法文化(歴史・比較・情報)叢書 10 夫婦

屋敷二郎

変容する社会、国家を背景に見据えつつ、「夫婦」の法文化を法哲学・法制史学・比較法学・法実務などの多元的な学際的アプローチによって意欲的に探究する。(2012.8.20)

定価 (本体3,600円 + 税)

ISBN978-4-87791-234-5 C3032 333頁

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目次

著者紹介

執筆者紹介

(*は編著者)

稲垣知子 (いながき・ともこ) 椙山女学園大学非常勤講師、日本法制史
1971年生まれ。博士 (法学)。
主な業績として、「近世大名の婚姻範囲」『法制史研究』50号 (2001)、「江戸幕府の婚姻政策 (一) (四・完)」『愛知学院大学論叢 法学研究』47巻3号 48巻2号 (2006 2007)、『近世名古屋享元絵巻の世界』(共著、清文堂出版、2007)、『法の流通』(共著、慈学社、2009)。
現在の関心は、江戸時代の大名階級の親族・相続法、特に法と実態とを対応させた研究。
浦上清 (うらかみ・きよし) 浦上アジア経営研究所代表、中国現代社会論・中国企業経営論
1946年生まれ。日立製作所社費留学生 (The London School of Economics and Political Science、1975 76)、一橋大学大学院法学研究科附属日本法国際研究教育センター客員教授 (2006 08)。
主な業績として、「中国労働契約法の意義を考える」『経営センサー』No.96 (2007)、『広がる東アジアの産業連携』(共著、九州大学出版会、2010)。
現在の関心は、中国市民社会と公共政策の研究および東アジアの産業連携の研究。
小沢奈々 (おざわ・なな) 日本学術振興会特別研究員RPD、日本近代法史・比較法史
1977年生まれ。修士 (法学)・LL.M (Bern)。
主な業績として、『法の流通』(共著、慈学社、2009)、Louis Adolphe Bridel-Ein schweizer Professor an der juristischen Fakultt der Tokyo Imperial University (Frankfult am Main 2010)、「「条理」解釈の法史」『法学政治学論究』88号 (2011)
現在の関心は、大正・昭和期における「条理」解釈の変遷、特にスイス民法との関連において。
鈴木明日見 (すずき・あすみ) 駒澤大学大学院研究生、西洋中世史
1983年生まれ。修士 (歴史学)。
主な業績として、「ランゴバルド諸法における未成年者の権利」『駒澤大学大学院史学論集』37号 (2007)、「ランゴバルド諸法・パヴィーアの書にみる法定年齢と未成年者の権利」『駒澤大学大学院史学論集』39号 (2009)、「ランゴバルド諸法における未成年者の財産譲渡」『関西大学史学論叢』13号 (2010)、コンスタンス・B・ブシャード監修『騎士道百科図鑑』(共訳、悠書館、2011)。
現在の関心は、ランゴバルド諸法における未成年者と家父長の関係の探求。
関良徳 (せき・よしのり) 信州大学教育学部准教授、法哲学
1971年生まれ。博士 (法学)。
主な業績として、『フーコーの権力論と自由論』(勁草書房、2001)、『現代法哲学講義』(共著、信山社、2009)、『近代法とその限界』(共著、御茶ノ水書房、2010)、「法教育と法批判」『法社会学75号 法の教育』(有斐閣、2011)。
現在の関心は、フーコーの権力論とポストモダン法理論、フェミニズム法理論、法批判教育。
田中佑季 (たなか・ゆき) 慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程、家族法
1984年生まれ。修士 (法学)。ソウル大学校法科大学博士課程留学 (2010 12)、同単位取得退学。
主な業績として、朱芝弘「韓国民法学における『法の継受と創造』に関する研究の現状と課題」『東アジア法研究の現状と将来』(共訳、国際書院、2009)、洪淳鎬「旧韓末における外国人法律・外務顧問の外交史的研究」『法学研究』82巻11号 (共訳、2009)。
現在の関心は、韓国家族法の変遷と法意識および現代的課題、特に養子制度に関して。
内藤淳 (ないとう・あつし) 一橋大学非常勤講師、法哲学
1968年生まれ。博士 (法学)。
主な業績として、『法と身体』(共著、国際書院、2005)、『自然主義の人権論』(勁草書房、2007)、『進化倫理学入門』(光文社、2009)。
現在の関心は、立憲的憲法の正当化、特に「人間本性」論の再構築に即して。
村上一博 (むらかみ・かずひろ) 明治大学法学部教授、日本近代法史
1956年生まれ。博士 (法学)。
主な業績として、『明治離婚裁判史論』(法律文化社、1994)、『日本近代婚姻法史論』(法律文化社、2003)、『日本近代法学の先達 岸本辰雄論文選集』(日本経済評論社、2008)、『史料で読む日本法史』(共編著、法律文化社、2009)。
現在の関心は、近代日本における法典論争論、公序良俗論、家族関係裁判、弁護士の役割など。
森田成満 (もりた・しげみつ) 星薬科大学名誉教授、中国法制史
1945年生まれ。修士 (法学)。
主な業績として、「清代刑法に於ける窃盗罪」『星薬科大学一般教育論集』13輯 (1995)、「清代の命盗事案に於ける法源と推論の仕組み」『星薬科大学一般教育論集』22輯 (2004)、『法と身体』(編著、国際書院、2005)、『清代中国土地法研究』(私家本、国会図書館蔵、2008)。
現在の関心は、清代民事訴訟の仕組みと性格の解明。
森村進 (もりむら・すすむ) 一橋大学大学院法学研究科教授、法哲学
1955年生まれ。博士 (法学)。
主な業績として、『権利と人格』(創文社、1989)、『財産権の理論』(弘文堂、1995)、『自由はどこまで可能か』(講談社、2001)、『リバタリアニズム読本』(勁草書房、2005)。
現在の関心は、リバタリアニズム的な法制度、および自由市場と道徳との関係。
*屋敷二郎 (やしき・じろう) 一橋大学大学院法学研究科教授、西洋法制史
1969年生まれ。博士 (法学)。ケルン大学近世私法史研究所客員研究員 (1995)、フンボルト財団給費研究員 (フンボルト大学、2006 07)。
主な業績として、『紀律と啓蒙』(ミネルヴァ書房、1999)、『ローマ法とヨーロッパ』(監訳、ミネルヴァ書房、2003)、『法と身体』(共著、国際書院、2005)、『法の流通』(共編著、慈学社、2009)。
現在の関心は、帝政期ドイツ夫婦財産法、特に実務手引書や素人法文献に映る法現実の探求。
山本直哉 (やまもと・なおや) 行政書士、民事法
1975年生まれ。修士 (法学)。清瀬市消費生活相談センター運営委員会委員 (2008)、清瀬市男女平等推進委員会委員 (2010)、行政書士制度60周年記念懸賞論文優秀賞 (2011)。
現在の関心は、日本の協議離婚における「子の最善の利益の法理」の今後の展開について。

まえがき

叢書刊行にあたって

法文化学会理事長 真田芳憲

世紀末の現在から20世紀紀全体を振り返ってみますと,世界が大きく変わりつつある,という印象を強く受けます。20世紀は,自律的で自己完結的な国家,主権を絶対視する西欧的国民国家主導の時代でした。列強は,それぞれ政治,経済の分野で勢力を競い合い,結局,自らの生存をかけて二度にわたる大規模な戦争をおこしました。法もまた,当然のように,それぞれの国で完全に完結した体系とみなされました。学問的にもそれを自明とする解釈学が主流で,法を歴史的,文化的に理解しようとする試みですら,その完結した体系に連なる,一国の法や法文化の歴史に限定されがちでした。

しかし,21世紀をむかえるいま,国民国家は国際社会という枠組みに強く拘束され,諸国家は協調と相互依存への道を歩んでいます。経済や政治のグローバル化とEUの成立は,その動きをさらに強めているようです。しかも,その一方で,ベルリンの壁とソ連の崩壊は,資本主義と社会主義という冷戦構造を解体し,その対立のなかで抑えこまれていた,民族紛争や宗教的対立を顕在化させることになりました。国家はもはや,民族と信仰の上にたって,内部対立を越える高い価値を体現するものではなくなりました。少なくとも,なくなりつつあります。むしろ,民族や信仰が国家の枠を越えた広いつながりをもち,文化や文明という概念に大きな意味を与え始めています。その動きを強く意識して,「文明の衝突」への危惧の念が語られたのもつい最近のことです。

いま,19・20世紀型国民国家の完結性と普遍性への信仰は大きく揺るぎ,その信仰と固く結びついた西欧中心主義的な歴史観は反省を迫られています。すべてが国民国家に流れ込むという立場,すべてを国民国家から理解するというこれまでの思考形態では,この現代と未来を捉えることはもはや不可能ではないでしょうか。21世紀を前にして,私たちは,政治的な国家という単位や枠組みでは捉え切れない,民族と宗教,文明と文化,地域と世界,そしてそれらの法・文化・経済的な交流と対立に視座を据えた研究に向かわなければなりません。

このことが,法システムとその認識形態である法観念に関しても適合することはいうまでもありません。国民国家的法システムと法観念を歴史的にも地域的にも相対化し,過去と現在と未来,欧米とアジアと日本,イスラム世界やアフリカなどの非欧米地域の法とそのあり方,諸地域や諸文化,諸文明の法と法観念の対立と交流を総合的に考察することは,21世紀の研究にとって不可欠の課題と思われます。この作業は,対象の広がりからみても,非常に大掛かりなものとならざるをえません。一人一人の研究者が個別的に試みるだけではとうてい十分ではないでしょう。問題関心を共有する人々が集い,多角的に議論,検討し,その成果を発表することが必要です。いま求められているのは,そのための場なのです。

そのような思いから,法を国家的実定法の狭い枠にとどめず,法文化という,地域や集団の歴史的過去や文化構造を含み込む概念を基軸とした研究交流の場として設立されたのが,法文化学会です。

私たちが目指している法文化研究の基礎視角は,一言でいえば,「法のクロノトポス(時空)」的研究です。それは,各時代・各地域の時空に視点を据えて,法文化の時間的,空間的個性に注目するものです。この時空的研究は,歴史的かつ比較的に行われますが,言葉や態度の表現や意味,交流や通信という情報的視点からのアプローチも重視します。また,この研究は,未来に開かれた現代という時空において展開される,たとえば環境問題や企業法務などの実務的分野が直面している先端的な法文化現象も考察と議論の対象とします。この意味において,法文化学会は,学術的であると同時に実務にとっても有益な,法文化の総合的研究を目的とします。

法文化学会は,この「法文化の総合的研究」の成果を,叢書『法文化―歴史・比較・情報』によって発信することにしました。これは,学会誌ですが学術雑誌ではなく,あくまで特定のテーマを主題とする研究書です。学会の共通テーマに関する成果を叢書のなかの一冊として発表していく,というのが本叢書の趣旨です。編者もまた,そのテーマごとに最もそれにふさわしい研究者に委ねることにしました。テーマは学会員から公募します。私たちは,このような形をとることによって,本叢書が21世紀の幕開けにふさわしいものになることを願い,かつ確信しております。

最後に,非常に厳しい出版事情のもとにありながら,このような企画に全面的に協力してくださることになった国際書院社長の石井彰氏にお礼を申し上げます。

1999年9月14日

索引

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