1967年外務省入省、アジア局審議官、経済協力局長、総理府国際平和協力(PKO)本部事務局長等を歴任。フランス、インド、オーストラリア、アメリカ等の大使館勤務。
本書は、2012年11月22日に、国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU ISP)と(公財)国連大学協力会の共催によっておこなわれた「ジュニア・フェロー・シンポジウム2012『環境と平和~より包括的なサステイナビリティを目指して~』」の記録を書物の形にまとめたものです。
ジュニア・フェロー・シンポジウムは、国連大学の大学院ならびに人材育成コースの修了生(約1,700人)に対し、地球的課題に関する新知識の取得の機会を提供するとともに、彼らに情報交流の場を提供するために、国連大学と国連大学協力会が2006年より実施してきたプログラムです。2007年からは、基調講演およびパネル・ディスカッションを公開シンポジウムとして広く一般の方々にも提供する形で実施してきました。さらに、2010年からは国連大学に開設された大学院の在学生も参加し、国連大学の修了生ならびに現役大学院学生のネットワークの構築にも役立っています。
2012年のシンポジウムでは、「環境と平和~より包括的なサステイナビリティを目指して~」と題し、従来、ともすると分離された形で議論されがちだった「環境・開発」と「平和」を、“サステイナビリティ”の観点から統合的に捉えることによって、人類と地球環境の持続性を総合的に探求することを主題としました。
このシンポジウムで、私たちは、“サステイナビリティ”という考え方によって、現在、地球上に存在する重大な問題をどのように解決できるかを検討しました。東日本大震災という未曾有の自然災害とそれがもたらした原子力発電所の事故は、こうした考え方を適用するに値する大きな問題であると考えられます。すなわち、自然災害や原子力発電所事故からの復興プロセスにおいては、持続可能な開発を通じて平和な社会を構築するという考え方が欠かせません。
また、こうした考え方は、開発途上国をはじめ、世界各地・各国においても大変重要なことであることは言うまでもありません。私は2012年6月、通称Rio+20と呼ばれる国連環境開発会議に出席しましたが、そこでは、持続可能な開発や貧困削減の文脈におけるグリーン経済が討議されました。討議には、各国政府や国連機関にとどまらず、NGO、マイノリティグループなどさまざまなステークホルダーが参加し、一定の成果をあげることができました。国連大学では、さまざまなステークホルダーがパートナーシップを形成し、地球的課題の解決に向けて貢献できるような取り組みへの支援を今後とも続けていきたいと考えています。
その点で、本書に収められたシンポジウムの内容は、非常に有意義だと思います。基調講演者に大島賢三氏を迎えましたが、大島氏は、2012年9月~2014年9月まで原子力規制委員会委員を務められ、元国連事務次長・元JICA副理事長・元オーストラリア特命全権大使等のハイレベルのご経験を有する方です。大島氏には、地球温暖化などの影響により、近年、多発化と激甚化が予測される自然災害を取り上げながら、それらと国連を中心とするさまざまな国際的な取り組み、国際協力の現状について考察を進めるとともに、災害発生直後の緊急時の救助・救援活動についての制度や仕組み、原則やルール、その問題点や課題、さらに緊急時を脱した後の復旧・復興に向けての活動、災害リスクを軽減するための防災・減災などの関連事項について、国際的視点に立って講演をおこなっていただきました。併せて、自然災害が原発事故を誘発した福島原発事故について、多くの教訓が得られることを論じていただきました。
続くショートスピーチでは、星野俊也大阪大学国際公共政策研究科長が「未来共生」という観点からの報告をおこないました。そこでは、未来志向で人々が互いの文化的・社会的な多様性を尊重し合い、国家間においても相互の利害を調整し合い、より良い共生社会を築いていくという新たな視点が、サステイナブルな形での平和構築にとって重要であるとの問題提起がなされました。
また、ヴェセリン・ポポフスキー国連大学サステイナビリティと平和研究所上級学術官は、「環境と平和」や「環境と紛争」は緊密な関係性を有するものであり、環境の安全保障は国連の懸念事項の一つとなり、同時に、平和維持活動の一部となっていることを指摘しました。
さらに私は、「環境」と「平和」はいずれも国連が担う地球的課題であると述べ、国連大学の戦略計画では、自然科学中心の「環境と持続可能な開発」、社会科学中心の「平和とガバナンス」の二つのプログラムを統合し、サステイナビリティと平和をテーマに文理融合の立場から世界のサステイナビリティ学を先導しようとしていると述べました。
第3部のパネル・ディスカッションでは、基調講演とショートスピーチで提起された課題をベースに、ODAの果たすべき役割、文化的な多様性維持のためのグローバルな視点とローカルな視点の整合性、復興へ向けた取り組みの進捗状況や今後の施策が報告されたほか、コミュニティを主体とした地域資源経営や、歴史文化をめぐる多様性の危機など多角的な観点から環境と平和というテーマが論じられました。
東日本大震災からの復興、とりわけ自然災害を契機とした原子力発電所事故からの復興には、長い道のりを要すると考えられ、それを支える長期にわたり粘り強い支援と多くの関係者の英知が必要とされます。
本書が、都市計画、防災、土木建築、産業復興、および人間の安全保障に関わる学術関係者をはじめ自治体、企業、NPO/NGO、一般市民の皆様へ分かりやすい話題を提供し、復興と防災に向けた提言の一助となることを願って止みません。
最後に、本書の出版に当たっては、(公財)国連大学協力会の森茜常務理事兼事務局長および(株)国際書院の石井彰社長に大変ご尽力をいただきました。心より感謝いたします。
編者
国連大学上級副学長 武内和彦
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