界第1位と第2位の外貨準備保有国であり、資金支援面で世界に大きな貢献ができる立場にあること。

○今後経済を牽引していく産業分野をみた場合、規制の強化が避けられない金融部門の相対的重要度は低下せざるをえず、モノ作りや環境・省エネルギーに関する技術分野等の重要度が高まると予想される。北東アジア諸国はこれまで金融分野では欧米諸国に競争力において大きな遅れをとっていたが、モノ作り等の面では日本を中心に高い競争力を有していること。

以上のように、さまざまな強みを持つ北東アジア地域である。日本と中国が中心となり世界の経済・金融の危機からの脱出、新システムの構築を主導していく可能性を探ることも本シンポジウムの一つの狙いであった。

3 本書報告論文の概要

第1章 石源華の「北東アジア安全協力の歴史、現状と課題」は、北東アジア安全協力の問題につき、その歴史を振り返るとともに現在の諸課題を明らかにし、協力関係構築の可能性を論じたものである。

石によれば、北東アジアにおける安全協力は、遅れていると言わざるをえないが、遅れの原因は冷戦時代の影響や歴史認識問題など歴史的な要因が大きい。

こうしたなかで、今日の北東アジアの安全協力モデルは、EU式安全体制とは異なり「パートナーシップ」「首脳外交」「多国間協議」を重要な特徴としているが、現在進行している経済貿易連携強化または経済共同体への動きがある程度まで発展したとき、それが確実に北東アジアの安全体制のための堅い基礎となるだろうとする。経済の協力関係強化が、安全協力、政治的な安定のためにも極めて重要な意味を持つと論じている点に石論文の特徴がある。経済協力面の進展を前提としつつも、今後北東アジアの安全協力が進展する可能性があることを示唆している。

第2章 今岡日出紀の「北東アジアにおける国際地域政策課題」は、「北東アジア国際地域公共圏」における政策課題を抽出し、これを解決するための「機能的北東アジア」または「制度としての北東アジア」の構築の可能性を探ろうとするものである。

今後取り組むべき重要な北東アジア地域政策課題として、「FTAの締結と各国国内における産業調整」「アジア共通通貨設立に向けての協力関係の構築」「北東アジア温暖化ガス抑制のための地域協力スキーム」「協調的資源調達方法、資源節約的生産技術の共同開発」の四つを挙げている。この他にも食の安全スキーム、海底資源の利用、漁業資源の利用等重要な政策課題を指摘できるが、各国の今後の発展にとり上記の四つの課題は特に重要とする。

今岡論文は、北東アジア各国による問題意識の共有こそまず第一歩としているが、問題意識が共有され、解決のための共同の努力が進めば、北東アジアの経済がさらに大きく発展する可能性が強まることを示唆している。

第3章 張浩川の「北東アジアのエネルギー需要と国際協力」は北東アジアエネルギー資源の埋蔵量や需給分析をおこなった上で、中国、日本、韓国、ロシアを中心とする北東アジア諸国間のエネルギー・資源分野の協力関係の可能性を展望したものである。

エネルギー資源が豊富な中国が急速な経済発展により、エネルギー輸入大国となったことにより、北東アジアにおけるエネルギー需給関係は供給国:ロシア、需要国:中国、日本、韓国と互恵的な関係が存在する。しかし今日北東アジア地域のエネルギー協力は、2国間協力のみで展開されており、現在中国、日本、韓国3国は、すでにロシアとエネルギー協力をおこなっているものの多くは単純な石油輸出入貿易業務にとどまっている。地域内の政治問題等を理由に地域協力の展開は順調でない。

しかし張論文は、経済発展のための資源確保という意味からも、北東アジアにエネルギー利益共同体を形成する意義は極めて大きいとし、具体的にはパイプライン建設、油田探査・採掘協力等多くの面で地域協力を実現させていくことができるとの見解を示している。こうしたエネルギー利益共同体の構築は、北東アジアの経済一体化の進展にも大きく貢献することとなる。

第4章の張忠任の「国際的な資源・エネルギー獲得競争と日中協力の可能性」は国際的な資源獲得競争の本質、経済開発モデルと資源消費の関係を論じた後、資源・エネルギーに関し、日中間協力の可能な分野につき論じたものである。

中国は領土も広く資源が豊富との見方もあるが、1人当たりの資源量から判断しても国内資源は不足しており、国際資源市場では需要サイドとなる。このことから日中間では、国際資源価格交渉において協力関係を築くことが可能である。この他日本からの省資源技術、特に省エネルギー技術の提供やガス田共同開発、日本から中国への資源消耗の大きい産業への投資抑制等協力可能な分野は多いとする。

第5章 宋国友の「アメリカと東アジアの金融協力および中国の対応」は、東アジアの金融協力が急速に進展しつつあるが、こうした地域金融協力は、米国にとり何を意味するのか、アメリカのどのような政策対応が予想されるのか、アメリカの対応を考慮に入れた場合の中国の選択はいかにあるべきか等につき論じたものである。

東アジアの経済一体化は、貿易および金融の二つの分野で進行中である。金融面からみれば、相互資金融通制度としての「チェンマイ・イニシアティブ」、域内自国通貨建て債券市場育成のための「アジア・ボンド・ファンド」等の面で協力関係は大きく進展した。宋論文は、ACU(アジア通貨単位)やAMF(アジア通貨基金)への取り組みにも言及しており、緊密な協力関係が維持されていけば、欧州に近い形での金融一体化の可能性は、東アジアにも存在すると踏みこんだ見方をしている。宋論文の特徴は、東アジアの金融協力を進める上で、アメリカの強力な存在を無視、排除してはならないとし、アメリカがこうした動きに支援をおこなうよう働きかけが必要としている点であろう。

第6章 小林博の「グローバルインバランス下における東アジア地域金融協力のあり方」は、各国間の経常収支不均衡の拡大や、サブプライム・ローン問題に端を発した世界金融危機が進むなかで、東アジア諸国の地域金融協力の必要性が著しく高まっていることを論じたものである。

経常収支不均衡に関しては、米国経常収支赤字額縮小に向けた調整が進まなければ、世界は、急激なドル相場の下落、米国経済の後退等のリスクを負い続けることとなる。サブプライム・ローン問題もさまざまなルートで東アジアにも大きな影響を及ぼし始めつつある。こうした状況下、東アジア諸国間の地域金融協力を一段と強化させる必要があることを強く主張する。1997年のアジア通貨危機は東アジア地域金融協力進展の大きな契機となったが、今日の世界金融危機は、域内協力金融関係をより一層強固なものとする大きなチャンスでもあり、また日本、中国が一致協力すれば、新しい世界経済・金融システムの再構築にも大きく貢献でき、日本、中国を中心とする東アジアの世界経済・国際金融のなかでの地位を大きく高めるチャンスでもある。

第7章 瀋丁立の「米中関係、日中関係ならびに北東アジアの国際関係」は、北東アジアにおける冷戦の遺産、米中関係や日中関係の現状を概観した後、北東アジアの国際関係のあり方を論じたものである。瀋は、北東アジア地域は歴史問題、南北朝鮮の分断や台湾問題に見られる冷戦の遺産があり、世界で最も国家的矛盾を抱えた地域であるとする。東アジアにおいて、日中関係は経済関係の非常な密接化が進んでいる一方、歴史問題に対する日本の正しくない行動が日本への強い反感を生んでいる。

このように瀋論文は、北東アジアにおける地域協力につき厳しい見方をしているが、しかし一方では、グローバル化の進展により世界各国の相互依存関係はさらに強まっており、また今日の金融危機の負担を各国が共同で分け合うような国際社会が協力する傾向が強まっているとの指摘をしている。時間はかかるが、各国間のパワーと関係の調整を進めることが望まれるとし、将来の協力関係の進展への期待を述べている。

第8章 高木誠一郎の「北東アジアの国際関係のおけるアメリカの役割―安全保障面を中心に」は、アメリカのアジア政策構想の構図を「太平洋共同体」「大国間協調」「同盟ネットワーク」「遠隔地バランサー」の4類型に分類した後、北東アジアへの関与の具体的なものとして「北朝鮮の第2次核兵器開発問題」「同盟体制の再編問題」「対中国政策」につき論じる。

高木は結論として、米国は今後ともこの地域の国家関係に決定的な影響を持つ存在であり続け、グローバリゼーション下、北東アジア諸国が、地域協力を推進しようとする時、アメリカの存在はもちろん無視できないとしている。

おわりに

政治的に見れば、冷戦の遺産や歴史認識問題等があり、北東アジアにおいて協調関係を進展させることは決して容易ではない。しかし本書の石論文にもあるように、経済協力が「安全協力」さらには政治的安定を引き出す可能性を重視したい。本書に収められているその他の論文においても、地域協力が可能な分野は少なくなく、協力関係を進展させていくことも可能との見解が述べられている。もちろん協力関係を発展させていくためには、地域各国の真摯な努力と強い意思そして一致点を見出すための相互の妥協が求められる。

地域協力は、単に地域の経済危機の防止や、危機発生国の支援等地域の問題として捉えるべきではない。世界的視野に立ち、世界経済・金融の新しいシステム構築において、地域として積極的に貢献していくための協力も求められている。

読者の皆様には、本書から北東アジアが抱える問題点を理解していただくとともに、困難を克服しつつ地域協力が進められていけば、さまざまな意味において今日の危機をチャンスに転化することができる可能性がこの地域には十分存在することを汲み取っていただけたら幸いである。

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