保護する責任と国際政治思想
「保護する責任」概念をめぐる議論と実践を同時代史的に追跡・分析し、国際立憲主義と国際機能主義が交錯する冷戦終結後の国際秩序論の展開を思想的に読み解く。国際政治思想研究の新たな可能性を開く、野心的な一書。「第1回東京大学而立賞」受賞作品。(2021.3.31)
定価 (本体5,400円 + 税)
ISBN978-4-87791-311-3 C3031 381頁
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- 略語一覧
- 序論 保護する責任(R2P)と国際政治思想
- 問題の所在―国際秩序の動揺とR2P研究の不十分さ
- 国際政治思想研究の布置関係
- 本書の位置づけおよび構成
- 第1章 R2P概念の国際政治思想研究に向けて
- 1 R2P概念と国際秩序論
- (1) 保護する責任(R2P)概念の概要
- (2) 「重大な事例」としてのR2P概念
- (3) 先行研究の不備
- 2 本書のアプローチと分析枠組み
- (1) アプローチと研究方法―「戦略的ナラティブ」としてのR2P概念
- (2) 分析枠組み―三つの時期、三つの国連、三つの系譜
- (3) R2P概念の人的および理論的系譜
- 3 分析のための概念セット
- (1) 国際秩序とグローバル秩序
- (2) 国家主権―二つの側面、二つの理解のあり方、そして機能主義的な議論
- (3) 国際立憲主義と国際機能主義
- 小括
- 1 R2P概念と国際秩序論
- 第2章 R2P概念の萌芽期の展開―冷戦終結からICISS報告書へ
- 1 R2P概念の文脈と背景
- (1) 多国間主義と国連の限界
- (2) 主権概念の再考と人道主義の発展
- (3) 人道的介入と国際秩序の亀裂
- 2 R2P概念の三つの系譜
- (1) 正戦/介入論の系譜
- (2) ガバナンス論の系譜
- (3) 紛争予防論の系譜
- 3 立憲主義的な国際秩序構想と伏流としての紛争予防論
- (1) 正戦/介入論の系譜と国際立憲主義
- (2) ガバナンス論の系譜と国際立憲主義
- (3) 伏流としての紛争予防論の系譜
- 小括―国際立憲主義と国際機能主義の混在
- 1 R2P概念の文脈と背景
- 第3章 R2P概念の論争期の展開―ICISS報告書からSG報告書へ
- 1 R2P概念の提示された国際環境および言説空間
- (1) 米国の単独行動主義と国際立憲主義
- (2) R2P概念をめぐる言説の対立構図
- (3) 世界サミット前の議論と各主体の対応
- 2 世界サミット成果文書をめぐる交渉とR2P概念に関する合意
- (1) 世界サミット成果文書をめぐる交渉の文脈
- (2) 世界サミット成果文書をめぐる交渉の本格化
- (3) 消極的な国々の合意―正戦/介入論からガバナンス論および紛争予防論へ
- 3 世界サミット後の展開と国連事務局の役割
- (1) 世界サミット後の議論の停滞と各主体の対応
- (2) 世界サミット成果文書をめぐる交渉の再検討
- (3) 紛争予防論の浮上と国連事務局の役割
- 小括―国際立憲主義の後退と国際機能主義の浮上
- 1 R2P概念の提示された国際環境および言説空間
- 第4章 R2P概念の推進期の展開―SG報告書から世界サミット10周年へ
- 1 R2P概念の実施に向けた言説・実践の基本枠組みと背景
- (1) 国連事務局によるR2P概念の再定式化―2009年SG報告書の要点
- (2) 国連総会における初の審議と成果文書の再確認
- (3) R2Pに関連する国際的な対処と新たな議論の展開
- 2 国連総会における議論と紛争予防論の主流化
- (1) 紛争予防論を中心とした議論の展開―2010年および2011年SG報告書
- (2) R2Pに関連する事例と「第三の柱」をめぐる議論
- (3) 2013年以降の停滞と紛争予防論の主流化―2015年SG報告書まで
- 3 R2P概念の実施に向けた制度化―紛争予防論の具現化
- (1) 国連事務局を中心とした国連の機能強化
- (2) 市民社会(NGO)を介したネットワーク化
- (3) 国家(米国)による個別的な取り組み
- 小括―紛争予防論の主流化と機能主義的な国際秩序構築への転換
- 1 R2P概念の実施に向けた言説・実践の基本枠組みと背景
- 終章 冷戦後の国際秩序論の変遷と超国家的な権力
- 1 R2P概念の二つの系譜と立憲主義的な国際秩序構想
- (1) 萌芽期から論争期の展開―第2章および第3章の要点
- (2) 立憲主義的な国際秩序構想の後退―世界サミット成果文書の含意
- (3) R2P概念に内在する超国家的な権力―緊急権と統治性
- 2 R2P概念の紛争予防論の系譜と機能主義的な国際秩序構築
- (1) 論争期から推進期の展開―第3章および第4章の要点
- (2) 機能主義的な国際秩序構築への転換―2009年SG報告書の含意
- (3) 超国家的な権力の制度化―監視・規律のネットワーク化
- 3 R2P概念と国際政治思想―国際機能主義の批判的再検討
- (1) 世界サミット10周年以降の展開―紛争予防論の系譜のさらなる進展
- (2) 立憲主義的な国際秩序構想から機能主義的な秩序構築へ
- (3) 機能主義的な秩序構築の批判的再検討―超国家的な規律権力の問題
- 1 R2P概念の二つの系譜と立憲主義的な国際秩序構想
- 結論に代えて―〈間〉から/への思考
- 参考文献
- 〈日本語文献〉
- 〈外国語文献(邦訳含む)〉
- 〈国連文書・各国公式文書・報告書〉
- 〈講演・演説・声明・議事録など〉
- 巻末資料
- (1) ICISS報告書『保護する責任』の「概要(Synopsis)」[ICISS 2001a: xi-xiii]
- (2) 聞き取り(インタビュー)調査対象者リスト(調査実施順、所属・役職は調査当時)
- (3) 世界サミット成果文書の草案、およびボルトン米国国連大使による修正文案
- (4) 世界サミット成果文書の「保護する責任(R2P)」の節[UN Doc. A/RES/60/1]
- (5) SG報告書『保護する責任の履行』の「三つの柱」[A//63/677: para.11]
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- あとがき
- 索引
- 著者略歴
〈著者略歴〉
1982年東京生まれ。青山学院大学国際政治経済学部国際政治学科卒業。青山学院大学大学院国際政治経済学研究科国際政治学専攻修士課程修了、修士(国際政治学)。M. Litt. in International Political Thought, School of International Relations, University of St Andrews (UK). 東京大学大学院総合文化研究科グローバル共生プログラム博士課程単位取得満期退学、博士(グローバル研究)。公益財団法人日本国際問題研究所研究助手、日本学術振興会特別研究員(DC2)、一般社団法人広島平和構築人材育成センター・プログラムコーディネーター、青山学院大学非常勤講師、東京大学非常勤講師などを経て、現在、聖学院大学政治経済学部政治経済学科准教授。
主要業績
- 髙澤洋志「保護する責任(R2P)論の『第3の潮流』―2009年以降の国連における言説/実践を中心に」(日本国際連合学会編『国連研究第15号 グローバル・コモンズと国連』国際書院、2014年、145-172頁)
- 髙澤洋志「セキュリタイゼーションと政治的時間の諸相―保護する責任(R2P)概念の変遷を一事例として」(日本政治学会編『年報政治学 2015-II 代表と統合の政治変容』木鐸社、2015年、257-278頁)
- 髙澤洋志「セキュリタイゼーション・ディレンマ―保護する責任(R2P)概念の変遷と超国家権力の具現化をめぐって」(大庭弘継編『超国家権力の探究―その可能性と脆弱性』南山大学社会倫理研究所、2017年、第7章、157-179頁)
- 中内政貴・髙澤洋志・中村長史・大庭弘継編『資料で読み解く「保護する責任」―関連文書の抄訳と解説』(大阪大学出版会、2017年)
- 西海洋志「後期近代における時間―技術(テクノロジー)と社会的加速への問い」(高橋良輔・山崎望編『時政学への挑戦―政治研究の時間論的転回』ミネルヴァ書房、2021年、第10章、233-254頁)
序論 保護する責任(R2P)と国際政治思想
現在、国際秩序は大きな動揺の中にある。冷戦終結から四半世紀、21世紀の幕開けから20年が過ぎたが、この間、我々は国際政治上の難題に数多く直面し、国際政治学は様々な面で修正を迫られている。さらに、近年は、冷戦後の国際秩序の支柱とされてきた自由主義と民主主義が危機に瀕し、国境を越えた協力や連帯は分断され、排外主義や自国第一主義が蔓延している*1。冷戦後に大きな潮流をなしたグローバリズムは、現下の新型ウィルスによって軌道修正あるいは逆流を余儀なくされるだろう。俯瞰してみれば、冷戦後に新たに生じ、あるいは可視化されてきた国際政治上の諸問題やそれらに対する国際政治学の諸研究は相互に絡まりあっており、我々は既存の国際秩序および国際秩序認識の根本的かつ全般的な変動の只中にあるといっても過言ではない。その一方で、冷戦後、以前とは比較にならない程、百花繚乱の様相を見せている国際政治学の諸研究を渉猟しても、国際秩序および秩序認識の変動がいかなる範囲および深度・速度で、いかなる方向へと進展していくのか、いまだ確たる見通しを示すのは難しいということも認めざるをえない。そのため、国際政治学の喫緊の課題とは、動揺する国際秩序および秩序認識がいかなる方向へ展開しつつあるかを解明し、国際秩序の内実がいかに再構築されうるかを見通す視座を獲得することである。
もちろん、本書のみで上記の目的に達するのは不可能である。そこで、本書は議論の焦点を絞り、より限定的な目的を設定する。その目的とは、2001年に提示された「保護する責任(responsibility to protect: R2P)」概念の展開を追跡・分析することで、冷戦終結後の国際秩序論の動態の一端を明らかにすることである。換言すれば、R2P概念をめぐる議論や言説、実践の歴史的(同時代史的)かつ思想的な研究を通して、冷戦後、「望ましい国際秩序」をめぐる議論(国際秩序論)がいかに変遷してきたかを観察・分析し、その変遷の短期的なダイナミズムを可視化することである。その際、本書が着目するのは、R2P概念が提示された当初、その基盤とされていた「立憲主義的な国際秩序構想(国際立憲主義)」が、同概念をめぐる議論・実践、いわば政治闘争を通じて次第に後退し、「機能主義的な国際秩序構築(国際機能主義)」へと転換されていく過程である。次章以降では、この政治闘争の過程を詳細に追跡・分析する。さらに、その機能主義的な秩序構築の特徴を明らかにするため、R2P概念の実践・制度化を通じて現に強化されつつある権力に着目する。それは「超国家的な規律権力」であり、立憲主義的な国際秩序構想とは、本来、相性の悪い権力である。
以下では、本論に入る前に、まず本書の背景となる問題の所在、およびその問題に取り組む上で、なぜ、また、どのようなR2P概念の研究が重要であるかを概略する。後者の「どのような」に関して言えば、本書が試みるのは「R2P概念の思想的(かつ歴史的)な研究」であり、一種の国際政治思想研究である。そこで、同概念に関する国際政治思想研究とはいかなる研究アプローチであるかについても概説する。最後に、本書全体の構成を示す。本書はR2P概念に焦点を絞る事例研究ではあるが、この重要な事例から冷戦後の国際秩序変動に対する一般的な含意を引き出すことを目指すものである。その成否は本論次第であるが、仮に本研究が一定の成果を得られたとすれば、近年、国際政治学ないし国際関係論という学問領域において*2、もう一つの喫緊の課題とされている「国際政治学のオルタナティブの模索」*3に対しても限定的ながら有意義な貢献をすることができたといえるだろう。
問題の所在―国際秩序の動揺とR2P研究の不十分さ
まず、問題の所在として、冷戦終結後の国際秩序の動揺とそれに伴う国際政治学の再検討が指摘されよう。国際政治学が第一次および第二次世界大戦という未曽有の惨事への反省から創設された学問であることに鑑みれば、その研究はいずれも根本的には国際平和ないし国際秩序の研究といえるが、近年、国際秩序および秩序認識への関心は一層高まり、それらの生成や変動を歴史的または理論的・思想的に再検討する試みが増加している。最近の研究で言えば、ダン/ルース=スミット[Dunn&Reus-Smit 2017]、山下ほか[2016]、アイケンベリー[Ikenberry 2014]などが挙げられる*4。この傾向は、とりわけ冷戦後、現実世界そのものとそれを理解するための認識枠組みの齟齬が大きくなり、後者の妥当性が失われつつあるということに起因している*5。そのため、「主権国家のみを主体とする相互関係、制度、理念によって構成される主権国家体系」を基盤とする既存の国際秩序および秩序認識の再考や、そのような国際秩序および認識枠組みが形成されてきた歴史的過程や背景、条件の検証が進められている[山影2012: 1-2]*6。例えば、上記に例示した書籍に加え、テシュケ[Teschke 2003]や明石[2009]は主権国家体系(ウェストファリア体制)の生成を歴史的に再検討しており、国際秩序に関する近年の研究でしばしば言及されている。
本書も上述の研究の一端であるが、ここで注意すべきは、実態としての秩序と認識枠組みとしての秩序認識の影響関係は一方通行ではないという点である。つまり、一方で、現実世界の変化は既存の認識枠組みとの齟齬を生み、後者の修正や再構築を促すが、他方で、後者の変化も現実世界における新たな制度や理念の具体化を推進しうる。「国際秩序の動揺・変動」という場合、この双方向的な動態を意識する必要がある。例えば、押村[2015: i-ii]は政治概念の役割を次のように述べ、現実と認識の双方向的な動態を簡潔に説明する*7。
概念はまず、政治の体系や構造、あるいは個々の営みを論理的に説明するための用具である。〔…〕概念のいま一つの作用は、言葉によって物事を特定の方向に導き、また、望ましい結果や状態を産出することである。政治学者がある理念のもとに鋳造した抽象的な概念が、意図通りに、場合によっては意図されない仕方で、現状変革に大きな力を発揮することもある。〔…〕今日、「相互依存」「人間の安全保障」「保護する責任」などの新しい概念セットは、平和や安全において改良をもたらすための理念、目標としても用いられている。
また、山影[2012: 12-14]は、社会秩序の動態を語る上で基本となる要素として、主体間の現実の「相互関係」、同時代人の「思想ないし理念」、それらを具体化した「制度」を挙げ、この三者が相互に連関することで主権国家体系という実態および認識が形成されてきたと論ずる。国際秩序の実態的な変動を表す「相互関係」や「制度」の動揺・変動は、秩序認識を構成する「思想や理念」、さらに「学知の体系」としての国際政治学の再検討・再編を促すが、逆もまた然り、ということである。つまり、国際秩序と秩序認識は双方向的に連動しているため、実態・認識両面の変動がいかに連動しているかに注視し、秩序(実態・認識)変動の深度・速度・方向性を見定めていく必要がある。これが我々の共有する課題である。
では、そこでいう「秩序変動」とは、より具体的に何の変動を指すのか。山影[2012: 3-6]によれば、国際秩序の変動には三つの層があり、それらが重なって一つの大きな波が形成される。最も表層における変動は国家間の「パワーの分布」の変化であり、その結果生ずる国際構造の変動である。例えば、冷戦期の米ソ二極構造から冷戦後の多極化もしくは米国の一極体制への変化がこの層における変動である。次に、より深層で生じる変動として、国際秩序の「主体それ自体」に関する変動がある。従来の主権国家体系では、各主権国家が国内秩序を維持し、国際関係上は「統一された主体(unitary actor)」と見なしうることが前提とされていた。しかし、冷戦後に噴出した内戦や民族紛争はこの前提の薄弱さを浮き彫りにし、いまや「破綻国家(failed state)」や「脆弱国家(fragile state)」などの名辞が一般化しているように、主権国家自体の質的な差異が問題となっている*8。また、グローバル化の進展とともに、国際機構や私企業、市民社会組織(CSO)・非政府組織(NGO)などの非国家主体が国際的な行為能力と影響力を高め、主権国家の地位は冷戦期よりも相対的に低下しているといえよう*9。このように、現在、国際的な主体および主体間の相互関係に関する実態および認識も変化しつつあり、国際秩序の基本的構成要素である「主権国家自体」が動揺している。
そして、最深層で生じる根本的な変動が「主権国家体系それ自体」の変動である。同体系の主体たる主権国家がその地位を低下させるに伴い、国際秩序における国家の役割や機能が変容し、国家間および各主体間の相互関係やその相互関係を規定する制度、規則、理念が再構築される可能性がある。実際、冷戦後に提示または具体化された新たな制度や理念から主権国家体系の変動の兆候を読み取ることも可能である。例えば、欧州連合(EU)などの地域機構の発達、種々の国際刑事裁判所の設立、R2P概念や「人間の安全保障」概念の普及が挙げられる。加えて、「帝国」論[ネグリ/ハート2003]やグローバルガバナンス論[吉川ほか2014]、「国際文化関係」論[平野他2013]など、主権国家体系に代わる認識枠組みの研究も盛んになされている。ただし、パワー分布や主体の変化は、常に最深層の大幅な修正に帰結するわけではない。むしろ比較的短い期間で見れば、パワー分布の変化が及ぼす影響の制御、各国の統治能力を向上させる開発、多主体間の協力体制・制度の構築などを通して、主権国家体系の修正を最小限に抑え、既存の国際秩序を維持する試みが優先される傾向がある*10。要するに、分析上、国際秩序の変動は上述の三層に分離可能だということである。
重要なのは、冷戦終結後、国際秩序の実態と認識の両面および三層のすべてに及ぶ大きな動揺が惹起され、国際秩序が根本的に変動する可能性があるということである。この動揺に関しては、第2章で冷戦後に生じた具体的な諸問題とともに振り返るが、本書の基底にあるのは、上述のように、国際秩序が根本的に変動しつつあるという問題意識である。そして、本書の目的は国際秩序の最深層における変動がいかなる方向へ進展し、その結果、国際秩序がどのように再構築されつつあるかを考察することにある。もちろん、本書だけで現在の国際秩序の変動を包括的に考察するのは不可能である。また、その変動をできるだけ包括的に描き出そうとすればする程、考察の内容は抽象的になり、秩序変動のダイナミズムが捨象されてしまう。そこで、本書は主に認識面の変化に着目し、その結果として促進される実態面の変化に考察を加える。つまり、現実の国際政治上の難題を解決するために提示された「思想や理念」およびその思想・理念の表現である「国際秩序論(望ましい国際秩序をめぐる議論)」が主権国家体系それ自体の変動をいかなる方向へ導くかを究明する。その際、望ましい国際秩序に関する思想・理念を宿し、現状変革に影響を及ぼしうるR2P概念は重要な研究対象となる。
R2P概念が重要な研究対象であるといえるのは、同概念が国際秩序の根本的な再検討を要求する概念であり、さらに、国際秩序変動の全体的な方向性に関する含意を蔵していると考えられるからである。その上、かかる概念であるにもかかわらず、少なくとも表面的には、同概念の国際的な支持および受容が比較的早く拡大しているからである。詳細は次章以降で考察していくが、簡潔に要点だけ触れておこう。まず、同概念が提唱された直接の契機は、1999年のコソヴォにおける人道危機に対して、既存の規則・制度(国際秩序)に則らない軍事介入が断行されたことにある。その結果、他国における大規模な人権侵害・迫害・残虐行為といった非人道的な行為を阻止するために軍事力を用いて介入すること、いわゆる「人道的介入」の是非が論争となった。この論争への一つの解答として提唱されたのがR2P概念であり、その第一義的な目的は、内政不干渉と武力不行使を大原則とする既存の規則・制度において、いかなる条件が満たされれば軍事介入が正当化されうるかを示すことであった。つまり、R2P概念とは、国際秩序の中核的な規則・制度の修正ないし再構成を要求する概念だったのである。そのため、同概念およびその根底にある思想・理念に対する支持が浸透・拡大していくならば、それは国際秩序の根本的な変動とも連動すると推論できるだろう。
さらに、R2P概念の射程は、上記に止まらず、より根源的な国際秩序の再検討、すなわち国際秩序の核心をなす「国家主権」の再検討にまで及ぶ。国家主権が現在の国際秩序の核心をなしている点には、多言を要しないだろう。国際秩序の基本的構成単位は国家主権(国内における最高の権威・権力、それに依拠した国家間における独立・平等)を有する国家、すなわち主権国家であり、国際的な規則や制度、そして国際社会は国家主権という根本原理・理念に基づいて形成されている。国家主権は国内社会と国際社会を貫き、現代世界の根幹をなす秩序構成原理・理念である。ただし、主権の内容や性質、機能をどう理解するか、その理解のあり方は不変ではない、という点には注意を要する*11。例えば、国家主権に制約はあるか、国家主権を機能的に分割したり、国家間で共有したりできるのか等の問いに対する普遍的な答えはない。そして、R2P概念は単に人道的介入の是非に関する概念ではなく、国家主権の理解を「責任」中心に変えること、すなわち国家主権の再解釈を主張する概念であった。つまり、R2P概念は国家主権の破棄ではなく、理解のあり方を変えることを含意していたのである。そのため、R2P概念の展開に着目することは、国家主権の国際的な理解の展開、ひいては国際秩序変動の方向性を見通すことにつながる。
視点を変えれば、国際社会において主権概念それ自体が継続的な議題とされることは稀であるため、国際秩序の変動・再構築の方向性を分析・考察する際、R2P概念という重要な事例を通じて行うのが有効である。R2P概念は、いわば同概念の上で国際秩序の中核的な規則・制度および核心をめぐる議論(国際秩序論)が闘わされる開かれた闘技場である。ところが、先行研究ではこの可能性、R2P概念の含意が汲み尽されているとは言い難い。第1章で詳察するが、同概念に関する研究(R2P研究)が不十分な理由の一端は、既存の理論的な研究の多くが国際政治学における「規範」研究を応用し、分析・考察の射程を「(国際政治学において定義される)規範」に関わる現象に切り詰め、R2P概念と秩序変動の関係を視野から外してしまうからである。もちろん、こうしたアプローチの採用は、特定のディシプリンの中ではきわめて妥当であろう。つまり、「言明と観察された現象(事実)との一致」および「因果関係」に強い客観性と確実性を要請するディシプリンの中では、科学的検証のためにR2P概念の射程は観察可能な範囲に収められざるをえない*12。そのため、本来、より広い射程を有する同概念の論理的な帰結・含意を汲み取るには異なるアプローチが必要となる。そこで、本書はR2P概念を思想的に研究する。それがいかなる研究アプローチなのか、以下で簡潔に説明したい。
国際政治思想研究の布置関係
本書が試みるのは、R2P概念の思想的な研究、すなわち「国際政治思想」研究である。国際政治思想あるいは国際関係思想は、冷戦後、質量ともに充実し、一つの研究領域として認知されるようになってきた。ただし、その反面、各々の研究の対象や手法、志向、アプローチなどは多種多様で、研究相互の布置関係が示されることもなく、体系的な把握は難しい状況である。例えば、思想的な研究に携わる者の間でも国際政治思想、国際関係思想、国際思想という異なる用語が用いられ、これらの語義に関しても認識が一致しない。もちろん、思想的な研究に携わる者の多くは一種の土地鑑を身につけており、各々の研究の立ち位置を意識しながら研究を進めているが、問題は、携わる者以外にはそれが理解し難く、十把一絡げにされ、誤解が生じやすいことである。そこで、以下では、国際政治思想研究の布置関係を簡潔に整理した上で本書の位置づけを示し、本書がいかなるアプローチの国際政治思想研究であるかを明確にしたい。結論を先取りしておけば、本書では「概念をめぐる政治闘争」を思想的(かつ歴史的)に研究する。このアプローチは国際政治思想(ないし国際関係思想、国際思想)研究の中では周縁的な位置づけになるだろうが、代わりに、国際政治学における社会構成主義(コンストラクティヴィズム)のアプローチと類縁的な関係にあると考えられる。
まずは、国際政治思想の範囲を広く捉えた上で、その布置関係の整理を試みよう。日本語の「思想」は一般的にthoughtとideaの訳語として用いられる。また、冷戦後、「知の営みの歴史」(intellectual history)という領域横断的な研究も発展している。そこで、ひとまず、主体に帰属する体系的思考(thought)、抽象化・一般化されたアイディア(idea)、知的営み(intellctual activity)を包括的に「思想」と捉えると、思想研究の対象には、特定の主体が有する「思考の型」や志向、主義・主張、一定の集団(国家など)が共有する理論的視座(国際政治学の現実主義など)や世界の見方(国際秩序観など)、学術上のディシプリン、より広く社会的に共有されている思潮や社会通念、認識枠組み(パラダイムなど)に加え、ある程度、抽象化・一般化された概念や観念、理念、イデオロギーなどが含まれる。もちろん、「主体」と「対象」の組み合わせは多様であり、重点も異なる。例えば、思想研究には、偉大な思想家(主体)を扱う思想史も、重要な概念(対象)を主題とする概念史もある。以上を踏まえ、本書は「国際政治に関わる思想の研究」および「国際政治に関わる事柄の思想的な研究」を国際政治思想研究とする。つまり、上記の主体・対象の研究のみならず、それらに着目して国際政治・国際関係を思想的に研究することも国際政治思想研究と捉える。
おそらく国際政治学で最も想起されやすい国際政治思想研究は、「規範理論(normative theory)」と呼ばれる一群の研究であろう。規範理論とは、端的に言えば、社会の「あるべき望ましい姿」をめぐり道徳的推論(moral reasoning)を行う議論である(上述の「規範」研究とは異なる)。国際政治学でも、政治思想や政治哲学において蓄積されてきた知を応用し、国際社会の規範的・道徳的な問いに答えようとする研究が増えている。例えば、コスモポリタン/コミュニタリアン論争、正戦論(人道的介入論など)、グローバル正義論(配分的正義論など)、国際倫理学などが典型例として挙げられよう*13。他の国際政治思想研究と区別するならば、日本語の語感としては、「国際政治哲学(international political philosophy)」[小田川他2011]という括りの方が理解しやすいかもしれない。これらの研究では、純粋に論理的な推論を行うことも可能だが、多くの場合、過去の政治思想や哲学に依拠して議論が展開される。つまり、現在の問題関心への有益な洞察を抽出するために、過去の思想を現在の文脈に置き直し、今後の方向性や規範的指針、あるべき姿を見出そうとする*14。こうした研究アプローチは、論理的・合理的な推論によって過去の思想を現在の文脈の中で再構成するものであり、政治思想史では「合理的再構成(rational reconstruction)」とも呼ばれる*15。
国際政治学を狭く捉え、20世紀に誕生したディシプリンと考えるならば、政治思想史に比肩する伝統は存在しない。そのため、国際政治思想研究の多くが政治学の伝統を借用し、合理的再構成を試みるのは自然であり、多様かつ有益な学知が生産されている。しかし、こうしたアプローチには、政治思想史で指摘されてきた通り、研究者自身の思想と問題関心が強く反映され、過去の思想を歪めた不当な解釈や過度に恣意的な研究に陥るおそれもある。そこで、政治思想史では過去の思想を過去の文脈の中で理解し、「(可能な限り)ありのままの姿」を記述すること、すなわち「歴史的再構成(historical reconstruction)」も追求されてきた。そして、近年の国際政治思想研究においても歴史的再構成に準ずるアプローチが活況を呈している。その対象と手法は多様で、特定の個人や主題に関する思想史、特定の時空間(例えば、特定の国家や時代)に注目した思想史、また概念史や観念史などがある*16。さらに、伝統的に国際政治学と外交史の関係が近い日本では、外交構想や国際秩序観に関する研究が連綿と続けられ、近年は意識的に思想的な研究を行う例も増えている*17。やや乱暴だが、これらの研究を一括りに「国際思想史」[アーミテイジ2015]と呼ぶこともできよう。一般的にイメージされる国際政治思想研究は、上述の対照的な二つの研究群が大部分を占めている。
ただし、これは便宜上の対照であり、両者を常に峻別できるわけではない。実際、歴史的再構成の目的は、多くの場合、過去を知ることで現在を相対化する認識と視座を得ることにある。つまり、現在の世界や問題はなぜ生じたのか、その根底にいかなる思想的基盤があるのか、それらは歴史の必然か偶然の結果か、後者ならば、その偶然はなぜ生じ、歴史の方向性を修正するために我々は何を変えられるか等の問いに答えることで、現在と自分自身を相対化する視座を獲得し、現在とは異なる歴史の可能性およびオルタナティブな世界像を示すことである*18。こうした自己相対化は、近年、国際政治学というディシプリンの歴史性や欧米中心主義を再考する「学説史(disciplinary history)」の中でも試みられている*19。さらに、この方向性は、古典的な政治思想・哲学のみならず、より幅広い思想的・哲学的な知見に依拠し、なおかつ現在に生きる我々自身も考察対象に含み、そもそも「国際政治・国際関係」という世界および認識を成り立たせている「知の枠組み・機制」を再検討する研究にもつながる*20。このラディカルな思索は、あえて単純化すれば、現在に軸足を置きながら過去と未来にも目配りする、より射程の広い国際政治思想研究と考えられる。いわば、「国際関係(について)の思想・哲学(philosophy of international relations)」[芝崎2015: 244]である。
以上は「国際政治思想」研究として一般的に想起される諸研究の大まかな分類・整理である。後述の通り、本書では「国際政治思想」をより広く捉えるが、差し当たりの布置関係を示しておこう。まず軸となるのは合理的再構成と歴史的再構成の対照であり、前者は「未来」の「あるべき姿」に重心を置く思弁的(speculative)・規範的(normative)アプローチ、後者は「過去」の「ありのままの姿」に重心を置く歴史的(historical)・記述的(descriptive)アプローチである。他方、「国際関係の思想・哲学」は重心の置き方が多様でありうるが、基本的には「現在」に重心があると考えられる。もちろん、この整理は便宜上の理念型で、ほんとんどの研究は越境的であろうが、単純化すれば、以下の図1のように配置できる。
歴史的再構成に準ずる思想研究は実証性が高く、その上、昨今の国際秩序の動揺の中、オルタナティブな秩序構想を考察するための素材を提供しうるため、近年、国際政治学でも拡充と受容が進んでいる。また、合理的再構成に準ずる研究に対しては、国際思想史の受容を背景に、「実証的政治学の基準からは評価しないが、思想研究としての目的は理解できる」というような「寛容」な姿勢を示す研究者も少なくない。つまり、国際思想史と国際政治哲学は、各々の立ち位置と目的が比較的明確であり、相補的な分業関係になっている。
他方で、「現在」に軸を置く国際政治思想研究の位置づけは難しいが、「現在(同時代)の思想(現代思想)の研究」または「現在(同時代)の思想的研究」と広く捉えると、多様な研究や立場が包摂されうる。例えば、「ポスト実証主義」と呼称される諸研究には「国際関係の思想・哲学」よりも規範的なアプローチのものが多く、現代思想・社会思想などに依拠して現実を批判的に再検討する「批判理論」や「ポスト構造主義」などが含まれる*21。これらに通底するのは、現実を一定の理論的視座から(再)解釈し、隠れた問題を明るみに出すことで、より良い世界の(再)構築を目指す点である。また、規範的志向も宿しつつ、より記述的なアプローチで現実を理解・解釈しようとしたのが、国際政治学の古典的な現実主義や自由主義、英国学派であり、これらは「世界の見方」という体系的な思考様式を提示するものであった*22。さらに、国際政治学の社会構成主義*23や、各国の外交思想・外交構想に注目する外交研究、文化的・宗教的な世界観に焦点を当てる地域研究は記述的な国際政治思想研究、「あるべき世界の姿」を構想する地政学は規範的な国際政治思想研究とも見なしえよう。このように国際政治思想を広義に捉えれば、「現在」の理解・解釈に重心を置く既存の多様な研究は、解釈的(interpretative)な国際政治思想研究の一種として布置できる*24。
国際政治思想という観点からみれば、上記の諸研究はいずれも図2の点線のような射程を有すると考えられるが、あえて差異化すれば、各々の重心の置き方によって大まかな位置取りが示せる。ただし、図式化それ自体にはあまり意味がなく、注意すべきは解釈的アプローチの位置づけの難しさである。その難しさは、研究の多様性のみならず、多くが過去/現在/未来および記述的/規範的という領域の間を越境し、思想研究の諸側面を織り交ぜる傾向があるという点に由来する。もちろん、多くの思想研究者からは、上記の境界線はそもそも揺れ動き、峻別不可能であるため、「越境」という認識自体に再検討の余地があるという意見も出るだろう*25。いずれにせよ、ここでは次の点に留意したい。「現在」に軸足を置くアプローチは個人の職人的技能に依る部分が大きくなり、他者による再現性はそれほど高くない*26。加えて、長年にわたる研究・議論の蓄積および淘汰を経た結果、ある程度、解釈の軸が安定している「過去」の思想や歴史に比べれば、「現在」の解釈は振れ幅も大きく、評価が難しい。しかし、現にこの領域には豊饒な研究蓄積がある。また、思想的な研究と国際政治学が重なり合う領域でもある。そのため、意識的に連続性を探り、諸研究の布置関係の中で位置づけ・意義づけを行うことで、国際政治学の発展にも寄与しうる。そして、本書はこの領域における国際政治思想研究の一つの型を提示する。
さらに、上図の整理から、「過去の規範的」な研究と「未来の記述的」な研究が国際政治思想の中で固有の位置づけを有することも推論される。上述の通り、歴史的再構成と合理的再構成に準ずる国際政治思想研究は、すでに一定の評価を得ている。図2の右下がりの対角線上では、研究の「目的・対象」と「方法」に整合性があるため、科学的・学術的と評価されうるからである。他方、図3の右上がりの対角線上では、一見その整合性がなく、場合によっては似非科学と見られてしまう。確かに、「過去のあるべき姿」や「未来のありのままの姿」を論ずるという場合、歴史修正主義やSF小説などが想起されよう。しかし、近代の歴史学が国民国家の歴史を「あるべき姿」として描いてきたことは事実であり、国家単位で分断された「(国民国家の)歴史」の再検討を主張する「グローバル・ヒストリー」は、歴史に対する規範的思想の表出でもある*27。また、歴史認識問題とは、「あるべき過去」をめぐる国際的な思想・政治闘争である。他方、先見性のある著作が未来を予見し、我々が真剣に扱うべき対象となってきたことも否定しえない。古典ではオーウェル[2009]『一九八四』、近年ではネグリ/ハート[2003]『〈帝国〉』および『マルチチュード』『コモンウェルス』の三部作などが挙げられよう。実際に、類似例は数多くある*28。こうした営為は新たな認識枠組みを提示するものであり、国際政治思想研究の中での位置づけを意識し、慎重に扱うことで、国際政治学を活性化させることができるだろう。
以上のように多彩な国際政治思想研究の中で、本書は図3の外交研究に近いアプローチを取る。そのアプローチは次項に譲り、ここでは国際政治思想と国際政治学の連続性について補足し、まとめとしたい。まず、本書では国際政治思想研究を「国際政治に関わる思想の研究」および「国際政治に関わる事柄の思想的な研究」と広く捉えた。ここでいう「国際政治」とは、「国家間の政治」という主体を重視した意味ではなく、「国境を越える政治」という空間を重視した意味で用いる。そのため、国際政治の主体は主権国家に限定されず、国際機関や市民社会組織も含まれる。ただし、予見しうる将来において、国家は依然として国際秩序の基本的構成単位かつ最も重要な主体であり続けるだろう。その間、我々は国境で区切られた世界と国境を越える国際政治を思索から排除することはできない。また、多様な主体による国際政治においては、言語・シンボル・概念などを用いた協力や連帯、対立や闘争の営みが不可欠であり、この思想的側面を見ずに世界を理解することもできない*29。国際政治思想とは、こうした認識を背景とする名辞であり、国際政治思想研究と国際政治学は実際には連続的である。近年、国際政治学というディシプリンの限界が議論されているが*30、むしろ上述の国際政治思想を基礎にすることで、国際政治学を再構成ないし再生していく余地もあろう。
本書の位置づけおよび構成
本書が試みるR2P概念の国際政治思想研究は、前述の布置関係の中でいかなる位置を取るのか。本書の目的は、「概念をめぐる政治闘争」を思想的かつ歴史的に研究することで、その闘争の背景または基盤にある国際秩序論の動態を明るみに出すことである。そのため、R2P概念をめぐる国際的な言説と実践を歴史的に追跡し、「望ましい国際秩序」をめぐる議論(国際秩序論)の変遷に解釈的な分析を施していく。その際、本書は鍵となるいくつかの概念とともに、国際立憲主義/国際機能主義という「物差し」を用い、国際秩序論の変遷がいかなる方向に展開しているかを考察する。本書は図3の外交研究に近く、「記述的」アプローチに重心がある。ただし、本書の焦点は、概念および秩序認識という観念的な対象に向けられる。この点で、社会構成主義とも近い関係にある。また、本書は「歴史的」および「解釈的」研究であり、いわばR2P概念の「同時代史」研究を試みるものである。同時代史とは、現代史と時代区分は重なるが、加えて「過去になりきれず、現在に投影されている歴史」を含意し、その研究には「現状分析と歴史研究」「物事の変化と歴史の論理(法則)」「科学的実証分析と哲学的規範研究」の結合が求められる[五十嵐2003]*31。こうした観点から、終章では若干の将来的な見通しも示す。本書が国際秩序論の動態を十分に捉えられたならば、その知見を基にした論理的・思弁的な推論も可能であろう。
本書の重心と射程は上述のように概略できるが、二点、補足が必要であろう。第一に、国際秩序論の変遷は直線的・単線的に展開するわけではなく、多様な主体による政治闘争を通して紆余曲折し、その過程において主流化したり埋もれてしまったりする言説や思想も存在する。この不規則かつ複線的な展開は、分析する期間を長期に設定し、その展開を包括的に描くアプローチや、観察可能な実践や制度のみに着目するアプローチでは十分に捕捉できない。しかし、R2P概念に関する先行研究の多くは、これらのアプローチを取っている。第1章で先行研究の検討とともに説明するが、本書は複数の言説・思想の系譜に着目し、その展開の短期的なダイナミズムを可視化する。また、本書は言説・思想の分析を主とするが、その分析の裏づけとして、第4章と終章でR2P概念の制度化に着目する。第二に、外交研究などで思想が考察対象となる場合、大抵は特定の主体(国家など)の政策に焦点が当てられるが、本書は国際的な共通理解に焦点を当てる。なぜなら、R2P概念をめぐる言説の展開は複線的であり、国際秩序論の方向性を捉えるには、多様な主体の政治闘争を通して形成されたR2P概念の共通理解の変遷に着目する必要があるからである。次章で詳述するが、本書はその共通理解の変遷に合わせてR2P概念の展開を「三つの時期」に分け、各時期の共通理解を示す「三つの重要な文書」に注目して分析・考察を進める。
以上のような本書のアプローチは、国際政治思想研究としては周縁的であるが、それゆえに国際政治学の社会構成主義とは類縁的である。例えば、大矢根[2012]の国際秩序/レジーム研究は、本書と類似の枠組みで国際政治を分析し、政策アイディア(理念や概念など)の役割に焦点を当てている。大矢根[2012: 9-10]によれば、各国は国際政治の場で戦略的に国際レジームの形成や変化を図り、複数の「政策アイディア」を体系的に組み合わせ、秩序やその方向性の全体像、すなわち「外交構想」を提示する場合がある。政策アイディア・外交構想は、何が国際的な課題か、その課題にどう対応すべきか等の問いに対する解答を提供し、関係者を説得し、一定の行動を促す。そして、政策アイディア・外交構想は関係者の学習・説得・認識など、観察困難な世界で展開する。そのため、多くの場合、関係者の文章や言葉の分析に加え、補完的にインタビュー調査が行われる。このような枠組みとアプローチは、大枠としては本書と重なり合っている。ただし、大矢根は主体中心の観点から、特定の主体の政策アイディアが政治過程に及ぼす影響〈アイディア政治過程〉に着目するのに対し、本書は思想中心の観点から、多様な主体による政治闘争を通じた、概念の共通理解の変遷〈政治過程アイディア〉に注目し、その闘争と変遷に投影される国際秩序論の動態を考察する。
では、どのようにR2P概念に関する国際政治思想研究を進めるのか。本書全体の構成は以下の通りである。まず、第1章の前半で、R2P概念について概説し、同概念に関する先行研究の不備を検討する。概略すれば、先行研究には、相互に関連する二つの不備がある。第一に、先行研究の多くはR2P概念の意味内容を一面的かつ固定的に理解しているため、同概念と国際秩序論の関係も一面的・固定的にしか捉えられていない。しかし、実際は多様な理解の仕方があり、少なくとも三つの主要な議論の系譜が存在する。第二に、そうした一面的・固定的な理解が続くのは、一つには、R2P概念および国際秩序論の変遷を詳細に追跡・分析するための「分析枠組み」および「概念セット」が未発達だからであろう。そこで、第1章の後半では、先行研究の検討を踏まえ、本書のアプローチと分析枠組みについて詳説し、本書の分析上、必要不可欠な概念セットを設定する。繰り返しになるが、本書の目的はR2P概念をめぐる言説・実践を追跡し、国際秩序論の変遷の短期的なダイナミズムを可視化することである。特に着目するのは、当初、同概念の基盤であった「立憲主義的な国際秩序構想」が次第に後退し、「機能主義的な国際秩序構築」に転換されていく過程である。こうした目的や着眼点は先行研究では看過されており、第1章の後半で本書の基盤を整える。
具体的には、次のようなアプローチと分析枠組み、概念セットである。まず、本書は戦略的ナラティブ論[Miskimmon et al 2013]を参考に、R2P概念を「望ましい国際秩序を(再)構築するために、戦略的なコミュニケーションを通じ、過去・現在・未来に関する共通理解を形成しようとする戦略的ナラティブの一種」と捉え、同概念をめぐる議論を「望ましい国際秩序をめぐる政治闘争」と捉える。次に、「三つの時期(萌芽期、論争期、推進期)」「三つの国連(加盟国、国連事務局、市民社会)」「三つの(議論の)系譜(正戦/介入論、ガバナンス論、紛争予防論)」からなる分析枠組みを提示する。この枠組みにより、R2P概念の多面性(三つの系譜)と多主体(三つの国連)間の政治闘争に着目し、同概念と国際秩序論の連動を通時的に(三つの時期を通して)分析することが可能となる。また、国際秩序論の方向性を明確にする上で有用なのが、「国際秩序/グローバル秩序」「国家主権」「国際立憲主義/国際機能主義」からなる概念セットである。いずれも論争的で扱いは難しいが、本書は各概念をR2P概念と国際秩序論の展開を捉えるための分析概念として用いる。ここで重要なのは、先行研究が看過している「紛争予防論の系譜」と「国際機能主義」を分析に組み込むことで、R2P概念の歴史的・思想的研究がより精確かつ立体的になる点である。
第2章からは、上述のアプローチと分析枠組み、概念セットに基づき、R2P概念をめぐる議論および国際的な共通理解の変遷を分析する。第2章から第4章では「三つの時期」を一時期ずつ扱い、冷戦後のR2P概念の変遷を分析・考察する。まず、第2章では、冷戦終結から2001年にR2P概念が提示されるまでの「萌芽期」の展開を追跡する。萌芽期は、1990年代に国際社会が直面した諸問題を背景としてR2P概念が形成された時期である。そこで、第2章では、同概念が形成された国際政治上の文脈・背景を簡潔に確認した後、同概念の土台となった「三つの議論」の系譜を詳察する。これらの議論は90年代に盛んに論じられ、R2P概念を形成する土台となっただけでなく、2001年以降も同概念の主要な論争軸および共通理解の中心軸として重要な位置を占め続けている。そのため、本書はこの「三つの(議論の)系譜」を分析枠組みの一部とし、第2章ではR2P概念と各系譜の関連、系譜間の相違を詳述する。また、各系譜に内在する国際秩序観を考察することで、同概念が当初から立憲主義的な要素と機能主義的な要素を併せ持ち、異なる秩序構想と志向性を縒り合せた概念であったことを明らかにする。ここでは、紛争予防論を独自の系譜として位置づけられること、また、どの系譜が重視されるかによって国際秩序論の方向性も変わりうることを示す。
続いて、第3章で、2001年にR2P概念が提示されてから2009年に国連事務総長報告書『保護する責任の履行(Implementing the responsibility to protect)』が提出されるまでの「論争期」を分析・考察する。この時期は、多様な主体がR2P概念の内容や意義について錯綜した議論を行い、同概念をめぐる議論や実践がいかに展開していくのか不透明だった時期である。ただし、同概念に対する国際的な共通理解の形成という観点から見て、2005年の国連総会首脳会合(世界サミット)は重要な契機であった。加えて、世界サミット前後で同概念をめぐる言説・実践の展開に大きな変化がみられるため、第3章では世界サミットに至る議論の過程、およびその帰結として採択された「世界サミット成果文書」を重点的に分析する。論争期の展開が示すのは、R2P概念は提示された当初、「正戦/介入論」と国際立憲主義を中核としていたにもかかわらず、多様な主体が織りなす政治闘争を通じて、同概念の基軸が「ガバナンス論」および「紛争予防論」へと引き寄せられ、さらに、世界サミット後、紛争予防論を中心とする議論と実践が次第に顕在化してきたという事実である。また、論争期の展開が示唆するのは、「立憲主義的な国際秩序構想の後退」と「機能主義的な国際秩序構築への転換」である。第3章は、一般的な理解と異なるR2P概念の展開を浮き彫りにするが、それによって本書の分析枠組みの独自性と妥当性が示されるであろう。
もちろん、論争期はR2P概念の展開の方向性がまだ不透明であったため、論争期以降の展開を分析しなければ、「立憲主義的な国際秩序構想から機能主義的な国際秩序構築への転換」という命題は検証できない。そこで、第4章では、2009年に国連事務総長報告書が提出されてから現在まで*32、すなわち「推進期」の展開を分析し、上記の命題が冷戦終結後の国際秩序論の動態を適切に捉えられているか否かを明らかにする。推進期の展開の特徴は、国連事務局が毎年、国連事務総長報告書を提出するとともに、国連におけるR2P概念の議論を牽引している点である。その結果、R2P概念に関する詳細かつ具体的な議論が蓄積され、国連事務総長報告書を基礎とした国際的な共通理解の醸成、R2P概念の具体的な実践、同概念の実施に向けた制度化が一定の進展を見せている。第4章では、こうした推進期の実践、事務総長報告書の内容、国連における議論および制度化を追跡することで、2009年以降に紛争予防論を基軸とするR2P概念の共通理解および制度化が進展してきたこと(紛争予防論の主流化)、そして、この紛争予防論の主流化が「機能主義的な国際秩序構築」の進展を含意していることを示す。その帰結は、「R2P概念は国際立憲主義的な思想の産物である」という通説的な理解の解体であり、さらに「R2P概念の国際機能主義的な進展はいかなる国際秩序(再)構築を促しうるのか」という新たな疑問であろう。
終章では、冷戦終結から現在に至るR2P概念および国際秩序論の変遷を振り返りつつ、その変遷に含意されている国際秩序変動の方向性について、理論的な視座から考察を深める。とりわけ、現在、機能主義的な国際秩序(再)構築がいかなる形で進展しつつあり、その再構築がいかなる内実を有し、国際秩序の根本的な変動を促す可能性があるかを考察する。その際、重要なのは「権力」への着目である。なぜなら、現に進展しているR2P概念の制度化は国際秩序の再構築を促すと考えられるが、その制度化は多様な主体や制度を結びつける「ネットワークの拡大」として進展し、明示的かつ体系的(ハード)な制度化を伴わない、いわば「ソフトな(緩やかな)制度化」だからである。このソフトな制度化がいかなる国際秩序変動を促すかを洞察するには、明示的な制度や構造の変化に止まらず、その内部で作用する権力への着目が必要であり、R2P概念の展開がいかなる権力の発展を促しているかを考察する必要がある。終章では、本書の結論として、R2P概念の実践・制度化を通じ、立憲主義的な国際秩序構想とは本来、相性の悪い「超国家的な規律権力」が強化されつつある点を示す。また、近年、世界各地で人道危機が続いていることから、R2P概念への評価・関心の低下が論じられることが多いが、こうした議論は正戦/介入論が過度に重視されている結果と考えられる。そこで、2016年以降の展開を概観し、基本的には紛争予防論を基軸とする「推進期」の方向性が維持されていることを確認する。
そして、最後に、本書から得られるインプリケーションを示す。まず、R2P概念は多面的・輻輳的な概念であり、同概念が議論される言説空間や文脈、議論を牽引する中心的主体の変化によって、同概念の内容や力点が揺れ動き、その変動に国際秩序論の方向性や内実も連動する。そのため、本書が明らかにする近年の方向性も多主体間の政治闘争を通じて転換されうるが、本書の分析枠組みを用いることで一貫した研究が可能となるだろう。次に、国際政治思想研究と国際政治学の重なり合う領域、とりわけ帝国論とグローバルガバナンス論の間に、未開拓の研究領域が広がっていることが示唆される。例えば、「超国家的な規律権力」すなわちグローバルな監視・規律に係る行動様式・規則・制度・理念の形成・普及を通じて、国際社会のアーキテクチャが組み替えられていく過程を解明するという研究がありうる。近年、国際政治学というディシプリンの限界が論じられる中、むしろ国際政治思想を基礎に、未開拓の領域を可視化し、オルタナティブな国際政治学を構想していくことも可能であろう。本書の第一義的な目的は、国際秩序および秩序認識の動態を反映するR2P概念の展開に焦点を合わせ、冷戦後の国際秩序論の動態を分析・考察することだが、それは同時に、国際政治思想研究の新たな可能性を開くことにもつながるだろう。
〈注〉
*1: Fukuyama[1992]は冷戦終結直後に自由主義と民主主義の最終的な勝利を謳ったが、彼のその後の一連の著作は、こうした(国際および国内秩序を含む)世界秩序の動揺を追跡した同時代史的記録ともいえる。
*2: 以下では、国際政治学と国際関係論を区別せず、両者を含んで「国際政治学」と記す。
*3: 日本国際政治学会の機関誌『国際政治学』は、記念すべき第200号の特集テーマを「オルタナティブの模索―問い直す国際政治学」[日本国際政治学会2020b]としている。また、2014年から2016年には、同学会内に設置されたタスクフォースが日本の国際政治学の系譜と特徴を検討し、その成果をまとめた一連の論文が『国際政治』199号[日本国際政治学会2020a]に掲載されている。
*4: 他にも、例えばKissinger[2014]、大芝[2014]、滝田[2014]、Parker[2013]、細谷[2012]などがある。また、近年、Foreign Affairs(Vol.96, No.1, January/February 2017)や『レヴァイアサン』(58号、2016年)などの国内外の雑誌でも、国際秩序ないし国際秩序認識を特集テーマとした号が編まれている。
*5: 国際秩序の再考に関する研究は、1990年代に出版された書籍に限っても、Fukuyama[1992]やHuntington[1996]などの論争を呼んだ著作の他に、国際秩序の歴史的研究(例えば、Holsti[1991]、Hall[1996])、政治理論や批判理論に依拠して国際秩序を問い直した研究(例えば、Held[1995]、Cox[1996])など、枚挙にいとまがない。また、政治理論や国際関係理論に基づき、様々な角度から国際秩序の現状と変容可能性を考察した論文集として、Gill&Mittelman[1997]やPaul&Hall[1999]、Caporaso[2000]もある。
*6: 本書における「主権国家体系」と「国際秩序」の差異については、第1章3節1項で説明する。
*7: ドイツ歴史学の一潮流をなしている「概念史」研究も、同様に、概念と社会構造の双方向的な影響関係に注目している。概念史の方法については、例えば、Koselleck[2002]、Richter[1995]などを参照。
*8: 例えば、米国のThe Fund for Peaceが毎年発表している「脆弱国家指数(Fragile States Index)」は、国内秩序を不安定化させる12のリスク要因から各国の脆弱度を数値化し、順位づけを行っている。また、スローター[Slaughter 2004: 12-13]が論ずるように、国境を越えた政府間ネットワークが複雑に発展している先進国においては、国家を「統一された主体」と見なすのはもはや現実的ではない。
*9: 国家の地位の相対的な低下を論じた代表的な著作として、Strange[1998]やSassen[1996]がある。
*10: 細谷[2012]は、均衡・協調・共同体という三つの基本原理が18世紀以来、各々の時代状況に合わせて異なる形で国際秩序に組み込まれてきたことを明らかにしているが、これらは基本的には主権国家体系の「枠内」で秩序を安定させるための原理である。また、冷戦後に急速に拡大した平和構築活動は、主権国家体系を掘り崩しかねない異質な国家を同体系に適合・同化させていく活動ともいえる[篠田2013: 34]。
*11: 簡潔な説明として、例えば、篠田[2012: 3-6]を参照
*12: 科学哲学に基づく「科学主義」や「客観性の神話」の批判については、例えば、野家[1993]を参照。
*13: コスモポリタン/コミュニタリアンは、政治学ではリベラル/コミュニタリアン、国際政治学の英国学派では連帯主義/多元主義という類似する二項に置き換えられている。国際政治学(国際政治思想)における議論はBrown[1992]などを参照。また、正戦論についてはウォルツァー[2008]やフォーク[2020]、グローバル正義論はベイツ[1979]やミラー[2011]、国際倫理学はシャプコット[2012]や高橋/大庭[2014]などを参照。なお、以下で例示する参考文献は、日本語の書籍(邦訳書を含む)を優先する。
*14: 例えば、押村[2010]などを参照。
*15: この「合理的再構成」と以下で触れる「歴史的再構成」という対照的なアプローチは、ローティ[1988]を参照。また、思想史の方法に関する議論は、小笠原/飯島[1990]や『思想』[2019]などを参照。
*16: 例えば、特定「個人」の思想研究は宮下[2012]やオーウェンズ[2014]など、特定「主題」については、グローバルガバナンスを扱った遠藤[2010]やブリテン帝国を扱ったアーミテイジ[2005]などを参照。また、特定の「時空間」に関しては、「戦間期」を扱った三牧[2014]や西[2018]、「ドイツ」の国際政治思想を扱った葛谷[2005]や大原[2013]などがある。国際政治の概念史には、篠田[2012a]や押村[2015]、五十嵐[2016]などがある。「概念史」と「観念史(History of Ideas)」の区別は難しいが、後者をラヴジョイ[2013]等を中心に発展してきた方法(様々な思想に共通している単位観念unit-ideasに着目し、その展開を分野・時代・空間横断的に追跡する)と捉えるならば、国際政治学における観念史的な研究は未発達だが、アーミテイジ[2019]は国際政治の観念史の一例とも位置づけられる。
*17: 例えば、酒井[2007]や酒井[2013]などを参照。
*18: 例えば、歴史的な思想研究を主張したスキナー[1990: 120-121]は、以下のように主張している。[思想の歴史性を重視することは]われわれが伝統的、いや「時代を超越した」真理としてさえ受け入れがちなわれわれ自身の諸制度の特徴が、どの程度まで、実は、われわれに特殊な歴史や社会構造の偶然的産物の最たるものにすぎないかを示すのに役立ちうるであろう。[中略]過去から―われわれはそもそもそれ以外には学びようがないのだが―必然的なものとわれわれ自身の偶然的な制度の産物にすぎないものとの相違を学ぶことは、自己認識そのものへの鍵を学びとることなのである。また、アーミテイジ[2015: 16-17]によれば、国際思想史の唯一の課題とは「いかにして世界中のわれわれすべては、諸国家の世界に生きていると想像するに至ったのか」を理解することである。タック[2015: 397-398]は、ヨーロッパ生まれの自由主義と暴力との原初的な結びつき、および海外進出・植民地主義との連関を思想的に明らかにしているが、この結びつきは歴史的には偶然に左右され、いつ無効になってもおかしくないものであり、その歴史を知ることで我々の時代について知ることができると論じている。
*19: 国際政治学の学説史については、例えば、春名[2015]、初瀬ほか[2017]、葛谷ほか[2017]、Schmidt&Guilhot[2019]などを参照。
*20: 例えば、芝崎[2015]や葛谷/芝崎[2018]などを参照。また、こうした研究は、国際政治学の中で「ポスト実証主義」と総称される多様な研究に接近する。例えば、主権概念の歴史を系譜学的に追跡し、国際関係の成立を考察したバーテルソン[Bartelson 1995]などが挙げられる。ただし、以下で改めて触れるが、国際政治学のポスト実証主義的研究は、より合理的再構成に近いアプローチをとることが多い。
*21: 例えば、土佐[2006]や清水[2013]、土佐[2016]などを参照。
*22: 例えば、現実主義思想についてはスミス[1997]など、英国学派についてはブザン[2017]などを参照。
*23: 国際政治学の社会構成主義(コンストラクティヴィズム)にも幅広い研究が含まれるため、一括りにはできないが、国際政治学に導入された当初の研究(例えば、Onuf 1989)は、世界のあり方を思想・哲学的に問う視点が明確であった。また、日本における社会構成主義の先駆けともいえる馬場[1980]は、外交史研究から出発し、その延長線上で、アイデンティティ――多様な主体が自己の価値や理念を実現し、一定の時空(世界・史)の中で、自己の存在証明を求める精神作用――を中核とする理論を提唱した。
*24: 英国の国際政治学者ブラウン[Brown 2002: 3]は、「説明」のための実証主義的理論や「倫理」的な規範理論ではない、「解釈」のための「国際政治理論(international political theory)」を提唱している。
*25: こうした認識論および存在論を含む、哲学的な問いは国際政治思想研究において検討すべき重要な課題であるが、本書の限界を超えるため他日を期したい。
*26: ただし、他者による再現性が高くないとしても、「恣意的」または「客観的でない」と結論づけるのは短絡的であろう。解釈には当然、一定の基準が要求される。また、客観性は、本来、「開かれた議論」によって保証されるものである。
*27: グローバル・ヒストリーについては、例えばハント[2017]や山下[2019]などを参照。
*28: 例えば、田中[1996]『新しい中世』やハンティントン[1998]『文明の衝突』、アタリ[2008]『21世紀の歴史』、ハラリ[2018]『ホモ・デウス』、アーリ[2019]『〈未来像〉の未来』など。
*29: 田中[2000]は、国際政治においては、軍事力・経済力による「パワー・ポリティクス」だけでなく、言語の力を用いた「ワード・ポリティクス」が重要だと指摘している。近年のコミュニケーション技術の発達や「ポスト・トゥルース」現象を勘案すると、その指摘は一層、重要性を増していると考えられる。
*30: 近年の国際政治学の再検討については、葛谷/芝崎[2018]などを参照。
*31: 日本では2002年に同時代史学会が創設されている。同時代史の方法論やディシプリンとしての発展はあまり明確にはなっていないが、同時代史の概略については、同時代史学会[2003]を参照。
*32: 第4章では世界サミットから10周年の2015年までを扱い、その後の展開は終章で改めて触れる。
- あ行
- アーキテクチャ 49, 61-62, 65, 83-84, 93, 117, 127, 177, 261, 295, 297-298
- アックスワージー, ロイド(Lloyd Axworthy) 57-58, 108-109, 132
- アナン, コフィ(Kofi Annan) 35, 37, 57-58, 99, 103-104, 112, 115-116, 148-149, 151-154, 164-168, 170-171, 175, 180, 183, 201, 245, 257
- アフリカ 105, 107-108, 120-121, 135, 148, 150, 216, 233, 238, 249
- ―連合 AU
- アルゼンチン 147, 220-221, 240
- イグナティエフ, マイケル(Michael Ignatieff) 57, 59, 82, 144-145
- インド 97, 145, 159, 194, 198, 202, 204, 208, 233, 235, 272
- ヴェネズエラ 159-160, 194-195, 204, 208, 233, 235
- ウェルシュ, ジェニファー(Jennifer Welsh) 210, 213, 236-238
- 英国(英) 58, 99, 103, 120, 140, 144-147, 159, 163, 179, 196-198, 204-205, 213, 220, 245
- ―学派(English school) 18, 29, 48, 61, 63, 66, 83, 94, 178, 275
- エヴァンス, ガレス(Gareth Evans) 57-59, 82, 105, 109-111, 135, 145, 148-149, 151, 160, 165-166, 182, 184, 194, 198, 205-206, 233, 285-286
- 欧州(ヨーロッパ) 45, 68, 70, 72, 99, 146, 159, 216, 254, 275
- ―連合 EU
- オバマ, バラク(Barack Obama) 192, 196, 198, 223-226, 236
- か行
- 介入 36-37, 42, 45-47, 58, 98-99, 104, 108, 117-120, 127-128, 140, 145-148, 151-152, 154, 205-207, 229, 234, 248, 253, 274, 286
- ―と国家主権に関する国際委員会 ICISS
- ―の権利/法(droit d'ingrence) 101-102, 182
- 人道的― 12-13, 35, 56-60, 80-83, 96-101, 103, 109-111, 131, 188, 194, 245-246
- 正戦/介入論 55-56, 58-60, 101, 109, 111-112, 115-116, 119, 121, 124, 126-129, 151-152, 198-199, 205, 208, 244-246, 252, 258, 263, 270
- 開発 91, 105-107, 110, 118, 129, 132-133, 150-153, 157, 160, 172, 180, 194, 229
- カナダ 57-58, 108-109, 133, 144, 147, 149, 153, 159, 165, 180, 195
- カーネギー財団(Carnegie Corporation of New York) 58, 111, 132
- ガバナンス 45, 59, 63, 105-109, 118-119, 121, 128, 132, 221, 251, 267, 280, 295
- ―論 56, 59-60, 105-109, 111, 114, 118-119, 121-124, 127-129, 152-153, 219, 226, 229, 244-246, 249-250, 252, 254, 259, 265
- グッド― 56, 59, 83, 106-108, 118-120, 123, 150, 172, 229, 244
- キガリ原則 271-274, 282
- 北大西洋条約機構 NATO
- 機能主義 72-74, 85-87, 228-231, 261-262, 282, 288, 292, 299
- ―の肥大化 260, 264, 268, 274, 278-279
- 規範 13, 43, 45-48, 50, 65, 69-71, 83, 160, 162, 190, 193, 252, 287, 295-296
- 虐殺犯罪に対するグローバル・アクション GAAMAC
- 虐殺防止会議 APB
- 9・11 139-142, 147, 178-179, 294
- キューバ 194-195, 204, 208, 215, 233, 235
- 脅威・挑戦・変化に関するハイレベルパネル HLP
- 拒否権 117, 147, 151-152, 154-159, 175, 191, 193, 195, 204-205, 212-213, 235, 253, 270
- クシュネル, ベルナール(Bernard Kouchner) 101-102, 104, 115, 131, 163, 182
- グテーレス, アントニオ(Antnio Guterres) 221, 271
- グローバル
- ―秩序 50, 63-65, 141-142, 147, 184, 277, 294-295, 300
- ―ガバナンス 11, 45, 63-65, 84, 276-278, 292, 295-296, 298, 300
- ケニア 164, 172, 180, 190, 194, 201, 218, 257
- 権威 36, 67, 107, 117, 119, 124, 132, 247, 252, 254, 266, 277-278, 296
- 権力 40-42, 46, 64-65, 67, 70-71, 73, 84, 106-107, 115, 117, 119, 121, 124, 231-232, 251-255, 261-268, 274, 277- 279, 283-285, 296-297, 300
- 規律― 26-27, 41-42, 214, 265-268, 271, 274, 279-282, 284, 287-288, 295-298, 300
- 超国家(的な)― 26-27, 40-42, 124, 242, 252-255, 265, 267-268, 274, 277-279, 281-283, 294, 298
- 統治― 41, 254-255, 261, 263-265, 268, 287, 296-297
- 豪州(オーストラリア) 57, 109, 147, 159, 180, 195, 216, 239
- 構造的予防(structural prevention) 47, 59-60, 83, 111, 113-114, 172, 177, 201, 203-204, 214, 226, 229, 257, 265
- 国益 40, 94, 103-104, 132, 140, 143, 234
- 国際機能主義(機能主義的な国際秩序構築) 21, 23-26, 70, 72-74, 121, 124, 128-129, 176-177, 227, 231, 249, 251, 255, 261, 263-265, 268, 274-277, 294, 297
- 国際(的な)支援 37, 47, 96, 106, 108, 112-113, 120, 157-159, 171, 175, 177, 189, 196, 211, 245, 276
- 国際秩序 61-63, 147, 231, 244, 249, 253, 259-261, 264-265, 275-277, 280, 283, 294-296, 298
- ―論(望ましい国際秩序をめぐる議論) 12-13, 21-23, 27, 40, 42- 49, 51, 64-65, 70-71, 73-77, 108, 123, 129, 141-142, 174-178, 227, 251-253, 292-294, 298
- 国際平和研究所 IPI
- 国際立憲主義(立憲主義的な国際秩序構想) 21, 23, 25-26, 46, 69-71, 73-74, 115-119, 121, 127-129, 141-145, 174-177, 227, 229, 244, 247-249, 251, 253-255, 263-265, 275-278
- 国際連合(国連)
- ―安全保障理事会(安保理) 36, 71, 91-93, 116-117, 125, 151-152, 159, 163, 197-199, 204, 217-218, 228, 252-253, 263, 271, 277
- ―安全保障理事会(安保理)決議 35, 90, 95-99, 102, 113, 135, 141, 145, 162-163, 181, 197-200, 204-205, 209-212, 234, 236, 258, 270
- ―安全保障理事会(安保理)常任理事国 P5
- ―開発計画 UNDP
- ―憲章 36-37, 62, 71, 91-92, 104, 111, 113, 117, 125, 127, 145, 151, 154, 157, 186, 190, 198, 202-203, 207, 212, 217-218, 252-253, 263
- ―事務局 53-55, 82, 113, 153-156, 160-173, 189-191, 202-204, 206-208, 212-213, 215, 217-219, 222, 227, 246, 257-260, 263, 265, 267, 274, 288-289
- ―事務総長 SG
- ―事務総長代表 RSG
- ―人権理事会 156, 189, 262, 270-271
- ―総会 67, 153, 157, 163-164, 181, 191-194, 197, 199-200, 203, 205, 210-212, 215, 219-220, 225, 237, 269-271, 274
- ―総会決議 95, 102, 131, 133, 150, 154, 193, 197, 237, 269
- ―総会首脳会合 WS
- 国内避難民 IDP
- コソヴォ 12, 35, 39, 57-58, 97-99, 102- 104, 139, 288
- コートジボワール 197, 199, 204, 234
- 個別の事例ごとに(on a case by case basis) 159, 175, 198, 190, 206, 263
- 介入 36-37, 42, 45-47, 58, 98-99, 104, 108, 117-120, 127-128, 140, 145-148, 151-152, 154, 205-207, 229, 234, 248, 253, 274, 286
- さ行
- サヌーン, モハメド(Mohamed Sahnoun) 57, 233
- ジェノサイド 113, 154, 156, 163-164, 168-171, 176, 179, 182-183, 188, 210- 211, 215, 217, 219, 223-225, 228-229, 232, 248, 250, 257, 282
- ―・大量虐殺予防のためのアウシュヴィッツ研究所 AIPG
- ―防止担当事務総長特別顧問 SAPG
- ―防止特別委員会 GPTF
- 実践的防止(operational prevention) 47, 60, 111, 113-114, 123, 133-134, 172, 177, 201-204, 208, 224-227, 229, 252, 257-258, 265, 267, 292
- 社会契約 116, 119, 134, 176, 228-229, 240, 247-251, 255, 261-262, 286
- 社会構成主義(コンストラクティヴィズム) 14, 18, 21-22, 30, 49-50, 81, 84, 130
- 収穫文書(harvest document) 156, 167
- 主権(国家主権) 12-13, 35, 38-41, 66, 93-94, 99, 102-104, 108, 115, 119-120, 147-148, 158, 189, 252-253, 265-266, 277, 294, 297
- 機能主義的な― 61, 66, 68-70, 255, 277, 286
- 国民主義的な(national)― 61, 66-69, 286
- ―国家体系(国際システム) 9-12, 28-29, 62, 66, 93, 125, 141, 275, 278, 294
- 消極的―(negative) 66-67, 94, 96, 98-99, 107, 116, 120, 126, 142- 143, 157, 175-176, 193, 244-246, 275-276
- 積極的―(positive) 66-67, 94, 96, 98-99, 107, 120, 142-143, 175-176, 191, 244-246, 257, 275-276, 294
- 責任としての―(sovereignty as responsibility) 36, 39, 45, 56, 59, 105, 107-109, 118-121, 124, 127-128, 151, 188, 191, 194, 230, 248-249, 261, 273, 275, 285
- 二つの― 58, 104, 115, 129
- 立憲主義的な―(constitutional) 61, 66-69, 116, 255, 286
- シュミット, カール(Carl Schmitt) 134, 252-253, 285
- シリア 120, 135, 197, 199-200, 204-205, 207-209, 229, 234, 236, 268-271, 300
- 人権を最優先に(イニシアティブ) RuF
- 人道主義(humanitarianism) 93-96, 98, 102-103, 140, 142, 144
- 推進期 55, 197, 200, 227, 230-231, 252, 257-259, 261, 274, 283
- スーダン 162-163, 179, 194-195, 235, 281
- スリランカ 196, 211, 217-218, 233, 281
- スレブレニツァ 92, 98, 130, 188
- 正当性
- 成果・結果(出力志向)の― 73, 86-87, 206, 228, 231, 261, 263
- 手続き(入力志向)の― 73, 86-87, 206, 228, 231, 261, 263
- 制度化 215, 218, 224-225, 229-231, 257-260, 264-265, 283, 295
- ソフトな― 26, 78, 221-222, 242, 251, 259, 264-265, 280
- ハードな― 26, 78, 222, 242, 251, 264
- 世界銀行(世銀) 105-106, 129, 132, 221, 280
- 世界サミット WS
- 責任(responsibility) 35, 95-96, 99, 107, 112, 116, 123, 176, 247-248
- 国際社会の(保護する)― 35, 37, 116, 121, 128, 147, 151, 154-157, 160, 190, 234, 247-248, 258
- 再建する―(responsibility to rebuild) 36-37, 59, 128
- 説明―(accountability) 106-109, 116, 118-119, 124, 203, 205, 212, 229-230, 251, 254, 264, 271, 277, 280, 289
- 対応する―(responsibility to react) 36, 59, 127, 138, 161
- 予防する―(responsibility to prevent) 36, 59, 110-111, 128, 138, 161, 164, 170, 177
- 狭いが深い(narrow but deep) 188, 229, 232, 238, 262
- 戦略的ナラティブ(strategic narrative) 23-24, 49-52, 75, 115, 126, 174, 243
- 早期警報 110-111, 113-114, 133-135, 154, 161, 166, 168-170, 172-173, 177, 187-189, 191, 193-197, 201-204, 207, 211, 215-223, 225, 227, 230-233, 246, 257-260, 263, 265-267, 271, 274, 279- 283, 288-289
- ソマリア 92, 102, 281
- た行
- 体制転換(regime change) 120, 131, 198-199, 205, 208-209, 229, 234, 262, 286
- 第一の国連(加盟国) 54-55, 82, 138, 143, 148, 152, 160-161, 197, 200, 245, 257, 292
- 第二の国連(事務局) 54-55, 143, 148, 152, 161-162, 165, 187, 197, 200, 227, 245-246, 257, 277, 292
- 第三の国連(市民社会) 54-55, 125, 143, 148, 152, 162, 165, 197, 200, 244-245, 286, 292
- 第一の柱(国家の保護責任) 37, 47, 189-190, 195, 202-203, 207-208, 210-211, 228-230, 258, 270, 292
- 第二の柱(国際支援と能力構築) 37-38, 47, 171-172, 189-191, 194-196, 199, 202-203, 205, 207-211, 213, 224, 227, 229, 258-259, 272, 274, 292
- 第三の柱(適時かつ断固とした対応) 37, 47, 190-191, 194-195, 198-199, 202-209, 214, 218, 224, 229, 233, 258, 271, 273-274, 292
- 大量虐殺に関する大統領令第10号 PSD-10
- タクール, ラメシュ(Ramesh Thakur) 57, 59, 82, 145, 147, 149, 198, 233, 286
- 多元主義 44-45, 70, 79-80, 142-144, 157, 180-181, 195, 227
- 多国間主義 90-93, 96, 98-99, 130, 140-146, 149, 157, 179-181, 195, 227
- 多主体間 24, 45-46, 51, 53-54, 143, 213, 243, 258-260, 264-265, 278, 283, 294, 298, 300
- ダルフール 162-163, 179
- ダレール, ロメオ(Romo Dallaire) 165, 182
- 単独行動主義 99, 139-146, 179-181, 245, 294
- 地域 63, 68, 86, 106, 132, 192, 195, 207, 216, 220-221, 232, 275
- ―機構 148, 190, 193, 201-204, 212, 214, 218-219, 221-222, 264
- 中国(中) 45, 97, 99, 120, 135, 159, 163, 194-195, 197-199, 204-205, 209, 213, 233, 236, 272, 289
- 中南米大量虐殺予防ネットワーク
- La Red
- ディエン, アダマ(Adama Dieng) 208-209, 221
- 帝国 11, 20, 27, 64, 141, 179, 194, 277-278, 292-295, 298
- 停滞(期) 200, 209-210, 212, 268-269
- デン, フランシス(Francis M. Deng) 59, 96, 107-109, 118-120, 128, 132, 135, 171, 177, 192, 200, 209, 240, 249-251, 261
- ドイツ(独) 99, 144, 147, 180, 195, 198, 204-206, 236
- 同時代史 21, 27, 31, 44, 74
- 統治性 41, 69, 79, 254-255, 265, 278, 285-287, 295, 297, 300
- な行
- 77か国グループ G77
- ニカラグア 192, 194, 234-235
- 西アフリカ諸国経済共同体
- ECOWAS
- ―早期警報・対応ネットワーク ECOWARN
- 日本 133, 159, 180
- 人間の安全保障 9-11, 44, 58, 108-109, 111, 115, 132-133
- ネットワーク 26, 64, 78, 203, 218-223, 226, 230, 259-260, 264-267, 274, 279- 280, 282-283, 286, 294, 298, 300
- は行
- パキスタン 145, 159, 180, 194, 203-204, 208, 233, 235, 272, 284
- 潘基文(Ban Ki-moon) 34, 37-38, 47, 77, 164, 171-172, 176, 183, 187-188, 191-198, 202, 206, 211, 215-217, 224, 227, 237, 257, 267, 282
- 非同盟運動 NAM
- ピン, ジャン(Jean Ping) 153-154, 166, 284
- フーコー, ミシェル(Michel Foucault) 41-42, 69, 214, 231-232, 252, 254, 265-268, 274, 278-279, 281-282, 284, 286-287, 295-297, 300
- ブトロス=ガリ, ブトロス(Boutros Boutros-Ghali) 56, 60, 91-93, 103, 109-110, 123-124, 133, 135, 190, 246
- 普遍的定期審査(universal periodic review) 189, 262
- ブラジル 159, 194-195, 198, 204-208, 220, 235, 258-259
- ブラヒミ報告書 110, 113, 182, 190, 218
- フランス(仏) 99, 102, 120, 131, 159, 163, 179, 196-199, 204-205, 212-213, 220, 234, 236
- 武力紛争の予防の関するカーネギー委員会 CCPDC
- ブレア, トニー(Tony Blair) 58, 103, 115, 132, 145, 147, 178
- 分析枠組み(Framework of Analysis) 217-218, 230, 259, 262
- 紛争予防 109-113, 123-125, 149, 154, 161, 168, 170, 172, 195, 210-211, 221, 225, 230, 244, 258, 271
- ―能力 92-93, 96, 113, 123, 149, 153, 190, 226-227
- ―論 56, 59-60, 109-110, 112-114, 122-127, 129, 153, 170, 195, 201, 204-205, 207-213, 218, 226-227, 229-230, 244-246, 257-260, 263, 265, 271, 273, 282-283, 292
- 文民(の)保護(protection of civilians) POC
- 米国(米) 10, 45, 58, 90, 92, 99, 120, 131-132, 140-141, 144-148, 155-156, 159, 163, 167, 178-179, 192, 194-198, 204-207, 213, 219-226, 236, 259, 272, 280, 289, 294-295
- ―国際開発庁 USAID
- 米州機構 OAS
- 平和維持活動 PKO
- 『平和への課題(Agenda for Peace)』(『課題』) 56, 60, 92-93, 109-110, 113, 123, 133, 182, 190
- ベラミー, アレックス(Alex J. Bellamy) 47-48, 201, 208, 236
- 萌芽期 55, 89, 122, 125, 243-244, 246-247, 255
- 保護する責任
- ―グローバル研究所
- GCR2P
- ―実現を求める国際NGO連合 ICRtoP
- ―担当事務総長特別顧問 SAR2P
- 『―の履行(Implementing the responsibility to protect)』 25, 34, 37, 137, 186
- ―フォーカルポイント・イニシアティブ FPI
- 保護中の責任 RwP
- ボルトン, ジョン(John Bolton) 155, 157, 159, 167-169, 181
- ま行
- 三つの柱(R2Pの三つの柱) 37-38, 171, 187, 189, 195, 202, 209, 227-228, 230, 232, 258
- ミトラニー, デイヴィッド(David Mitrany) 72-73, 86, 124, 231, 261, 299
- 南アフリカ(南ア) 159, 204, 208
- ミャンマー 163, 182, 248, 262, 269, 271, 285-286
- 民族浄化(ethnic cleansing) 78, 97, 163, 176, 188, 215, 229, 248, 286
- や行
- ユーゴスラビア 92, 97
- 抑止 112-113, 208, 214, 224, 226, 258, 263, 273, 282
- 予防
- ―外交 92, 110-112, 133, 135, 172, 211-212, 214, 223, 225, 257-258, 277
- ―展開 110, 112, 133-134, 190, 214, 258, 263, 267
- ら行
- ラック, エドワード(Edward C. Luck) 38, 113, 134, 164, 166, 171-173, 176, 183, 187, 191-192, 194, 197, 200-207, 209, 217, 227, 235, 261-263, 267, 286
- リビア 80-81, 196-201, 203-205, 207- 208, 226, 229, 234, 258, 262-263, 269, 300
- ルワンダ 92, 159, 165, 168, 182, 188, 195, 272, 274
- ロシア(露) 45, 97, 99, 120, 131, 135, 159, 163, 194, 197-199, 204-205, 213, 232, 236
- 論争期 55, 136, 174-178, 194-195, 197, 201, 205, 227, 243-247, 254-257, 259
- わ行
- ワイス, トーマス(Thomas G. Weiss) 54, 57, 59, 78, 82-83, 148, 165, 178, 180, 198, 201, 233
- 欧文
- AIPG(ジェノサイド・大量虐殺予防のためのアウシュヴィッツ研究所) 219-221, 223, 238
- APB(虐殺防止会議) 224-226, 240, 259
- AU(アフリカ連合) 148, 202-204, 238, 240, 272, 286
- CCPDC(武力紛争の予防に関するカーネギー委員会) 58-60, 110-113, 123-124, 127, 132-134, 182, 218, 230, 235, 264
- ECOWARN(西アフリカ諸国経済共同体早期警報・対応ネットワーク) 220-221, 226, 239
- ECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体) 195, 220-221, 239
- EU(欧州連合) 40, 179, 193, 195, 202, 204-205, 208, 220, 222, 240, 272, 286
- FPI(保護する責任フォーカルポイント・イニシアティブ) 220, 222-223, 226, 235
- G77(77か国グループ) 145, 158-159
- GAAMAC(虐殺犯罪に対するグローバル・アクション) 220-221, 239
- GCR2P(保護する責任グローバル研究所) 165, 192, 197, 202, 204, 208, 219-221, 223, 226, 233, 235, 239, 259
- GPTF(ジェノサイド防止特別委員会) 192, 223-225
- HLP(脅威・挑戦・変化に関するハイレベルパネル) 148, 151-153, 180, 206, 245
- ICISS(介入と国家主権に関する国際委員会) 42, 46, 55-60, 82-83, 99, 108-111, 119, 126, 128, 140, 144, 147, 151, 175, 177, 244, 253, 285
- ―報告書 34-38, 111-112, 115-116, 120-122, 124, 127-128, 176, 182, 205-206, 218, 228, 235, 240, 245, 248, 252-253, 261, 275
- ICRtoP(保護する責任実現を求める国際NGO連合) 165, 182, 192, 202, 204, 208, 219-223, 232-233, 259
- IDP(国内避難民) 59, 95-96, 98, 107-109, 132, 249-250, 269
- IPI(国際平和研究所) 113, 134, 172
- La Red(中南米大量虐殺予防ネットワーク) 220, 223, 238
- NAM(非・諸国同盟運動) 145, 158-159, 193-194, 233
- NATO(北大西洋条約機構) 35, 97-99, 204
- NGO(非政府組織) 45, 53-54, 57, 82, 95, 102-103, 106, 108, 149, 165, 177, 182, 192, 218-219, 221-222, 259, 266- 267, 280
- OAS(米州機構) 220, 222
- P5(安保理常任理事国) 71, 117, 147, 154-155, 158-159, 175, 212-213, 234, 253, 277
- PKO(平和維持活動) 91-92, 111-112, 133, 199, 210-211, 214, 217, 223-225, 234, 258, 267, 271-274, 277, 288
- POC(文民保護) 44, 109, 154, 162-163, 168, 181, 197, 271-272, 274, 282
- PSD-10(大量虐殺に関する大統領令第10号) 224-225
- RSG(事務総長代表) 59, 95-96, 107, 249
- RuF(人権を最優先に) 211-212, 218, 282
- RwP(保護中の責任) 204-207, 228, 235, 259, 263
- SAPG(ジェノサイド防止担当事務総長特別顧問) 164, 166, 168-171, 182-183, 189, 191-192, 197, 200, 202, 208-209, 211, 215-219, 221, 230, 232, 257, 259, 262
- SAR2P(保護する責任担当事務総長特別顧問) 164, 169, 171, 183, 210-211, 213, 215-219, 224, 230, 236-237, 257- 259, 262
- SG(国連事務総長) 47, 53-54, 82, 92, 102, 113, 162, 190-191, 211-212, 217- 218, 281
- ―報告書 37-38, 47, 77, 123, 171- 172, 187-197, 200-213, 215-216, 218, 227-230, 232, 248, 258-262, 264, 270-271, 274, 282
- UNDP(国連開発計画) 106, 108, 132, 217-218
- USAID(米国国際開発庁) 225-226, 239
- WS(国連総会首脳会合, 世界サミット) 25, 34, 36-37, 56, 112-113, 150-153, 160, 197, 211, 228, 237, 245, 256, 269, 274
- ―成果文書 25, 34, 37-38, 123, 150- 154, 156-162, 165-178, 194, 198, 206, 215, 228, 245-250, 252, 254- 255, 257, 259, 261-263, 284