有害廃棄物に関するグローバル・ガヴァナンスの研究 政策アイディアから見たバーゼル条約とその制度的連関

渡邉智明
書影『有害廃棄物に関するグローバル・ガヴァナンスの研究』

有害廃棄物の越境移動を規制するバーゼル条約は、環境と貿易という異なる目的の制度間関係の狭間で政治的対立が避けられなかった。本書は、国際社会がこのような課題に向き合う中で、政策アイディアを議論、共有し、ガヴァナンスという開かれた制度態様を展望しうるようになっていく政治的動態を描き出す。(2022.6.1)

定価 (本体5,400円 + 税)

ISBN978-4-87791-316-8 C3031 359頁

目次

  • 序章 本書の課題
    • 第1節 問題の所在
    • 第2節 有害廃棄物の越境移動と国際社会の対応
      • 第1項 有害廃棄物の越境移動問題
      • 第2項 有害廃棄物に関する国際制度の展開
      • 第3項 有害廃棄物の定義と国際貿易ルール
    • 第3節 有害廃棄物ガヴァナンスをめぐる先行研究
      • 第1項 先行研究の検討
      • 第2項 本書の構成
  • 第1章 分析視角
    • 第1節 国際政治学理論から見た有害廃棄物ガヴァナンス
      • 第1項 リアリズム
      • 第2項 リベラリズム
      • 第3項 コンストラクティビズム
    • 第2節 制度間関係と政策アイディア
      • 第1項 国際政治学における制度
      • 第2項 制度間関係に関する研究動向
      • 第3項 政策アイディアの役割
  • 第2章 PIC(事前通告・同意)とバーゼル条約の成立
    • 第1節 PICという政策アイディア
      • 第1項 PICという政策アイディアの登場
      • 第2項 駆除剤の国際移動とPIC
    • 第2節 バーゼル条約交渉の過程
      • 第1項 有害廃棄物の越境移動問題と国際的取り組み
      • 第2項 独米における議論
    • 第3節 バーゼル条約交渉
    • 第4節 小括―政策アイディアの制度化をめぐって
  • 第3章 バーゼル「禁止」決定とPICの限界
    • 第1節 続く対立の構図
      • 第1項 条約発効へ
      • 第2項 独米における議論
    • 第2節 「禁止」決定の採択をめぐる過程
      • 第1項 第1回締約国会議
      • 第2項 独米における議論
      • 第3項 第2回締約国会議
    • 第3節 小括―政策アイディアの制度化の進展と矛盾の拡大
  • 第4章 「禁止」修正とEPR(拡大生産者責任)への関心の高まり
    • 第1節 「禁止」修正の成立
      • 第1項 激しくなる対立
      • 第2項 独米の対応の差異
      • 第3項 第3回締約国会議
      • 第4項 「禁止」修正後の展開
    • 第2節 EPRという政策アイディアの展開
      • 第1項 EPRという政策アイディアへの関心
      • 第2項 電子廃棄物の越境移動問題とバーゼル条約におけるEPRの議論
    • 第3節 小括―新たな政策アイディアが示すガヴァナンスへの展望
  • 第5章 EUにおける有害廃棄物越境移動規制とEPR-PICとの「接合」
    • 第1節 EUの有害廃棄物越境移動規制
      • 第1項 1990年代における有害廃棄物越境移動規制
      • 第2項 2000年代における有害廃棄物越境移動規制の強化
    • 第2節 EUにおけるPICとEPRの「接合」
      • 第1項 WEEE指令への道
      • 第2項 EPRの手段としての標準化
    • 第3節 小括―2つの政策アイディアが結びついた意味
  • 第6章 アメリカにおける有害廃棄物問題とEPR-公共調達と環境認証
    • 第1節 バーゼル条約参加の模索
      • 第1項 批准をめぐって
      • 第2項 問題化する電子廃棄物
    • 第2節 電子廃棄物輸出とアメリカ型EPR
      • 第1項 アメリカにおける汚染防止の試みとEPR
      • 第2項 電子廃棄物輸出の規制をめぐって
      • 第3項 公共調達と環境認証の普及
    • 第3節 小括―アイディアが示したフォーカル・ポイント
  • 終章 本書の意義と課題
    • 第1節 総括
    • 第2節 実証研究上の意義
    • 第3節 理論研究への示唆
    • 第4節 おわりに
    • 参考文献
    • 略語一覧
    • 図表一覧
    • あとがき
    • 著者紹介
    • 索引

著者紹介

渡邉智明(わたなべ・ともあき)

福岡工業大学社会環境学部教授。2000年九州大学法学部卒業。オーストラリア・モナシュ大学人文学部留学。2005年九州大学大学院法学府博士後期課程単位取得退学。博士(法学)。九州大学大学院法学研究院助手、同グリーンアジア国際リーダー教育センター助教などを経て現職。

【主要業績】

「地域機構―グローバル・ガバナンスとの関係性をめぐる3つのイメージ」西谷真規子・山田高敬編『新時代のグローバル・ガバナンス論―制度・過程・行為主体』ミネルヴァ書房、2020年。

“FSC as a social standard for conservation and the sustainable use of forests: FSC legitimation strategy in competition." In International Development and the Environment. Eds. Hori Shiro et al. Springer. 2019.

「『環境と貿易』の国際規範と国内政治―バーゼル条約をめぐる米独の対応を事例として」『国際政治』第166号、2011年。など

まえがき

序章 本書の課題

第1節 問題の所在

グローバル化*1は、あたかも地球を1つの市場として、正の価値をもつモノ・サービスが取引されることにとどまらず、テロや感染症、さらには有害廃棄物といった社会に負の価値を持ったものが国境を越えて頻繁に移動することでもある。

一般に、有害廃棄物は人の健康や環境に影響を与えるものとして、規制の対象になると考えられる。しかし、廃棄物には、鉄スクラップなど経済的価値を持つものがある。さらに、グローバル化を牽引するIT産業が生み出した、携帯電話、パソコンなどの電子機器は使用後、国境を越えてリサイクルされ、あるいは中古品として流通する形で、世界をめぐっている。

その意味において、有害廃棄物の越境移動は、グローバル化する市場において取引の対象となる財の位置づけにも関わるものである。ここで問題となるのは、このような特質を持つ有害廃棄物の越境移動をグローバル・レベルあるいはナショナル・レベルで、誰がどのように管理し、その負の影響を逓減していくかという制度秩序のあり方、すなわちガヴァナンスの問題が出てくる。ここで、グローバル・ガヴァナンスとは、国家、国際機関だけでなく、企業、NGO(非政府組織)などを含む主体が、共通の地球規模の問題に取り組むための方法、アクターの行動を調整する規則や仕組みの総体のことをさす*2。本稿は、国際貿易制度との調整という課題に直面しながら、有害廃棄物の越境的環境リスクの管理が試みられてきた、グローバル・ガヴァナンスの制度的展開の過程を明らかにしたい。

さて、グローバル化の問題は、単に各国の経済システム間の問題であるだけでなく、経済システムと政治システムあるいは社会システムという異なるシステムの交錯という側面を有している*3。そして、グローバル化においては、1つのシステム下における国家アクター間の対立・調整という問題に加えて、要請される機能が異なるシステム間の矛盾をどのように調整するかというマクロなガヴァナンスの問題が登場してくる。このような政治学的関心を背景として、近年国際政治学において制度間関係に関する多くの研究が蓄積されつつある。

本書で取り上げる有害廃棄物に関するガヴァナンスにおいて中心的な位置を占めると考えられているのが、1989年に成立した有害廃棄物の越境移動の規制に関するバーゼル条約(以下、バーゼル条約)である。その条約成立以降、国家をはじめとして、非国家アクターが参加する形で、有害廃棄物の越境移動によって懸念される健康リスク、環境リスクの問題に取り組み、様々な試みが行われてきた。有害廃棄物に関するグローバルなガヴァナンスは、有害廃棄物を普遍的な環境リスクとして管理する一方、各国の社会的・経済的システムの差異を調整しながら、資源としての廃棄物の国際取引を機能させるという、複雑な課題に向き合うものであった。

ここで、環境と貿易の問題を複雑にしているグローバル化の諸相を改めて確認しておこう。このグローバル化には、2つの側面がある。1つには、社会主義という閉鎖的な経済システムが崩壊することで、地球を1つの単位とする市場の形成が進んでいる点である。すでに1960年代以降、相互依存と呼ばれるような各国間の経済的な結びつきは強まってはいたが、それはアメリカを中心とした西側の資本主義諸国を中心としたものであった。しかし、1988年以降の東欧諸国の体制転換、さらには社会主義国の中心的な存在であったソビエト連邦の崩壊により、資本主義型に基礎を置く自由貿易体制に代わる理念は想定し難くなった。そして、政治体制を維持したまま市場経済を導入した中国を含むこれらの社会主義国が、GATT/WTO(貿易と関税に関する一般協定/世界貿易機関)という自由貿易体制に参加することで、世界のほぼすべての国を含むグローバル市場の形成が可能になっていったのである。

グローバル化の2つ目の側面は、自由市場という経済の論理が他の政策領域へ浸透していった点である。グローバル市場の形成へ向かう動きの中で、モノやヒト、サービスの自由な移動を妨げると看做される様々な社会的規制は、保護主義としてしばしば批判の対象とされた。各国が国民の福祉の向上のために設けた、労働者の賃金や雇用の形態、小売業の出店、その他の福祉、環境に関わるルールは、貿易障壁となる可能性を孕むものとなったのである。第2次世界大戦後に成立したGATTを中心とする国際貿易秩序は、基本的に開放的かつ多角的な自由貿易を志向しながら、加盟各国における政府の社会的保護の役割を認め、各国が取りうる範囲において貿易自由化を進めていった。いわゆる「埋め込まれた自由主義」(embedded liberalism)*4である。しかし、今日の経済のグローバル化は、このような国家の社会的保護を掘り崩している。そして、これによって、労働、福祉、環境などは各国の固有の社会的文脈から切り離されて、グローバルな市場において取引可能な商品としての性格を持つようになりつつあると言えよう。

この市場の力が社会に与える影響については、多くの論者がこれまで繰り返し論じてきた。

例えば、国際政治学の視点から、国際経済秩序を論じたロバート・ギルピン(Robert Gilpin)は、1980年代の終わりに、「近代社会の形成において市場が決定的役割を果たした理由の一つは、市場は適切に機能できるように社会を再構成してしまうからである。マルクスが十分理解していたように、市場はひとたび存在するようになると、社会変動を促進する強力な原動力となる」*5と指摘する。さらに、彼は、すべてのモノに価格がつくこと、すなわち、それらが取引可能な商品として市場原理に飲み込まれ、その結果として、市場が社会の伝統的な構造や社会関係の問題解決に寄与する一方で、社会に深い影響を及ぼし、社会を不安定化させてしまうことについて触れている*6

さらに経済史家達は、資本主義システムの下で、社会的な制度を掘り崩し、本来、市場で取引可能ではなかったものが財として、商品化する傾向について雄弁に論じている。例えば、世界システムの議論で知られるイマニュエル・ウォーラーステイン(Immanuel Wallerstein)は、その著書『史的システムとしての資本主義』の中で、資本主義のメカニズムが自己中心的なものであり、社会過程を商品化する傾向が不可避であることを指摘している*7

著書『大転換』で知られる社会経済史家のカール・ポランニー(Karl Polanyi)も、労働、土地、貨幣が商品とみなされて(商品擬制)、市場が成立する過程を描き出した。そして、市場の形成を妨げる措置がとられても、その措置がとられたことが市場に影響を与えるが故に、「商品擬制は社会全体に関する枢要な組織原理を与え、ほとんどすべての社会制度に種々さまざまな影響を及ぼす」*8とし、市場がいかに強い力で社会に浸透するかについて鋭い指摘を行っている。

グローバル化が進む今日、この商品化の流れは止むことなく、取引の対象たる商品、財とそうでないものの境界線は、ますます流動化し、従来考えられていたような財の普遍的かつ不変的性格を想定できなくなってきているといえよう。経済のグローバル化とは、これまで以上に多様な価値観、経済状況、社会的制度をもつ国々が経済アクターとして参入することを意味しており、巨大な市場を背景とする経済の論理と国ごとの社会的文脈との相克が見られるようになる。

例えば、温室効果ガスに関する排出権取引市場である*9。これは、気候変動問題を解決するための市場的アプローチとして生み出されたもので、温室効果ガスという環境負荷につながる負の財を、取引可能な正の財に変換するものであると言える。

また、有害廃棄物とされるものも、グローバルな市場で取引されている。テレビ、パソコンといった電子廃棄物(E-waste)は、鉄や非鉄金属などの資源を多く含んでおり経済的価値を有するが故に、潜在的に有害で高い汚染の可能性があるにも関わらず国境を越えている。インターネットというグローバルな空間を支えるIT(情報技術)は、グローバルな市場を通じたIT機器の普及によるものだが、同時に電子廃棄物を世界中に拡散させているともいえる*10

本書が取り上げる有害廃棄物の越境移動の問題は、このようなグローバル化の複雑な様相に関わる問題の1つである。すなわち、環境・健康リスクを孕む有害廃棄物の越境移動について、輸入国だけでなく、輸出国にも「事前通告・同意」(Prior Informed Consent: PIC)という責任を負わせて国家間の環境リスク管理の仕組みを構築しようとしたものの、規制対象である有害廃棄物は多様で、例えば経済的価値を有する鉄スクラップなどとの線引きは難しく、また国家の領域性を前提としながら、単に越境移動の規制を強化するだけでは問題を解決できず、さらに自由な国際取引を前提とするWTOなどの国際制度との相克が懸念されたのである。

しかし、このような中で、米欧をはじめとする先進国では生産・消費・廃棄という製品のライフサイクルを視野に入れながら環境リスクを削減し、それを有害廃棄物の越境移動に伴うリスクの低減へと結び付けていく政策アイディアが受容されていく。そして、環境リスクの内部化を促すシステムを構築することで環境と貿易という制度間の対立を調整する方向性が生まれつつあると言える。

本書は、バーゼル条約を中心とした有害廃棄物に関するガヴァナンスの展開過程を明らかにすることを目的とするが、以下では、まず有害廃棄物の越境移動問題とそれに関する国際社会の対応の歴史的展開について概観しておきたい。

第2節 有害廃棄物の越境移動と国際社会の対応

第1項 有害廃棄物の越境移動問題

産業革命以降の近代化は、動力機械による製品の大量生産を可能にした。他方でそれは大量のエネルギーの消費と廃棄物の大量排出を意味していた。特に重化学工業は、その様々な工程において有害な化学物質を使用し、大気汚染や水質汚濁を引き起こし、さらに有毒な廃棄物を生み出している。このような大規模な重化学工業の発展は、とりわけ1960年代から1970年代にかけて、先進国において深刻な環境汚染や健康被害を引き起こし、大きな社会問題となった。

これに対して、工場周辺の地域では、住民が中心となって強力な反公害運動が展開されていく。この運動により、先進各国では公害問題への取り組みが本格化し、様々な規制が導入され、企業側も工場の操業に際して汚染物質の除去や廃棄物対策を進めていく。しかし、このことは、有害廃棄物を含む廃棄物全般に関して、処分コストを高騰させることになった。すなわち、都市部に密集している工場内やその周辺には、法律で求められる廃棄物処理を行うための設備と土地を確保することが難しく、その施設の建設について多数の周辺住民との合意形成も容易ではなかった。結果として、人口密集がなく土地に余裕のある地方に処分場を開設し、そこへ廃棄物を運搬し処分するという流れができあがっていくことになる*11。すなわち、移動コストを含めても遠隔地における処分費用が安くなった結果、近接処理は廃棄物処分のあり方として経済合理性が失われることとなった。しかし、経済成長が続く中で、廃棄物量は増大の一途を辿り、さらに多くの廃棄物処分場が必要とされる。そして、都市部から離れた地方においても住民から反対の声が上がるようになると、そこでも廃棄物処分場の開設は困難となる。このような中で、行き場を失った廃棄物、特に有害廃棄物の一部が国境を越えて移動する状況が生まれることになったのである。

有害廃棄物を含む環境リスクの移転の問題は、日本では公害輸出と呼ばれていた。環境経済学者の寺西俊一は、公害輸出を「危険物・有害物を含む環境汚染源あるいは直接的な環境破壊行為そのものの対外移転」*12と定義している。寺西によれば、公害輸出は以下の3つの形態がある、(1)危険物・有害物の対外輸出、(2)危険工程・有害工程の対外移転、(3)公私を含む対外的経済活動での安全・衛生・環境上の配慮の差別的軽視、である。

公害輸出と呼ばれる環境リスクの移転は、環境経済学では「汚染逃避地仮説」(pollution haven hypothesis)として論じられている。これは、環境規制が企業、特に鉄鋼・化学などの汚染集約的な産業の生産コストに影響を与えることで、環境規制が緩やかで人件費の安い発展途上国などへの移転を促すのではないかという議論である*13。そこでは、(1)各国の社会、経済、政治的な特性によって、(2)環境規制に差異が生じる、(3)環境規制が生産(処分)コストに影響を与える、(4)そのコストを抑えるため直接投資によって産業を移転させる、あるいは有害廃棄物そのものを輸出するという構図が想定されている*14

環境規制は、規制客体である汚染集約的な産業、企業に対して、コストの負担を増大させる。それは、財の生産費用を上昇させ、企業はそれを価格へ転嫁させるが、その結果、消費者は代替財を選好することになる。それは、企業の国際的競争力を失わせることになる。他国で生産を行うには、生産を開始するコストや現地の状況に関わる社会的リスクなどがあるが、自国における環境対策費用がそれらを上回るのであれば、汚染集約的な産業が移転する可能性が高まる。移転費用なども含めて考えれば、企業は必ずしもあらゆる場合に途上国へ移動するというわけではないが、一般の製品以上に環境規制コストが高い場合には、近接した先進国ではなく、距離が離れている途上国へと移転する可能性は高くなるだろう。特に、有害廃棄物については、輸送から処理に到るまで多大な経済的なコストや時間コストなどがかかる。従って、輸送費用が総体的に安くなり、途上国へ移転する可能性はさらに高くなると想定される。

現に、1980年代に入ると、域内の移動コストが低減した欧州を中心に、先進国間で有害廃棄物の越境移動が頻発したのである。しかし、この問題を受けて先進国が対策を強化すると、今度は、先進国と途上国の間、すなわちアフリカや中南米諸国へ向けた有害廃棄物移動が見られるようになり、受入国において適切に処分できような廃棄の仕方、つまり、意図的な不法投棄が盛んになった。ナイジェリアのココ港でイタリアから持ち込まれた有害廃棄物が健康被害を引き起こしたココ事件、有害な焼却灰を積んだ貨物船が投棄場所を求めてアメリカを出発し、中南米を彷徨したキャン・シー号事件などが起こり、国際社会に有害廃棄物の越境移動問題の深刻さを知らしめた。

また、1990年代後半になると、廃船などに加えて、IT化の進展とともに電子廃棄物が増加し、資源リサイクルを目的とした発展途上国への移動が目立つようになる。

UNEP(United Nations Environmental Program: 国連環境計画)の報告によれば、世界では、年間4000から5000万トンに上る電子廃棄物が生まれ、そのうち90%以上が違法に処理されているという*15。これらの電子廃棄物は、中国・インドなどのアジア諸国、またガーナ、ナイジェリアといったアフリカ諸国に輸出され、そこで貴金属、鉄スクラップなどの資源回収が行われている。日本の指定工場で行われているものと違い、これらの地域では、個人や家族を単位とした、手作業による分別、回収の形でリサイクルが行われており、多くの人々が電子廃棄物に含まれる有害物(鉛、六価クロム、水銀など)が引き起こす健康被害、環境汚染のリスクに曝されている。

近年では南アジア諸国で行われている廃船解体*16も大きな問題となっている。NGOの報告によれば、2014年に不要となった768隻の大型外航船のうち469隻が、インド、パキスタン、バングラデシュの砂浜にある船舶解体作業所へ売却されたと報告されている*17。船の9割は鉄でできており、鉄資源を回収するため上記南アジア3カ国では多くの廃船を受け入れ船舶解体を行っているのである。これらの諸国の解体は、船渠でなく砂浜に船を乗り上げさせて行うため(いわゆる「浜解体」)、重油などによる環境汚染、作業現場の状況から爆発、転落事故が多発している。また、廃船を輸出する国がアスベストなどをそのままにしていることも多く、労働者の将来の健康被害が懸念されているのである。

第2項 有害廃棄物に関する国際制度の展開

では、このような有害廃棄物の越境移動問題に対して、国際社会はどのように対応してきたのであろうか。

1980年代前半、先進諸国で有害廃棄物の越境移動に関する規制が厳しくなると、これらの有害廃棄物は、アフリカをはじめとする発展途上国へと持ち込まれることになる。有害廃棄物が持ち込まれた諸国は、輸出業者や輸出国の政府に対して強硬に抗議して、輸出された廃棄物の回収を求めた。しかし、輸出業者が不明な場合や、回収能力、補償能力を有していないことも多く、ほとんどの場合、輸出元の政府が責任を肩代わりして回収するという経過をたどっている。また、これらは当然発見されたものに限られるが、その場合でも輸出ルートの解明は難しく、上述したナイジェリアのココ事件の場合、廃棄物の投棄から、輸出実態の判明、そして最終的な回収まで2年を要しており、この間にも近隣住民、作業員などに健康被害が発生している*18

これら一連の事件を受け、有害廃棄物の投棄場所となったアフリカをはじめとする発展途上国や環境NGOグリーンピースを中心として、国際社会は条約形成に向けて動き出した。しかし、条約交渉においては、アメリカをはじめとする先進国と、アフリカ諸国を中心とする途上国の間で激しい意見が対立していた。

なぜなら、有害廃棄物といっても、実際には100%有害なもの、例えば医療廃棄物や硫酸ピッチで満たされたドラム缶だけが行き交っているのではない。鉄スクラップや古紙は廃棄物であっても価値をもった商品(「有価物」)であり、国際市場が形成されている。他方で、自動車を廃車すると鉄スクラップを回収できるが、回収後のシュレッダー・ダストには鉛、カドミウムなどの重金属や有機溶剤等が含まれていて環境や人の健康への影響が懸念される*19。ただ、やみくもに規制を厳しくすれば、再生資源の国際取引に大きな影響を与えることになる。有害廃棄物の投棄場となり、あるいは、その可能性がある発展途上国は、環境リスクを懸念して有害廃棄物の移動禁止を主張し、アメリカ、ドイツなど鉄スクラップといった再生資源の国際市場を重視する諸国は、有害廃棄物の輸出国が、輸入国に環境リスクを通知し、その同意を得て移動させるという制度的枠組みで十分であるという移動規制論を支持したのである。

このような有害廃棄物に関する認識の違いを背景とした諸国の意見の対立により、一時は条約の成立が危ぶまれたものの、UNEPのモスタファ・トルバ(Mostfa Tolba)事務局長の仲介もあって、最終的に1989年に有害廃棄物の越境移動を規制する条約、バーゼル条約は成立するに至った。これによって、有害廃棄物と定義されたものについては、取引業者だけでなく輸出国と輸入国の双方が情報を共有し、輸出国が責任を持つ制度が形成されたのである。

このバーゼル条約を契機として、禁止された駆除剤の取引に関するロッテルダム条約など同様の環境リスクの拡散を規制する国際条約がその後形成されていくことになる*20

1998年に合意されたロッテルダム条約は、発がん性や環境汚染の懸念から先進国で規制、使用禁止となった駆除剤や農薬などが、発展途上国に輸出されることを防ぐことを目的としたものである。また、ストックホルム条約は、PCBのように、環境中に残留し、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、長距離移動性が懸念されるPOPs(残留性有機汚染物質)について、加盟国が輸出入の禁止とともに、製造及び使用の廃絶・制限、排出の削減の義務を負うことを規定している。船舶解体については、有害物質の適正処理などの要件を満たした船舶リサイクル施設に限って解体・リサイクルを認めるとする香港条約(シップリサイクル条約)が2009年に成立している。また、2013年には水銀および水銀を使用した製品の製造と輸出入を規制する水俣条約*21が合意されている。

一連の多国間環境条約のうち、バーゼル条約、ロッテルダム条約、ストックホルム条約は、現在、それぞれの条約事務局を統合して、一体として有害物がもたらす越境的な環境リスクに対応しようとしている。このうち、有害廃棄物というもっとも包括的なカテゴリーの下、環境リスクの移転の問題を対象としているのが、バーゼル条約であった。

1989年3月に成立し、1992年5月に発効したバーゼル条約の目的は、有害廃棄物の発生及びその処分から生じる環境悪化、健康被害を防止することである。この条約が対象とする「有害廃棄物」は、附属書によって詳細に規定されるが、条文上から定義を拾えば「処分され、処分が意図され又は国内法の規定により処分が義務づけられている物質または物体」(第2条1項)とされる。なお、ここで処分とは、焼却、埋め立てから資源回収、再生利用をはじめとしたリサイクルを目的とするものを含むと規定されている(附属書IV/B)。

バーゼル条約の内容は、大きく言えば、以下の4つの規定にまとめることができる。(1)有害廃棄物を輸出する際の輸入国への事前通知、同意取得の義務づけ(第6条1-3項)、(2)有害廃棄物の移動に関する書類(品目、数量、相手先、処分完了)の携帯(第4条7項C)、(3)不法取引が行なわれた際の輸出者(輸出国)の再輸入義務(第8条、第9条2項)、(4)非締約国との有害廃棄物の原則取引禁止(第4条5項)である。

しかし、バーゼル条約をめぐるその後の交渉展開過程は、対立に彩られたものであった。すなわち、条約の根幹をなす「事前通告・同意」システムに対して、環境NGOや一部の発展途上国は、途上国の抱える経済的条件、環境行政の不備などに対応できないとして、OECD(経済協力開発機構)非加盟国に向けたリサイクル目的の移動も含めて禁止すべきだと主張したのである。他方、金属スクラップ輸出への影響を懸念するアメリカや西ドイツ(当時)は、この禁止論に強硬に反対していた。

この対立は、1994年の締約国会議において、環境NGO、一部の発展途上国およびこれを支持するデンマークの働きかけにより、OECD諸国から非OECD諸国向けの有害な廃棄物輸出は、最終処分(廃棄)目的だけでなくリサイクル目的についても「禁止」する決定(以下、「禁止」決定)がなされた。さらに、翌1995年には、その決定を条約の一部にすることが合意(BAN改正、以下「禁止」修正)されたのである。

しかし、この「禁止」修正は採択から20年を経ても発効には至らなかった。また近年では電子廃棄物の問題など複雑化している。さらに、世界最大の廃棄物排出国であるアメリカは現在に至るまでバーゼル条約を批准していないなど、条約の制度的展開はきわめて複雑な経過をたどっている(図1)。このことは、単にアメリカという一国の政治状況だけでなく、グローバル化における「財」をめぐる問題が複雑化していることに理由がある。その点を考察するためには、バーゼル条約のみに注目するだけでは不十分である。条約に還元できない制度的空間に目を向ける必要がある。すなわち、条約と関連する国内、他の国際制度との連関を含めた、ガヴァナンスという視点こそ必要と言えるのである。

さて、そのガヴァナンスの基本的特質にとって問題となるのは、有害廃棄物であっても「有価物」を含む以上、「財」を扱う国際貿易制度との関係である。そもそも国際貿易制度において、有害廃棄物はどのように位置づけられているのだろうか。

第3項 有害廃棄物の定義と国際貿易ルール

取引主体に効用をもたらす「正」の財の国際貿易に関するルールとして、まず思い浮かぶのはGATTやWTO協定であるが、実はこれらの貿易ルールの中に財(製品)に関して詳細な定義がなされているわけではない*22。これらのルールには、国内産品が外国のそれに対して差別的であるかどうかという際の引証規準として、産品の区別に関しては細かい規定があり、国際経済法においてはそれらの規定をめぐって議論がなされてきた*23。GATT第11条は、原則として輸出入の制限を禁止するものである。他方で、GATT第20条には、「人、動物又は植物の生命又は.健康の保護のために必要な措置(b項)」、「有限天然資源の保存に関する措置(g項)」に該当する場合、貿易制限的措置禁止の原則の例外を認めている*24。GATT第11条・第20条はそれらが製品と看做される限りおいて適用されるが、財ではない廃棄物については規定がない*25。従って、こうした一般的例外に当たらないものは、財ということになろう。

この財の具体的な内容に関して、実務レベルでは直接的に言及しているものがある。それが、HSコードである。HSコードのHSとは、Harmonized Commodity Description and Coding Systemの略であり、物品に対して固有番号を付して、輸出入に際してそれが何であるか認識可能にする統一的なコードである*26。この中には、鉄スクラップや非鉄金属スクラップなどの古くから国際取引がなされ、市場が形成されたものも含まれている。しかし、スクラップといっても範囲は非常に広く、スクラップくずには重金属などを含む有害なものもある。また、いわゆる中古品(再生品)の扱いについては、国際貿易制度でも近年ようやく議論されるようになった問題である。ブラジルの再生タイヤの輸入規制をめぐって、EU(欧州連合)がWTOに提訴し、2007年にWTO紛争処理委員会が判断を下した例がある。これは、今後の先例になる可能性があるものの*27、WTOとして一般的な方向性を打ち出すまでには至っていない。

しかし、バーゼル条約のように、有害廃棄物の越境移動に制限を課すことは、単に環境負荷および人体に対する健康被害といった観点からだけでなく、再生資源の国際取引という貿易の観点から見て必ずしも否定されるべきものではない。

第2章でも触れるが、有害廃棄物取引においては、取引後の処理・再資源過程に関する正確な情報が伝わらないという情報の非対称性が存在する。処分すべき廃棄物を取引する際には、処理を依頼する側は、金銭を支払うと同時に廃棄物も取引相手に渡してしまう。依頼された側は、それがどのように処理されるか、再資源化の内容がどのようなものであるかを知っている。しかし、依頼した主体にはこうした情報は伝わりにくい。細田も指摘するように、「もし処理・再資源化を依頼した主体が引き渡した後にバッズ(負の財)がどのようになったかまったく関心を払わないとしたら、処理を請け負った主体には処理・再資源化費用を不当に圧縮しようとする動機付けが生じる。このような主体は、適正処理を怠ったり、あるいは不法投棄することによって、費用を削減し、利潤を増加させる」*28のである。つまり、市場の失敗が、社会的な損失を招くことになるのである。そして、公共経済学では、このような市場の失敗に対しては、政府や制度といった公的な権威の介入が必要と考えられている。有害廃棄物に関する国際制度もこれと同様に考えることができる。

第3節 有害廃棄物ガヴァナンスをめぐる先行研究

第1項 先行研究の検討

有害廃棄物に関するガヴァナンスについての先行研究は、その中心となるバーゼル条約に関するものが多い。しかし、そのバーゼル条約自体が、数ある多国間国際環境条約の中でこれまで注目を集めてきたとは言い難い。地球温暖化に関する京都議定書やフロンガスの規制に関するモントリオール議定書あるいは生物多様性に関わるカルタヘナ議定書は、これまで多くのマスコミや研究者の注目を集めてきた。これまでのバーゼル条約をめぐる研究動向について言えば、環境問題を総論的に扱うテキストにおいてこそ言及されているものの、管見の限り、政治過程について考察した個別的研究としては僅々たるものである。この理由として考えられるのが、バーゼル条約の展開過程の複雑さである。既に述べたように、1995年に「禁止」修正が採択され、条約が強化されるかに思われたものの、2019年に至るまで発効していなかった。また、現在でも世界の半数の国は、「禁止」修正を批准していない*29。また、世界最大の有害廃棄物排出国であるアメリカが未だ不参加である。条約の成立を以て国際法規範の成立と意義を認めるとしても、政治学の観点からすれば、一連の複雑な政治過程の帰結を理解することなしに、分析の対象として検討することには大きな困難が伴う。

さて、これまでのバーゼル条約を対象とした先行研究の動向を概観すると、国際法の分野のものが多いが、それは主に条文の効果を論じるもの*30、比較の立場から成立した条約法の条文を「国際環境法」の流れにおいて位置づけ検討したもの*31、GATT、WTOなど国際経済法の関係を考察したもの*32などに分けることができる。

しかし、これらの研究は、政治過程や政策過程を考察の中心にすえるものではないため、本書の課題である、有害廃棄物に関するガヴァナンスの形成をめぐる議論は副次的なものとして扱われるにとどまっている。そのような中で、政治過程を考察の中心的に扱っているものとしては、クラップとケロウの研究を挙げることができる。

クラップ(Jennifer Clapp)の研究は、「危険の輸出」という観点から、多国間投資協定の事例とともに、バーゼル条約の成立、展開過程について考察している。彼女は、有害廃棄物の越境移動の全面禁止にあたって、グリーンピース・インターナショナルを中心としたNGOの役割に大きな比重を認めている。環境NGOは、G77のような発展途上国との強い連携を通じて、また先進国の有害廃棄物貿易の問題点を証明していくという効果的な戦略を構築し、「禁止」の採択に有用な役割を果たしていたと指摘する*33。すなわち、「バーゼル条約の採択以降数年間、環境NGOと発展途上国の政府の同盟は、グローバルな廃棄物貿易ルールに大きなインパクトを与えた」*34と指摘する。

ケロウ(Ansley Kellow)の研究は、化学物質や有害廃棄物のリスクが国際政治の中でどう扱われてきたかをテーマとしているが、その事例の1つとしてバーゼル「禁止」修正をめぐる政治過程を取り上げられている。ケロウは、環境リスクの認識の仕方に着目しながら、国際レベル、国内レベルにおける環境NGO、産業界の影響力の強弱という観点から政治過程を論じている*35。また、ケロウは、有害廃棄物規制において、道徳的主張において大きな意味を持つようになっていたため、産業界の技術的・科学的な主張が影響力を持ち得なかったという点を指摘する。バーゼル条約の「禁止」修正が、リサイクル過程も含めて、いかなる有毒廃棄物も生み出されるべきでなく、削減されるべきであるという主張に基づいた「クリーンな生産方法論」*36が、資源リサイクルに関心を払う産業界が主張する技術的な環境リスク管理という考え方を封じ込めたというのである。そして、有害廃棄物の輸出国に対する責任追及的な主張は、「道徳的な価値や罪を基礎とするキャンペーンが一貫性を生み、支持を広げ、第三世界の政治や社会運動に力を与える」*37機能を果たしたとする。

クラップの研究が、国際レベルの環境NGOの影響力に専ら着目するのに対して、ケロウの研究は、国際レベルと国内レベルにおける政治動態を意識したものであり、小さなケース・スタディであるとはいえ、示唆に富むものである。そして、化学物質規制の事例との比較において、資源リサイクル規制につながるバーゼル条約に関して、国際レベルにおける産業界の利益団体の凝集力が弱かったことを指摘している。

先行研究は、いずれも幾つかのケース・スタディの1つであるという関係上、必ずしもバーゼル条約の展開過程のみを分析するものではないが、本書の関心に引きつけていえば、バーゼル条約の展開過程を見る上での問題もその中に見出すことができよう。それは、先行研究がいずれも、条約の展開過程をアクター間の影響力関係から論じている点である。まずクラップについて言えば、環境NGOの役割の限界をどう考えるかという問題がある。クラップは、「禁止」修正の議論を、「禁止」を推進する環境NGOと途上国、それに反対する産業NGOと先進国、という対立構図の下、各アクターの行動とその影響力を検討している。確かに、環境NGOが世論を喚起して、「禁止」推進派をまとめる役割を果たしたことは否定できないが、「禁止」反対派のアメリカ、オーストラリアなどは一貫して批准しておらず、他方でドイツなどは「禁止」反対という立場を変更したように、各国に一様に諸影響を与えたわけではない。また、ケロウの研究に関しては、環境NGOと産業NGOの影響力の相違を指摘しているものの、国家アクターについてはほとんど論じていない。国内レベルにおける産業NGOの影響力を指摘するにとどまっているのである。

つまり、これらの先行研究は、多国間交渉における環境NGOと産業NGOというアクター間の角逐という観点から、バーゼル条約の展開を描いてきた。確かに、バーゼル条約の展開過程において環境リスクを強調する環境NGOの役割が大きかったことは否定できない。しかし、政府を含めた国内政治過程との関係については、十分な考察がなされていない*38

特に、バーゼル条約に対するアメリカの動向については検討が不十分である。バーゼル条約交渉過程において、「禁止」修正の反対派であり、非OECD諸国へのリサイクル目的も含めた輸出禁止によって影響を受けることが大きいと考えられた、再生資源、特に鉄スクラップの主要輸出国であるアメリカは、同じ国際経済上のポジションにあるドイツ(あるいはEU)と並んで重要な位置を占める。ドイツ、アメリカは、環境政策について先進的な取り組みをなしてきた国であり、廃棄物/リサイクル政策についても積極的な施策をとってきた国であるが、同時に経済大国であった。特に重要なのは、すでに1980年代から鉄、非鉄金属スクラップの輸出国であったという点である(表2)*39。当然、経済的利害が関わる両国にとって、いかなる国際制度を構築するかは重大な関心事項であったと考えられる。そして、この経済的パワーを持つ両国の動向は国際制度のあり方に、大きな影響を与えるはずである。国際制度とパワーとの関係を見る上で、この両国の動向、国内政治過程は重要であると考えられる。

さて、ケロウらの先行研究は、「禁止」修正の成立を以って終っており、その後は単なる条約履行過程のような印象を与えている。しかし、先に述べたように、実際には「禁止」修正後20年を経ても発効に至っていない。彼らの先行研究は、なぜ、どのようにして「禁止」修正が成立したかについては雄弁に論じているものの、なぜ「禁止」修正に各国の期待が収斂しないのかという問いに答えることができない。勿論、これらの問いは彼らの問題設定の範囲を超えるものであるが、ここに先行研究の分析視角の問題を見出すことができる。それは彼らが、バーゼル条約の制度設計について十分関心を払っていないことである。実際、これらの先行研究は、国際政治学および政治学における制度論の議論をほとんど参照していない。

これに対して、ケリー・ドレハー(Kelly Dreher)らの研究は、電子廃棄物の輸出に対する米欧の対応の差異を検討した点において、有害廃棄物ガヴァナンスの理解に資するものとなっている。彼らの研究は、アメリカとヨーロッパの有害廃棄物(特に電子廃棄物)輸出への対応の相違を指摘した*40もので、近年の有害廃棄物ガヴァナンスを理解する上で有益である。特に、米欧の国内制度を説明変数とし、単に国際貿易上の利害だけでなく、国内政治との国際政治の動態の中で、対応の差異を明らかにした点で示唆的である。ここでは環境NGOなど環境派の利益集約における国内制度の機能が指摘されている。

しかし、彼らの研究にも幾つかの問題がある。例えば、彼らは、EUが一貫してリーダーシップを発揮したと指摘しているが、それを1990年代後半にまで遡って確認することはできない*41。また、ここでも先の先行研究と同じく、産業界と環境NGOの対立関係を強調するあまり、産業界がバーゼル条約そのものに反対であったかのように主張している。しかし、後に見るように、金属スクラップ業界など産業界はむしろバーゼル条約を支持していたのである。さらに、彼らの研究は、国内制度に着目している一方、国際制度、そして国際制度間の関係性について留意していないため、有害廃棄物に関するグローバル・ガヴァナンスの理解という点では限界がある。

このような先行研究の課題を踏まえて、本書は有害廃棄物ガヴァナンスの制度的連関を、政策アイディアという視角を通じて理解することを試みたい。

この制度間関係と国家の行動をどのような視点で理解しようとするのかについては、第1章で詳述するが、ここでも一部議論を先取りする形で触れておきたい。政策アイディアとは、アクターが抱く問題認識枠組みや政策手法に関する着想*42のことである。政策アイディアは、前提となるアクター間関係や問題認識に関わる構成的側面と具体的なアクターの行動に関わる規制的な側面があると考えられる。アクターの役割や当該の問題の認識について、アクター間で認識の齟齬が大きくなれば既存の政策手法による問題解決が困難となり、新たな政策アイディアが必要となる。そして、そうした新しい政策アイディアは、アクターの役割を再構築し、既存の政治構図を変容させたり、それまで想定されていなかった新たな政策の選択肢を提示することで、新たな解決の方向性を生じさせると考えられる*43

第2項 本書の構成

本書では、PICという輸出入国間で有害廃棄物規制の情報交換を通じて、越境的リスクを管理する考え方から、EPR(Extended Produce Responsibliy, Extended Product Responsibliy: 拡大生産者責任,拡大製品責任)の考え方の下、環境配慮設計や様式を普及させることで越境的リスクを逓減するガヴァナンスへと制度的展開がみられることを指摘する。この政策アイディアの変化によって、従来対立的であった先進国間でも政策の収斂が見られ、結果として有害廃棄物をめぐる制度的態様が変化し、ガヴァナンスと呼ぶべきものが構築されつつあると指摘する。勿論、ここでいうPICとEPRは、分析のため、一種の理念型として析出したものである。そして、両者は相互に排他的なものではない。後述するように、PICはEPRによって代替されるものとして明確に位置づけられているわけではない。PICに基づく制度枠組みの課題が浮き彫りとなってくなかで、EPRがPICを補完的なものとしてアクターの期待が収斂する焦点位置づける包摂的なパラタイム、あるいは(フォーカル・ポイント)となる政策の選択肢を浮上させるものとなったのである。これらの点を踏まえて、本書で明らかにする有害廃棄物に関するグローバル・ガヴァナンスの制度的展開は、図1のように示すことができるだろう。

最後に、本書の議論の射程と構成について触れておきたい。既に述べたように、本書はあくまで国際政治学的視点から見た、有害廃棄物に関するグローバル・ガヴァナンスの形成に関する研究である。従って、有害廃棄物問題の現状および制度の有効性分析を直接の目的とするものではない。また、本書はバーゼル条約を中心とした有害廃棄物をめぐる規制、制度について、その政治的背景を論究するものであり、それは通時的な研究という性格を有する。有害廃棄物問題の現状等、特に本書で触れることができなかった日本およびアジア各国の政策については、廃棄物政策の専門家による優れた分析があり、これらを参照されたい*44

また、本書が扱う時期は1970年代から2010年代中盤まで、特に1980年代後半から2012年頃までである。従って、最近の廃プラスチックの規制をめぐる議論*45や、トランプ政権(2017-2021年)の誕生に伴う環境政策の変化についての言及はかなり限られたものとなっている。近年の動向が、有害廃棄物ガヴァナンスに与える影響は決して等閑視できないが、本書の元々のリサーチ・クエスチョンから外れるものであり、他日の研究を期したい。

次に本書の構成である。第1章では、まず分析視角を提示する。第1節では、国際政治学のマクロな分析視角に基づいて、有害廃棄物ガヴァナンスの分析を試みる。その上で、その限界を踏まえて、第2節では国際制度の間で起こる相互作用(institutional interaction)に関する研究を検討する。ここでは、制度間関係を解く鍵として役割を果たす政策アイディアという視角を提示する。そして、その政策アイディアが、アクターの役割アイデンティティや問題認識といった構成的側面と実際にアクターの行動を直接的に制約する規制的側面を有していることに着目する。

第2章では、PICという政策アイディアについて整理した後、それがバーゼル条約において制度化されていく中で、そのPICが前提とする問題の認識や国家間関係のとらえ方に各国間で矛盾が生じていく過程を明らかにしていく。

第3章では、1995年に成立したOECD諸国から非OECD諸国へ向けたリサイクルも含む有害廃棄物移動の禁止、いわゆる「禁止」修正が成立するまでの過程を追う。「禁止」修正が輸出国と輸入国を固定的に規定したことで、国際貿易制度との相克が強くなっていくことに対する各国、関連するアクターの動向を確認する。

第4章では、「禁止」修正が採択された後、具体的な規制対象のリスト化が行われ、そして有害廃棄物の越境移動による被害が生じた場合を想定した損害賠償責任議定書が成立したにも関わらず、「禁止」修正の批准が進まないなど、バーゼル条約の基礎となるPICという政策アイディアの限界が見られ、一方でEPRという政策アイディアが議論されるようになっていく経緯を検討する。

第5章では、EUがバーゼル「禁止」修正に沿った越境移動規制を強める一方、EPRを内容とするWEEE(廃電気電子機器)指令が、越境移動規制と連続的に結びついていく過程を明らかにする。そして、その延長線上に、EUによる戦略的な標準化の推進があることを確認する。

第6章では、アメリカ国内におけるバーゼル条約の批准が進まず、また電子廃棄物の輸出法規制の試みが実現しない中で、EPRを評価するEPEAT(電子製品環境評価ツール)という手法が開発され、公共調達を通じて電子廃棄物輸出による越境的汚染を防止する方向が見られたことを指摘する。

終章では、PICからEPRへというアイディアの変化に注目することで、アクターの役割認識の変化と、それによってバーゼル条約との他の制度の連関が生じ、有害廃棄物に関するレジームがガヴァナンス化し、国際貿易制度とも調和可能な展望をとらえることができることを確認する。その上で、実証研究上の意義に言及する。さらに、制度間関係の問題を解く鍵としての政策アイディアという本稿の視角が、制度間関係研究など理論研究に与える示唆についても触れることにしたい。

〈注〉

*1: グローバル化(グローバリゼーション、globalization)については、既に多くの研究がある。論者の立場によって見方は異なるが、議論を簡便に整理したものとしては、やや古いが以下がある。Jan Arte Scholte, Globalization: A Critical Introduction, 2nd ed.(Basingstoke: Palgrave, Macmillan, 2005)、正村俊之『グローバリゼーション―現代はいかなる時代なのか』(有斐閣、2009年)。

*2: グローバル・ガヴァナンス委員会は、「個人と機関、私と公とが、共通の問題に取り組む多く方法の集まりである。相反する、あるいは多様な利害を調整したり、協力的な行動をとる継続的プロセスのことである。承諾を強いる権限を与えられた公的な機関や制度に加えて、人々や機関が同意する、あるいは自らの利益に適うと認識するような、非公式の申し合わせもそこには含まれる」と定義している(グローバル・ガバナンス委員会・京都フォーラム訳『地球リーダーシップ―新しい世界秩序をめざして』NHK出版、1995年、2-3頁)。

*3: 今日のグローバル化は、1960年代以降急速に進んだヒト・モノ・サービスの国際化に大きく関わっている。そして、国家間の経済的相互浸透性が増した結果、国家間の相互依存関係が高まり、国際政治に影響を与えるようになる。それを論じたのが、コヘインおよびナイらが論じた相互依存論であり、国内政治の国際政治の連繋現象をとらえようとして、ローズノウが提唱したリンケージ・ポリティクス(Linkage Politics)である。しかし、これらの議論は、問題領域によって相互浸透の度合いが異なることを前提とした議論であり、問題領域が重なることを問題にしたわけではない。この点の指摘については、藪野祐三「補論 リンケージ・ポリティクスの位置―国際システム論との関係において」『現代政治学の位相』(九州大学出版会、1981年)、299頁。相互依存論については、Robert O. Keohane and Joseph S. Nye, Jr., Power and Interdependence: World Politics in Transition(Little Brown, 1977).またリンケージ・ポリティクスについては、James N. Rosenau, ed., Linkage Politics: Essays on the Convergence of National and International Systems(New York: Free Press, 1969).

*4: John G. Ruggie,“International regimes, transactions, and change: embedded liberalism in the postwar economic order,"International Organization, Vol. 36 No. 2(1988), pp. 379-415.  

*5: ロバート・G・ギルピン(大蔵省世界システム研究会訳)『世界システムの政治経済学―国際関係の新段階』(東洋経済新報社、1990年)、17頁。

*6: 前掲書、19頁。

*7: イマニュエル・ウォーラーステイン(川北稔訳)『新版史的システムとしての資本主義』(岩波書店、1997年)、9頁。

*8: カール・ポランニー(吉沢英成訳)『大転換―市場社会の形成と崩壊』(東洋経済新報社、1975年)、97頁。

*9: 福田一葉「キャップ・アンド・トレード制度における排出枠の法的性質と財産権性(1)」『早稲田法学会誌』第65巻2号(2015年)、301-358頁。

*10: Ruediger Kuehr and Eric Williams, eds., Computer and the Environment: Understanding and Managing their Impacts(Dordrecht, Boston, London: Kluwer Academic Publishers, 2003).

*11: 都市住民の利己心の問題、NIMBY(Not In My Backyard「自分の裏庭には御免だ」)として批判されることもあるが、一方で廃棄物処分場がリスク管理の合理性ではなく、経済格差や人種分布などの社会的背景に基づいて選別されているという批判がある。アメリカでは、先住民などマイノリティの居住地域の周辺にこれらの施設が多いとされ、その是正を求める環境正義(Environmental Justice)という運動も起こっている。発展途上国に対する有害廃棄物の不法投棄や輸出をグローバルな環境正義の問題として批判する声がある。David Maguib Pellow, Resisting Global Toxics: Transnational Movements for Environmental Justice(Cambridge, M.A.: The MIT Press, 2007)。アメリカにおける先住民居住地域における核廃棄物処分場の問題については、石山徳子『米国先住民族と核廃棄物』(明石書店、2004年)が詳細に事例を考察している。

*12: 寺西俊一『地球環境問題の政治経済学』(東洋経済新報社、1992年)、70頁。

*13: Don Fullerton, ed., The Economics of Pollution Havens(Cheltenham, U.K.: Edward Elgar, 2006).

*14: Scott M. Taylor,“Unbundling the pollution haven hypothesis,"in Fulerton, ibid., p. 6.

*15: UNEP, Waste Crimes-Waste Risks: Gaps in meeting the Global Waste Challenge(Arendal, Norway: GRID-Arendal, 2015).

*16: 船舶解体には長い歴史がある。第2次世界大戦以前には日本においても盛んに行われていた。その後、船舶解体業は、台湾、さらにインドなど南アジア諸国へと移転していった。船舶解体の歴史については、佐藤正之『船舶解体―鉄リサイクルから見た日本近代史』(花伝社、2004年)。また、船舶解体とバーゼル条約との関係について比較的早い時期に検討した論稿としては、禮田英一「シップリサイクルとバーゼル条約―船舶への条約適用上の問題と今後のあり方」『海事産業研究所報』第452号(2004年2月)、10-21頁。

*17: シップブレイキング・プラットフォーム「無責任な船主たち―2015年の船舶解体データで暴かれた驚愕の記録」[原文http://www.shipbreakingplatform.org/press-release-ngo-publishes-2015-list-of-all-ships-dismantled-worldwide/](最終閲覧日2017年10月3日)。

*18: これら1980年代に相次いだ有害廃棄物の越境移動については第2章においても触れるが、ビル・モイヤーズ編(粥川準二・山口剛共訳)『有毒ゴミの国際ビジネス』(技術と人間社、1995年)を参照した。

*19: これら金属スクラップの取り扱いの実態とその問題については、寺園淳ほか『有害物質管理・災害防止・資源回収の観点からの金属スクラップの発生・輸出状況の把握と適正管理方策(平成20-22年度循環型社会形成推進科学研究補助金総合研究報告書)』(2011年)、第2章に詳しい。本資料については、鶴田順先生(明治学院大学)にご提供頂いた。

*20: 有害物に関するバーゼル条約、ロッテルダム条約、ストックホルム条約の関連性について検討したものとして、Henrik Selin, Global Governance of Hazardous Chemicals: Challenges of Multilevel Management(Cambridge, M.A.: The MIT Press, 2010);化学物質規制について日欧比較検討を行った研究として、早川有紀『環境リスク規制の比較政治学―日本とEUにおける化学物質規制』(ミネルヴァ書房、2018年)。

*21: 水俣条約の交渉過程については、宇治梓紗『環境条約交渉の政治学―なぜ水俣条約は合意に至ったのか』有斐閣、2019年、を参照。

*22: Mirina Grosz, Sustainable Waste Trade under WTO Law: Chances and Risk of the Legal Framework's Regulation of Transboundary Movement of Waste(Leiden: M.Nijhof, 2011), p. 254.

*23: この点に関しては、内記香子『WTO法と国内規制措置』(日本評論社、2008年)、第2章を参照。

*24: GATT第20条「この協定は、締約国が次のいずれかの措置を採用することまた実施することを妨げるものと解してはならない。ただし、それらの措置を―恣意的もしくは正当と認められない差別的待遇の手段となるような方法で―適用しないことを条件とする」、(b)項「人、動物または植物の声明又は健康の保護のために必要な措置」、(g)項「有限天然資源の保存に関する措置」などがある。

*25: バーゼル条約を詳細に検討している法学者のクマー(Katharina Kummer)は、この点について、「第11条と第20条は、バーゼル条約および関連した国際法規則によってカバーされた廃棄物が製品とみなされる限りにおいてのみ、それらの条約に適用される。国際的に合意されたこの用語の定義は、GATTのコンテキストの中には、存在しないし、有害廃棄物の国際管理のコンテキストの中にも存在しない」(Katharina Kummer, International Management of Hazardous Waste: The Basel Convention and Related Legal Rules(Oxford: Clarendon Press, 1995, p. 267)と指摘する。

*26: このHSは、WCO(世界税関機構)における協議を経て、1988年に発効したものである。日本をはじめとする世界154か国が加盟している(2017年5月現在)。

*27: 小島道一・鄭城尤「国際リユースの課題―新たな国際的な取組の必要性」小島道一編『国際リサイクルをめぐる制度変容』(アジア経済研究所、2010年)、257-280頁。

*28: 細田衛士『グッズとバッズの政治経済学』(東洋経済新報社、1999年)、110-111頁。

*29: 「禁止」修正の批准国は、現在100ヶ国および地域(EU)である(2021年12月末現在)。

*30: 臼杵知史「有害廃棄物の越境移動とその処分の規制に関する条約(1989年バーゼル条約)について」『国際法外交雑誌』第91巻第3号(1992年8月)、298-347頁;David J Abrams,“Regulating the international hazardous wastes trade: A proposal global solution,"Columbia Journal of Transnational Law, Vol. 28 No. 4(1990), pp. 801-45.

*31: Elli, Louka, Overcoming National Barriers to International Waste Trade(Martinus: Nijhoff/Graham and Trotman 1994).

*32: David A. Wirth,“Trade implications of the Basel Convention Amendment banning North-South trade in hazardous waste,"Review of European Community and International Environmental Law, Vol. 7 No. 3(1998), pp. 237-248.

*33: Jennifer Clapp, Toxic Exports: The Transfer of Hazardous Wastes from Rich Countries to Poor Countries(Ithaca and London: Cornell University, 2000), p. 18, p. 80.

*34: Ibid., p. 80.

*35: Ansley Kellow, International Toxic Risk Management: Ideas, Interests and Implementation(Cambridge: Cambridge University Press, 1999).

*36: Ibid., pp. 126-127.

*37: Ibid., p. 130.

*38: 先に触れたように、国際関係論におけるバーゼル条約の研究動向は、多国間環境条約の批准をめぐる国内過程の研究や環境と貿易に関する研究から大きく影響を受けていると考えられる。前者に関しては、例えばワイスらの研究において、稀少動植物の国際取引に関するワシントン条約など5つの条約の国内過程が比較検討されているが、バーゼル条約は検討対象となっていない(Edith Brown Weiss and Harold K. Jacobson, eds., Engaging Countries: Strengthening Compliance with International Environmental Accords(Cambridge, M.A.: The MIT Press. 2000)。また第1章で触れる環境と貿易の制度間関係の研究においても、気候変動や生物多様性は論じられていてもバーゼル条約に言及されていない。例えば、ロースティアラとヴィクターは、遺伝子資源を対象としている。Kal Raustiala and David. G. Victor,“The regime complex for plant genetic resources,"International Organization, Vol. 58 No 2(2004), pp. 277-309.また、ゼリらの論稿では、気候問題、森林、遺伝組み換えの事例が取り上げられている。Fariborz Zelli, Aarti Gupta and Harro van Asselt,“Institutional interactions at the crossroads of trade and environment: The dominance of liberal environmentalism?"Global Governance, Vol. 19(2013), pp. 105-118.

*39: ここでは、特に、バーゼル条約成立から「禁止」修正成立までの時期、1988年から1996年のデータに限定して記載した。なお両国とも一貫して、鉄スクラップの輸出国である。Hyujung Lee and II Sohn,“Global scrap trading outlook analysis for steel sustainability,"Journal of Sustainable Metallugry, Vol. 1 No. 1(2015), Figure 1 at p. 43.

*40: Kelly Dreher and Simone Pulver,“Environment as`High Politics'?Explaining divergence in US and EU hazardous waste export policies,"Review of European Community and International Environmental Law, Vol. 17, No. 3,(2008), pp. 306-318.

*41: この点、EU統合が進む以前のドイツの対応を、アメリカと比較検討した以下の研究を参照、拙稿「『環境と貿易』の国際規範と国内政治―バーゼル条約をめぐる米独の対応を事例として」『国際政治』第166号(2011年8月)、85-98頁。

*42: Judith Goldstein and Robert O. Keohane, eds., Ideas and Foreign Policy: Beliefs, Institutions and Political Change(Ithaca and London: Cornell University Press, 1993), p. 3.

*43: Ibid., p. 12.ゴールドシュタインらは、これらの目的達成のための具体的な戦略や手段を「因果的信念」(causal belief)と呼んでいる。

*44: 小島道一『リサイクルと世界経済』(中央公論新社、2018年)を参照。

*45: バーゼル条約第14回締約国会議で、リサイクルに適さない汚染プラスチックごみを同条約の規制対象とする改正案を採択した。

索引

欧文等索引

  • AEA 279
  • AISIF 194
  • BAN 212, 214, 215, 223, 274, 286, 297, 298
  • BIR 193, 194, 206, 209, 210, 211
  • BMU 139, 141, 187, 198
  • CEN 262
  • CSI 283
  • CTBC 286
  • ECOS 263
  • EEB 258
  • EIA 280
  • EPA 94, 148, 201, 273, 277, 282, 290, 292, 295
  • EPEAT 31, 271, 293, 295, 298, 299, 300, 311
  • EPR 30, 31, 63, 191, 219, 220, 221, 223, 225, 231, 241, 264, 271, 280, 283, 284, 285, 310, 311, 312
  • E-Stewards 286, 298, 308
  • ETBC 291
  • Eurometaux 194, 203, 210, 211
  • GATT 13, 23, 100-101
  • GATT/WTO 12, 55
  • IAER 277
  • ICC 89, 209
  • ICME 194, 203
  • IMPEL 247
  • IRSI 149
  • ISO 261, 262
  • ISRI 133, 181, 291, 298
  • OAU 112, 128
  • OECD 21, 22, 78, 81, 82, 83, 84, 132, 151, 160, 208, 212, 219, 220, 221, 222
  • Orgalime 258, 263, 269
  • PIC 15, 30, 31, 62, 63, 73, 74, 80, 103, 105, 114, 231, 241, 264, 309, 311, 312, 314
  • R2 298
  • RCRA 94, 95, 147, 148, 149, 150, 282, 293
  • SEAISI 194
  • SVTC 276, 278, 286
  • TBT協定 222, 260, 261
  • UNEP 77, 79, 88, 89, 109, 111, 116, 128, 151, 228, 229, 230
  • WCO 232
  • WEEE指令 31, 241, 252, 254, 256
  • WTO 218, 222, 311
  • XL 283

事項索引

  • あ行
    • アビジャン 250
    • インド 18, 152, 193, 203, 207, 208, 217, 318
    • 欧州標準化規則 262
    • 欧州標準化システム 264
    • オーストラリア 153, 171, 192, 193, 209
    • 汚染逃避地仮説 17
    • 汚染防止法 281
  • か行
    • カイロ・ガイドライン 88
    • カナダ 214
    • 環境と貿易 12, 15, 101, 265, 313
    • 規制的(統整的)ルール 58
    • 規制的ルール 59
    • 規範のライフサイクル 46-49
    • キャン・シー号事件 96
    • グリーンピース 19, 87, 108, 192, 193, 196, 203, 204, 212
    • グローバル化 11, 12, 13, 14
    • グローバル・ガヴァナンス 11, 30, 32, 51, 313, 315
    • 構成的ルール 58, 59
    • 国際電子リサイクル事業者協会 277
    • コンストラクティビズム 45, 48, 59, 62, 316, 317
  • さ行
    • シップリサイクル条約 20
    • 主権 63, 98, 103, 104, 105, 114, 115, 129, 309
    • 情報の非対称性 24, 44, 63, 75, 108, 114, 177, 309
    • ストックホルム条約 20, 314
    • 政策アイディア 32, 57-63, 317
    • 制度間関係 53, 54, 55, 58, 315
    • 制度間相互作用 53
    • セベソ事件 81
  • た行
    • 第三者認証 298, 301
    • 中国 18, 172, 217, 286, 318
    • 電子機器スチュワードシップに関する国家戦略 297
    • 電子廃棄物 14, 223, 254, 258, 286, 287, 288, 289, 293, 298
  • な行
    • 日本 174, 176, 179, 189, 237
    • 認識共同体論 61
    • 認証 261, 277, 298
  • は行
    • バーゼル条約 12, 20, 22, 25, 31, 114, 116
      • ―「禁止」決定 127, 151
      • ―「禁止」修正 25, 31, 191, 203, 209-210, 254, 272, 294, 318
      • ―損害賠償責任義定書 31
    • 廃棄物ツアー 90
    • 標準化 260, 261, 262, 263, 265
    • フォーカル・ポイント 299, 300, 301
    • フォーラム・ショッピング 55
  • ま行
    • モンテビデオ・プログラム 88
  • ら行
    • リアリズム 42, 49
    • リベラリズム 43, 44, 45, 50
    • レジーム 50-52, 63
      • ―コンプレックス 53
      • ―シフティング 53
      • ―のガヴァナンス化 52, 309, 316
    • ロッテルダム条約 20, 314

人名索引

  • あ行
    • アルター、ハーヴェイ 147, 167, 275
    • ウィーナー、アンツェ 61
    • ウェント、アレクサンダー 45, 48, 59-60
    • ウォーラーステイン、イマニュエル 14
    • オーバーチュア、セバスティアン 54-55
  • か行
    • ギルピン、ロバート 13, 42
    • クラスナー、スティーブン 51. 115
    • コヘイン、ロバート 43
  • さ行
    • サール、ジョン 58
  • た行
    • トルバ、モスタファ 20, 102, 106-107, 109, 111, 153, 155
    • テップファー、クラウス 92, 139-140, 142, 164-165, 228
  • は行
    • パケット、ジム 155, 196, 214
    • ハート、ハーバート 59
    • ホール、ピーター 57, 60
    • ポランニー、カール 14, 319
  • や行
    • ヤング、オラン 59, 67
  • ら行
    • ローウィ、セオドア 61
    • ローズノウ、ジェームズ 34, 51-52