jfUNUレクチャー・シリーズ 6 持続可能性とリスクマネジメント 地球環境・防災を融合したアプローチ

武内和彦・佐土原聡編

生態系が持っている多機能性・ 回復力とともに、異常気象、東日本大震災・福島原発事故など災害リスクを踏まえ、グローバル経済の進展をも考慮しつつ自然共生社会の方向性を考える。(2012.12.20)

定価 (本体2,000円 + 税)

ISBN978-4-87791-240-6 C1036 203頁

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目次

まとめにかえて ――シンポジウム 持続可能性とリスクマネジメント』を聴いて ……武内和彦

著者紹介

鈴木邦雄
横浜国立大学学長
東北大学理学部卒業。1992年横浜国立大学経営学部教授、1999年同学部長、2001年同大学大学院環境情報研究院長を経て、2009年学長就任、現在に至る。また、自然環境復元学会会長、日本マングローブ学会会長、日本ユネスコ国内委員会委員等を兼務。
専門分野: 生態学、環境マネジメント
主な著書: 「マネジメントの生態学」(単著、共立出版)、「技術者・研究者にもよく分かるマネジメント入門」(共著、オプトロクス社)、「熱帯生態学」(共著、朝倉書店)、など
中畑孝雄
日本経済新聞社横浜支局長
青山学院大学法学部卒業。日本経済新聞社東京本社編集局流通経済部次長、日経BP社日経ビジネス副編集長、同編集局消費産業部次長件キャスター、同特別企画室担当部長、同編集局産業部編集委員を経て、平成23年4月より現職。
主な著書:
  • 『ヒットの経営学』(単著、日本経済新聞出版社)
  • 『新価格革命』『反攻する百貨店』『ドキュメントそごう解体』(共著、日本経済新聞社)
  • 『売れない時代に売る』(共著、日経BP社)など
武内和彦
1974年東京大学理学部地理学科卒業、1976年同大学院農学系研究科修士課程修了。東京都立大学助手、東京大学農学部助教授、同アジア生物資源環境研究センター教授を経て、1997年より同大学院農学生命科学研究科教授。2005年東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)副機構長、2008年より国際連合大学(UNU)副学長、2009年より同サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)所長を併任。2012年より東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)機構長。日本造園学会会長、中央環境審議会委員(自然環境部会長、循環型社会計画部会長)、食料・農業・農村政策審議会委員(会長代理、畜産部会長)などを兼任。
人と自然の望ましい関係の再構築を目指して、アジア・アフリカを主対象に研究教育活動を展開。最近では、持続型社会の構築を目指す俯瞰的な科学としての地球持続学(サステイナビリティ学)の世界的な拠点形成に向けて奔走している。また、日本の里地里山の再生を目指すとともに、伝統的な土地利用の再構築に向けた世界の多様な取り組みとの連携を目指すSATOYAMAイニシアティブにも深く関与している。
専門分野: 緑地環境学、地域生態学、地球持続学。
最近の著作: 「地球持続学のすすめ」(岩波ジュニア新書、2007年)、「サステイナビリティ学」(全5巻、共編著、東京大学出版会、2010・11年)など。
スリカンタ・ヘーラト
現在、国際連合大学サステイナビリティと平和研究所の大学院プログラム学術部長およびシニア学術審議官を併任。東京大学にて水文・水資源分野における博士号を取得した後、土木工学の専門家としてさまざまな環境問題に積極的に取り組む。スリランカでは土木・灌漑エンジニア、日本ではシニア研究エンジニア、東京大学准教授、外国人客員教授を歴任。研究においては、主にアジアの国々で水および災害リスク管理分野のプロジェクトを数多く実施。ヨーロッパ、オセアニアなどの地域でもさまざまな共同研究に携わる。現在は特に、アジア各国のトップ大学からなる気候・生態系変動に対する適応策研究のための大学ネットワーク(UN-CECAR)を通して、気候・生態系変動適応策のためのアジア共通となる教育および研究プログラムの開発に努めている。
著書: 「都市洪水対策に取り組むデルタ地帯」(2008年、Urban Water Francis and Taylor)、「気候変動 ― 主要不確定要素と明確な調査結果、そして、都市洪水のリスク評価について/Climate Change - Key Uncertainties and Robust Findings, and Urban Flood Risk Assessment」(2010年、Urban Flood management, Francis and Taylor)。さらに、気候変動への適応に関するシリーズ(vol.1-4; University Network on Climate and Ecosystems Change Adaptation Research, 2009–2010)、の編集など、150以上の著作がある。
佐々木淳
横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院教授
1991年東京大学工学部卒業、1993年に同大学院工学系研究科土木工学専攻修士課程修了。1996年同大学院社会基盤工学専攻博士課程修了(博士(工学))。東京大学大学院助教授、横浜国立大学大学院助教授、横浜国立大学大学院工学研究院システムの創生部門教授を経て、2011年より現職。
担当専攻: 都市イノベーション専攻、都市地域社会専攻
研究分野: 海岸工学、環境水工学
著書(いずれも共著): 「水環境ハンドブック」((社)日本水環境学会編/朝倉書店/2006)、「空から見る国土の変遷」(日本写真測量学会編/2002)、「東京の環境を考える」(神田順・佐藤宏之編/朝倉書店/2002)、「水理公式週 例題プログラム集」(土木学会編/2002)
松田裕之
横浜国立大学グローバルCOEプログラム「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」拠点リーダー、大学院環境情報研究院教授、日本生態学会会長
1980年京都大学理学部卒業、1985年に同大学院生物物理学専攻博士課程修了(理学博士)、1986年日本医科大学助手、1990年水産庁中央水産研究所主任研究官、1993年九州大学理学部助教授、1996年東京大学海洋研究所助教授を経て、2003年より現職、現在に至る。
専門分野: 専門は生態リスク学、数理生物学、水産資源学
主な訳書: 『つきあい方の科学』(HBJ出版局/ミネルヴァ書房)
著書: 『死の科学』(共著、光文社)、『「共生」とは何か』(現代書館)、『環境生態学序説』(共立出版)、『ゼロからわかる生態学』(共立出版)、『生態リスク学入門』(共立出版)、『なぜ生態系を守るのか』(NTT出版)など。
佐土原聡
横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院教授、地域実践教育センター長
早稲田大学理工学部卒業。早稲田大学理工学研究科建設工学専攻修了。工学博士。
横浜国立大学工学部助教授、同大学院工学研究科助教授・教授、同大学院環境情報研究院教授を経て、2011年4月より現職。東京大学空間情報科学研究センター客員教授を兼務。
研究分野: 都市環境工学、都市防災、地域エネルギーシステム、都市と生態系、地理情報システム
著書: 『時空間情報プラットフォーム ―環境情報の可視化と協働―』(編著、東大出版会)、『里山創生神奈川・横浜の挑戦』(編著、創森社)、『東日本大震災からの日本再生』(中央公論新社)、「ハザードマップ・災害・防災とGIS、生活・文化のためのGIS」(朝倉書店)、「建築・都市エネルギーシステムの新技術 ―地域冷暖房」(丸善)など。
有馬眞
横浜国立大学大学院環境情報研究院教授
北海道大学理学部卒業。北海道大学理学研究科修了。理学博士。
1981年、カナダのウェスターンオンタリオ大学地質学科講師、1986年横浜国立大学教育学部助教授、1994年同学部教授、1997年同大学教育人間科学部教授を経て、2001年より現職。
担当専攻: 環境生命学
研究分野: 固体地球科学、地球物質化学、大陸の形成と進化、物質循環、化学分化プロセス
著書: 『時空間情報プラットフォーム ―環境情報の可能化と協議』(東京大学出版会)、『生態系サービスと人類の将来 ―国連ミレニアム・エコシステム評価』(横浜国立大学21世紀COE翻訳委員会、オーム社)、『伊豆・小笠原弧の衝突: 海から生まれた神奈川』(共著/有隣堂)など。
小池文人
横浜国立大学大学院環境情報研究院教授
千葉大学理学部卒業。京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
島根大学理学部および生物資源科学部講師、1998年横浜国立大学環境科学研究センター助教授、2008年より現職、現在に至る。
担当専攻: 環境リスクマネジメント
研究分野: 生態特性による植物群集の組み立て規則、外来種の侵入リスク評価、動物の影響を含めて多様性を保全できる景観の設計
著書: 『生態系の暮らし方アジア視点の環境リスクマネジメント』(東海大学出版会)、『日本の外来哺乳類: 管理戦略と生態系保全』(東京大学出版会)、『里山創生~神奈川・横浜の挑戦~』(編著/創森社)など。
長谷部勇一
横浜国立大学大学院国際社会科学研究科長・教授
  • 1984年 一橋大学大学院経済学研究科博士課程単位修得。
  • 1984年 横浜国立大学経済学部助教授、
  • 1990年–91年 カリフォルニア州立大学バークレー校客員研究員(文部省在外研究)
  • 1992–93年 経済企画庁研究員
  • 1995年~ 同教授
  • 1999年~ 大学院国際社会科学研究科教授(兼任)
  • 2011年 大学院国際社会科学研究科長(2013年3月まで)
担当専攻: 比較経済システム、経済統計学(産業連関論)、経済統計学
研究分野: 東アジアの経済構造と環境(産業連関分析、国際分業、環境)、
神奈川県・横浜地域の産業連関分析地域産業連関
著書: 効率と公平の経済分析(共著: ミネルバ書房/2012)、現代の経済政策(共著: 第4版/有斐閣/2011)、時空間情報プラットフォーム環境情報の可視化と協働(共著: 東京大学出版会/2010、FORTRAN経済学(共著: 東洋経済新報社/1989)、マイコンによる経済学(青木書店/1983)
河原知德
神奈川県環境農政局水・緑部水源環境保全課長
小林正幸
横浜市環境創造局政策調整部長
嘉田良平
横浜国立大学大学院環境情報研究院教授(総合地球環境学研究所教授兼任)
京都大学農学部卒。米国ウイスコンシン大学で博士号を取得(農業経済学博士)。
1995年に京都大学教授、2001年に農林水産省政策研究調整官、2005年アミタ(株)持続可能経済研究所代表などを経て、2007年より現職、グローバルCOE「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」の研究に従事。また、内外の農村調査に従事し、中山間地域の環境修復にも取組む。
担当専攻: 環境リスクマネジメント
専門分野: 農政学、環境経済学。
著書: 「兼業農家の国際比較」(学会出版センター/日本農業経済学会賞受賞)、「里山創生~神奈川・横浜の挑戦~」(共著/創森社)、「里山復権~能登からの発信~」(編著/創森社)、「食品の安全性を考える」(日本放送出版協会)、「環境保全と持続的農業」(家の光協会/第7回NIRA政策研究東畑精一記念賞受賞)など。

まえがき

はしがき

本書は、2011年11月26日に、国連大学、横浜国立大学および(公財)国連大学協力会の共催によって、横浜国立大学の教育文化ホールにおいておこなわれたシンポジウム『持続可能性とリスクマネジメント――地球環境・防災を融合したアプローチ』の記録です。

2011年3月11日、東日本大震災では、巨大津波災害によって沿岸の都市・地域や多くの施設が甚大な被害を受けました。生物多様性喪失による生態系機能の低下により、こうした地震災害に対する脆弱性や、気候変動に伴う異常気象の顕在化による災害リスクの増大など、数々の憂慮される点が指摘されています。このような地球環境問題の深刻化する中、本シンポジウムでは、<環境・防災をトータルに考えたこれからの持続可能なリスクマネジメント>をテーマとして取り上げ、この地球規模課題解決への視点を探ろうという試みのもとに開かれることとなりました。

災害リスクの高まりを十分踏まえ、これまでの「リスクを抑え込む考え方」から、リスクをある程度許容し環境と防災を融合したアプローチをおこなうことによって、「リスクと共存する考え方」へとパラダイムをシフトするとともに、人口減少・超高齢化、グローバル経済の進展をも考慮しつつ、生態系が持っている多機能性や回復力を生かすリスクマネジメントの方向性と課題について考えました。

本シンポジウムでは、基調講演・基調報告、そして特別講演において基本的な考え方を提示した上で、生態系の荒廃が進み、200年に一度の大地震が予測される神奈川流域圏での具体例を取り上げて、その実体と現在実施されている先駆的取り組みに迫りました。また、当日のパネル・ディスカッションでは、横浜国立大学で開発した双方向ハイビジョン遠隔教育システム(Interactive Multimedia Education System)を使って、横浜国立大学「グローバルCOEプログラム『アジア視点の国際生態リスクマネジメント』」および「リスク共生型環境再生リーダー育成プログラム」の協力校であるマレーシアやフィリピンの大学と中継を結び、国際的視野からの議論も深めました。

本書が、地球科学、生態学、経済学などの多角的観点から最新の問題および対応策を提起し、研究者、行政、企業、一般市民のいずれの立場の方々にも分かりやすい話題を提供し、近い将来起こりうる予測し難い未知の災害に対するレジリエントな対応についての再考の一助となることを祈念します。

なお、第1部基調講演のスリカーンタ・ヘーラト博士の講演は英語でなされたものであり、その翻訳は、小川尚子さん((公財)国連大学協力会)が担当し、専門的立場からスピーカーの一人である佐土原聡教授(横浜国立大学)が翻訳の校閲をおこないました。

また、本書の出版に当たっては、(公財)国連大学協力会の森茜事務局長および(株)国際書院の石井彰社長に大変ご尽力をいただきました。心より感謝いたします。

編者 武内和彦

佐土原聡

あとがき

まとめにかえて

――シンポジウム「持続可能性とリスクマネジメント」を聴いて

武内和彦

武内でございます。本来ならば、国連大学協力会の吉川先生がここで皆様にご挨拶をする予定でしたが、ご承知のように、いま吉川先生は、震災復興における科学技術の役割について、いろいろなところで重要な発言をしておられます。今日も、その関係で日本学術会議の方に行っておられまして、このシンポジウムに参加できませんでした。大変残念ですが、吉川先生が皆様にくれぐれも宜しくと言っておられましたので、そのことをまず皆さまにお伝えしたいと思います。

私は、横浜国大の鈴木学長とは学生時代からずっとお付き合いをさせていただいております。このシンポジウムは、鈴木学長に私がお会いした時に、これからは国連大学と一緒にいろいろな企画を進めたいということで始まったものです。こうしたシンポジウム以外にも、横浜にあります国連大学高等研究所で、生物多様性についてのガバナンスに関する新しい大学院プログラムが始まりましたので、その面でも、今後、連携をしていければよいと考えております。

また、国連大学本部にありますサステイナビリティと平和研究所は、まさにサステイナビリティの追求を通した平和構築を目指そうとしております。今日、講演をいたしましたスリカーンタ・へーラトには、気候・生態系変動適応科学に関する大学間ネットワーク(UN-CECAR)を担当してもらっています。お陰様で、アジアではよく知られた大学院プログラムになりました。今現在も、各地でこのプログラムを実際に運用しておりまして、先日も茨城大学に大変お世話になり、UN-CECARの会議を開催していただいたところです。

そうした試みの最中に、今回の大震災があったわけですが、改めて私たちは、長期的なリスク管理と、短期的な激甚災害をどう関連づけながら、レジリエントな社会作りを考えていくかという課題に直面していると思います。私たちの社会は、それぞれの地域では一つですから、この問題はこの問題、その問題はその問題と分けて考えるよりも、問題の性格が違うということは十分認識しつつも、長期的・短期的両面のリスク管理を考えた方が有効ではないか。特に、震災復興を考えると、膨大なお金がかかるわけで、その際に震災復興だけのためにお金を使うのではなく、むしろ、震災復興を契機に持続可能な社会を実現する方向に使っていくことがより望ましいのではないか。これは、かなり多くの人が考え始めていることではないかと思います。

先日、丸の内で企業の人たちを対象に開催しているセミナーで、震災復興に貢献され、また、日本学術会議の会長になられた大西隆先生にお話を聴くことができました。大西先生も同じことを言っておられました。さらに、被災地での高齢化の進行、産業の担い手の減少を考えると、産業社会のあり方を含む新しい社会作りに、震災復興のお金を使っていく必要があると主張しておられます。大西先生自身は、「復興街づくり会社」という、最初は復興のための費用を投入して、しかし、後には地域社会の中で自立していくような会社を作るべきだと提唱されています。これは、私は「新しいコモンズ」と呼んでいますが、異なる主体が一つの地域を作り上げることに繋がると考えています。

今日は、経済学の先生からも「今の社会がただお金の問題だけで考えると辻褄が合っているように見えるが、フットプリントから考えるととんでもない構造になっている」という話がありましたが、やはり、今は、大きくこれからの社会を見直していく大事な時期にきていると思います。それを具体的に考えるためには、何よりも学際的なアプローチが重要だと思います。自然科学と社会科学の融合という話がありましたが、文化や自然の多様性を考えると、やはり人文科学の役割が大きいと思います。そのような新しい学融合に向けての取り組みを前提に、生態系のリスク管理を考えていけばよいのではないかと思います。

私は松田先生のグローバルCOEのアドバイザーも任ぜられておりますので、その点も併せてお話をさせていただいたつもりです。今日は、最初から最後まで大変有意義な話ができて良かったと思います。これからも、横浜国立大学と国連大学が、いっしょに仕事ができれば良いと思っていますので、引き続きよろしくお願いいたします。本日はどうもありがとうございました。

索引

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