10数年前から、米国の政治学者であるサミュエル・ハンチントンの書いた『文明の衝突』(日本語版は、鈴木主税訳、集英社、1998年出版)は、世界でベストセラーとなった。「文明の衝突」という用語自体も最も流行した言葉の一つになった。近年になって、「文明の衝突」への反省か、それを避けるための努力かは不明だが「文明の共存」といったような刊行物も登場し、「文明の共存」という言葉も徐々に広げられるようになっている。
これからの世界が一体「文明の衝突」になるのか、それとも、「文明の共存」としていくのかは、いまのところ定かではないが、「文明」が世界・人類にとって大事であることだけは確かであろう。では、これほど大事な「文明」とは一体何であろうか。「文明」の定義・中味については、いろいろな分野・視点から異なる見解が多数存在し得るが、最も重要なのは、やはりそれぞれの人・集落・民族・社会の有しているそれぞれの精神ではないか。そして、その精神の中核の一つが「名誉と不名誉」に対する感覚や認識ではないかと思われる。こういう意味からすれば、「文明の衝突」または「文明の共存」は、ある意味では、「名誉の衝突」または「名誉の共存」と言い換えてもよいのである。
以上のような問題意識をもって、本書は、「名誉の原理」をタイトルとして、以下のような構想で編集した。まず、「歴史的で縦的視点」から、「名誉」の歴史、現状、将来を法文化的に見ていく。次に、「国際的で横的視点」から、「名誉」の社会間・国家間での共通性と相違性を法文化的に探っていく。最後に、「法文化」という独自の視点から「名誉」の法的原理だけでなく、その裏に潜在している文化的原理をも明らかにして、世界がよりよく共存できるような学問的示唆を提示する。これらの目標を達成できたかどうかは読者の皆様のご判断に任せる次第である。
王雲海
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