国連研究 24 地域安全保障と国連

日本国際連合学会 編
書影『地域安全保障と国連』

OSCEはなぜロシアのウクライナ侵略を阻止し得なかったのか。いま国連自体の法的・政治的実態を検証し、国際機構、地域機構との関係性および役割について多様な視点から考察する必要がある。(2023.6.20)

定価 (本体3,200円 + 税)

ISBN978-4-87791-323-6 C3032 233頁

目次

  • I 特別寄稿 武者小路公秀教授を悼む渡邉昭夫
  • II 特集テーマ「地域安全保障と国連」
    • 1 安全保障をめぐる国連と地域的機構庄司真理子
    • 2 欧州における「安全保障」概念と国連の役割の再検討玉井雅隆
    • 3 The Origins of the Partnership on Peace Operations in Africa: The `Goulding Report'(1997) and SomaliaMika Inoue-Hanzawa
  • III 独立論文
    • 4 国際連合における拒否権の本質的制約 ―ウクライナ情勢におけるロシアの拒否権行使をめぐって―瀬岡直
  • IV 政策レビュー
    • 5 安保理による立法的行為の評価-安保理決議1540の国内履行からの考察田中極子
  • V 書評
    • 6 西海洋志著『保護する責任と国際政治思想』望月康恵
    • 7 樋口真魚著『国際連盟と日本外交-集団安全保障の「再発見」』山田哲也
    • 8 大道寺隆也著『国際機構間関係論―欧州人権保障の制度力学』滝澤美佐子
    • 9 Tatiana Carayannis and Thomas G. Weiss, The Third UN: How a Knowledge Ecology Helps the UN Think小林綾子
    • 10 今西靖治著『PKOのオールジャパン・アプローチ:憲法9条の下での効果的な取組』川口智恵
  • VI 日本国際連合学会から
    • 1 国連システム学術評議会(ACUNS)2022年度年次研究大会に参加して竹内舞子
    • 2 2022年東アジア国連システム・セミナー(第21回)報告書樋口恵佳
    • 3 規約および役員名簿
  • VII 英文要約
  • 編集後記
  • 執筆者一覧

表紙写真

Plenary Hall of General Assembly. [Exact date unknown] ©UN Photo

  • Preface
  • I Special Article: In Memorial of Professor Kinhide MushunokojiAkio Watahabe
  • II Articles on the Theme
    • 1 UN and Regional Organizations for SecurityMariko Shoji
    • 2 The Role of United Nations in Europe in the Security PerspectiveMasataka Tamai
    • 3 The Origins of the Partnership on Peace Operations in Africa: The `Goulding Report'(1997) and SomaliaMika Inoue-Hanzawa
  • III Independent Article
    • 4 The Inherent Constraints on the Use of Veto Power in the United Nations: A Critical Analysis of the Russian Vetoes in the Russia-Ukraine ConflictNao Seoka
  • IV Policy Perspectives
    • 5 Implication of Security Council's Legislative Function: A Study from the National Implementation of ResolutionKiwako Tanaka
  • V Book Reviews
    • 6 Hiroshi Nishikai, Responsibility to Protect in International Political ThoughtYasue Mochizuki
    • 7 Mao Higuchi, The League of Nations and Japanese diplomacy: the rediscovery of collective securityTetsuya Yamada
    • 8 Ryuya Daidoji, Inter-Organizational Relations:Institutional Dynamics of Human Rights Protection in EuropeMisako Takizawa
    • 9 Tatiana Carayannis and Thomas G. Weiss, The Third UN: How a Knowledge Ecology Helps the UN ThinkAyako Kobayashi
    • 10 Nobuharu Imanishi, All-Japan Approach in the UN Peacekeeping OperationsChigumi Kawaguchi
  • VI Announcements
    • 1 The 2022 Annual Meeting of the Academic Council on the United Nations System (ACUNS)Maiko Takeuchi
    • 2 The 21th East Asian Seminar on the United Nations SystemEka Higuchi
    • 3 Association's Charter and Officers
  • VII Summaries in English
  • Editorial Notes
  • List of the contributors and editorial members

Cover: Plenary Hall of General Assembly. [Exact date unknown]©UN Photo

著者紹介

〈執筆者一覧〉掲載順^{所属および職位は2023年4月時点のもの。}

渡邉昭夫 (わたなべ・あきお)
東京大学名誉教授、日本国際連合学会特別顧問
専門は、国際政治学、日本外交論。
主な著書に、『安全保障政策と戦後日本1972-1994―記憶と記録の中の日米安保』(千倉書房、2016年)、『21世紀を創る』(PHP研究所、2016年)、『日本をめぐる安全保障 これから10年のパワー・シフト―その戦略環境を探る』(亜紀書房、2014年)などがある。
庄司真理子 (しょうじ・まりこ)
敬愛大学国際学部教授
専門は、国際関係論、国際法、国際機構論。
主な著書に、庄司真理子・宮脇昇・玉井雅隆(編著)『(改訂第2版)新グローバル公共政策』(晃洋書房、2021年)、“The UN Global Compact for Transnational Business and Peace: A Need for Orchestration?" in Code of Conduct on Transnational Corporations: Challenges and Opportunities, ed. Mia Mahmudur Rahim (Springer Nature, 2019), pp. 89-110などがある。
玉井雅隆 (たまい・まさたか)
東北公益文科大学公益学部教授。
専門は、国際政治学、紛争予防論、マイノリティ論。
主な著書に、『欧州安全保障協力機構(OSCE)の多角的分析―「ウィーンの東」と「ウィーンの西」の相克』(志学社、2021年)、庄司真理子・宮脇昇・玉井雅隆(編著)『(改訂第2版)新グローバル公共政策』(晃洋書房、2021年)、山本武彦・玉井雅隆編『国際組織・国際制度』(志学社、2017年)、『CSCE少数民族高等弁務官と平和創造』(国際書院、2014年)などがある。
井上実佳 (いのうえ・みか)
東洋学園大学グローバル・コミュニケーション学部教授
専門は、国際政治学、アフリカの安全保障と国際組織。
近著に、井上実佳・今井ひなた「第6章 アフリカ」西海洋志ほか編『地域から読み解く「保護する責任」―普遍的な理念の多様な実践に向けて』(聖学院出版会、2023年)、207-241頁、井上実佳・川口智恵・田中(坂部)有佳子・山本慎一(編著)『国際平和活動の理論と実践-南スーダンにおける試練』(法律文化社、2020年)、「第10章 日本と国連」佐藤史郎ほか編『日本外交の論点』(法律文化社、2018年)、104-115頁などがある。
瀬岡直 (せおか・なお)
近畿大学国際学部准教授
専門は、国際法、国際組織法。
主な著書・論文に、「強行規範に基づく拒否権の法的制限に関する一考察-J. Trahanの議論を中心に-」Journal of International Studies, Vol.7, 2022, pp.17-32、「保護する責任と体制転換のジレンマに関する一考察-リビア紛争におけるカダフィ政権の政府性をめぐって」『国際法外交雑誌』第117巻2号(2018年)135-168頁、『国際連合における拒否権の意義と限界-成立からスエズ危機までの拒否権行使に関する批判的検討-』(信山社、2012年)などがある。
田中極子 (たなか・きわこ)
東洋英和女学院大学国際社会学部准教授
国連安保理1540委員会専門家グループ委員(2023年3月末まで)
専門は、軍縮・不拡散、集団的安全保障。
主な論文に、 “Controlling the Transfer of Biotechnology in the Age of Strategic Competition," The Journal of Social Science, no.90(2023)、“The UN Security Council Resolution 1540 and Counter Proliferation Financing" in United Nations Financial Sanctions, ed. Sachiko Yoshimura Yoshimura (Routledge, 2020)などがある。
望月康恵 (もちづき・やすえ)
関西学院大学法学部教授
専門は、国際法、国際機構論。
主な論文・著書に、片柳真理・坂本一也・清水奈名子・望月康恵『平和構築と個人の権利―救済の国際法試論』(広島大学出版会、2022年)、“Roles and Functions of Transitional Justice Mechanisms in the Asia-Pacific Region in the Development of International Law", Chinese (Taiwan) Yearbook of International Law and Affairs, Vol.35, 2018, pp.70-98、『移行期正義―国際社会における正義の追及』(法律文化社 2012年)などがある。
山田哲也 (やまだ・てつや)
南山大学総合政策学部教授
専門は国際法、国際機構論
主な著書・論文に、「国際法からみた一方的分離独立と『併合』:ウクライナ東部・南部4州の法的地位」『国際問題』第710号(2022年)5-14頁、「日本の『植民地』獲得と法制」柳原正治・兼原敦子編『国際法からみた領土と日本』(東京大学出版会、2022年)61-85頁、『国際機構論入門』(東京大学出版会、2018年)、『国連が創る秩序:領域管理と国際組織法』(東京大学出版会、2010年)などがある。
滝澤美佐子 (たきざわ・みさこ)
桜美林大学リベラルアーツ学群教授。
専門は、国際法、国際機構論。
主な著書・論文に、横田洋三編『新国際人権入門:SDGsの時代における展開』(法律文化社、2021年)、「国際連合による暫定統治と移行期における法関係:東ティモールを例に」出口雄一編『戦争と占領の法文化』(国際書院、2021年)77-110頁、吉村祥子・望月康恵編『国際機構論[活動編]』(国際書院、2020年)(第5章、第8章第3節、第13章第2・3節)、『国際人権基準の法的性格』(国際書院、2004年)などがある。
小林綾子 (こばやし・あやこ)
上智大学総合グローバル学部准教授
専門は、国際政治学、グローバル・ガバナンス、紛争平和研究。
主な論文に、「紛争再発と和平合意」『国際政治』第210号(2023年)95-110頁、「国際平和活動とローカルな平和」『国連研究』第22号(2021年)151-187頁があり、訳書にエリカ・チェノウェス著『市民的抵抗』(白水社、2023年)がある。
川口智恵 (かわぐち・ちぐみ)
東洋学園大学グローバル・コミュニケーション学部准教授
専門は、国際政治、政策研究、平和構築。
主な著書・論文に、“Why GBV Survivors Cannot Seek Help: The Case of South Sudanese Refugees in Uganda" in Risks, Identity and Conflict: Theoretical Perspectives and Case Studies, eds. Steven Ratuva, Hamdy A. Hassan & Radomir Compel (Springer Nature, 2021)、井上実佳・川口智恵・田中(坂部)有佳子・山本慎一(編著)『国際平和活動の理論と実践-南スーダンにおける試練』(法律文化社、2020年)、Atsushi Hanatani, Oscar A. Gomez & Chigumi Kawaguchi, Crisis Management Beyond the Humanitarian-Development Nexus (Routledge, 2018) などがある。
竹内舞子 (たけうち・まいこ)
早稲田大学紛争交渉研究所招聘研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー
専門は、経済安全保障、貿易管理、経済制裁。
主な著書・論文に、「安保理北朝鮮制裁における適用除外規定と実務上の取扱いの変化―人道支援を中心に―」『国際法研究』第9号(2021年)69-87頁、“UN financial sanctions against the Democratic People's Republic of Korea-Challenges and proposal for efficient implementation," in United Nations Financial Sanctions, ed. Sachiko Yoshimura (Routledge, 2021), pp.134-149がある。
樋口恵佳 (ひぐち・えか)
東北公益文科大学公益学部准教授
専門は、国際法、国際海洋法。
主な著書・論文に、藤井麻衣・樋口恵佳「国連海洋法条約の下での気候変動への対応」『環境法政策学会誌』第25号(2022年)135-144頁、「持続可能な海域利用に関する国内法制度の検証:海洋空間計画の国際ガイドラインの視点から」『公益学研究』第21巻1号(2022年)13-21頁、「第3章 国境紛争と国際法」宮𦚰昇・樋口恵佳・浦部浩之編著『国境の時代』(大学教育出版、2022年)46-68頁などがある。

〈編集委員会〉五十音順

赤星聖
神戸大学准教授
小川裕子
東海大学教授
軽部恵子
桃山学院大学教授
菅原絵美
大阪経済法科大学教授
杉浦功一
文教大学教授(編集主任)
柳生一成
広島修道大学教授
吉村祥子
関西学院大学教授

まえがき

『国連研究』第24号は「地域安全保障と国連」を特集テーマに編纂した。ここ数年の間に、ミャンマー、アフガニスタン、ウクライナなど、国家や地域の安全保障に関わる深刻な事態が続いている。そこで第24号では、地域の安全保障と国連の役割について考える特集を組んだ。地域の安全保障については、第12号(2011年)で「安全保障をめぐる地域と国連」の特集が組まれたが、10年以上経った今、劇的に変容してきた地域の安全保障に再度着目し、これまでの安全保障の概念を再検討するとともに、地域の国家や地域機構と国連との関係、また、地域の安全保障における国連の役割についての論考を掲載する。地域で深刻化する安全保障の問題に対して国連は何ができるのか、また、問題解決のためにはどのような枠組みが必要なのか、国連をはじめとする国際機構と地域機構との関係性や役割について多様な視点から考察する論考が揃った。

巻頭には本学会の特別顧問である渡邉昭夫先生から、昨年5月にご逝去された武者小路公秀先生に向けてメッセージをお寄せいただいた。武者小路先生はとくに国際関係論、平和研究の分野で優れた研究業績を残されたほか、人権の推進、非暴力の推進、反差別運動にもご尽力された。本学会には特別顧問として長年にわたり御貢献くださったことに心より感謝を申し上げたい。

続いて、特集論文から掲載順に各セクションの論文を紹介する。

庄司論文は、本特集号の総論としての位置づけであり、地域安全保障をめぐる国際的対応を歴史的に紐解いたものである。地域的機構による安全保障の取り組みには、地域内の安全保障と域外干渉からの防衛という相矛盾する側面が共存しているが、この両立を図るべく、国連憲章には、地域的取極を規定した第8章、および、集団的自衛権を規定した第51条が最終的に埋め込まれた。しかし、国連と地域的機構の関係には曖昧さが残った。紛争の平和的解決に関して両者は競合関係にあり、強制措置についても集団的自衛権を認めたことで普遍的集団安全保障との緊張関係が生じている。最後に、コソボ紛争を事例として、地域的機構が対外的にとる強制措置について、合法性と正統性に基づく評価の可能性を示している。しかし、それは単なる「評価」に留まらない。両者が矛盾する場合、そのジレンマに直面したアクターが国際社会の安全保障をめぐる規範やルールを前進させる契機となると本論文は強調するのである。

玉井論文は、今日、国連の活動の限界が指摘されているが、特にOSCEを中心に地域機構と国連の関係性の発展を分析した結果、新たな視点や可能性が見出せると説く。

玉井は、まず、冷戦機に遡り、欧州地域における重層的な地域的国際機構の枠組みやその成立背景を概観する。そして、複数の地域的国際機構が存在する場所では、特定の国際機構によって生み出された規範でも、その重層的な特質により「地域的国際機構間に共鳴」し、「法的、政治的規範として最初の規範創設者の意図を越えて発展し」たと述べる。一方、地域的な国際機構が重複して存在しない旧ソ連諸国においては、規範の共鳴が見られず、受け入れられていないという傾向がある。このため、かつて東西陣営に属していた欧州の国家が加盟国であるOSCEにおいては、今日でもCSCEの時代から培ってきた規範の一部を受け入れない加盟国が存在し、平和維持活動などにも支障が生じる結果となっている。

しかし、OSCE加盟国である国家は、普遍的国際機構である国連の加盟国であることも事実であり、国連が行う活動を当事者として受け入れざるを得ない。その結果、OSCEと国連との協働関係の進展に見られるように、今日、地域的国際機構と国連との間でより相互補完的な関係を構築しようという動きがある。最終的に、玉井は、「ポスト・ポスト冷戦期」において、地域における国連の役割や活動はより大きくなっていくと結論づけている。

井上論文は、アフリカの平和維持活動における国連と地域機構のパートナーシップの起源について探求する。具体的には、1990年代における国連平和維持活動(PKO)の変革プロセスと原因を明らかにすべく、「平和と安全保障分野における国連の有効性を高めるための実用的措置」(「グールディング報告」)を検討する。同報告は、マラック・グールディング国連事務次長が、1997年にコフィ・A・アナン国連事務総長に提出した非公開の報告書である。同報告は、武力行使の賛否、人道危機、国連と地域機構の関係を論じるものであり、2000年代以降のPKOの方向性を示唆している。

井上論文は、「グールディング報告」におけるソマリアの事例を取り上げ、国連と地域機構の「パートナーシップ」の問題を浮かび上がらせる。地域機構は国連の一部なのか、あるいは外部のアクターなのか。同論文は、地域機構が「第4の国連」として位置づけられる可能性を示す。アフリカの紛争への国際機構の関与と地域機構の関与を明確にするには、1990年代の文脈の中でのPKOを「歴史」として分析することが不可欠であると結論づけている。

独立論文は1本を掲載した。瀬岡論文「国際連合における拒否権の本質的制約:ウクライナ情勢におけるロシアの拒否権行使をめぐって」は、国際連合における拒否権の本質的制約に着目して、2022年に勃発したウクライナ情勢におけるロシアの拒否権行使を批判的に検討している。そして検討の結果、以下の3点を結論付ける。第1に、国連憲章第27条3項の文言解釈や、5大国間のバランスといった観点からロシアの拒否権行使を容認する国際法学および国際政治学の議論は、すでに国連憲章の起草時から強く意識されていた「権利としての拒否権」と「責任としての拒否権」の2面性に基づく拒否権の本質的制約を軽視している。第2に、拒否権行使が本質的制約に合致しているかどうかを判断する際には、常任理事国の拒否権行使の正当化理由を慎重に検討することが重要である。第3に、ロシアの拒否権行使の正当化を重視すると、「権利としての拒否権」あるいは「責任としての拒否権」、いずれの側面についても、ロシアの拒否権行使は、国際法上明確に違法であるとまで言い切れないとしても、少なくとも、国連の目的・原則から大きく外れたものであり、その意味で、拒否権の本質的制約に合致しないものである。

政策レビューには、1本を掲載した。「安保理による立法的行為の評価-安保理決議1540の国内履行からの考察」と題するレビューは、国連加盟国による決議1540(2004年)の履行を分析した。安保理が立法的機能を持ったとして議論を巻き起こした同決議について、決議の趣旨および目的に対する各国の立場の相違が、決議の履行に及ぼす影響を分析した。まず、決議採択時に、決議を非国家主体への大量破壊兵器の不拡散のためと位置づける国々とテロ対策とする国々との2つの立場があり、採択のための妥協の結果として、決議の条項が異なる解釈の余地を残したことを浮き彫りにした。

次に、決議の国内法整備に関する各国の履行状況を、1540委員会が実施した包括的レビューに基づき、決議の主文1ないし3それぞれについて分析した。決議採択の経緯から、大半の国家は、加盟する既存の多国間条約の国内適用を決議の国内履行として援用しており、その場合に、条約に対する決議の補完的要素が履行されない場合が多いことが明らかにされた。たとえば、重要な補完的要素である「非国家主体に対する不拡散」について、おもにテロ対策法で国内履行とする国では、「非国家主体」がテロリストに限定される。安保理の立法的機能が課す法的義務に対して、国連加盟国の多くは決議の履行のために特別な努力を払っていない。安保理の立法的行為への反感等に鑑みると、この先も決議の履行を促進するためには、非国家主体に対する大量破壊兵器の不拡散を目的とした輸出管理措置が、すべての国家にとって意義があると示すような誘因が必要であろうと結んでいる。

続いて、書評セクションには5本の書評を掲載した。書評の対象となった文献は、西海洋志著『保護する責任と国際政治思想』(国際書院、2021年)、樋口真魚著『国際連盟と日本外交―集団安全保障の「再発見」』(東京大学出版会、2021年)、大道寺隆也著『国際機構間関係論―欧州人権保障の制度力学』(信山社、2020年)、Tatiana Carayannis and Thomas G. Weiss, The Third UN: How a Knowledge Ecology Helps the UN Think (Oxford University Press, 2021)、今西靖治著『PKOのオールジャパン・アプローチ―憲法9条の下での効果的な取組』(信山社、2022年)である。

西海洋志著『保護する責任と国際政治思想』は、国際秩序が変動しているという問題意識の下、その変動がどのような方向に動き、結果として国際秩序がどのように再構成されつつあるのかについて保護する責任概念を通して考察する。同書については望月康恵会員が解説している。

樋口真魚著『国際連盟と日本外交―集団安全保障の「再発見」』は、満洲事変から日中戦争を対象に、日本が外交交渉において国際連盟および国際法の役割をいかに認識して対応してきたかを分析・検討するとともに、一連の対応がその後の秩序構想や安全保障構想に与えた影響を論じている。同書については山田哲也会員が解説している。

大道寺隆也著『国際機構間関係論―欧州人権保障の制度力学』は、欧州の人権保障に関わる近時の複数事例において生じた国際機構間の「相互作用」に着目し、その中に「国際機構異議申立」概念によって抽出される事象を見出し、国際機構が制度的な変更や影響を受ける過程を析出する。同書については滝澤美佐子会員が解説している。

Tatiana Carayannis and Thomas G. Weiss, The Third UN: How a Knowledge Ecology Helps the UN Thinkは、従来は国連のアクターとして認められてこなかったが、国連の政策や実践に貢献している非国家主体を「第三の国連」とすることで、国家中心観では捉えきれないグローバル・ガバナンスを理解するための視座を提供する。同書については小林綾子会員が解説している。

また、今西靖治著『PKOのオールジャパン・アプローチ―憲法9条の下での効果的な取組』は、30年近く外務省の現役外交官として勤務する著者が、外務省総合外交政策局国際平和協力室長としての実務経験を踏まえて、日本の国際平和協力の法的側面および政策実践について自衛隊のPKO派遣を中心に考察する。同書については川口智恵会員が解説している。

加えて、学会の活動として、国連システム学術評議会(ACUNS)研究大会と東アジア国連システム・セミナーについての報告を掲載した。いずれも長引くコロナ禍により、オンラインでの開催となった。ACUNS報告については竹内舞子会員が、東アジアセミナーについては樋口恵佳会員が報告書を作成した。

2023年3月末日

編集委員会