本書は、2011年11月4日、ソウル市立大学にて開催された国際シンポジウム「韓中日国際学術大会―東アジアの新エネルギー政策―」で報告された論文をまとめたものである。このシンポジウムは「ソウル市立大学付設租税財政研究所」の主催により実施された。シンポジウムには、日本から「財団法人東京市政調査会」、中国から「復旦大学日本研究所センター」の研究者がそれぞれ参加、報告を行った。
日中韓シンポジウムの開催はこれで6度目を数える。シンポジウム開催後の2012年4月、東京市政調査会は「公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所」に名称を変更した。
後藤・安田記念東京都市研究所は、2006年、上記のふたつの研究所と研究提携を結び、2006年上海、2007年東京、2008年ソウル、2009年上海、2010年東京でシンポジウムを開催してきた。その研究成果として、『東アジア大都市のグローバル化と二極分化』(2006年)、『膨張する東アジア大都市 ―その成長と管理―』(2007年)、『東アジアにおける公営企業改革』(2008年)、『東アジアにおける大都市における環境政策』(2009年)、『東アジアにおける都市の貧困』(2010年)、『東アジアにおける都市の高齢化問題』(2011年)を、いずれも国際書院より出版してきた。
(旧)東京市政調査会は、1922年2月、当時の東京市長後藤新平を創立者として設立された研究所である。中正独立の調査機関設置を構想していた後藤は、当時のニューヨーク市政調査会(New York Bureau of Municipal Research)をモデルとした提案を行った。これに安田銀行(現在のみずほ銀行)の創立者である安田善次郎氏が賛同、350万円もの資金を寄付し、市政会館と日比谷公会堂が建てられた。現在、日比谷公会堂は東京都が管理しているが、市政会館は後藤・安田記念東京都市研究所が管理運営し、これを財政的な基盤としている。以来、同研究所は財政的な独立を保ち、独立自主の研究活動を展開してきた。1925年より毎月『都市問題』を発行し続け(戦争により一時中断)、現在に至っている。2009年に『都市問題』は第100巻を迎え、その記念として、『雑誌「都市問題」にみる都市問題』を戦後編と戦前編それぞれ岩波書店より出版した。
後藤新平が範を求めたのは米国であった。近年では、韓国、中国等のアジア諸国が急速な発展を遂げ、様々な場面で、域内の交流も増えてきた。類似した課題も多い。そこで、後藤・安田記念東京都市研究所では欧米諸国とともに東アジアにおける研究者や研究機関との交流を深めるとともに、ソウル市立大学租税財政研究所、中国復旦大学日本研究センターと、毎年、域内での共通した課題を取り上げ、相互の共通した課題を議論することとしている。今回のシンポジウムは、東日本大震災を受け、新エネルギー問題を共通テーマとして取り上げることとなった。しかし、本書に掲載された各論考から察せられるとおり、東アジア3か国の研究者の間には、関心のずれが少なからずあった。日本の研究者は原発問題に強く関心を持つ一方、韓国は温暖化防止の観点から論じ、中国は産業化とそれにともなう環境問題に焦点を当てた。これらは、シンポジウムに参加した研究者の個人的な関心を反映したものではあるが、同時に、各国の社会全体の動きもまた反映していたように思われる。
私事になるが、2012年3月、後藤・安田記念東京都市研究所を辞することとなった。それから既に1年が経つ。西尾勝理事長、新藤宗幸研究担当常務理事のご指導を頂いた約7年間の月日は、筆者にとって途方もなく貴重なものであったと日を追うごとに強く感じられる。また、同研究所は若手の研究者が自由に研究活動をすることができる。このような存在は日本には稀有であり、創設者後藤新平氏の先見の明に感服せざるを得ない。しかし、筆者のごとく未熟な者はいまだその偉大さを十分に理解できていないに違いない。
2013年3月25日
五石敬路
Copyright © KOKUSAI SHOIN CO., LTD. All Rights Reserved.