本書は、著者が2003年以降に発表している論稿を基盤にしながらも、最新の動きを考察して加筆修正し、また、新たな章も付け加えたものです。その結果、本書の内容の大部分は書き下ろしたものになっています。
すでに発表された論稿は次のとおりです。
本書のテーマは国際政治における覇権国と追従国の関係であり、その変容を欧米関係について検討しようとしたものです。周知のように、第二次世界大戦後のアメリカ覇権体制は欧米間と同様に日米間にも樹立されていますから、欧州の動きを知ることは日本外交の方向性を考えるための手掛かりのひとつになるでしょう。事実、鳩山由紀夫前首相が昨年の総選挙の前月に発表した「私の政治哲学」(Voice9月号掲載、または、鳩山由紀夫ホームページ<http: //www.hatoyama.gr.jp/masscomm/090810.html>)は欧州の動きを跡付けながら日本外交の方向性を定めようとしていました。また、経済社会を考えるばあいも、欧州的な考えが参考にされたようであり、その結果が「東アジア共同体」の樹立であり、「地域主権国家」の確立となっています。
欧州に対する著者の視座も同様なものです。著者は長らくアメリカ覇権体制における欧州の動きを分析し、欧州と世界秩序の将来について考えてきましたが、その研究の動因は、やはり日本の方向性を探るための参考材料を得るという意識です。戦後ずっと「日米安保(同盟)体制を基軸とする」ことを不変の外交原則としている日本は、アジアと世界の構造が大きく変わりつつある今日、アジアと世界で奈辺に位置を占め、何をしようとするのか。それを考えることが、我れわれにとって、大きな課題です。
覇権体制の問題点は、それが現実世界の変容に対して時宜に適った対応を出来ない点にあると言えるでしょう。覇権国が自らの地位を固執することは言うまでもありませんから、覇権国は容易には現実に適した体制に移行しようとはしませんし、また、覇権体制を必要視する側も必要性要因の減少度合いを確認することが困難です。人間の現実認識は客観的というよりも主観的に流れますから、他国に関する国家像は固定観念に制約され、現実から離れたものになりがちです。その結果、覇権体制は“反現実的"な側面を帯びてしまいます。かつて芥川龍之介は『桃太郎』(大正13年)で世間に流布する桃太郎像と全く異なる桃太郎像を描きましたが、そのように、固定観念を再検討する姿勢が必要でしょう。
そして、覇権体制のもうひとつの問題点は追従国の自立意識を抑えてしまうことです。日本でも、最近明らかにされたところ、5カ国の核保有独占体制(NPT体制)が樹立されようとしたときは、国家的自由と自立性保全の観点から核開発を検討したように、国家にとって「自立」の保全は極めて重要視される問題です。核開発を求めないことは当然としても、日本にとって最も適切な外交政策を自由に実現するために、自立性も不可欠でしょう。
以上のような問題を日本について考えるさいに、本書がわずかでも参考になるとすれば、幸いです。
本書の出版は成蹊大学から出版助成を受けています。深く感謝いたします。そして、(株)国際書院の石井彰氏には拙著『国民国家と国家連邦欧州国際統合の将来』(2002年)の出版のさいと同様にたいへんな御尽力をいただいております。同じくここに謝意を記します。
2010年12月
宮本光雄
Copyright © KOKUSAI SHOIN CO., LTD. All Rights Reserved.