国連研究 27 国際社会の分断と国連: 人権・開発・人間の安全保障の課題
本特集は、SDGs(持続可能な開発目標)の現在を踏襲しつつ、「国際社会の分断と国連:人権・開発・人間の安全保障の課題」をモチーフとして幅広い議論を展開する。(2026.8.30)
定価 (本体3,200円 + 税)
ISBN978-4-87791-347-2 C3032 263頁
- 序
- I 特集テーマ「国際社会の分断と国連:人権・開発・人間の安全保障の課題」
- 1 「国連体制」80年の根底にあるもの:問題解決に向けた国際法上のいくつかの論点植木俊哉
- 2 ジェンダーに基づく女性に対する暴力と「女性に対する暴力から自由に生きる権利」近江美保
- 3 難民・移民に関するグローバルガバナンスの組織化:GCRおよびGCMの実施体制川村真理
- 4 経済の金融化・格差・気候変動と国連:規範形成は新自由主義への拮抗力となりうるか島田 剛
- 5 分断ではなく連帯を醸成するには:ポストSDGsとビヨンドGDPの議論における社会的連帯経済の役割高須直子
- 6 「ビジネスと人権に関する指導原則」の国内実施:カリフォルニア州サプライチェーン透明法に基づく訴訟を中心に竹内雅俊
- 7 越境社会に生きる人々と国連平和構築:東西ティモール国境地域の再編過程堀江正伸
- II 政策レビュー
- 8 子どもの暴力から守られる権利の主流化に向けて:国際社会分断の狭間で小林葉子
- III 書評
- 9 細谷雄一著『国際連合の誕生:戦後平和へのイギリスの構想と外交』帶谷俊輔
- 10 セヴリーヌ・オトセール著(山田文訳)『平和をつくる方法:ふつうの人たちのすごい戦略』小林綾子
- IV 日本国際連合学会から
- 1 国連システム学術評議会(ACUNS)2025年度年次研究大会報告書植木安弘
- 2 第24回東アジア国連システム・セミナーに参加して玉井雅隆
- 3 規約及び役員名簿
- V 英文要約
- 編集後記
- 執筆者一覧
表紙写真
Portrait of Mother and Child in Afghanistan in a Kindergarten Class[05/20/2006]©UN Photo
- Preface
- I Articles on the Theme
- 1 The Fundamental Basis of the 80 Years' “UN Regime": Some Issues from International Law PerspectiveToshiya Ueki
- 2 Gender-Based Violence against Women and Women's Right to Live Free from ViolenceMiho Omi
- 3 Institutionalizing Global Governance on Refugees and Migrants: Implementation Framework for the GCR and the GCMMari Kawamura
- 4 Financialization, Inequality, and Climate Change in the Global Economy: Can the United Nations' Norm-Making Counterbalance Neoliberalism?Go Shimada
- 5 How to Foster Solidarity instead of Divide: The Role of the Social and Solidarity Economy in the Post-SDGs and Beyond GDP DiscussionsNaoko Takasu
- 6 Doing Business and Human Rights Domestically: Why Domestic Law is Not EnoughMasatoshi Takeuchi
- 7 Living in a Cross-Border Society: United Nations Peacebuilding and the Reconfiguration of the Timor-Leste–Indonesia Borderland on Timor IslandMasanobu Horie
- II Policy Perspectives
- 8 Mainstreaming Children's Right to Protection from Violence: Amid Global FragmentationYoko Kobayashi
- III Book Reviews
- 9 Yuichi Hosoya, The Birth of the United NationsShunsuke Obiya
- 10 Séverine Autesserre, The Frontlines of Peace: An Insider's Guide to Changing the WorldAyako Kobayashi
- IV Announcements
- 1 The 2025 Annual Meeting of the Academic Council of the United Nations System (ACUNS)Yasuhiro Ueki
- 2 The 24th East Asian Seminar on the United Nations SystemMasataka Tamai
- 3 Association's Charter and Officers
- V Summaries in English
- Editorial Notes
- List of the Contributors and Editorial Members
Cover:
Portrait of Mother and Child in Afghanistan in a Kindergarten Class[05/20/2006]©UN Photo
〈執筆者一覧〉掲載順 *所属および職位は2026年4月時点のもの。
- 植木 俊哉(うえき としや)
- 東北大学理事・副学長(総務・国際・学術資源担当)
- 専門は、国際法、国際組織法。
- 主な著書・論文に、「国際組織の設立条約に対する留保に関する一考察」編集代表岩沢雄司・岡野正敬『国際関係と法の支配(小和田恆国際司法裁判所裁判官退任記念)』(信山社、2021年)、「国際司法裁判所と“audiatur et altera pars"原則の適用」森田章夫・寺谷広司・吉田脩・岩月直樹編『国際法の理論と実現(岩沢雄司先生古稀記念)』(信山社、2025年)などがある。
- 近江 美保(おうみ みほ)
- 神奈川大学法学部教授
- 専門は、国際法、国際人権法、フェミニズム国際法。
- 主な論文・著書に、「国際法におけるフェミニスト・アプローチ─『他者』 を作り出さない国際法への視点」『国際法外交雑誌』、第124巻第3号(2025年11月)、「国際人権法とジェンダー─人権と『女性の人権』を考える」小畑郁・ 山元一編『国際人権法の理論(新国際人権法講座 第2巻)』(信山社、2023年)などがある。
- 川村 真理(かわむら まり)
- 杏林大学総合政策学部教授
- 専門は、国際難民法、国際人権法、国際機構法。
- 主な論文・著書に、『難民問題と国際法制度の動態』(信山社、2019年)、『難民の国際的保護』(現代人文社、2003年)などがある。
- 島田 剛(しまだ ごう)
- 明治大学情報コミュニケーション学部教授
- 専門は、国際経済学、国際開発論、災害復興。
- 主な論文・著書に、“Fukushima Daiichi nuclear power plant impact on regional economies from 1960 to 2010," Renewable and Sustainable Energy Reviews, 203: 114801 (2024), https://doi.org/10.1016/j.rser.2024.114801、『いまを読み解くマクロ経済学─成長・失業・インフレを基礎から学ぶ』(日本評論社、2025)、『ミクロ経済学への招待』(新世社、2023)などがある。
- 高須 直子(たかす なおこ)
- 桜美林大学リベラルアーツ学群教授
- 専門は、開発学、国際協力、社会的連帯経済。
- 主な論文・著書に、『これからの国際協力─私たちが望む未来のために』(有斐閣、2025年、共編著)、「第4章 社会的連帯経済における互酬性の役割 ─パキスタンのイスラム金融マイクロファイナンス機関・アフワット」真崎克彦・藍澤淑雄編『ポスト資本主義時代の地域主義─草の根の価値創造の実践』(明石書店、2024年)などがある。
- 竹内 雅俊(たけうち まさとし)
- 東洋学園大学グローバル・コミュニケーション学部教授
- 専門は、国際法、国際関係論、国際機構論。
- 主な論文・著書に、「VI章 27 国際法学の実務と理論における学際性─国際裁判を素材に」『国家と海洋の国際法─柳井俊二先生米寿記念【上巻】』(信山社 2025年)、Japanese Approaches to International Law: Theory and Practice, co-edited with Kojima Chie (Brill Nijhoff, 2025) などがある。
- 堀江 正伸(ほりえ まさのぶ)
- 青山学院大学地球社会共生学部教授
- 専門は、国際関係論、国際協力論、開発・人道支援。
- 主な論文・著書に、『人道支援は誰のためか─スーダン・ダルフールの国内避難民社会に見る人道支援政策と実践の交差』(晃洋書房、2018年)、「『取り残された地域』にとっての持続可能な開発目標」真崎克彦・藍澤淑雄編『ポスト資本主義時代の地域主義─草の根の価値創造の実践』(明石書店、2024年)などがある。
- 小林 葉子(こばやし ようこ)
- ユニセフラオス事務所・子どもの保護チーフ
- 専門は、子どもの権利、子どもの保護、国際開発。
- 主な論文に、「子どもに対する暴力防止の国際的動向─子どもの守られる権利の視点から」『子どもの権利研究』第37号(2026年)、共著に、“Chapter 16 Social innovation as the need of the hour in health emergencies," in Social Work in Health Emergencies: Global Perspectives, eds., Patricia Fronek, Karen Smith Rotabi-Casares (Routledge, 2022) などがある。
- 帶谷 俊輔(おびや しゅんすけ)
- 成蹊大学法学部准教授
- 専門は、国際関係論、国際関係史、国際機構論。
- 主な論文・著書に、『国際連盟─国際機構の普遍性と地域性』(東京大学出版会、2019年)、「『強制的連盟』と『協議的連盟』の狭間で─国際連盟改革論の位相」『国際政治』第193号(2018年)などがある。
- 小林 綾子(こばやし あやこ)
- 上智大学総合グローバル学部准教授
- 専門は、国際機構論、紛争平和研究。
- 主な論文・著書に、『国際機構論』(法律文化社、2025年、共編著)、「仲介と交渉」富樫耕介・中村長史編『国際社会の紛争解決学』(法律文化社、2025年)などがある。
- 植木 安弘(うえき やすひろ)
- 上智大学名誉教授
- 専門は、国際関係論、国際機構論、グローバル・ガバナンス論。
- 主な著書・論文に、「フランス語圏への国連マルチ外交─PKOを通じたフランスの国益追求 」岩崎えり奈・小島真智子編『フランス語圏を知るための62章』(明石書店、2026年)、「国際連合80年─国連の諸課題と改革のゆくえ」『歴史地理教育』(2025年11月号)、"Russia's Aggression Against Ukraine and the Pursuit of Individual Criminal Responsibility," US-China Law Review, 20-1 (2023)、「リベラルな国際秩序と国連」納家政嗣・上智大学国際関係研究所編『自由主義的国際秩序は崩壊するのか』(勁草書房、2021年)、『国際連合─その役割と機能』(日本評論社、2018年)などがある。
- 玉井 雅隆(たまい まさたか)
- 秋田大学大学院国際資源学研究科教授
- 専門は、国際関係論、国際機構論。
- 主な論文・著書に、『欧州安全保障協力機構(OSCE)の多角的分析』(志学社、2021年)、「包括的安全保障と平和」岩崎正洋・宮脇昇編『平和と民主主義を考える』(ナカニシヤ書店、2025年)などがある。
序
「人権および基本的自由の尊重」は、国連憲章が定める国連の目的の一つである。1948年の世界人権宣言に始まり、国際人権規約、人種差別撤廃条約、女子差別撤廃条約、拷問等禁止条約、子どもの権利条約、障がい者・先住民族・無国籍者といったマイノリティの権利、発展の権利に至るまで、基本的人権に関する様々な宣言や条約などが採択されている。また、1990年代には人間開発や人間の安全保障といった新しい概念が誕生し、「人権の主流化」の流れの中で「人権に基づく開発アプローチ」の重要性が認識されてきた。そして、2015年に採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標とターゲットがすべての人々の人権の実現を目指すものであり、「誰一人取り残されない」世界を目指し、「最も遅れているところに第一に手を伸ばすべく努力する」ことが謳われている。このように国連は人権と開発を不可分の課題として位置付けてきた。2024年9月に国連未来サミットが採択した「未来のための約束(The Pact for the Future)」では、AIとプラットフォームを含むデジタル技術の急速な発展に関連し、プライバシー権、情報へのアクセス権、オンラインにおける言論の自由など、デジタル環境における人権の保障が課題として挙げられている。
SDGsの達成期限である2030年まで残り4年となったが、目標達成は困難な状況にある。国連が作成した「SDGs報告2024」によれば、SDGsのターゲットのうち3分の1超は停滞または後退し、新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックの長期的影響、深刻化する紛争、地政学的緊張、気候変動の拡大がSDGsの進展を大きく妨げている。取り残されている脆弱な人々の尊厳を確保することが喫緊の課題であるにもかかわらず、世界的な分極化が進み、多国間主義や国際協調に大きな陰りが生じている。とりわけ、2025年に再任されたトランプ政権は、「アメリカを再び偉大に(MAGA)」を掲げ、世界保健機関やパリ協定からの脱退、米国国際開発庁(USAID)の解体に代表されるように、国際協調や多国間主義からの離脱を加速させた。この姿勢は、国連に対する政策にも顕著に表れており、SDGsや人道支援活動に深刻な影響を及ぼしている。国連をはじめとする国際機関、地域機関、国家、市民社会、企業といったグローバル・ガバナンスを担う多様な主体の協力と連帯がますます問われている。
本特集では、SDGsの進捗状況を踏まえて、また、本学会の2025年研究大会の共通テーマと連動させて、「国際社会の分断と国連:人権・開発・人間の安全保障の課題」をテーマに、幅広い議論を行うこととした。特集セクションの各論稿をご覧になってお分かりのように、国際法、国際関係論、開発学、開発経済学、地域研究などの多様なディシプリン、また、ジェンダー、難民・移民、ビジネスと人権、社会的連帯経済の可能性、経済格差や気候変動と開発、現地の人々の営みから見る平和構築と多彩なテーマがカバーされている。
以下、特集論文から掲載順に各セクションの論文を紹介する。
植木論文は、国連は80年以上存続してきた国際体制である一方、「1945年の現状(status quo)」を色濃く反映しており、今日の国際社会の現実と乖離しているとする。国際法の観点から国連制度を再構築する形式的手段としては、国連憲章の「改正」がある。一方、憲章の事実上または非公式な「変更(modification)」や、「後続の慣行(subsequent practice)」に基づく「解釈」のような手段で実質的な再構築を行う可能性も検討するべきである。また、「平和のための結集決議」や「人権理事会」の事例のように、実質的に国連制度を再構築することが可能な新たな手続や新機関の設立も検討する必要もあると論じる。
近江論文は、ジェンダーに基づく女性に対する暴力(GBV)について、法的観点のみならず、社会構造にまで目を向けて論じたものである。これまで、女子差別撤廃委員会の一般勧告や、国連総会、地域的機関などによるGBVに関連する国際文書の発表に加えて、自由権や社会権といった他の権利とともに全体として取り組むことの必要性がGBVについては語られてきた。しかし、法的措置(犯罪化)のみではGBVのなかでも一時的な暴力行為が問題とされ、ジェンダーという社会構造的な問題にまでは十分に踏み込みこむことが難しい。そこで重要になるのが、「女性が暴力から自由に生きる権利」であり、社会におけるジェンダーに関する意識変革である。本論文では、とりわけ「相当の注意」義務が、ジェンダーに基づく社会的構造への対応と法的義務をつなげる有力な論理であることが示されている。
川村論文は、2018年に国連総会において採択された、「難民に関するグローバルコンパクト」(GCR)と「安全で秩序ある正規移住のためのグローバルコンパクト」(GCM)の特徴と可能性について論じる。GCRとGCMは、大規模な難民・移民の混在移動の問題に取り組むための国際的枠組みである。難民問題や移民問題については、既存の国際法や国際組織があるものの、SDGsなどの国際規範との整合性を保ちつつ、国連諸機関が連携協力して問題解決を図る仕組みをつくることが課題となってきた。その課題に対応すべく、GCRとGCMはそれぞれ、指導原則と目標を掲げ、UNHCRやIOMなどの既存の国際機関が共同で運営するフォーラムを設置し、ステークホルダー参加の下、目標達成に向けた進捗状況を検証していく体制をとる。GCRとGCMの新しさを紹介する川村論文は、国連諸機関間の連携協力や機関間関係について目を向けさせるものであり、ますます複合化する他のグローバル・イシューへの取り組みについて示唆を与えてくれる論稿である。
島田論文は、国境を越える課題に対して、主権国家の集合体である国連は対応できるのかという問題意識のもとに、1980年代以降に進んだ新自由主義的政策、なかでも資本市場の自由化がもたらした国境を越える課題に焦点を合わせる。まず、グローバル経済の変質について「経済の金融化」、「格差の拡大」、「気候変動がアフリカ食糧生産に及ぼす影響」について議論する。そのうえで、国連はどのようにどこまで対応できるのか、その可能性と限界を検討する。筆者は、それらの国境を越える課題に対して、社会の拮抗力を高めることの重要性を指摘し、国連には経済の金融化をもたらしてきた新自由主義的な経済思想とは異なる規範を構想し、主流化していく可能性があるとする。
高須論文は、GDP成長至上主義に疑問を投げかける「ビヨンドGDP」の議論において社会的連帯経済が果たす役割や可能性を議論している。社会的連帯経済とは、利潤や富の追求よりも、人々や地球のウェルビーイングを優先するために、「協力、連帯、互酬性、公平性、包摂性、多様性、民主的で自主的な運営といった原則に基づく市民が主導する経済活動」のことである。GDP成長至上主義は不平等の拡大を促進し、国際社会を分断する一つの要因となってきた。ビヨンドGDPはこれまで様々に議論されてきたが、2024年に採択された「未来のための約束」にも、社会的連帯経済の鍵概念である人々と地球のウェルビーイングが盛り込まれた。本論文では、「経済のあり方の再考を促す運動」としての社会的連帯経済の測定のための取り組みや具体的な実践例を示しながら、その可能性を示している。
竹内論文は、国内法の事例を対象に、「ビジネスと人権」規範の意義と課題について論じている。具体的には、米国のカリフォルニア州サプライチェーン透明法に従った訴訟を中心に、国際的な人権デューディリジェンスの国内法への内面化の可能性について分析を進めた。企業のグローバル・レベルでのサプライチェーン化が進んだが、こうした活発な企業活動の裏で労働者が業務中に受ける人権侵害の問題が深刻化している。そこで、国境を越えて国際的な人権保障を求める人権デューディリジェンスの指針の整備とその国際的・国内的実践が急務となっている。本論文は、ビジネスと人権に関する国連による指針作りの動向を整理しつつ、上記の米国法に関する訴訟を分析し、その実践の困難さの特質について明らかにした。その上で、今後のビジネスと人権の関係において目指されるべき国連などの国際機構による戦略設計の必要性が提言されている。
堀江論文は、国連平和構築の過程で、越境社会に生きる人々の生活実践がいかに再編され、時に翻弄されてきたのかを、東ティモールを事例に検討する。西ティモールへ避難した難民との和解を目指した真実和解委員会(CAVR)は、国連ミッションのもとで、ローカルな和解実践を部分的に取り込み、ハイブリッドな平和構築を部分的に体現した。しかしCAVR終了後、その精神は恒常的な制度として定着することなく、和解は生活世界に根ざすものではなくなり、次第に国家に管理・演出されるものへと変質しつつあるという。今後の平和構築に求められるのは、国家制度の完成度の向上より、越境社会に生きる人々の実践を再び可視化し、市民社会レベルの関係修復や調整の努力を支援する視点であると主張する。
政策レビューには1本を掲載した。小林論文は、子どもが暴力から守られる権利について、その要因や人間の安全保障・人間開発との関連性について整理し、子どもへの暴力を防止するためのアプローチやその課題について論じたものである。国際秩序の動揺と武力紛争の増加、気候変動などといった複合危機は子どもの脆弱性を高め、その課題の多様化を生んでいる。人間の安全が保障されず人間開発が十分でない状況と子どもへの暴力には相関が認められ、その解決は人間の安全保障と人間開発の双方に資するにもかかわらず、十分な投資がなされていない現状がある。しかし、これまでの実践の蓄積の結果、子どもに対する暴力のデータ蓄積や、その防止のための効果的な戦略は徐々に確立されてきてもいる。厳しい状況の中で、子どもの保護をどう進めていくのかを考えさせる論稿である。
書評セクションには2本の書評を掲載した。細谷雄一『国際連合の誕生:戦後平和へのイギリスの構想と外交』(ミネルヴァ書房、2025年)は、国連創設過程におけるイギリスの主導的役割とその現実主義的構想を明らかにしている。著者は、拒否権を含む国連制度の内在的限界を見越し、国連の機能不全を地域機構や同盟で補完しようとしたイギリスのリアリズムを評価する。同書は、帶谷俊輔会員が解説している。
セヴリーヌ・オトセール著(山田文訳)『平和をつくる方法:ふつうの人たちのすごい戦略』(柏書房、2023年)は、外部主導・トップダウン型の平和構築を批判し、「ふつうの人たち」によるボトムアップの平和実践を重視すべきとする。オートエスノグラフィの手法による本書は、題名と内容のずれをはじめ難点はあるが、最終的に「身近な平和」を築くことの重要性を読み手自身に考えさせる。同書は、小林綾子会員が解説している。
加えて、学会の活動として、国連システム学術評議会(ACUNS)研究大会と東アジア国連システム・セミナーについての報告を掲載した。ACUNS報告については植木安弘会員が、東アジア国連システム・セミナーについては玉井雅隆会員が報告書を作成した。
2026年4月末日
編集委員会
