jfUNUレクチャー・シリーズ 5 サステイナビリティと平和 国連大学新大学院創設記念シンポジウム

武内和彦・勝間靖 編

エネルギー問題、生物多様性、環境保護、国際法、サステイナビリティ学といった視点から、人間活動が生態系のなかで将来にわたって継続されることは、平和の実現と統一されていることを示唆する。 (2012.3.28)

定価 (本体1,400円 + 税)

ISBN978-4-87791-224-6 C3031 175頁

ちょっと立ち読み→ 目次 著者紹介 まえがき 索引

注文する Amazonで『サステイナビリティと平和』を見る bk1で『サステイナビリティと平和』を見る セブンネットショッピングで『サステイナビリティと平和』を見る

目次

著者紹介

デニス・メドウズ
ニューハンプシャー大学システム政策学名誉教授
インタラクティブ・ラーニング研究所代表
マサチューセッツ工科大学、ダートマスカレッジ、ニューハンプシャー大学にて、35年間教鞭をとり、多くの著作を発表している。とくに、1972年発表の「ローマクラブ」への報告『成長の限界』のプロジェクトリーダーを務め、「ワールド3」と呼ばれるシステム・シミュレーションモデルを用い、資源・環境・土地などの地球の物理的容量の制約に基づく要因が人口と経済の拡大との相克により放置すれば社会が危機的状況にいたること、また、この抑制のために人口と物資消費のゼロ成長を早急に実現することを提唱し、第二次大戦後成長を続けてきた世界に大きな衝撃を与えた。1972年に書かれた著書は、地球社会が持続的発展への解決策を早急に必要としていると強く警鐘を鳴らし、世界にこの問題への関心を喚起した功により20世紀で最も重要な著作として選ばれ、2007年に『ユネスコの平和賞』、そして、2009年に『日本国際賞』を受賞している。
茅陽一
地球環境産業技術機構副理事長・研究所長
1957年東京大学工学部電気工学科卒業、1962年同大学院博士課程修了、工学博士。その後、講師、助教授を経て、78年東京大学電気工学科教授、95年に退官、東大名誉教授。同年より慶応義塾大学教授、98年より地球環境産業技術研究機構副理事長兼研究所長。専門はエネルギー環境システム工学、とくに、エネルギーと環境に焦点を当てた研究をおこなう。東京都科学技術功労者、環境省環境功労者。電気学会会長、エネルギー資源学会会長、政府資源エネルギー調査会会長、産業構造審議会地球環境小委員長、(独)科学技術振興機構原子力開発運営統括等を歴任、2010年4月以降は、地球環境産業技術機構副理事長・研究所長を兼任。
〈主な著書〉『エネルギー新時代』(省エネルギーセンター、1987)、『地球時代の電気エネルギー』(日経サイエンス、1995)、「低炭素エコノミー」(日経新聞、2008)他。
武内和彦
国連大学副学長
東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)副機構長
1974年東京大学理学部地理学科卒業、1976年同大学院農学系研究科修士課程修了。東京都立大学助手、東京大学農学部助教授、同アジア生物資源環境研究センター教授を経て、1997年より同大学院農学生命科学研究科教授。2005年より東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)副機構長、2008年より国際連合大学(UNU)副学長、2009年より同サステイナビリティと平和研究所(UNUISP)所長を併任。日本造園学会会長,中央環境審議会委員(自然環境部会長、循環型社会計画部会長)、食料・農業・農村政策審議会委員(会長代理、畜産部会長)などを兼任。専門は、緑地環境学、地域生態学、地球持続学。人と自然の望ましい関係の再構築を目指して、アジア・アフリカを主対象に研究教育活動を展開している。最近では、持続型社会の構築を目指す俯瞰的な科学としての地球持続学(サステイナビリティ学)の世界的な拠点形成に向けて奔走している。また、日本の里地里山の再生を目指すとともに、伝統的な土地利用の再構築に向けた世界の多様な取り組みとの連携を目指すSATOYAMAイニシアティブにも深く関与している。
〈最近の著作〉「地球持続学のすすめ」(岩波ジュニア新書、2007年)、「サステイナビリティ学」(全5巻、共編著、東京大学出版会、2010・11年)他。
伊奈久喜
日経新聞社特別編集委員
早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社に入り、政治部、ワシントン支局記者、米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題大学院(SAIS)外交政策研究所フェローを経て1994年から論説委員、同副委員長として社説、コラム「春秋」などを執筆、2010年から現職。1993年からコラム「風見鶏」を書き続けている。担当分野は外交・安全保障政策。1998年、その国際問題における情報収集力と分析力を高く評価され、日本版ピューリッツァー賞にあたる『ボーン・上田記念国際記者賞』を受賞。青山学院大学、聖心女子大学、同志社大学大学院などで教鞭をとる。
望月康恵
関西学院大学法学部政治学科教授
専門領域は国際法。とくに国際機構の役割および機能に着目し、移行期正義、人道的干渉について研究をおこなう。国際基督教大学卒業(教養学士)、同大学大学院行政学研究科(学術修士)、ロンドン大学国際法ディプロマ、国際基督教大学大学院行政学研究科博士課程修了(学術博士)。国連大学本部プログラム・アソシエート、北九州市立大学助教授、米国コロンビア大学客員研究員を経て現職。主な業績に『人道的干渉の法理論』(国際書院2003年)など。
蟹江憲史
東京工業大学大学院社会理工学研究科准教授
国連大学客員教授
オランダ・イギリスにて研究をおこなった後、2001年に慶應義塾大学にて博士学位(政策・メディア)を取得。北九州市立大学法学部にて助教授を務めた後、現職にて国際関係論を担当。国連大学高等研究所の客員教授、パリ政治学院(Sciences Po.)/ 持続可能な開発と国際関係研究所(IDDRI)客員教授、欧州委員会Marie Curie incoming International Fellowを兼務。
パリ政治学院客員教授(2009&emdash;2010)。専門は国際関係論、地球環境政治。とくに、気候変動やアジアにおける越境大気汚染に関する国際制度研究に重点をおく。OECD Working Party on Global and Structural Policies (WPGSP)副議長、IHDP Earth System Governanceプロジェクト科学諮問委員会委員、中央環境審議会専門委員などを兼任。
鎗目雅
東京大学大学院新領域創成科学研究科
サステイナビリティ学教育プログラム(GPSS)准教授
東京大学工学部化学工学科を卒業後、アメリカ・カリフォルニア工科大学化学工学科で修士号、オランダ・マーストリヒト大学技術変化の経済学・政策研究プログラムで博士号を取得。東京大学先端科学技術センター助手、および文部科学省科学技術政策研究所主任研究官として、科学技術イノベーション政策、産学官連携に関する研究に取り組んだ後、2006年東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻助教授、2008年より同研究科GPSSにて、サステイナビリティ・イノベーションに向けた企業戦略、公共政策、制度設計に関する教育・研究活動をおこなっている。サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)、米国科学振興協会(AAAS) Forum on Science and Innovation for Sustainable Development、IEEE Sustainability Ad Hoc Committee、European Sustainability Science Group、International Conference on Sustainability Science (ICSS)で活動。学術誌Sustainability ScienceおよびEnvironmental Innovation and Societal Transitionsのエディターも務める。
勝間靖
早稲田大学アジア太平洋研究科教授
早稲田大学では、国際学術院において学術院長補佐および教授、大学院アジア太平洋研究科において国際関係学専攻主任、グローバル・ヘルス研究所において所長を務める。また、日本国際連合学会事務局長(理事)、国際開発学会広報委員長(常任理事)、日本国際保健医療学会代議員、日本平和学会理事として貢献。
ホンジュラスでの英国ボランティア・プロジェクト参加とカリフォルニア大学サンディエゴ校留学を経て、国際基督教大学教養学部と大阪大学法学部を卒業後、同大学院で法学修士(国際関係法学)。海外コンサルティング企業協会において開発コンサルタントとしてアジアと南米で開発調査に従事した後、ウィスコンシン大学マディソン校に留学。ボリビアでのフィールド調査に基づいた博士論文により、Ph.D.(開発学)を取得。その後、国連児童基金(ユニセフ)に入り、メキシコ、アフガニスタン/パキスタン、東京の事務所での勤務を経て、現職。
最近の研究関心として、子どもの権利、開発への人権アプローチ、グローバル・ヘルスのための国連と企業とのパートナーシップ、ライフスキルを基盤とした教育などがある。編著書として、『国際保健をめぐる政策決定プロセスにおける日本のNGOの役割と課題』(日本国際交流センター、2009年)、『国際緊急人道支援』(ナカニシヤ出版、2008年)、『グローバル化と社会的「弱者」』(早稲田大学出版部、2006年)、『続入門社会開発~PLA:住民主体の学習と行動による開発』(国際開発ジャーナル社、2000年)などがある。

まえがき

はしがき

本書は、2010年9月3日に東京青山の国連大学ウ・タントホールにおいて開催された「国連大学新大学院創設記念シンポジウム『サステイナビリティと平和』」(jfUNU/UNU Junior Fellows Symposium 2010)の記録です。

国連大学(United Nations University)は、1969年に当時のウ・タント国連事務総長が第24回国連総会で提案し、1973年第28回国連総会で「国連大学憲章」が採択されて実現した国連傘下の学術機関です。日本は、ウ・タント事務総長の提案趣旨に賛同し、この大学の実現を強く支持するとともに、大学設立時に、1億ドルの基金を拠出することを表明し、以後、継続的に拠出金を提供しています。

このようにして、国連大学は、1975年に東京青山に本部を設置し、以来、全世界的なネットワークによって、多彩な活動を展開してきましたが、国連大学の活動は、国連大学憲章において・学者の国際共同体・としての機能に重点が置かれたため、研究活動が中心で、正規の学生のいない大学でした。しかし、短期の研修講座を中心とする多様な人材育成コースを開設し、この25年間で、国連社会および国際社会の中核として活躍する人材を輩出してきました。

そして、2009年12月第64回国連総会において、35年ぶりに国連大学憲章が改正され、国連大学に正規の大学院学位(修士および博士)を授与する機能と権限が付与され、国連大学は、名実ともに国連の設置する大学院大学となりました。これを受けて、2010年秋に、国連大学本部にあるサステイナビリティと平和研究所に、「大学院サステイナビリティと平和研究科」が開設される運びとなったものです。

この報告書の元になったシンポジウムは、その国連大学大学院の創設を記念して開かれたシンポジウムです。

サステイナビリティという概念は、「持続可能性」と訳されますが、もともとは、地球と人類の存続に照らして、人間の活動、とくに開発や経済発展、技術開発などが、将来にわたって持続できるかどうかという観点から生まれた概念です。しかし現在では、気候変動や地球規模の生態系の変化など、地球規模の自然課題そのものさえ、人類が繰り広げる人為的な経済活動のもたらす影響として認識され、サステイナビリティの重要性が人類の共通認識となりつつあります。

国連大学の新大学院は、これらの地球規模の緊急課題を、地球変動、環境と開発、平和構築と人権など、自然科学、人文社会科学を融合させた学際的な学問として取り組み、修士および博士課程による人材育成を図る大学院として誕生しました。この地球の持続可能性について最も早く問題提起をおこなったのが、1972年にローマクラブが発表した『成長の限界』(The Limits to Growth)です。そこには、「人口増加や環境汚染等の現在の傾向が続けば、資源の枯渇や環境の悪化によって100年以内に人類の成長は限界に達する。」との指摘が多様なシステムダイナミズムの手法に基づく詳細なデータによって明らかにされています。

このサステイナビリティという概念を生み出し、資源と地球の有限性に着目した『成長の限界』を取りまとめたのが、当時マサチューセッツ工科大学の若手研究者であったデニス・メドゥズ博士を中心とした国際チームです。メドウズ博士は、現在、ニューハンプシャー大学システム政策学名誉教授であるとともにインターラクティブ・ラーニング研究所長をしておられますが、『成長の限界』公表後も継続してこの問題を追及し続け、1992年に『限界を超えて』(Beyond the Limits)、2004年に『成長の限界人類の選択』(Limits to Growth: The 30-Year Update)を出版し、約40年前に指摘した問題状況の変化とその後に起きた新たな問題へのアプローチと分析をおこなっています。

この国連大学新大学院創設記念シンポジウムでは、デニス・メドウズ博士を基調講演者に招き、『成長の限界』から約40年を経て、サステイナビリティと平和について、人類がどのような解決の道を見出すことができたのか、あるいは今後どのような道程を選ぶべきなのか、などについて、検討を加えることとしました。

メドウズ博士の講演は「『成長の限界』が平和に示唆するもの」と題しておこなわれましたが、同博士は、この本の出版にあたって、シンポジウム当日の講演記録をそのまま文章化するのではなく、この本の読者のために、博士自らがサマリーを書き下ろし、キーポイントを提示してくださいました。本書の第1部に、その英語の原文と邦訳とを収載しました。

博士のご尽力に対しまして、紙上を借りて心からお礼を申し上げます。

さて、当日のシンポジウムでは、メドウズ博士の基調講演に引き続き、「『成長の限界』が切り開いた人類の未来」と題して、パネル討議をおこないました。パネル討議では、最初に3人の専門家によって、『成長の限界』後の約40年をブレーク・スルーするようなスピーチがおこなわれました。三つのスピーチは、サステイナビリティで最も重要な課題である・エネルギーの問題・について茅陽一地球環境産業技術機構の副理事長兼研究所長から、・成長の限界と歴史的現象・について伊奈久喜日本経済新聞特別編集委員から、そして、私からは・成長の限界VS生物多様性・についてスピーチをおこないました。

本書の第2部がそれです。

最後に、国際社会で多様な活動をしている15名の若い人たちに舞台に登壇願って、3人の専門家も交え、また、時にはメドウズ博士自身も発言し、全員でディスカッションをしました。この15名の若い人たちは、いずれも、冒頭で述べた国連大学が従来開催してきた短期研修コースの修了生たちです。大学の教授や准教授として後輩指導に携わっている人もいれば、PKOなど国連の中枢機関で活躍している人もいます。母国の行政担当者もいれば、NPO活動家や弁護士もいます。

実は、このシンポジウムの当日、午前中に、この15人のメンバーだけによるクローズドセッションが開かれ、問題点の整理をおこなっておりました。パネル討議では、メンバーを代表して、望月康恵、蟹江憲史、鎗目雅の3氏によって、それぞれ、国際法と平和、環境保護、サステイナビリティ学の観点から、整理した問題点について発表していただきました。

こうしてパネル討議では、国際的かつ多様な職業から得られた現場感覚に飛んだ議論が展開され、サステイナビリティと平和の問題が具体性をもって議論されました。そこで、本書の発行にあたっては、この部分を「第3部サステイナビリティと平和」としてまとめました。

国連大学大学院サステイナビリティと平和研究科の創設にあたって、『成長の限界』の提唱者メドウズ氏を基調講演者として招くことができたこと、この大学院の前身とも言える国連大学の短期研修コースの修了生たちの国連と国際社会の現場経験からもたらされた知見によるディスカッションを得たことは、この大学院の今後の進むべき方向に大きな示唆を与えてくれたものと、心より感謝いたします。

本書が、サステイナビリティと平和の問題について、研究者、企業、行政、NPO、一般市民のいずれの立場の方々にも分かりやすい話題を提供し、地球と人類の未来を考える上で再考の機会となることを願っています。

なお、第1部基調講演のデニス・メドウズ博士の実際の講演は英語でなされたものであり、その翻訳は、小川尚子さん((公財)国連大学協力会職員)が担当し、専門的立場からスピーカーの一人である鎗目雅准教授(東京大学)が翻訳の校閲をおこないました。

また、本書の出版にあたっては、(公財)国連大学協力会の森茜事務局長および(株)国際書院の石井彰社長に大変ご尽力をいただきました。心より感謝いたします。

編者代表 武内和彦

索引

株式会社 国際書院
〒113-0033 東京都文京区本郷3-32-5 本郷ハイツ404
Tel: 03-5684-5803
Fax: 03-5684-2610
E-mail: kokusai@aa.bcom.ne.jp