国連研究 第12号 安全保障をめぐる地域と国連

日本国際連合学会 編

地域と国連との関係性に着目するとき、これまでの安全保障概念の再検討が求められ、地域機構、地域の国家、国連の果たす役割が新たに問われている。本書では、国際機構論、国際政治学、国際関係学などの立場から貴重な議論が実現した。 (2011.6.18)

定価 (本体3,200円 + 税)

ISBN978-4-87791-220-8 C3032 284頁

ちょっと立ち読み→ 目次 著者紹介 まえがき あとがき

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目次

IV 書評

著者紹介

井上実佳
広島修道大学准教授
石塚勝美
共栄大学教授
小林正英
尚美学園大学准教授
吉川元
上智大学教授
久山純弘
前国連大学客員教授
横田洋三
日本国際連合学会理事長、国際労働機関(ILO)条約勧告適用専門家委員会委員長
真嶋麻子
津田塾大学国際関係研究所研究員
滝澤美佐子
桜美林大学教授
渡部茂己
常磐大学教授
大芝亮
一橋大学大学院教授
上杉勇司
広島大学大学院准教授
内田孟男
国連大学サステイナビリティと平和研究所所長特別顧問、前中央大学教授
久保田徳
仁防衛大学校准教授
大泉敬子
津田塾大学教授 (編集主任)

まえがき

冷戦時代が終わりを告げてから 20年が経ち、21世紀を迎えて 10年が過ぎた 2011年に、『国連研究』第 12号は、憂い多きこの世に生まれ出ることとなった。本号は、「安全保障をめぐる地域と国連」を特集テーマに据え、特集論文、政策レビュー、独立論文、書評、そして国連システム学術評議会(ACUNS)報告を含む日本国際連合学会紹介の 5セクションをもって構成されるものである。

国際社会における安全保障とそれをめぐる議論が多様な変化を遂げつつあるこの時代にあって、「国際の平和と安全の維持」を目的として 1945年に創設された国際連合(国連)は、グローバルで広義の安全保障に、いかなる使命を持ち、どのようにして挑む可能性を持っているのだろうか。この問題を、地域と国連との関係性に着目して考える背景には、次のような現象がある。

第一に、安全保障概念の拡大と深化への国連による対応である。伝統的に、国家間関係において主に軍事的側面から論じられてきた安全保障は、内戦やテロ、貧困や人権侵害などの多様で新しい脅威に直面し、人間の生命や生活全般にかかわる「人間の安全保障」としても認識されるようになった。この視点は、国家の安全保障において見過ごされてきた、地域に生きる人々に着目し、市民を守るという国連の新しい役割への議論を導き出すに至っている。第二に、安全保障の新しい視点が導入される一方で、国連憲章に基づく普遍的な安全保障体制の問題点もまた明らかになってきていることがある。2003年のイラク戦争に見られるように、国連憲章第 7章の集団安全保障措置が機能しない状況下で、国家が単独行動に踏み切り、国際社会における法の支配への挑戦がなされたのはその一例である。その一方で、2011年に北アフリカから中東へと広がった新しい形での民主化運動の連鎖に際して、3月に国連安全保障理事会が憲章第 7章下でリビアに対して決議を採択したことは、多国間主義への回帰を意味するようにも思えるが、決議のゆくえは不透明である。こうした現象の中で、北大西洋条約機構(NATO)やヨーロッパ連合(EU)といった地域機構の動きが注目されるようになった。

そして第三に、崩壊国家の内戦や国家の独立と再建に対して国連による広範な平和活動がおこなわれる過程で、地域が重視されるようになってきたことがあげられる。国連の創設時に国連憲章第 8章において想定されていた国連と地域的機関との関係が新たに模索され、構築され始めている。地域機構も平和維持活動(PKO)を設立し、地域のリーダー的な国家も平和活動を牽引し、国連と合同であるいは独立して、平和維持、平和構築、開発等において活動する時代が到来していると言えよう。むろん、地域によって、広義の安全保障をめぐって地域と国連が有する関係性は、質的にも量的にも異なっている。しかしながら、国際社会において、紛争や事態が多層的構造を持つ地域で頻発している折に、地域の国家や地域機構といった諸アクターが国連とともに多様で広義の安全保障にかかわる可能性を模索することが喫緊の課題であることに異を唱える声は少ないと思われる。

このような時代背景を踏まえて、今回、本特集テーマの設定が『国連研究』において実現したことの持つ意味は大きい。本学会誌において、これまでいくたびもその重要性を指摘されながら実現できずにきた特集テーマのひとつであったからである。国連を中心とするグローバルな安全保障体制とリージョナルあるいはローカルな地域機構や国家などの諸アクターとの関係性に新たな課題を提起し議論するには、国際法学、国際政治学、国際関係学、国際機構論をはじめとする学際的な国連研究が必要と考えられ、また、できるだけ多くの地域を網羅するという難しい課題に直面したからであった。

本号においては、アフリカ、アジア・太平洋、欧州・大西洋、東中欧と旧ソ連といった地域に関して、国際政治学、国際関係学、国際機構論の立場からの貴重な議論が実現した。そこに登場する地域のアクターは、欧州安全保障協力機構(OSCE)、EU、NATO、上海協力機構(SCO)、アフリカ連合(AU)と西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)などの地域機構や準地域機構であり、リージョナル・パワーと称される国家である。これら以外にも、国連憲章第 8章の現代的意義に対する国際法領域からの議論や中南米地域に関する研究、人間の安全保障に対して果たす国連の役割や国連本部と地域的機関との国連行政上の関係についてのレビューなど、さらなる議論が求められる。そうした点については、次の機会をお待ちいただくとともに、本号に掲載された政策レビュー、独立論文、そして書評から、何らかの示唆を引き出していただきたいと願っている。

以下に、4本の特集論文を掲載順に紹介する。

井上論文「アフリカの安全保障と国連国連平和維持活動(PKO)における地域機構との関係を中心に」は、アフリカの状況が、国連の活動上の原則や政策に及ぼすさまざまな影響、また国連と地域機構・準地域機構との関係について検討した。PKOがアフリカで大規模に展開し多様な職務を担う状況に着目して、国連が同地域にどのように関与していくことができるのか、また関与していくべきか、さらに地域機構といかなる連携を担うことにより国連はより効果的な対応がとれるのかを問う。アフリカの現状を PKOの視点から見直すことで、紛争下における市民の保護や、平和構築活動のゆくえなど、国連がおこなう活動の意義や課題をも提示する論考となっている。

石塚論文は、「リージョナリズムと平和維持政策オーストラリアの東ティモールにおける政策をケースに」と題して、オーストラリアの外交政策を、東ティモールへの対応から分析する。オーストラリアによる国連の平和活動への積極的な参加は、国際の平和と安全の維持に資する一方で、リージョナル・パワーとしての同国の政治的な影響力の増大と、リージョナリズムの拡大をもたらす一例であることが指摘された。グローバル化が進む中で、国連活動への国家の貢献は地域におけるその国の影響力をも拡大させる意味を持つとの分析は、国連活動をめぐる国家の外交政策の多面性を示している。

小林論文「国連と地域的機関としての NATOおよび EUある 65周年」は、普遍的国際機構としての国連を中心とする「安保理一元的な安全保障秩序」と欧州・大西洋地域の地域的安全保障機構との相克に着目し、両者の関係の変遷を考察する論考である。国連憲章第 8章下での国連と地域的機関との関係については、国連の創設時より議論されてきた。特に 21世紀に入って以降、国連と EUや NATOとの実践上の協力関係は合理的な選択であったと論じつつ、その一方で、そうした政治的関係の発展は、国連憲章に規定されていない状況を生じさせ、その法的関係性に新たな議論と課題を提示することを論じている。

最後に、吉川論文は、「分断される OSCE安全保障共同体安全保障戦略をめぐる対立と相克の軌跡」において、普遍的な価値の共有を前提とする OSCE諸国間で拡大しつつある安全保障戦略をめぐる対立と相克の冷戦後の動向を検証している。冷戦後の国際社会においては、人権の尊重、法の支配、自由主義、民主主義を基調とするグローバル・ガバナンスの現象が世界を席巻するかと思われたが、OSCEを中心とした安全保障共同体創設の試みは想定されていた通りには進まず、安全保障の戦略をめぐり OSCEと CIS諸国との対立が生じ、さらには、後者による上海協力機構(SCO)への接近をもたらしていることが指摘される。吉川論文では、国連と地域機構との関係は直接には扱われていない。しかし、安全保障戦略をめぐってもたらされるリージョナルな対立と相克に関する分析は、国連を中心とするグローバルで普遍的な価値や規範に基づく安全保障と地域との関係性、ならびに OSCE地域における国連平和活動の可能性と課題を考える上で、貴重な材料を提供するものである。

次に、「政策レビュー」に紹介の筆を進めよう。「政策レビュー」は前号まで「現場の眼」と表されていたセクションである。国連における、また国連に対する政策レビューや提言を、研究者に限らず実務家の方々からもお寄せいただく点で、理論と実務とをつなぐ本学会の特色を反映するセクションとなっている。本号では、久山会員より英文論文 Enhancing United Nations Accountability: Focusing on Stakeholder Engagementが寄せられた。国連が政府のみならず受益者全体(We the Peoples)に対しても正当性を有する存在となることが重要であるという立場から、久山論文は国連のアカウンタビリティ強化の必要性に着目し、「ステークホールダー」としての地球市民社会の役割、市民社会と国連との関係強化について論じている。

また、2010年 6月に南山大学において開催された本学会の第 12回研究大会の場で公表された『国連を生かす外交を日本の国連政策への提言』をそのままの形で掲載することとした。同提言は、本学会の有志が中心となり、日本の国連外交に関して日本政府に提言する目的をもって、「平和と安全」、「開発」、「社会・文化・環境」、「国連機構」の 4分野にわたって作成されたものである。本号への掲載にあたって、『提言』作成と公表の経緯ならびに『提言』が持つ意味について、横田洋三日本国際連合学会理事長から紹介文が寄せられている。なお、『提言』そのものは 26頁から成るが、本号掲載にあたり、頁番号は本号の通し頁番号とした。

独立論文セクションに掲載されたのは、「グァテマラの人間開発に対する国連開発計画『現地化』政策の意義と課題」と題する真嶋論文である。同論文は、地域研究の視点を国連研究に取り込み、従来の国連研究にはなかった研究視角を提供している。論考では、「人間開発」に基づく援助を国連開発計画が現場で実践しようとする際に、現地が持つ資源を活用するという「現地化」を推し進める中で、もともとの理念から乖離せざるを得ない状況が生まれることが示される。そこには、国連による開発援助が途上国のオーナーシップを重視する中で抱えるジレンマが提示されている。開発を含む広義の安全保障問題を中南米地域における内戦後のグァテマラから論じているとも言える論考であり、特集テーマと関連させて読むのも興味深い。

続いて、書評セクションでは、5本の書評を掲載した。中村道著『国際機構法の研究』は、米州機構の研究を土台に、「中村国際機構法学」の体系化を目指して編まれた論文集である。国連憲章第 8章ならびに国連と地域的機関に関する研究である点で、特集テーマにも深くかかわる書であり、滝澤会員による丁寧な紹介がなされている。国際機構法(組織法)の観点からは、国連による領域管理に焦点を当てた山田哲也著『国連が創る秩序』に対し、渡部会員による議論を含む紹介がある。また、民主化支援をテーマにした杉浦功一著『民主化支援』では、大芝会員が国際政治学の視点から同書の意義を紹介している。本号で取り上げた 2冊の洋書(Roland Paris and Timothy D. Sisk, eds., The Dilemmas of Statebuilding: Confronting the Contradictions of Postwar Peace Operations; Richard Jolly, Louis Emmerij, and Thomas G. Weiss, UN Ideas that Changed the World)は、前者が紛争後の国家建設の課題を浮き彫りにし、後者が国連における「アイデア」がいかに世界に影響を与えたのかを考察するものであり、それぞれの分野に造詣の深い上杉会員と内田会員による書評となっている。いずれの書評も、対象となる書籍の専門分野をカバーする会員の手によって、本誌にふさわしい充実した内容になった。

本号の最後に、日本国際連合学会の紹介セクションを置いた。久保田会員による国連システム学術評議会(ACUNS)報告は、2010年の 6月にオーストリアの首都ウィーンで開催された ACUNS第 23回年次会合に参加した若き研究者による臨場感あふれる報告記となった。その後に、学会の規約と役員名簿が記載されている。社会のさまざまな場から、より多くの方々が本学会に関心を持ってくださることが望まれる。

この 12号が産みの苦しみのさ中にあったとき、未曾有の東日本大震災が日本を襲い、多くの尊い人命と人生が失われた。国連や地域機構、国家や NGOからの協力申し出も相次いだ。一国の「人間の安全保障」問題に、国家、市民社会、国際社会、そして国連はいかに協働して立ち向かえるのかが、現実問題として目の前にある。

地震に関する新聞報道の片隅に目を転じれば、国連安全保障理事会によるリビア決議の採択記事が載っていた。忘れてはならない。北アフリカ地域にも、また、その地域で人々がどのように生きてゆくかという、国家と人間との関係にまつわる問題が表出してきている。そこに国際機構はいかなる使命を持ってどのようにかかわることができるのだろうか。

目の前に展開しているこれらの事象も、また、「安全保障をめぐる地域と国連」というテーマの下で考えるべき問題であることを肝に銘じ、各地の人々に心寄せながら、希望をつないで、『国連研究』第 12号を世に送り出すこととする。

2011年 3月編集委員会

(大平剛、二村まどか、望月康恵、山本慎一、文責: 大泉敬子)

あとがき

編集後記

本号より、新たな編集委員会が発足したことを受けて、全員での共同編集体制にトライしました。編集後記も、みんなで書くことにいたします。

2010年8月から実質的に始まっていた編集作業は、長丁場の末、2011年3月に完成を迎えることができました。そこにたどりつけたのは、第一に、執筆者のみなさんが委員会からのさまざまな相談やお願いごとにこころよく応じて、編集にご協力くださったからです。第二には、国際書院の石井さんが、陰になり日向になって、わたくしどもを励まし続けてくださったおかげです。学会事務局からの助けもいただきました。査読してくださった方々も含めて、みなさんにお礼を申し上げます。そして、第三に、若手と中堅の4名の編集委員たち(大平さんには、副主任として補佐役をお願いしました)が、九州、四国、近畿、関東の地理的距離をメールでひとっ飛びして行き来し、常に真摯に気持ちよく作業を進めてくれたからでした。編集過程を一つひとつ乗り越えてゆく中で、編集とは何を目的とするどのような仕事なのかをみんなで勉強できたように思います。至らなかった点は多々ありますので、今後の課題とさせてください。

編集期間の間には、ニュージーランドや日本での地震災害がありました。中東・北アフリカから始まった、新しい情報手段を使っての市民による民主化運動のうねりもありました。そうした中で、地域と国連との関係性というテーマを中心として本号を組んだ意味を問うことは、読者のみなさんに委ねることといたします。ご感想をお聞かせくださいませ。

(編集主任: 大泉敬子)

独立論文セクションは、日本国際連合学会の会員の中でも特に若手の研究者からの投稿を期待しているセクションです。今回は、真嶋麻子さんが従来の国連研究にはなかった新しい研究視角を提示してくれました。従来の枠を越えたチャレンジングな論文のいっそうの投稿を期待しています。それによって国連研究の地平が広がるとともに、学会の活性化につながることでしょう。

(大平剛 北九州市立大学)

国連学会の編集委員の任務を仰せつかってより、政策レビューを担当しての初めての編集作業が無事終わりました。大泉主任のもとで、大平・望月・山本各委員の迅速な助力と助言をいただき、楽しく作業を進めることができました。作業最終段階には未曾有の地震が起こりました。余震や計画停電が続く中で、全員が協力しあって仕上げることができたことに感謝です。

(二村まどか 国連大学)

2010年より、編集委員として参加させていただいております。本号では特集論文を担当し、編集主任のもと、楽しく編集の仕事に携わることができました。編集作業の最中に東日本大震災が発生し、安全保障(security)をめぐる課題を再認識しました。

(望月康恵 関西学院大学)

本号より新たに編集委員会のメンバーとして、主に書評の部分でお手伝いをさせていただくことになりました。編集業務の過程では、会員の皆さまから多くのことを学ばせていただいております。今後もより一層充実した学会誌になるよう力を尽くしてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

(山本慎一 香川大学)

最後に、次の13号へのご投稿をたくさんいただけますように、会員のみなさんにお願いいたします。テーマが決まり次第、学会のホームページ等でお知らせします。本号が、国連研究を含む国際機構研究に貢献できるように念じつつ、編集を終えることにいたします。

編集委員会

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