本書は、2012年2月16日に、国連大学、東北大学および(公財)国連大学協力会の共催によって、東北大学の片平さくらホールにおいておこなわれたシンポジウム『グローバルセミナー東北震災復興と生態適応~国連生物多様性の10年とRIO+20に向けて~』の記録です。
2011年3月11日に発生した東日本大震災により甚大な被害を受けた地域の復興は、国際的な関心事となっています。津波から人命を守る防潮堤の早期復元、インフラの整備、復興住宅の建設など、街づくり計画が急ピッチで進められていますが、そこに住む人々の願いは「営みの復興」にあります。世界有数の漁場および農地を保有する東北地域の豊かさは生物多様性により支えられてきました。その回復を促すことが、より確かで持続可能な復興に欠かせません。またこれらの自然の恩恵による歴史的、文化的価値は大きく、この地域の人々の暮らしと街づくりの根幹となっていました。
そこで本シンポジウムでは、まず初めに基調講演者としてスウェーデンを環境先進国へと導いた立役者の一人であるトルビョーン・ラーティ氏を招いて、持続可能な復興の原則についてお話しいただきました。ラーティ氏は、ご自身が中心となって取り組んだスウェーデンや他の国々におけるエコ自治体運動について詳しく紹介し、その実践経験からこの運動を推進するためのコンセプトを述べた上で、東北地方の将来展望について言及されました。
続く課題提起では、岩手大学の藤井克己学長、東北大学大学院の今村文彦教授、国連大学の武内和彦副学長よりそれぞれの専門の立場から、被災状況を細かく分析しつつ、従来のシステムを見直した上で社会の多様性を活かした仕組みづくりや新たな視点による津波対策と街づくり、里山里海の再生を通じて自然共生社会と結び付いた震災復興のあり方などが提案されました。
さらに第3部のパネルディスカッションでは行政の方の参加も交え、復興へ向けた取り組みの進捗状況や今後の施策が報告されたほか、コミュニティを主体とした地域資源経営や歴史文化をめぐる多様性の危機など多角的な観点から震災復興と生態適応というテーマに考察を加えています。
震災から復興への道程は長期にわたり粘り強い支援と多くの関係者の英知が必要とされます。本書が、都市計画、防災、土木建築、産業復興にかかわる企業や学術関係者をはじめ自治体、NPO/NGO、一般市民の皆様へ分かりやすい話題を提供し、復興に向けた提言の一助となることを願ってやみません。
本書の出版にあたっては、(公財)国連大学協力会の森茜事務局長および(株)国際書院の石井彰社長に大変ご尽力をいただきました。心より感謝いたします。
編者 武内和彦
中静透
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