早稲田WICCS叢書 1 東アジアにおける二つの「戦後」

松村史紀・森川裕二・徐顕芬

総力戦および冷戦という二つの戦争が東アジア地域につくり上げた秩序を、アジア太平洋国家としての米・ロ・中・日をはじめとした東アジアの政策変容を追究し国際政治学の原点に立ち返って考察した。 (2012.4.4)

定価 (本体2,800円 + 税)

ISBN978-4-87791-225-3 C3031 288頁

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目次

著者紹介

(編者)

松村史紀(MATSUMURAFuminori) (序章、第4章担当)
宇都宮大学国際学部専任講師。博士(政治学)。専門は現代中国をめぐる国際政治、アジア冷戦史。主な著作に、単著『「大国中国」の崩壊: マーシャル・ミッションからアジア冷戦へ』(勁草書房、2011年)、共著『冷戦史の再検討: 変容する秩序と冷戦の終焉』(法政大学出版局、2010年)、共編著『東アジア地域立体像と中国』(早稲田大学現代中国研究所、2011年)など。
森川裕二(MORIKAWA Yuji) (第8章担当)
富山大学極東地域研究センター特命助教(『東アジア「共生」学創成の学際的融合研究』担当)。博士(学術)。専門は国際関係論、国際政治経済学。主な著作に、単著『東アジア地域空間の変動と形成』(早稲田大学出版部、2010年)、共編著『東アジア共同体の構築4 ネットワーク解析』(毛里和子との共編著、岩波書店、2006年)など。
徐顕芬(XU Xianfen) (第7章担当)
早稲田大学アジア研究機構現代中国研究所客員講師(専任扱い)。博士(歴史学、政治学)。専門は東アジア国際関係、日中関係、中国外交。主な著作に、単著『日本の対中ODA外交: 利益・パワー・価値のダイナミズム』(勁草書房、2011年)、共編著『二つの「戦後」秩序と中国』(早稲田大学現代中国研究所、2010年)、訳書(中国語訳)『中日関係: 従戦後走向新時代』(中国社会科学文献出版社、2009年[毛里和子『日中関係: 戦後から新時代へ』岩波新書、2006年])など。

(執筆順)

野口真広(NOGUCHI Masahiro) (第1章担当)
早稲田大学社会科学部助教。博士(学術)。専門は日本近代政治外交史、台湾植民地史。主な著作に、「日本統治期台湾先住民社会の変化――霧社地域を事例に」(『日本台湾学会報』第4号、2002年)、「石塚英蔵総督の台湾統治改革構想――台湾経験から見る郡警分離問題」(『日本の朝鮮・台湾支配と植民地官僚』思文閣出版、2009年)など。
鈴木仁麗(SUZUKI Nirei) (第2章担当)
明治大学文学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構現代中国研究所招聘研究員。博士(文学)。専門はアジア史、内モンゴル近現代史。主な著作に、「満洲国建国期の対東部内モンゴル政策――関東軍による政策決定過程とその初期理念」(『東洋学報』873号、2005年)、「内モンゴルと近代日本」(早稲田大学モンゴル研究所編『モンゴル史研究: 現状と展望』、明石書店、2011年)など。
遠藤正敬(ENDO Masataka) (第3章担当)
早稲田大学台湾研究所招聘研究員、大阪国際大学非常勤講師。博士(政治学)。専門は政治学、日本政治史、アジア国際政治史。主な著作に、単著『近代日本の植民地統治における国籍と戸籍: 満洲・朝鮮・台湾』(明石書店、2010年)、「満州国における朝鮮人の就籍問題――治外法権撤廃と無籍朝鮮人対策」(『アジア経済』第52巻第10号、2011年)、「台湾籍民をめぐる日本政府の国籍政策の出立二重国籍問題と清国国籍法への対応を中心に」(『早稲田政治経済雑誌』第376号、2009年)など。
平川幸子(HIRAKAWA Sachiko) (第5章担当)
早稲田大学アジア太平洋研究科助教。博士(学術)。専門は戦後東アジア国際関係史、アジア地域統合。主な著作に、「台湾経験から考える地域統合論」(『問題と研究』40巻1号、2011年)、「アジア地域統合と中台問題」(『国際政治』158号、2009年)、「「二つの中国」ジレンマ解決への外交枠組みっ――「日本方式」の一般化過程の分析」(『国際政治』146号、2006年)など。
堀内賢志(HORIUCHI Kenji) (第6章担当)
早稲田大学アジア太平洋研究センター次席研究員。博士(学術)。専門は北東アジア国際関係、ロシア政治。主な著作に、単著『ロシア極東地域の国際協力と地方政府: 中央・地方関係からの分析』(国際書院、2008年)、『ウラジオストク: 混迷と希望の20年』(東洋書店、2010年)、「北東アジアのエネルギー資源外交――「エネルギー安全保障のジレンマ」と地域協力の可能性」(山本武彦・天児慧編『新たな地域形成』岩波書店、2007年)など。

まえがき

はしがき

現代中国研究を志すものにとって、「現代中国」という対象は、掘り下げても底が見えず、突き進もうとしても先が見えない。資料に向かい、分析を試み、わかったつもりで結論めいたものを示したとしても、一定の時間がたち、異なった問題意識や分析アプローチを持ち、新しい情報や資料を加えるならば、また異なった見方が可能となってしまう。しっかりした現状分析を行い――実は「行ったつもり」でしかなかったが――、それを踏まえた中国の未来を何度描き出したことか。しかし、もちろん歴史学そのものは、まさにE・H・カーが指摘するように、「歴史事実」と歴史家の尽きぬことを知らぬ対話である。

現代中国も「現代」という歴史を対象としている点では同じである。新しい資料を発掘し、あるいはフィールド調査を行い、問題意識や研究方法を磨く。そして課題の解明に当たる。そうした作業を繰り返し、「事実」と分析の相互作用を進める中で、初めてリアリティーのある「事実」と「解釈」に接近でき、その意味を考えることが可能となってくる。

しかし、それにしても中国という「世界」は巨大で深い。私自身、中国研究を始めてはや40年の歳月を過ごした。研究を始める最初の大きなきっかけは、文化大革命の「なぜ」であり、ニクソン訪中・米中接近の「なぜ」であった。確かに40年間無駄飯を食ったわけではなく、それなりの学問的成果は上げているとは思う。しかしそれでも「中国がわかった」などと、とてもおそれ多くて言えるものではない。私にとって中国とは、あたかも巨大なとらえどころのない混沌とした怪物「リヴァイアサン」のごとく、あるいは様々世界を描き出す「万華鏡」もしくは「プリズム」のごとくである。

今でもまじめに中国に向き合おうとするならば、次々と「なぜ」「どうして」という問いが湧き出してくる。例えば、なぜあれほどの大国が歴史上類を見ない持続的な経済成長を続けるのか、市場経済を導入した他の社会主義諸国は次々と崩壊したのに、なぜ中国の社会主義体制は崩壊しないのか。人々の生活様式、価値観が多様化し、情報化、国際化が進んでいるのに、共産党一党体制はなぜ維持され続くのか等々。中国をめぐる「問い」は尽きない。中国の政治社会のダイナミックな構造的変動をとらえるための分析枠組みを構想してみたい。中国外交のビヘイビアを見るために中国の伝統思想を取り込んだアプローチを考えてみたい。知的好奇心もまた次々と刺激される。

今回の早稲田現代中国研究叢書(WICCS研究叢書)の出版企画は、知的好奇心にあふれ、意欲的に研究を進めている現代中国研究者たちに、その斬新で緻密な、あるいは地味ではあるが手堅い研究成果を世に送り出すことを積極的にサポートするために試みられたものである。それ故に、本研究叢書の出版事業を通して、各執筆者の学問的資質が高まることはもちろん、そうした出版を通して現代中国の学界においてアカデミックな論争が大いに盛り上がり、研究者たちの間で相乗効果が上がることが期待されている。とりわけ若手研究者たちの研究意欲が高まり、相互に刺激し合える雰囲気が醸成されるなら、本研究叢書の企画を進めるものにとってこの上ない喜びである。

2011年

年の瀬を迎えて 早稲田大学現代中国研究所長天児慧

索引

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