国連研究 20 変容する国際社会と国連

日本国際連合学会 編

2015年に2030開発アジェンダが、2016年には平和への権利国連宣言が採択された。自然環境の持続が確認され、権利としての平和が国連の重要課題として浮上してきた。(2019.7.10)

定価 (本体3,200円 + 税)

ISBN978-4-87791-299-4 C3032 299頁

目次

  • I 特別寄稿
    • 国連と国連研究の課題と展望: 個人的内省内田孟男
  • II 特集テーマ「変容する国際社会と国連」
    • 1 重層化する国際安全保障と国連平和活動の変容篠田英朗
    • 2 SDGsにみる人間中心型開発思考からの脱却大平剛
    • 3 安全保障と人権における国連の意義と役割: 平和への権利国連宣言の審議を通して笹本潤
    • 4 国連システム諸機関の財政の変容: 加盟国からの財政収入に焦点を当てた分析坂根徹
  • III 政策レビュー
    • 5 グローバル・ガバナンスにおける適者生存: 経済協力開発機構(OECD)が国連との協力で図る機能進化安部憲明
  • IV 独立論文
    • 6 国連の民主主義促進と国連民主主義基金: 国連の内なる変容の一例澤西三貴子
    • 7 変動する人道と開発の間: 紛争中のシリア向け支援からの考察武藤亜子
  • V 書評
    • 8 キハラハント愛著『国連警察の責任を問う―国連警察要員の個人の刑事的アカウンタビリティ』藤井京子
    • 9 西谷真規子編著『国際規範はどう実現されるか―複合化するグローバル・ガバナンスの動態―』大芝亮
    • 10 上杉勇司、藤重博美編著『国際平和協力入門―国際社会への貢献と日本の課題』福島安紀子
    • 11 ジャン=マリー・ゲーノ著・庭田よう子訳『避けられたかもしれない戦争―21世紀の紛争と平和』黒田順子
    • 12 書評論文 カンボジアPKOと未完の検証―学術研究になにができるか―旗手啓介著『告白―あるPKO隊員の死・23年目の真実』および明石康著『カンボジアPKO日記―1991年12月~1993年9月』井上実佳
  • VI 日本国際連合学会から
    • 1 国連システム学術評議会(ACUNS)2018年度年次研究大会に参加して庄司真理子
    • 2 第18回東アジア国連システム・セミナー報告敦賀和外
    • 3 規約及び役員名簿
  • VII 英文要約
    • 編集後記
    • 執筆者一覧

表紙写真 United Nations Operation in Mozambique: Soldiers holding hands at a demobilization ceremony, Casa Banana, Mozambique

著者紹介

〈執筆者一覧〉

  • 内田孟男 中央大学社会科学研究所客員研究員
  • 篠田英朗 東京外国語大学教授
  • 大平剛 北九州市立大学教授
  • 笹本潤 弁護士、東京大学大学院総合文化研究科人間の安全保障プログラム
  • 坂根徹 法政大学教授
  • 安部憲明 外務省経済局政策課企画官
  • 澤西三貴子 国連民主主義基金事務局次長
  • 武藤亜子 独立行政法人国際協力機構研究所主任研究員
  • 藤井京子 名古屋商科大学教授
  • 大芝亮 広島市立大学特任教授
  • 福島安紀子 青山学院大学教授
  • 黒田順子 マーシー大学社会科学学部国際関係・外交プログラム客員教授
  • 井上実佳 東洋学園大学准教授
  • 庄司真理子 敬愛大学教授
  • 敦賀和外 津田塾大学学外学修センター特任教授

〈編集委員会〉

  • 上野友也 岐阜大学准教授
  • 瀬岡直 近畿大学准教授
  • 富田麻理 亜細亜大学特任教授
  • 本多美樹 法政大学教授(編集副主任)
  • 滝澤美佐子 桜美林大学大学院教授(編集主任)

まえがき

学会誌『国連研究』は本号で20号を迎えた。この機会に国連および国連システムが国際社会の中で果たす役割と課題についていま一度広い見地から学問的洞察を加えるべく、本号の特集は「変容する国際社会と国連」とした。

偶然にも1993年5月刊行の日本国際政治学会編『国際政治』103号において本号と同タイトルの特集が組まれている。その際の国際社会の変容とは、「冷戦の終焉」という「急激な国際社会の変化」を受けての表現であった。

冷戦終焉をうけて四半世紀を経て、主権国家の相互依存や統合化、急速に進むグローバル化、民主化の波が、国家や経済、人々の生活に大きく影響した。アフリカ、中東地域等をはじめ紛争が激化した。国際社会の変容として地球環境の変動や武力紛争と大規模な人的被害、貧困、経済的な格差の加速的な拡大、移民、難民への社会的排除や人権侵害などが本号の論稿から語られる。国連システムが対処しようとするのは、これらの国際社会の公共課題であり、人類から地球の持続にまで及ぶ広範囲を包摂する。

『国連研究』20号の巻頭に、本学会の創設から今日までの20年の歩みを振り返る特別寄稿を掲載した。執筆者の内田孟男会員は、日本国際連合学会の理事、運営委員会委員、編集主任、渉外主任を歴任され、創設から今日まで国連学会の歩みを主導してこられた。特別寄稿「国連と国連研究の課題と展望―個人的内省」では、原点である国連学会の目的と東アジアにおける学術文化交流の軌跡、学会メンバーの教育研究や政策提言、学会活動の強化などを回顧しながら、実務家、研究者あるいはその二足のわらじを履くものにとって傾聴するべき将来への提言を含んでいる。

寄稿論文は「国際社会の変容」について、国連の直面する大国間の不一致による多国間主義の退潮を殊に指摘し、平和、持続可能な開発、人権に代表される地球公共財の提供に国連システムが役割を果たすために打つべき国連改革として国連主要機関の改革を指摘する。その中でも、国際公務員制度の強化発展を提言し、知的リーダーシップという国連の国際的役割にとってもその核となる国連事務局の強化がわけても不可欠だとする。最後に、研究教育に関わる研究者に向けて知的および起業家的役割を説き、学際的および国際的視野に立つ国連研究の必要性について国連学会会員への自覚を促す。

そして、順次掲載した特集論文、政策レビュー、独立論文、書評と書評論文は、変容する国際社会と国連についていずれも示唆を与え、多面的に追求されている。

特集では、国際社会の変容のうち、安全保障、持続可能な開発、人権という国連の主要分野の動きと、組織の財政について論文を掲載することができた。

篠田論文「重層化する国際安全保障と国連平和活動の変容」は、最近の国連PKOの変質の背景を探ることを目的とした研究である。近年の「パートナーシップ平和活動」は、伝統的とされる冷戦期の国連PKOとは大きく異なるものの、むしろ国連憲章起草時に予定された重層的な安全保障体制という基本構造に沿ったものであると結論づけた意欲的な論文である。

大平論文「SDGsにみる人間中心型開発思考からの脱却」は、1990年代以降の開発戦略の大きな流れを丁寧に論じたうえで、「持続可能な開発目標」(SDGs)が「ミレニアム開発目標」(MDGs)を引き継いだものであるという認識は誤りであることを明らかにする。そして、SDGsの源流は社会開発サミットに認められることを指摘する一方、開発パラダイムの観点からは、両者には相違点があることに留意する必要があるとも主張している。

笹本論文「安全保障と人権における国連の意義と役割-平和への権利国連宣言の審議を通して」は、冷戦後の国際社会の変容が、各国政府、国連機関、NGOという国連における3つのアクターにどのように影響を与えているのか、また、平和への権利国連宣言審議過程に着目し、これらのアクターが有した機能および役割を分析している。

坂根論文「国連システム諸機関の財政の変容―加盟国からの財政収入に焦点を当てた分析」は、国連システム諸機関の加盟国からの財政収入の変容と継続を分析したものである。多岐にわたるデータをとおして、どのような変容が認められ、他方で継続があるのかについて分析しており、その結果は非常に興味深いものとなっている。

政策レビューでは、「グローバル・ガバナンスにおける適者生存―経済協力開発機構(OECD)が国連との協力で図る機能進化」を掲載した。安部論文は、OECDの国連との協力強化の背景と具体事例(企業の社会的責任、SDGs実施支援など)を詳述し、OECDと非OECD諸国の関係、国連との協力による多国間主義の強化につき示唆に富む結論を導いている。

独立論文にはそれぞれ独自の分析を加えながらも、国際社会の変容を強く受けた、国連財政の問題とシリアを事例とする2本の論文を掲載することができた。

澤西論文「国連の民主主義促進と国連民主主義基金国連の内なる変容の一例」では、国連事務局における一般信託基金の増加とその要因について、理論的説明を与え、一般信託基金のなかでも国連民主主義基金を事例として、市民社会団体との連携を通じた民主化支援の具体的方策の可能性を探っている。

武藤論文「変動する人道と開発の間紛争中のシリア向け支援からの考察」では、武力紛争における人道支援と開発支援を架橋する「開発的人道支援」の概念を提示し、その概念の理論的説明を加えたうえで、シリアの事例を用いて「開発的人道支援」を可能にした原因と限界を明らかにしている。

書評セクションでは、4本の書評と1本の書評論文を掲載した。

Ai Kihara-Hunt, Holding UNPOL to Account: Individual Criminal Accountability of United Nations Police Personnel(International Humanitarian Law Series, Vol. 50)は、国連警察指針作成委員などを経験した著者が、国連の平和活動に従事する要員とりわけ国連警察の刑事責任を追及するメカニズムの実効性・問題点を検討した書である。国際法の視点から、藤井会員が論評を行った。

西谷真規子編著『国際規範はどう実現されるか―複合化するグローバル・ガバナンスの動態―』は、コンストラクティビズム(構成主義)とグローバル・ガバナンス論から、複雑化する国際関係における規範の実相を捉えようとした書である。規範の生成と伝播過程と、規範の履行・内面化の過程に焦点を当てる2部構成をとる。構成主義における規範研究やグローバル・ガバナンス研究では事例研究の不足がしばしば指摘されてきたが、本書は多くの事例を用いてその課題に取り組んだとして、大芝会員が論評した。

上杉勇司・藤重博美編著の『国際平和協力入門―国際社会への貢献と日本の課題』は、国際平和協力について網羅的かつ平易に概説した書であり、国連研究の入門書ともいえる。各章の末尾にはより深い理解のための推薦図書のリストと国際平和協力に関連する映画リストも収載されており、国際平和協力について関心を持つ学生に対して大きな動機付けを与えている。福島会員が論評を行った。

ジャン=マリー・ゲーノ著(庭田よう子訳)『避けられたかもしれない戦争―21世紀の紛争と平和』は、2000年から2008年までPKO担当の国連事務次長を務めたゲーノ氏の「回想録」である。同時期にPKO局に勤務していた黒田会員が論評した。本書では、11の紛争(アフガニスタン、イラク、グルジア、コートジボワールなど)の政治的な国際環境、各国の政治的意図と国家間の駆け引き、そして国連の関与について考察され、著者の個人的な意見や、反応も正直に書き綴られている。

書評論文は、井上会員による「カンボジアPKOと未完の検証―学術研究になにができるか」を掲載した。本論文は、旗手啓介著『告白―あるPKO隊員の死・23年目の真実』と明石康著『カンボジアPKO日記―1991年12月~1993年9月』の2冊の著書を通して、日本の国際平和協力について再考を促す内容となっている。日本で国際平和協力法が成立して四半世紀が経過するが、国際的にみれば日本の経験は未だ浅いうえ、政府レベルでも国民レベルでも議論は深まっていない。1990年代を歴史として、日本の国際平和協力は検証すべき時期にきていると評者は言う。

以上に加え、国連システム学術評議会(ACUNS)の参加報告が庄司会員より、および北京で開催された日中韓国連学会による東アジア国連システム・セミナーの報告が敦賀会員によりとりまとめられ、会員の活発な国際的学術活動が概要とともに紹介されている。

国連は、主権国家が基礎をなすという意味での国際社会の中で、創られ、運営される政府間国際機構である。主権国家の変容が国連本体や国連システムに影響を与える。大国や主要な国々の間の政治的な不一致、一国中心主義への回帰、国家の対外政策との衝突により、国連システムが期待する多国間協調主義は挑戦を受け続けている。財政貢献国の状況と財政拠出、要員の提供も国連システムの活動の継続か縮小かを左右する。限定的な数の加盟国からの任意拠出を得て特定課題に対応する国連の傾向も国連民主主義基金の例から問題提起されている。

国連および国連システムは、主権国家のみでは対応しえない国際社会の公共課題についての職務を負う。国連憲章の目的に明示された平和、発展、人権等から、持続可能な開発、平和構築、人道支援等々と新たな公共課題を次々と提示し、国連システムが国際秩序を変容させてもきた。平和への権利国連宣言は、安保理や加盟国の行動に見直しを迫り対立をしながら、国連により調整をされた形で総会決議として公的に反映された。持続可能な開発についての国連開発計画(UNDP)の開発パラダイムは「自然環境の能力の限界」を取り込むに至ったが、人権も開発も経済も地球環境の観点から見直されることになる。開発と人道についても平時、紛争時という伝統的な区分を乗り越える開発的人道支援の模索と実践が行われている。国連が提示した既存の枠組みや制度が見直され、概念の相互の関連性が問われている。

このことによって、多くの論稿で示されるように国連システム以外の政府間国際機構、地域的機構・準地域的機構、NGOとの連携、専門家、企業、市民社会等々それらの独自の役割が示されている。国連と国連システム諸機関に求められる公共課題の実現は、国家、国際機構、地域的機構、非政府組織、市民社会を含む国際社会の全関係者を担い手にしながら具体的な実践を伴わなければ達成できないところにきている。

国際社会の公共課題について、国家、国際機構、市民社会が協働して対応するという基本的構図には変化はない。しかし具体的実践において国連システム固有の役割と問題点については一層の検討が必要であり、本号がそれを考えるための一冊となってほしい。国連本部ウェブサイトには国連改革(UN Reform)のページが立ち上がっており発信がされている。諸外国では有識者等による国連改革案も複数出されている。歴史をさかのぼり、かつ、未来を志向しながら、国連と国連システム諸機関の改革の行方について本学会として研究がなされることも期待したい。

編集委員会

滝澤美佐子、富田麻理、瀬岡直、上野友也、本多美樹(執筆順)

あとがき

編集後記

日本国際連合学会は昨年春第20回研究大会で20周年を迎えました。学会誌『国連研究』も第20号(『変容する国際社会と国連』)を刊行できました。この記念すべき20年を回顧する特別寄稿を内田孟男先生にご寄稿いただきました。さらに、研究、実務、現場の観点も織り交ぜて、国連の主要分野をカバーする形で、特集論文、政策レビュー、独立論文、書評ならびに書評論文を掲載できました。国連システム学術評議会(ACUNS)研究大会と東アジア国連システム・セミナーも紹介ができました。いずれも特集テーマにつながる論点をもつ貴重な論稿です。広く共有されることを願います。

ご執筆、ご投稿をいただいた多くの会員の皆様に、心からの感謝を申し上げます。査読のために学会会員や会員外のご専門の先生方にも大変お世話になりました。投稿がご希望通りにいかない場合もありましたが、審査や執筆のプロセスで誠意あるご対応いただき心から感謝いたします。

今回も、国連研究という学際性を有する研究分野の学会誌編集を、専門分野を異にする編集委員一同の協力で成し遂げることができました。また、編集委員会に貴重なご意見を寄せて下さった理事長、事務局長はじめ会員の方々に、深く感謝申し上げます。

学会誌が20号を迎えられたのは、国際書院石井彰社長の本学会と国連研究充実への理解とご協力あってのことです。日本国際連合学会より心から深く感謝をいたします。(滝澤美佐子 桜美林大学大学院)

本号では、富田委員とともに特集論文のセクションを担当いたしました。多くの会員の皆様に投稿いただき誠に有り難うございました。また、査読を引き受けていただいた先生方には、この場を借りて厚く御礼申し上げます。いずれの特集論文も、21世紀の変容する国際社会において、紆余曲折を経ながら着実に発展している国連の動きを浮き彫りにしています。本号で『国連研究』は20号という節目を迎えました。本学会誌が、ダイナミックな動きを見せる国連とともに、より一層実りのある年報に発展することを祈念しております。(瀬岡直 近畿大学)

今号の特集論文を担当しました。国連研究の第一人者による研究論文は、国連とそれをとりまく国際社会の変容と同時に国連の不変の部分の両方を描き出しているもので勉強になることが多く、楽しい作業となりました。

(富田麻理 亜細亜大学)

『国連研究』第20号では、独立論文セクションを担当させて頂きました。このたび、多くの会員の皆様から独立論文セクションにご投稿賜りまして誠にありがとうございました。また、査読にご協力頂きました諸先生には、建設的なご意見を賜りまして厚く御礼申し上げます。独立論文セクションでは、会員の皆様からのさらなるご投稿を期待しております。とくに、若手研究者の皆様も積極的にご投稿頂きますようお願い申し上げます。

(上野友也 岐阜大学)

本号では、書評セクションを担当しました。評者の会員の方々のご協力を頂き、4本の書評(うち一冊は洋書)と1本の書評論文を掲載することができました。

国連の平和活動や国際規範に関する著書についての書評のほか、日本の国際平和協力に関する書評と書評論文はこれまでの日本の活動の検証と今後の貢献について深く考える機会を与えてくれています。

私は本号で編集委員会から卒業し、新しいメンバーの方にバトンタッチいたします。これまでのご協力に深く感謝いたします。ありがとうございました。

(本多美樹 法政大学)