国連と軍縮

美根慶樹

核兵器廃絶、通常兵器削減の課題を解決する途を国連の場で追求することを訴える。通常兵器・特定通常兵器、小型武器などについて需要側・生産側の問題点をリアルに描き出し核兵器・武器存在の残虐性を告発する。 (2010.9.20)

定価 (本体2,800円 + 税)

ISBN978-4-87791-213-0 C1031 225頁

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目次

著者紹介

美根慶樹

昭和18年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラヴィア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、現在東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員。

著書
『スイス歴史が生んだ異色の憲法』ミネルヴァ書房(2003年)。
「東アジアの安全保障と米新政権」林華生等編『日中印の真価を問う』白帝社(2010年)。
論文
「スイスの核武装問題」『新防衛論集』第27巻3号、1999年12月
他。

まえがき

はじめに

私は2004年から3年近く、軍縮代表部大使として各国の代表と協議や交渉をおこなった。日本の大使は他の国に比べ任期が短い。北欧某国の大使に、自分は5人の日本大使と一緒に仕事をしたと言われたこともあった。これはさすがに極端な例であるが、日本の倍くらい長く勤務させる国はざらにある。

一つの任地で長く勤務すれば経験は豊富になり、過去のいきさつもよく分かってくる。軍縮においてこのことは重要な意味を持っており、特に核の問題などは第2次大戦終了の時点で起こったことも承知していなければ相手と互角に戦えない。国連で核兵器の危険性が取り上げられ、対策が議論され始めたのは1946年のことであり、その時すでに安保理の拒否権の問題が俎上に上っていた。

国際的な軍縮交渉の場だけではなく、日本国内でも核の問題については過去の経緯やいきさつが何十年一日のごとく登場する。最近も沖縄返還前後のことが話題になり、核を搭載した、あるいは搭載している可能性のある米国の艦船が日本の領海内に入る場合の日本政府の対応が話題になった。裁判もおこなわれている。この問題が起こったのは今から40年以上も前のことである。

軍縮はジャングルであると思う。過去の経緯という巨木がうっそうと生い茂っている中を通っていかなければならない。道なき道になることもしばしばであり、足をすくわれる。外務大臣からくる「訓令」の中で過去の経緯が説明してある場合もあるが、ジャングルの複雑さを説明してくれるようなものは少ない。それは無理もないことで、大臣からの訓令を起案している本省の人たちも2、3年で別の部署に移るので海外で勤務している者とそれほど違わない。本省のほうが多少ファイルが整っているという程度のことである。

オバマ大統領は軍縮に積極的であり、私も大いに期待している。前のブッシュ政権時代、軍縮は冬の時代であると言われており、私はその頃に軍縮大使をしていたのでフラストレーションを覚えることが多かったが、今はかなり違うであろう。しかし、オバマ大統領の演説を聴いていると、自己の積極的な考えを述べている部分と、従来から米国政府が取ってきた立場をそのまま踏襲している部分がある。オバマ大統領にしても、軍縮の複雑な経緯をすべて承知しているわけではないので、ホワイトハウス、国務省、ペンタゴンなどのスタッフが用意する原稿に頼る部分があるのは当然である。積極的な姿勢を示す演説と言っても、そのように異質の要素が混じっていることを見抜かなければならない。そのためには洞察力を磨くとともに、過去の経緯を勉強しておかなければならない。

軍縮もさることながら、国連もまた大変なジャングルである。加盟国の数は192、これだけの国が集まると意見の不一致が起こるのも何ら不思議でない。単独ではもちろん、西側グループも数の上では少数であり、主張を通すのは並大抵のことではない。国連の巨額の経費は分担金で賄われており、日本の分担率は最近少なくなってはいるが、それでも米国に次ぐ世界第2位の13%弱であり、これは英国とフランスを合わせたものに等しい。しかるに、それに見合う見返りは得られていないという不満は強い。しかし、国連から脱退すれば失うものがどれほど大きくなるか計り知れず、そんなことはとてもできない。

国連の問題点を上げればきりがないが、軍縮の分野に限っても問題は多々ある。そもそも、核兵器と国連は第2次世界大戦が終了する直前、一卵性ではなく二卵性であるが、双子のように相前後して誕生した。米国は生まれてくる両方の子を知っており、国連が核問題に対応できるように工夫できたかもしれないが、原爆の性質上極秘裏のうちに開発していたので、国連が核問題を考慮に入れないで構築されたのは仕方のないことだったのかもしれない。

国連は、第2次世界大戦のような惨事を繰り返さないために設立された国際組織であるが、核兵器は、下手をすると国連の存在意義を失わせるようなことになりかねない。国際の平和と安全の維持を担当する安保理事会はしっかりと機能しなければならないが、拒否権の存在はそれを妨げる。このことは国連が発足した当時すでに認識されており、他に良い方法はないか各国は議論してきたが、今日に至るまで何ら進展はない。

何事であれ予定した通りに運ばないのは珍しいことでない。国連も例に漏れず、国連憲章が想定していた究極の実力行使手段としての国連軍は1回も実現したことがないが、いわゆる平和維持軍(PKO)は商売繁盛であり、今やPKOは各地で必要とされるに至っている。これがなくなると世界は大混乱に陥るであろう。しかし、余りに活動が増えたので、その予算は通常予算の約2倍にまで膨れ上がっており、各国にとっては重い負担となっている。このようなことにも本当に必要な国際組織を立ち上げ、機能させることがいかに困難であるかが表れている。

国連において軍縮を進めるのは、二重のジャングルを進むようなものである。私はそのため、また、各国代表に負けないために資料を集め勉強した。本書はその結果であり、自分自身にとってのノートである。国連については先行研究によってすでに多くの問題が解明されているが、軍縮の関連で国連を見ていくことも不可欠であり、そうすれば他の分野の関連では見えない問題点も浮かび上がってくる。本書が国連や軍縮に取り組む人、関心を持つ人たちの一助となれば幸いである。

索引

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