法文化(歴史・比較・情報)叢書 15 身分 法における垂直関係と、水平関係

中野雅紀 編

「身分」をいま法学において問い直すことは重要である。民法における「親族・相続」、刑法の「身分犯」、憲法における「国家」と「社会」の分離の問題など課題は多い。(2017.12.10)

定価 (本体3,600円 + 税)

ISBN978-4-87791-285-7 C3032 200頁

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目次

著者紹介

編者・執筆者紹介 *は編者

中野雅紀(なかの・まさのり)*
1963年生まれ。中央大学大学院法学研究科博士課程前期課程公法専攻修了。京都大学大学院法学研究科法政理論専攻公法専攻後期博士課程単位取得。茨城大学教育学部准教授(法律学)。
主な業績: 「人権の基礎付け、類型および審査基準」『公法研究』72号(2010年)、「わが国における「選挙権論」の規範主義的貧困は克服されたのか?」『法学新報』121巻5・6号(2014年)、「ジャン・ボダンの国家の貨幣鋳造権といわゆる“プリコミットメント"理論について」林康史編『貨幣と通貨の法文化』(国際書院、2016年).ほか。
現在の関心: ドイツの基本権論、基本価値、討議理論など。
出雲孝(いずも・たかし)*
1982年生まれ。中央大学大学院法学研究科博士後期課程民事法専攻修了。博士(法学)(中央大学)。法学博士(フランクフルト大学)。朝日大学法学部准教授(民法)。
主な業績: Die Gesetzgebungslehre im Bereich des Privatrechts bei Christian Thomasius(Peter Lang Verlag, 2015)、『ボワソナードと近世自然法論における所有権論』(国際書院、2016年)、「第6章近世自然法論におけるusucapioのオントロジー―グロチウスからカントまでの取得時効論―」『オントロジー法学』(津野義堂〔編〕、中央大学出版部、2017年)。
現在の関心: 近世自然法論における通俗主義と黄金律の役割。
木原淳(きはら・じゅん)
1969年生まれ。東北大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。富山大学教養教育院教授。法思想史・法哲学専攻。
主な業績: 『境界と自由』(成文堂、2012年)、「生命と所有」富山大経済論集60巻号(2015年)、「憲法典の解釈は政治的か」富山大経済論集62巻1号(2016年)ほか。
現在の関心: ヘーゲル法哲学の現代的意義、憲法(constitution)の概念など。
齊藤豪大(さいとう・たけひろ)
1988年生まれ。埼玉大学大学院文化科学研究科文化構造研究専攻修士課程修了。一橋大学大学院経済学研究科経済史・地域経済専攻博士後期課程単位取得退学。久留米大学経済学部専任講師(西洋経済史専攻)。
主な業績: 「近世スウェーデン塩交易構造の変容(1641‐1700)」『茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)』第62号(2013年)、「近世スウェーデンにおける塩生産の認識―スウェーデン重商主義者アンデシュ・ノルデンクランツを事例に―」『北欧史研究』第32号(2015年)。
現在の関心: 近世ヨーロッパ水産経済史、水産資源利用に関する歴史研究、重商主義政策研究など。
大藤慎司(おおとう・しんじ)
1979年生まれ。茨城大学大学院教育学研究科修了。修士(教育学)。中央大学文学研究科博士後期課程単位取得退学。株式会社駿台教育センター/リソー教育非常勤講師。
主な業績: 「18世紀から19世紀初頭のプロイセン貴族--『プロイセン貴族=ユンカー』観念の新たな研究」『茨城大学教育学部紀要人文・社会科学・芸術』55号(2006年)、「プロイセン改革とマルヴィッツ」『茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学・芸術)』56号(2007年)。
現在の関心: プロイセン貴族・将校団、プロイセン改革期の旧シュテンデ等族派、フリードリヒ・アウグスト・フォン・デァ・マルヴィッツ、プロイセンの保守主義。
高崎理子(たかさき・まさこ)
2011年琉球大学大学院人文社会科学研究科総合社会システム専攻博士前期課程修了。中央大学大学院法学研究科公法専攻博士後期課程(国際法専攻)。
主な業績: 「国際裁判における文化的考察の意義―プレア・ビヒア寺院事件判決を例として―」小栁春一郎編『災害と法』(国際書院、2014年)、「文化多様性の尊重と女性の権利の保護―ヨーロッパのイスラム服装規制を例として―」北村泰三・西海真樹編『文化多様性と国際法―人権と開発の視点から』(中央大学出版部、2017年)ほか。
現在の関心: 文化と国際法、国際裁判における文化的考慮など。
千葉真由美(ちば・まゆみ)
1971年生まれ。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科(後期博士課程)単位修得満期退学。博士(学術)。茨城大学教育学部准教授(日本近世史専攻)。
主な業績: 『近世百姓の印と村社会』(岩田書院、2012年)、「近世の百姓と衣服」渡辺尚志編『生産・流通・消費の近世史』(勉誠出版、2016年)、「近世百姓の印と印判師―関東諸村落と江戸の印判師を事例として―」『日本歴史』第822号(2016年)ほか。
現在の関心: 印の生産と流通、百姓の衣服、村の女性など。

まえがき

叢書刊行にあたって

法文化学会理事長 真田芳憲

世紀末の現在から20世紀紀全体を振り返ってみますと、世界が大きく変わりつつある、という印象を強く受けます。20世紀は、自律的で自己完結的な国家、主権を絶対視する西欧的国民国家主導の時代でした。列強は、それぞれ政治、経済の分野で勢力を競い合い、結局、自らの生存をかけて二度にわたる大規模な戦争をおこしました。法もまた、当然のように、それぞれの国で完全に完結した体系とみなされました。学問的にもそれを自明とする解釈学が主流で、法を歴史的、文化的に理解しようとする試みですら、その完結した体系に連なる、一国の法や法文化の歴史に限定されがちでした。

しかし、21世紀をむかえるいま、国民国家は国際社会という枠組みに強く拘束され、諸国家は協調と相互依存への道を歩んでいます。経済や政治のグローバル化とEUの成立は、その動きをさらに強めているようです。しかも、その一方で、ベルリンの壁とソ連の崩壊は、資本主義と社会主義という冷戦構造を解体し、その対立のなかで抑えこまれていた、民族紛争や宗教的対立を顕在化させることになりました。国家はもはや、民族と信仰の上にたって、内部対立を越える高い価値を体現するものではなくなりました。少なくとも、なくなりつつあります。むしろ、民族や信仰が国家の枠を越えた広いつながりをもち、文化や文明という概念に大きな意味を与え始めています。その動きを強く意識して、「文明の衝突」への危惧の念が語られたのもつい最近のことです。

いま、19・20世紀型国民国家の完結性と普遍性への信仰は大きく揺るぎ、その信仰と固く結びっいた西欧中心主義的な歴史観は反省を迫られています。すべてが国民国家に流れ込むという立場、すべてを国民国家から理解するというこれまでの思考形態では、この現代と未来を捉えることはもはや不可能ではないでしょうか。21世紀を前にして、私たちは、政治的な国家という単位や枠組みでは捉え切れない、民族と宗教、文明と文化、地域と世界、そしてそれらの法・文化・経済的な交流と対立に視座を据えた研究に向かわなければなりません。

このことが、法システムとその認識形態である法観念に関しても適合することはいうまでもありません。国民国家的法システムと法観念を歴史的にも地域的にも相対化し、過去と現在と未来、欧米とアジアと日本、イスラム世界やアフリカなどの非欧米地域の法とそのあり方、諸地域や諸文化、諸文明の法と法観念の対立と交流を総合的に考察することは、21世紀の研究にとって不可欠の課題と思われます。この作業は、対象の広がりからみても、非常に大掛かりなものとならざるをえません。一人一人の研究者が個別的に試みるだけではとうてい十分ではないでしょう。問題関心を共有する人々が集い、多角的に議論、検討し、その成果を発表することが必要です。いま求められているのは、そのための場なのです。

そのような思いから、法を国家的実定法の狭い枠にとどめず、法文化という、地域や集団の歴史的過去や文化構造を含み込む概念を基軸とした研究交流の場として設立されたのが、法文化学会です。

私たちが目指している法文化研究の基礎視角は、一言でいえば、「法のクロノトポス(時空)」的研究です。それは、各時代・各地域の時空に視点を据えて、法文化の時間的、空間的個性に注目するものです。この時空的研究は、歴史的かつ比較的に行われますが、言葉や態度の表現や意味、交流や通信という情報的視点からのアプローチも重視します。また、この研究は、未来に開かれた現代という時空において展開される、たとえば環境問題や企業法務などの実務的分野が直面している先端的な法文化現象も考察と議論の対象とします。この意味において、法文化学会は、学術的であると同時に実務にとっても有益な、法文化の総合的研究を目的とします。

法文化学会は、この「法文化の総合的研究」の成果を、叢書『法文化―歴史・比較・情報』によって発信することにしました。これは、学会誌ですが学術雑誌ではなく、あくまで特定のテーマを主題とする研究書です。学会の共通テーマに関する成果を叢書のなかの一冊として発表していく、というのが本叢書の趣旨です。編者もまた、そのテーマごとに最もそれにふさわしい研究者に委ねることにしました。テーマは学会員から公募します。私たちは、このような形をとることによって、本叢書が21世紀の幕開けにふさわしいものになることを願い、かつ確信しております。

最後に、非常に厳しい出版事情のもとにありながら、このような企画に全面的に協力してくださることになった国際書院社長の石井彰氏にお礼を申し上げます。

1999年9月14日

索引

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