本書は、2008年9月18日・19日に東京・青山の国連大学で開催された「jfUNU/UNU ジュニアフェローシンポジウム2008」という表題のシンポジウムの記録です。このシンポジウムはひとつの講演とパネルディスカッション、及び参加者たちのワークショップで成り立っていました。ワークショップの参加者たちの多くは、国連大学が実施する平和と開発に関する研修コースに参加した経験のある若者たちです。したがってワークショップにおいて若者たちは、かつて彼らが学んだこと、その後彼らが体験したこと、そしてこのシンポジウムの当日、新たに得た知識、それらのことを総合的に踏まえて意見を言い、報告をしました。
本書ではこのシンポジウムの構成を踏まえて、「第1部 基調講演と特別寄稿」において、当日、基調講演をされたユネスコのコーチー・トン氏の講演記録を収載するとともに、本書の上梓に際し新たな観点から勝間靖氏と黒田一雄氏に寄稿してもらいました。
コーチー・トン氏はアジア・太平洋地域の教育問題を統計的に分析する専門家であり、勝間氏は、ユニセフなど開発と教育の現場経験を豊富に持つ教育開発の研究者です。また、黒田氏は、長年、発展途上国における教育開発と国際協力や比較国際教育政策を研究テーマとされてきました。「第2部 多面的なアプローチ」では、パネルディスカッションにおける各講師のショートスピーチの記録とワークショップ発表会における若者たちの意見を掲載しました。
なお、シンポジウムの表題は「平和と開発のためのアジェンダ:より良い世界に向けた私たちのイニシアティブ」でしたが、報告書の出版に当たって内容の焦点化を図る意味から、「平和と開発のための教育――アジアの視点から――」という書名にしました。
私たちプログラム委員のメンバーが集まってこの「jfUNU/UNU ジュニアフェローシンポジウム2008」のテーマに向けて考えられるテーマを協議した際、「平和と開発へのアジェンダ」を取り上げるべきだ、という合意に達しました。
元国連事務総長のブトロス・ブトロス=ガリ氏は1990年代半ばに平和へのアジェンダと開発へのアジェンダ、それぞれに関する有名な報告書を発表しています。私たちは、この二つのテーマを組み合わせたかったのです。平和と開発は互いにとても深く結びついており、個別に考えることはできないからです。当日の講演でも言及されているように、開発なくして平和はありえず、また平和なくして開発もあり得ないのです。これが私たちが最も関心を持っている問題です。
さらに、このシンポジウムは平和と開発に関する一般的な討議ではありません。私たちから見れば、副題Our Initiatives for a Better World(より良い世界に向けた私たちのイニシアティブ)も同じように重要なのです。平和と開発に関する問題、今の世代のリーダー達だけでなく、未来の世代のリーダーも取り組んでいく問題であると私たちは考えています。より困難で、互いに関連し合う様々なグローバルイシューに直面し、UNUジュニアフェローの皆さんが負う任務はより重大なものになるでしょう。問題は平和と開発だけではありません。人口問題や環境問題など、様々なものがあります。私たちはグローバルな複合問題間の接点に重点的に取り組もうとしているのです。
ブトロス=ガリ氏による提案の一部は、平和構築委員会の設立という形で二年前に実現されました。ブトロス=ガリ氏は、インフラ(社会基盤)の構築や社会経済の発展を含め、紛争を終結させ国造りに取り組んでいる国々を支援する必要性を提唱したのです。この平和構築という考えは国連の総会で検討、採択されました。平和構築委員会が設立され、今では幾つかの国で活動しています。これは「アイディア」が90年代半ば――正確には1992年――に生まれ、その後15年ほど経ってから実現された例です。どのようなアイディアも、実際に形になるまで時間がかかるでしょう。今日あなた方が討議することや平和や開発に関する議論は、今の時点ではかなり抽象的に聞こえるかもしれません。このシンポジウムはより良い世界を作ろうとする私たちの努力や取り組みの始まりに過ぎず、あなた方は若いリーダーとして様々な重責をその肩に担うことになるでしょう。
なお、このシンポジウムは全日程が英語で実施されたので、本書の出版に当たっては、コーチー・トン氏の基調講演、リャン氏のショートスピーチ及びワークショップの部分の翻訳は、伊藤宏美さんと小川尚子さん(ともに国連大学協力会職員)の手を煩わせました。その他の部分は、当日のスピーチのテープ起稿原稿にそれぞれの著者自身が、日本語で加筆・修正しました。
最後に、本書の出版にあたっては、(公財)国連大学協力会の森茜事務局長および(株)国際書院の石井彰社長に大変ご尽力いただいたことに心より感謝致します。
編者 内田孟男
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