ミレニアム・チャレンジの修辞学: UN-MDGs-EU

大隈宏

現在進行中のSDGs(持続可能な開発目標)の前提としてのMDGs(ミレニア開発目標)における「人間開発」という人類の包括的核心をなす作業をEUの積極的関わりを通して追求した本書は人類に大きな示唆を与える。(2017.3.10)

定価 (本体6,400円 + 税)

ISBN978-4-87791-281-9 C3031 488頁

ちょっと立ち読み→ 目次 著者紹介 まえがき 索引

注文する Amazon

目次

著者紹介

大隈宏(OKUMA Hiroshi)

成城大学社会イノベーション学部教授。専門は国際関係論、国際政治経済論、EU政

治論。主な論文として、「スーパー・オブザーバーへの軌跡」(2014年)、「EUとミレ

ニアム開発目標」(2012年)、「EU開発協力政策とPCDアジェンダ」(2011年)など

がある。

まえがき

まえがき

2016年1月1日、国連広報センターは、「持続可能な開発目標、2016年1月1日に発効」と題するプレスリリースにおいて、次のように「持続可能な開発目標」の基本的特徴、歴史的経緯、今後の行程を概観した。――2016年1月1日、「持続可能な開発目標」(SDGs)が正式に発効します。SDGsは、世界のリーダーが2015年9月の歴史的な国連サミットで採択した持続可能な開発のための2030アジェンダに盛り込まれた17の目標です。すべての国々に普遍的に適用されるこれら新たな目標に基づき、各国は今後15年間、誰も置き去りにしないことを確保しながら、あらゆる形態の貧困に終止符を打ち、不平等と闘い、気候変動に対処するための取り組みを進めることになります。SDGsは、ミレニアム開発目標(MDGs)の成果を土台としながら、あらゆる形態の貧困に終止符を打つための取り組みを更に進めることをねらいとしています。SDGsの特徴として、貧しい国、豊かな国、中所得国を含むすべての国々に対し、豊かさを追求しながら、地球を守るための行動を求めているという点があげられます。貧困に終止符を打つためには、経済成長を推進する一方で、教育や健康、社会的保護、雇用機会といった幅広い社会的なニーズに取り組みつつ、気候変動対策や環境保護を図る戦略が必要だという認識があるからです。SDGsに法的拘束力はありませんが、各国政府は17の目標の達成に当事者意識を持って取り組むとともに、そのための国内的枠組を確立することが期待されています。SDGsの達成に向けた進捗状況のフォローアップと検証をおこなう主たる責任は各国にありますが、そのためには良質でアクセス可能、かつ適時のデータ収集が必要となります。国内レベルの分析に基づきおこなわれる地域的なフォローアップと検証は、グローバル・レベルでのフォローアップと検証に貢献します。グローバル・レベルでは、一連のグローバル指標を用いて17のSDGsと169のターゲットの監視をおこないますが、これら指標は現在、(国連)統計委員会が策定中であり、2016年3月の同委員会第47会期で合意される予定です。2016年7月からは、経済社会理事会のもとで「持続可能な開発に関する国連ハイレベル政治フォーラム」が会合を開き、グローバル・レベルでのSDGs実施のフォローアップと検証を監督します。

2016年4月16日、IMF/世界銀行合同開発委員会は、コミュニケを採択し、持続可能な開発目標の実現に向けた開発資金調達の重要性を次のように謳った。――2016年、われわれは、2030開発アジェンダでコミットした困難なプログラムを本格的に実施するという課題に取り組み始める。IMF、国際開発金融機関(MDBs)、国連およびWBGは連携して、それぞれの比較優位に基づき、成長が鈍化している環境や民間資金フローの減少に対応しつつ、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた途上国の取り組みを支援すべきである。われわれは、持続可能かつ成長志向のインフラ投資に向けた質の高い資金供与を進展させるためのMDBsの連携を支持する。WBGとIMFは開発資金に関するアジス・アベバ行動目標の実施に向けた取り組みを加速し、特に、不正な資金フローへの対処を含め、民間セクターの関与とともに、国内資金の動員を促進すべきである。

2016年5月27日、G7伊勢志摩首脳宣言は、〈開発〉と題して、持続可能な開発のための2030アジェンダの歴史的意義を次のように謳った。――2015年は、2030アジェンダの歴史的な採択、パリ協定、アジス・アベバ行動目標とともに、すべての国における貧困削減および持続可能な開発へのわれわれのアプローチにおける新たな時代の幕開けとなった。このアジェンダは、持続可能な開発の、環境、社会および経済という3つの側面を均衡ある形で統合し、すべての国に普遍的に適用される。2030アジェンダは、2030年までに貧困を撲滅し、世界を持続可能なものに変革するという国際社会の揺るぎない決意を反映し、誰一人置き去りにせず、より平和で、安定した、包括的で、かつ、繁栄する国際社会のための基礎を築く。この目的のため、われわれは、平和と安全、開発および人権の尊重が相互に関連し合い、かつ、補強し合うものであることをよく認識しつつ、17のSDGsの、統合された不可分の性質を強調するとともに、2030アジェンダの実施を、人間中心の、かつ地球に配慮した形で、国内的および国際的に進めることにコミットする。われわれは、すべての国々およびステークホルダーに対し、マルチステークホルダー・アプローチを確保するため、再活性化され、かつ、強化されたグローバル・パートナーシップのもとで、この共同の取り組みに携わることを強く求める。

2016年6月1日-2日、OECD閣僚理事会は、“Better Policies for 2030:An OECD Action Plan on the Sustainable Development Goals" と題するステートメントを採択し、〈序文〉において〈持続可能な開発のための2030アジェンダ〉に対するOECDの断固たる決意を次のように謳った。――(1)新しい世紀への移行以来、世界は人間開発の分野において大きく前進した。それはミレニアム開発目標(MDGs)の未曽有の動員力の賜物である。とはいえミレニアム開発目標のすべての課題が実現された訳ではなく、われわれは、人間の福祉、および持続可能な開発のあらゆる側面を視野に入れて引き続き努力しなければならない。(2)われわれに求められているのは、あらゆる国家、あらゆるステークホルダーを巻き込む、協力のためのパートナーシップの構築であり、〈持続可能な開発のための2030アジェンダ〉は、そのための効果的かつ普遍的な協力枠組みである。それは、アジス・アベバで開催された開発資金国際会議、およびパリで開催された気候変動に関するCOP21によりいっそう強固なものとなった。(3)持続可能な開発目標(SDGs)は、古色蒼然たる “North-South" lensから、発展段階の違いにかかわらずすべての国々に適用可能な枠組みへの移行を具現するものである。ただしそれが、開発途上国の特別なニーズに配慮するものであることはいうまでもない。(4)OECDは長年にわたり、人間開発および福祉、開発資金、環境の持続可能性、気候変動の諸分野において国連と緊密に協力してきた。OECDは、2030アジェンダの策定に貢献しており、その実現に向けて保持する能力と専門的知識を活用する決意である。

2016年7月19日、国連はSustainable Development Goals Report 2016を公刊した。同報告書は、(1)2016年1月1日に公式にスタートした〈持続可能な開発のための2030アジェンダ〉の進捗状況を、(2)持続可能な開発目標のフォローアップおよびレビューのための〈global indicator framework〉として、2016年3月に国連統計委員会において合意されたスキームに基づいて概観するものであり、(3)15年間にわたり追求される持続可能な開発目標を達成するためには、まず開始時点における正確な現状把握が不可欠であるとの基本認識に基づくものである。

グローバル/準グローバル・レベルにおける、〈2015年〉の総括および〈2030年〉に向けた政策イニシアティブ――。それは、〈持続可能な開発のための2030アジェンダ〉、ひいてはその原型/基盤としての〈ミレニアム開発目標〉の歴史的意義を謳うものであった。ところで、それはまた、地域レベルにおける挑戦とシンクロナイズ/連動するものでもあった。すなわち、28カ国から構成される地域統合体としてのEUも、〈持続可能な開発のための2030アジェンダ〉、ひいては〈ミレニアム開発目標〉に対して、次のようにきわめて高い評価を付与したのである。

2016年11月22日、欧州委員会は、“Next steps for a sustainable European future : European Action for sustainability" と題するコミュニケーションを発出して、次のように謳った〔COM(2016)739 final〕。――(1)2001年以降、EUは(独自に)持続可能な開発戦略(Sustainable Development Strategy)を追求してきた。(2)2015年は、世界が持続可能な開発を明確に定義する年であった。すなわち、(1)9月25日、第70会期:国連総会は、持続可能な開発のための2030アジェンダを採択した。(2)12月には、気候変動に関するパリ協定が、また7月にはアジス・アベバ行動目標が採択された。(3)3月には、仙台防災枠組みが採択された。(3)EUは、グローバルな2030アジェンダの策定に貢献した。(4)EUは、補完性の原理に基づき、加盟国と協働し、率先して〈2030アジェンダ〉および持続可能な開発目標(SDGs)の実施に全力を尽くす覚悟である。

併せて同日、欧州委員会は、“Proposal for a new European Consensus on Development : Our World, our Dignity, our Future" と題するコミュニケーションを発出して、次のように謳った〔COM(2016)740 final〕。――(1)2015年9月、国連総会により採択された〈持続可能な開発のための2030アジェンダ〉(2030アジェンダ)は、持続可能な開発と貧困の撲滅を達成しようとする新しい、そして野心的な枠組みである。(2)EUは、〈2030アジェンダ〉の策定に向けた交渉に積極的に参加しており、当然、その実施に主導的な役割を担わなければならない。(3)〈2030アジェンダ〉は、EU開発協力政策に組み込まれなければならない。そのためには〈ミレニアム開発目標〉の達成を目的とするThe European Consensus on Developmentを改訂して、新たな開発協力枠組みを策定することが必要である。

いうまでもなく、国連、IMF/世界銀行(ブレトン・ウッズ機構)、G7サミット、OECD、そして欧州委員会は、〈Global Actor〉、ひいては〈Global“Donor"〉として、それぞれ独自の行動原理(マンデイト)に基づき、長年にわたり独自の行動軌跡を積み重ねてきた。それらは事実上、〈Global Donor Community〉そのものを具現する存在である。この〈Global Donor Community〉が、一丸となって、すなわち〈Global Alliance for Development〉を構築して、SDGs、ひいてはその原型となるMDGsの達成を〈Common Cause〉として追求する旨を高らかに宣言したのである。それは文字通り〈Global Consensus on Development〉の樹立宣言に他ならなかった。

本書は、このような「歴史的」(エポックメーキング)な現象の継時的〈記述〉、ひいては〈説明〉を試みるものである。すなわち、国際政治学の視点から、幾層にも重なり合った〈Diplomatic Statement〉を「判じ物」(ある意味を文字・絵画の中に隠して考え当てさせるもの)を解く要領で〈de-code〉し、その再編成――点から線、さらには面への発展――を試みるものである。それはまた、〈glocalization〉という新たな切り口で、国連とEUの協働関係に分析の光を当てようとするものでもある。

索引

和文索引

欧文索引

株式会社 国際書院
〒113-0033 東京都文京区本郷3-32-6-1001
Tel: 03-5684-5803
Fax: 03-5684-2610
E-mail: kokusai@aa.bcom.ne.jp