本書は、2008月11月6日から7日にかけ、ソウル市立大学にて開催された国際シンポジウム「東アジアの大都市における環境政策と環境財政に関する国際学術大会」で報告された論文をまとめたものである。このシンポジウムは、ソウル市立大学地方税研究所、中国復旦大学日本研究センター、(財)東京市政調査会の共催により実施された。
東京市政調査会は、2006年に上記のふたつの研究所と研究提携を結び、2006年には上海、2007年には東京でそれぞれシンポジウムを開催してきた。また、その研究成果として、『東アジア大都市のグローバル化と二極分化』(2006年)、『膨張する東アジア大都市その成長と管理』(2007年)、『東アジアにおける公営企業改革』(2008年)などを、いずれも国際書院より出版してきた。
今回のテーマは環境問題である。東アジアにおいては、酸性雨や黄砂に代表されるような国境を越える環境問題が注目されているが、ここではむしろ、各国の地域あるいは自治体で取り組まれている環境問題に着目した。すなわち、地球温暖化などのようなグローバルな問題よりもむしろ、住宅、食べ物、リサイクル、景観などといった生活に密着した問題について、どのように地域住民や自治体が対応しようとしているかに関心を持ったのである。あるいは、温暖化ガス排出削減等のグローバル・イシューを扱うにあたっても、実際に政府や自治体が法的、制度的、財政的にどのように対応しようとしているかを具体的に議論できるよう努めた。
シンポジウムでは、主題を大まかに三つのパートに分け議論した。ひとつは「東アジア大都市の環境政策」として、東京、ソウル、上海における環境政策の概況を論じるものである。このうち、本書では、東京における温室効果ガスの排出量取引制度をめぐる東京都の戦略を論じた論文と(第1章)、上海におけるリサイクル産業の動向を中心に上海市の政策を論じた論文(第2章)を掲載している。
次は、「東アジア大都市における環境政策の事例」として、個別の課題をめぐる各都市の動向を論じたものである。上海における公衆衛生施設の設置状況(第3章)、大阪における家電リサイクルの独自の取り組み(第4章)、ソウルにおける清渓川復元工事をめぐるソウル市と商人の協議過程(第5章)、中国における農業の大規模化にともなう食品の安全性の問題(第6章)がそれである。
最後の主題は「東アジア大都市における環境財政」として、環境問題に関連した財政政策や税制を取り扱った。日本における地方環境税の動向を論じた第7章、韓国の都市部における環境に関連した財政政策や税制の概況を論じた第8章がそれである。
シンポジウムでなされたこれらの報告において、ひとつの傾向を見出すとすれば、東京、ソウル、上海の各都市における環境に関連した様々な領域で、それぞれの利害を持ったアクターの対立や藤を浮き彫りにした点をあげることができる。たとえば、韓国においては、ソウル市中心部を流れる清渓川復元工事をめぐるソウル市と地元商人との協議や対立、中国においては、農業の生産や流通のあり方をめぐりアグリビジネスにより脅かされる消費者の安全、日本においては、家電リサイクルをめぐる大手家電企業と地域に長年根付いてきた中小リサイクル業者の利害対立などがそれである。周知のとおり、ソウルでは、当時の李明博ソウル市長のもとで事業が成功裡に実施され、その業績が国民的に評価されたことにより、2008年李明博は大統領にまで登り詰めた。一方、中国における食品の安全性の問題は、日本の消費者までも脅かしマスコミを賑わせたことは記憶に新しい。シンポジウムにおいては、それぞれのケースの背後で、どのような対立があり、解決がなされたのかが具体的に報告されたのである。
本書が、東アジアにおける都市や地域の環境問題を理解する一助となり、環境問題をめぐる対立や藤を解決するためのヒントをわずかでも提供することができれば、幸いである。
Copyright © KOKUSAI SHOIN CO., LTD. All Rights Reserved.