国際機構論[総合編]

渡部茂己・望月康恵 編著

国際機構の多様性と多面性を知る「総合編」、「活動編」、「資料編」の3冊本の第1弾。「総合編」としての本書は、歴史的形成と発展、国際機構と国家の関係、国際機構の内部構成、国際機構の使命など第一線で活躍している専門家が詳説。(2015.10.10)

定価 (本体2,800円 + 税)

ISBN978-4-87791-271-0 C1032 311頁

ちょっと立ち読み→ 目次 著者紹介 まえがき あとがき 索引

注文する Amazon セブンネットショッピング

目次

著者紹介

執筆者紹介(執筆順、*は編者)

横田洋三(よこた・ようぞう)
法務省特別顧問。元中央大学・東京大学教授、ILO専門家委員会委員長。(はしがき・第1章・展望)
秋月弘子(あきづき・ひろこ)
亜細亜大学国際関係学部教授。元国連開発計画(UNDP) プログラム・オフィサー、コロンビア大学客員研究員。 (第2章)
則武輝幸(のりたけ・てるゆき)
帝京大学法学部教授。(第3章・第8章)
富田麻理(とみた・まり)
西南学院大学法学部准教授。元在ジュネーブ国際機関日本政府代表部専門調査員。(第4章)
吉村祥子(よしむら・さちこ)
関西学院大学国際学部教授。元広島修道大学教授、オックスフォード大学客員研究員。(第5章)
*望月康恵(もちづき・やすえ)
関西学院大学法学部教授。元国連大学プログラム・アソシエイト、コロンビア大学客員研究員。(第6章)
*渡部茂己(わたなべ・しげみ)
常磐大学国際学部教授、副学長。日本国連学会理事、事務局長。(第7章)
広瀬訓(ひろせ・さとし)
長崎大学核兵器廃絶研究センター教授。元ジュネーブ軍縮会議日本政府代表部専門調査員、UNDPプログラム・オフィサー。(第9章)
滝澤美佐子(たきざわ・みさこ)
桜美林大学リベラルアーツ学群教授。元一橋大学・ロンドンスクールオブエコノミクス客員研究員。(第10章)
山村恒雄(やまむら・つねお)
元宮崎国際大学助教授。(第11章)
本多美樹(ほんだ・みき)
早稲田大学社会科学総合学術院准教授。(第12章)
阿曽村智子(あそむら・ともこ)
学習院女子大学非常勤講師、元国連教育科学文化機

まえがき

はしがき

本書は、国際連合(国連)をはじめとする国際機構の概説書である。最近は、国連はもとより、国連教育科学文化機関(ユネスコ)、国際労働機関(ILO)、世界保健機関(WHO)などの国際機構に関する報道に接することが珍しくない。また大学においても、国際機構論や国際組織法などの授業科目が開講され、受講する学生もかなりの数にのぼる。学生や社会人の中には、新聞やテレビで報道される国際機構について、その組織や活動を詳しく知りたいと思う人も少なくないだろう。人によっては、将来国連等の国際機構で働き、平和、開発、人権、環境、教育、保健などの分野で国際社会に役立つ仕事に従事したいという希望をもって、国際機構のことをもっとよく知りたいと思っている人もいるに違いない。

このような事情を反映してか、国際機構に関する一般概説書に対する需要が根強くある。しかし現在のところ、適切な概説書は書店や図書館で見つけにくい。理由の1つには、今日の国際機構の実態が多様かつ多面的であるため、そのすべてに精通している研究者が現実にほとんど存在しないという事情がある。つまり、今日存在する国際機構は、国連とその関連機関に限ってみても20以上あり、その活動分野は安全保障から経済、人権、環境、保健、文化、交通通信と広範である、それらを幅広く扱う概説書を1人で執筆するということは至難の業である。実際、これまで出版された国際機構論の書物の多くは、国際機構論とは言っても主に国連など特定の国際機構に焦点をあてたものか、それとも平和維持、経済、環境、人権などの特定の分野において活動する国際機構に関する専門研究書がほとんどで、概説書としては必ずしも一般の要望に応える内容になっていない。

また、変転する国際社会の状況に対応して、そこで活動する国際機構のあり方も日々変化しており、一度書いた国際機構に関する説明が数年もすると古くなり使い勝手が悪くなるということも、手ごろな一般概説書が見つけにくい理由の1つにあげられる。国際機構の一般概説書の草分けの1つである1992年に国際書院から出版された横田洋三編著『国際機構論』は、時代の変化に対応して版を重ねるごとに修正を加え、さらに1998年には補訂版、2001年には全面的に内容を改めた『新版国際機構論』を刊行した。同書は2005年に再び全体を書き改めて『新国際機構論』として刊行し、翌06年には読者の便宜を考慮して同書を上下2巻の分冊とした。それからすでに10年近くが経過し、また内容を大幅に書き換えなければならなくなってきている。

本書は、以上のような事情を背景に、従来の国際機構の一般概説書にはない大胆な構想のもとで編集・出版されることになった。

すなわち、現存の国際機構の多様性と多面性、そして近年の大きな変容を念頭に、「総合編」、「活動編」、「資料編」の3冊本とすることにした。本書はその最初の総合編であり、活動編と資料編も今後順次刊行されることになっている。また執筆は、各専門分野において第一線で活躍している専門家10数名が分担している。

総合編と銘打つ本書は、多くの国際機構に共通する主要な側面、とくに歴史的形成と発展、国際機構と国家の関係、国際機構の内部構造、国際機構の使命などについて詳しく解説している。この部分の記述は、比較的長期にわたってそのまま使用できる国際機構の歴史的、理論的考察が中心を占める。したがって、改定の必要は5年ないし10年の単位で考えることで十分であろう。

しかし、続いて刊行される予定の活動編は、安全保障、軍縮、人権、国際協力、経済、環境、文化、交通通信などの各分野において活動する国際機構を取り上げるが、こちらの方は、時の経過とともに活動内容等に変化の生ずる度合が大きく、刊行後も数年ごとに内容をアップデイトする必要にせまられることになると思われる。

さらに並行して刊行される予定の資料編は、国際機構の設立基本文書や連携協定・本部協定のような国際機構締結条約、さらには職員規則や議事手続規則のような内部組織や手続きに関する文書を幅広く収録する。こちらは、収録された文書の改正や廃止等に対応して随時アップデイトすることになるだろう。

今回の国際機構論の一般概説書刊行の企画は、以上に述べた3冊で完結するものであるが、それらはそれぞれ独立の刊行物でもあり、1冊1冊が1つのまとまった書物として活用できるよう配慮している。たとえば、総合編と活動編はそれぞれ独立に、たとえば大学の国際機構論の講義などにおいて、2単位の授業で教科書として使用できる内容になっている。また、資料編は、総合編や活動編を使う過程で参照することを目的としているが、同時に、すでに国際機構の基本知識をもっている人が国際機構に関する具体的な資料を手にしたいと考えるときに、法律学における六法全書のように使うことも想定している。

本書とそれに続く2冊の書物が、国際機構に関心のある人々の知的関心に応え、また将来国際機構の職員などとして活躍しようと考えている人たちにとって役に立つ情報を提供することができることを心より願っている。またさらに、これらの書物を読むことを契機に、国際機構に関するより深い研究を志す人が1人でも多く出てくるとすれば、それは望外の喜びである。

なお、本書の刊行にあたっては、国際書院の石井彰社長に大変お世話になった。深く感謝申し上げる。

2015年9月1日

執筆者一同に代わって

横田洋三

あとがき

展望

本書全体を通して、今日の国際社会が、20世紀前半までの「中央の集権的支配権力が存在せず、単に主権国家が併存するだけの社会」から、「主権国家が依然として主役であることに変わりはないが、その中で複数の国家が条約を通してつくった国際機構が、国家に対して一定の規律を及ぼしたり国家に代わって一定の役割を果たすような〈国家=国際機構〉共存社会」へと大きく変容してきたことを説明してきた。この流れを念頭に置くと、国際社会の将来についてはいくつかのシナリオを描くことが可能である。

1つは、国際機構がさらに権限を強化し、国家は次第に主権が制限されて、相対的に国際機構に従属する方向に向かうというシナリオである。その動きが進むと、一部の政治思想家が夢見た世界政府の樹立が現実のものとなるだろう。国際機構を国家連合の一形態とみたり(国家連合説)、機能的統合体とみたり(機能的統合説)する立場は、現在の〈国家=国際機構〉共存社会を、そのようなシナリオの途上にあるものと理解しているように思われる。

しかし、現存の国際機構は、統合化がもっとも進んでいる欧州連合(EU)でさえ、実際には加盟国の主権を部分的にしろEUに移譲した状況とみることは難しい。国連をはじめほとんどの国際機構は、ごく一部の主権の行使について一定の制約を加えるという範囲で国家に規律を及ぼしているのであって、主権が部分的にせよ国際機構に移譲されていると考えられる状況は生まれていない。EUの場合には、遠い将来、統合化が進展し、「欧州連邦」(United States of Europe)という複合国家が成立する可能性を否定することはできないが、その場合であっても、それは1つの巨大な主権国家(super-State)が誕生したことを意味するものであって、世界全体を包摂する世界政府の実現とはいえないであろう。

今1つのシナリオは、主権国家が国際機構の行使する影響力に嫌気がさして、国際機構の権限を極度に制限したり、脱退したり、場合によっては国際機構を消滅させ、古い〈主権国家が併存する社会〉に回帰するというシナリオである。たしかに、一部の国の中には、国連を含むいくつかの国際機構に対して批判や不満を表明し、実際に脱退したり、脱退をほのめかしたりする場合がこれまでにも少なからずあった。しかし、脱退した国についてものちに復帰したりしているのであって、一部の国際機構とは関係を疎遠にしても脱退にまでは至らなかったりして、どの国際機構にも加盟せず、完全に孤高の立場を維持している国は現在どこにも存在していない。相互依存が定着し、グローバル化が進んだ現在の国際社会においては、どの国もいずれかの国際機構を通して、1国では対応することが難しい課題について、取組みを進めているのである。とくに国連やその専門機関、関連機関は、世界の国のほとんどを加盟国として内部に取り込み、加盟国はそうした普遍的国際機構を通して国家の利益を実現しようとしているのである。そうだとすると、将来、国際機構が役割を終えて、主権国家が併存する国際社会に回帰するというシナリオも、現実性はまったくないといえる。

こう考えていくと、当面唯一の現実的な国際社会の将来像は、現在の〈国家=国際機構〉共存の状態がほぼ長期的に展望されると結論づけられるであろう。その中で、一部の国際機構は、EUのように権限を強めて次第に国家連合や機能的統合体に向かうものも出てくるだろうし、また世界銀行のように、依然として社団法人の性格をもちつつ一定の役割を果たす国際機構も存続しつづけるに違いない。また、現在は存在しない新しい国際機構が生まれる可能性も否定できないし、他方で役割を終えて解散する国際機構もあるだろう。この先の国際社会を長期的に展望するならば、現在の「主権国家が依然として中心ではあるが、そのなかで国際機構が確固とした地位を確立して一定の役割を果たす状況が当面続く」とみるのがもっとも確実性の高い見通しである。

以上の展望に立つならば、これからの国際関係は、依然として国家間関係が重要であることに変わりはないが、同時に多種多様な国際機構の存在と役割も無視できないのであって、領土問題、安全保障、自国民の保護、人権保障、資源確保、経済的利益の実現、環境保全などに関して1国の国家利益を追求する場合も、国家間関係のみで処理するのではなく、国際機構の場を使い、また国際機構を通して、働きかけていく道を模索する必要がある。そしてそのためには、国際機構をよく知り、また国際機構の場で活躍できる人材を育成して、二国間外交だけではなく、多国間外交を通して、自国の立場を主張し、自国の利益を実現するように努めなければならない。また、国際機構のみならず、そこで活動するNGOや専門家の存在にも目を向け、それらの非国家行為主体(non-State actors)とも、国際機構の場で、あるいは国際機構を通して、協力し連携することを視野に入れることも重要である。

索引

欧文索引

株式会社 国際書院
〒113-0033 東京都文京区本郷3-32-6-1001
Tel: 03-5684-5803
Fax: 03-5684-2610
E-mail: kokusai@aa.bcom.ne.jp