紛争後平和構築と民主主義

水田愼一

世界各地では絶えず紛争が発生している。紛争後における平和構築・民主主義の実現の道筋を、敵対関係の変化・国際社会の介入などの分析をとおして司法制度・治安制度・政治・選挙制度といった角度から探究する。(2012.5.20)

定価 (本体4,800円 + 税)

ISBN978-4-87791-229-1 C3031 289頁

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目次

著者紹介

水田愼一

1971年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。ニューヨーク大学大学院修士課程修了(政治学修士)。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻/「人間の安全保障」プログラム博士課程修了(博士(国際貢献))。1996年4月外務省入省後、北米局、在米日本国大使館、欧州局、アジア大洋州局、大臣官房を経て2002年10月退官。同年11月より株式会社三菱総合研究所において外交・安全保障、平和構築、国際協力、通商政策、貿易・投資等の分野での調査研究・コンサルティングに従事、2011年8月退社。同年9月より国連アフガニスタン支援ミッション統合分析政策ユニット情報分析官。

まえがき

はじめに

本書は、紛争が発生した国に再び平和と安定を取り戻すために「民主主義」を促進するというアプローチの妥当性を検討するために、新たな理論的フレームワークを提示しようと試みた書である。

戦争、とりわけ国内紛争というと一般の日本人にはピンとこないかもしれない。しかし、世界各地では今日でも絶えず国内紛争が発生している。そのなかには純粋に国内勢力だけで争われている紛争もあれば、アフガニスタン紛争のように米英を中心とした国際軍が前線に立って現地反政府勢力と日々武力衝突を繰り返しているような紛争もある。また、戦闘行為が国内勢力だけでおこなわれているとしてもその背後には何らかの国外からの資金的・物的支援がおこなわれている場合がほとんどであり、純粋な意味での国内紛争というのは今日ではほとんど存在しないかもしれない。

このように多くの紛争が発生するなかで、紛争の発生を食い止めよう、発生している紛争を終焉させよう、紛争終結後に平和で安定的な社会をつくり上げようといった取り組みが国際社会によってなされている。本書の主題である「平和構築」は、そういった取り組みのなかに位置づけられ、広義には紛争予防から、和平交渉、中長期的な開発までをも含む言葉として定義されるが、本書ではむしろ、紛争終結後に永続的な安定と平和をつくり上げるための活動という狭義の意味で用いている。

そして平和構築のなかでも本書では、民主主義の促進、とりわけ民主主義制度構築について中心に論じている。大雑把に言ってしまうと、これまでのこの分野での学問的・実践的蓄積では、紛争が多かれ少なかれ継続したままであっても、政治制度、治安制度、司法制度といった民主主主義制度の構築は可能であり、そういった民主主義制度構築を先行させれば、いずれその国に平和と安定がもたらされるであろうと読者に対して思わせるところが多くあった。

しかし、筆者はこのような示唆に直感的に違和感を抱いた。人々が憎しみ合って、敵対し合って、譲り合おうともしないところに、そもそも民主主義制度が構築されるのか。この主題に対して、筆者がどのような仮説を提示し、その仮説をどのように立証し、それをどのような理論的フレームワークとして提示したのかについては、恐縮ながら本文を参照されたい。

とはいえ、結論部分だけ少しお示しすると、筆者の導き出した政策的示唆の重要なものの一つは、「強い敵対関係、すなわち紛争が継続している状況であっても、国際社会が大量の人的・資源的リソースを中長期的に継続して投入し続け、敵対関係の緩和を力によって促し、同時に民主主義制度の構築を進めれば、その国に平和で安定した社会をつくり上げることは可能であろう」という示唆であった。しかし、この「大量」かつ「継続的」というのが実は曲者である。

筆者は、2011年9月より、国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)の情報分析官として当地で起こりつつある国際軍からアフガニスタン軍への「権限移譲」とその影響にかかわる情報を収集・分析する任務に当たっている。この国で今起こりつつあることは、まさに政策的示唆とは反対のことで、今まで展開していた大規模な国際軍が2014年までに撤退し、それと同時に民主主義制度構築などに充てられていた巨額の援助資金が引き揚げられようとしている。

理論的な帰結と現実の政策遂行が乖離してしまうのはきわめて頻繁に起こることである。そのような現実に直面して、少なくとも学問の側に立てば、政策遂行の失敗を非難するよりも、より現実に即した理論構築を試みることが建設的な貢献を生み出すことになろう。そういう意味では、本書で示した理論的フレームワークはまだまだ改善の余地が大きく、読者各位から建設的な批判をいただければ幸いである。

言及が遅れたが、本書は、筆者が2005年4月から2010年3月まで在籍した東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム博士課程における博士学位取得論文をその後の時間の経過に伴う状況変化を反映させ書籍としてまとめたものである。したがって、本書の刊行に当たり、真っ先に御礼を申し上げなければならないのは、筆者の指導教官であった山影進教授である。山影先生は、筆者が「人間の安全保障」プログラムに入学した時の同プログラム運営委員長であり、筆者のことを「外務省を辞めて民間シンクタンクで働きながら、大学院にまで通おうとする『変わった』人間」と見ながらも、このプログラムで勉学に取り組む機会を与えてくださった張本人であった。そして、入学後、その「変わった」人間の指導教官となることを快く受け入れてくださり、理論的なフレームワークの構築に悩む筆者に対して非常に親身に丁寧に、そして何よりも厳しく指導してくださった。本書刊行に当たり、改めて深く感謝の意を申し上げたい。また、山影教授とともに、論文審査委員会の主要メンバーを務めてくださった遠藤貢教授、佐藤安信教授、そして最終審査の選考委員として参加してくださった旭英昭教授、石田淳教授にも改めて感謝申し上げたい。

また、筆者が2002年11月から2011年8月まで在籍した株式会社三菱総合研究所の上司、同僚の方々にも感謝を申し上げなければならない。同社は筆者の大学院通学に当たり寛大にも学費の半額以上の補助を拠出してくださった。また、大学院通学により売上のノルマは一切軽減されなかったものの、昼間の就業時間中に大学院の授業に通ったり、指導教官の研究室に通ったりできたのは、上司や同僚の理解があったからに他ならない。また、同社の業務としてカンボジアやアンゴラといった本書でケース・スタディ国とした国々を実際に訪問できたことは、研究を深めるうえで貴重な経験を提供してくれるものであった。

さらに、本論文の執筆から公表に向けてお世話になった方々としては、専修大学の稲田十一教授と元在アンゴラ日本国大使館専門調査員・元在アフガニスタン日本国大使館二等書記官の加藤久絵氏にも心より感謝申し上げたい。筆者が実際にアンゴラの地を踏むことができたのは、稲田教授が率いる独立行政法人国際協力機構委託の調査団に加わる機会をいただけたおかげである。また、稲田教授のお声掛けにより、日本国際政治学会/編「国際政治」165号(開発と政治・紛争新しい視覚)において、本書のベースとなった博士論文の要旨をいち早く公表する機会をいただいた。また、加藤氏には、アンゴラ調査時に様々なご支援をいただいたのに加え、アフガニスタン勤務時には激務の合間を縫って、アンゴラとアフガニスタン部分を中心に拙稿に目を通し、貴重な修正コメントをいただいた。

ところで、そもそも、筆者が博士課程にまで大学教育を進めることができ、かつ、平和構築という分野での専門性を深めることができるようになったのは、外務省時代に米国大学院修士課程への留学の機会をいただき、また、コソボ、東ティモールという国々(当時はいずれも独立国ではなかったが)の平和構築実務に従事する機会をいただけたおかげである。その意味で、外務省時代にお世話になった諸先輩・同僚の方々、ひいては、同省を支えてくださっている国民の皆様全員にも御礼を申し上げなければならない。

また、こうしてこれまで生き、実務や学問に励んでこられたのは、筆者の人生を支えてくれてきた家族、友人、知人の方々の存在があったからである。筆者をこれまで支えてきてくれたすべての方々に改めて深く感謝したい。

そして、最後になり恐縮だが、今回の貴重な出版の機会をくださった株式会社国際書院の石井彰社長、そして筆者を石井社長にご紹介くださった広島大学の上杉勇司准教授に心より感謝申し上げたい。

2012年2月

カブールにて 水田愼一

索引

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